2012年7月30日月曜日

真夏の夜の夢: 新しい時代を構想する


昨夜、国会包囲デモの大群衆から離れて、福島に帰るバスでほかの人たちを待ちながら、福島県三春町に在住するニュージーランド人カップルと交わした会話の簡単なメモです――
今日のデモで実感したこと、それは日本社会のなかで大勢の人びとが市民意識に目覚めつつあること。従順だといわれてきた、ごく普通の人びとのあいだに巨大な規模でシティズンシップが覚醒するのは、日本史のなかで初めての事件ではないか?…ここから日本社会は歴史の新しい段階に移行するはずだ。
チェルノブイリ事故がきっかけになって、東欧諸国で共産主義政権が信用を失って、次つぎと崩壊し、やがてソ連邦そのものの解体にいたった。日本でも、福島原発事故を契機に旧体制崩壊の胎動がすでに進行している。
旧体制が崩壊したのちの新しい社会は新たなイデオロギーにもとづいて築かれるのではなく、生活の現場から、生活実感にもとづいて模索されるだろう。
原発を閉鎖するとして、そのオルタナティヴはなんになるのだろうか?
旧体制は、原発を動かさなければ、石油などの化石燃料の輸入を増やす必要があるというが、これは間違った見解であり、恫喝にすぎない。
そもそも、日本は人口縮小時代に突入していて、古い経済成長路線を維持する余地はない。経済が縮小に向かうのは必然であり、原発を廃棄しても、化石燃料需要もやがて縮小に向かうはずだ。
単に再生可能エネルギー開発だけでは、それ自体が膨大な量の産業廃棄物を残す。再生可能エネルギー開発の必要性は否定しないが、エネルギー効率の改善技術をもっと促進する必要がある。そしてもうひとつ、あらゆる原料素材のリサイクル技術の開発も、新時代の産業社会のキーワードのひとつになるだろう。
以上、簡単なメモですが、ご感想があれば、コメントをお願いします。
【資料】
縮小社会への道
原発も経済成長もいらない幸福な社会を目指して
(B&Tブックス) [単行本] 松久 寛 (編著)
内容紹介
経済成長への執着を捨てない限り、社会の破滅は免れない。本書では、縮小社会という理念を、社会システムおよび経済活動のスタイルとして確立し、経済活動や技術開発活動などにおいて支援、実現する道筋を論じる。「原発も経済成長もいらない幸福な社会を目指そう。」
著者略歴 (BOOK著者紹介情報」より)
松久 寛 
1947
年大阪府生まれ。工学博士。京都大学名誉教授。1970年京都大学工学部卒業、1972年米国ジョージア州立工科大学修士卒、1976年京都大学工学研究科大学院博士課程単位取得退学。同年より京都大学で機械工学、とくに振動工学の研究に従事。20123月京都大学を定年退職。また、1973年より京都大学安全センターを設立し、公害や労働災害の支援活動に従事。2008年に縮小社会研究会を設立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

スモール イズ ビューティフル (講談社学術文庫) [文庫]
F
・アーンスト・シューマッハー () 小島 慶三 (翻訳) 酒井 懋 (翻訳)
内容説明
新産業社会のあり方を示す名著,待望の新訳石油危機を予言し世界の注目を集めた本書は,現代社会の物質至上主義と巨大技術信仰を告発し,その病弊を抉る.いま静かに進行する「シューマッハー革命」の原典
内容(「BOOK」データベースより)
1973年、シューマッハーが本書で警告した石油危機はたちまち現実のものとなり、本書は一躍世界のベストセラーに、そして彼は現代の予言者となった。現代文明の根底にある物質至上主義と科学技術の巨大信仰を痛撃しながら、体制を越えた産業社会の病根を抉ったその内容から、いまや「スモール・イズ・ビューティフル」は真に新しい人間社会への道を探る人びとの合い言葉になっている。現代の知的革新の名著、待望の新訳成る!
 

2012年7月27日金曜日

7.27永田町官邸前・JR郡山駅西口広場:同時アクション報告に代えて


719日、官邸前でおこなわれた「ふくしま集団疎開裁判」アピール行動の申し入れ書を掲載します。これは、同時に開催されたJR郡山駅西口広場「原発いらないトーク集会においても読み上げられました。
2012727
野田佳彦 内閣総理大臣
細野豪士 内閣府特命原子力行政担当大臣
「ふくしま集団疎開裁判」の会
「ふくしまの子どもの集団避難の即時実現」の申し入れ
昨年6月、郡山市の小中学生たち14名は被ばくについて「安全な場所での教育の実施」を求めて福島地方裁判所郡山支部に救済を申し立てました(通称「ふくしま集団疎開裁判」)。14名の現地・郡山市では、「放射線量が落ち着いている」「除染によって、さらに線量の低下が期待できる」などという安全宣伝・安心キャンペーンとは裏腹に、今なお放射線量が1時間あたり0.8マイクロシーベルトを超えるホットスポットがあちこちにあります。法規によって部外者の立ち入りが禁止される放射線管理区域(0.6μSv/h)に該当するような場所で、学齢前の幼い子どもたちが遊んでいるのを見て、こころ痛めぬものがいるでしょうか?この国はいつから、法治国家ならぬ、放置国家に成り下がったのでしょうか?
その上、福島県では、既に多くの子どもたちに被ばくによる深刻な健康被害が発生しています。本年4月26日発表された甲状腺の「福島県民健康管理調査」で13市町村の3万8000人の子どもたちの35%に「のう胞」が発見されました。これは山下俊一氏らが放射能非汚染地域の長崎の子どもたちを検査した結果(甲状腺のう胞が見られたのは0.8%)、チェルノブイリ地域の子供たちを調査した結果(甲状腺のう胞が見られたのは0.5%)と比べて途方もない数字です。この結果を知った被曝問題に詳しいオーストラリアのヘレン・カルディコット博士はこう警告しました。
「この子供達は追跡調査をしてる場合じゃありません。のう胞や結節などの全ての異常は直ちに生体組織検査をして悪性であるかを調べるべきです。 こういった甲状腺異常が一年も経たないうちに現れるというのは早過ぎます。普通は510年かかるものです。これは、子供達が大変高線量の被曝をしたことを意味します。もしも悪性なら、甲状腺の全摘出が必要です。 子供達に甲状腺結節やのう胞があるのは、まるで普通ではありません!」
ところが、こともあろうに山下俊一氏らは、日本甲状腺学会の会員宛てに、のう胞が見つかった親子たちがセカンドオピニオンを求めに来ても応じないように求める内部文書を出し、人権蹂躙行為を行っている有り様です。この国は放置国家どころか、最悪のならず者国家に成り下がったとしか言いようがありません。
そして、こうした事態を招いた責任者は、政府・自治体・御用団体・御用学者などすべてのレベルで多方面にまたがり数多くいる筈ですが、根本的には3.11以来、チェルノブリ事故で取ったソ連政府のやり方から学んで、「情報を隠すこと」「事故を小さく見せること」「様々な基準値を上げること」の三大政策を行ってきた政府が元凶です。政府と国会の原発事故調査委員会の報告書を見ても、政府の無策や怠慢、不作為は目を覆わんばかりです。
我が国の政府は3.11以来、チェルノブリ事故のソ連政府から実に多くのものを学んで実行してきました。しかし、その中で唯一まだ実行していないことがあります。それがソ連が崩壊直前に決定した住民避難基準の採用です。これはベラルーシで5年半、子供たちの甲状腺ガン手術など医療支援をおこなった菅谷松本市長が「そもそも日本では、放射能汚染基準として世界中が採用しているチェルノブイリ基準を採用していない。これも驚くことだ。」と指摘した基準です。しかも、チェルノブイリの住民避難基準は事故後5年も経過してようやく採用されたため、もし事故直後に採用されていれば98万人もの人たちが死亡しないで済んだのです。日本政府は、今こそ、この教訓を学んで即刻、世界標準であるチェルノブイリの住民避難基準を採用し、福島の子どもの集団避難を実行すべきです。「子どもの命を救う」ことはかつての軍国主義国家日本で、また全体主義国家ソ連ですら行った国の最低限の道徳的責務です。もし現代の日本政府がそれすら出来ないようであれば、日本政府は歴史的にも、世界的にも最低の国に成り下がったことを意味します。私たちはそのような国の市民であることを心から恥ずかしく思う!
わたしたちは、満身の怒りと慙愧を込めて、以下のように要求します。
n      ふくしまの子どもたちを、ただちに被ばくの安全な場所に集団避難させよ。
その上、政府は国民大多数の世論を無視して、関西電力大飯原子力発電所の再稼働を強行しましたが、これはいまなお苦しむ原発事故被災地の人びとを切捨てる行為、彼らの怒り、悲しみ、願いを踏みにじる行為です。
そしていままた、新たに設置される原子力規制委員会の委員長に田中俊一氏を内定しましたが、田中氏が副理事長を務める「NPO放射線安全フォーラム」のウエブサイトを一瞥するだけでも、田中氏がいわゆる原発ムラの顔役であることは一目瞭然です。また、5人の委員候補者についても、彼等の経歴を精査すれば、殆どが原発ムラの関係者であることが明らかです。
わたしたちは、満身の怒りを込めて、さらに、以下のように要求します。
n      関西電力大飯原発の運転を差し止め、国内すべての原発の廃炉に向けた道筋を明確に示すこと
n      原子力規制委員会における田中俊一氏の委員長と5人の委員全員の内定人事を取り消すこと
以 上

郡山駅西口広場で高だかと歌いあげられた“We Shall Overcome 2012歌詞カード
中川五郎新聞・みちのく版
We Shall Overcome」をもっと歌いやすくすること、もっと歌詞を推敲することも含め、原発をなくすための抗議行動の中でみんなで一緒に歌える新しい歌の必要性を痛感しました。中川石郎(談)
We Shall Overcome 2012
大きな壁が崩れる
大きな壁も ぶつかり 崩す
あなたとわたし みんなの力で
おお あきらめず 立ぢ向かおう
大きな壁が崩れる
手を取り合って 声かけ合って
あなたとわたし みんなの力で
おお 未来見つめて 立ち向かおう
大きな壁が崩れる
恐れはしない 恐れはしない
あなたとわたし みんなの力で
おお あきらめず 立ち向かおう
大きな壁が崩れる
必要なものは 大切なものは
もう一度 考えてみよう
おお 便利な暮らしか みどりの自然か
100
年後に生きる子どもたち
作・中川五郎
中川五郎 facebook http://www.facebook.com/NakagawaGoro


【関連記事】
官邸前(策源地)・郡山駅西口広場(原発被災地)同時抗議アクション

『チェルノブイリの健康被害-原子炉大事故から25年の記録』日本語版リンク


非常に重要な文献が翻訳されましたので、ここに転載させていただきます。論文をダウンロードするには、引用文のタイトル(「読者のみなさま」)または「報告書(論文集)」をクリックしてください。リンク先ページの右欄にリンク目次があります。

原発の危険から子どもを守る北陸医師の会


ドイツから『チェルノブイリの健康被害-原子炉大事故から25年の記録』がネットで配信されました。WHO(世界保健機構)の広報とはまったく異なることが書かれています。私たち医師としても驚愕の内容であり、多くの人に知っていただくべきと考え、翻訳に取り組みました。
原発事故はもう2度と起きてはいけませんね。もし、チェルノブイリ級の大惨事が日本で起きれば、私たちの健康と子どもたちの未来、そして美しい国土が失われます。
しかし、政府や原発の地元自治体、電力会社そして原子力を推進してきた学者たちは原発を再稼働させようとしています。彼らはもしかして放射能の健康被害の怖さを知らないのではないか、あるいは、知りたくないのではないか。チェルノブイリで起きたことをしっかり勉強していただければ、原発はすべて廃炉すべきであると思うはずです。そう信じて、私たちはこの報告書(論文集)を翻訳しました。したがって、このウェブサイトの目的は『原発廃止』ということです。
実際翻訳してみると、あまりにも恐ろしい内容にキーボードの手が震えました。内容は専門用語もありますが、一般の読者の方にもご理解できるようにと、できるだけわかりやすく翻訳したつもりです。長文ですので一章ずつ、1週間ほどかけて、ゆっくり読まれることをお勧めします。
最後に、現在福島の被災地で過ごしていらっしゃる方にお話しなくてはいけません。ここに書かれていることが、福島でそのまま起きるとは全く考えていません。フクシマ原発事故では放射性降下物は西風のため大部分が太平洋に落下しました。一方、チェルノブイリはユーラシア大陸の内陸部に位置していたので、ほとんどが人々の住む大地に降り注ぎました。風の方向と、立地条件によって被害状況が左右されるということです。
そして、食べ物や飲み物も日本とは異なりました。経済的な理由で汚染された物を食べざるをえなかったという事情もあります。チェルノブイリではその点の注意が十分ではなかったようです
ただ、チェルノブイリから遠く離れたヨーロッパでも健康被害が報告されています。もし、これが事実だとすれば、念のためにできる限りのことをされることをお勧めいたします。たとえば、高濃度汚染地域には決して近づかない、食物・飲み物はなるべく汚染されていないもの購入する、小さいお子さんや妊婦さんはできれば離れた地に避難される、などです。
私たちは、この翻訳がみなさまにご迷惑をかけるのではないかと心配し、ネット配信を控えるべきかとも考えました。しかし、チェルノブイリ級の大惨事になれば、これだけのことが起きるのだという事実を、国民全員に知っていただくことも大切と考えました。
もしも、福島の人々の幸せを考えずに、遠くから無責任なことを言っていると思われましたら、それは私たちの不徳の致すところで、申し訳ありません。
どなたにも健康被害が生じないことを心より祈っております。
原発の危険から子どもを守る北陸医師の会一同

2012年7月25日水曜日

7.24【東京新聞】特報部:原子力規制委員長に内定、田中俊一氏


当ブログでは、このところエートス・プロジェクトにかかわる情報を追っていますが、いってみれば現在の野田佳彦・民主党政権そのものが、「人間性」「住民主体」などの美しい装いで被曝状況の不可視化を図り、もって原子力推進政策・勢力の温存を企てるエートスの精神を体現しているようです。
原発事故によって信用が失墜した原子力安全委員会と原子力安全・保安院を統合して新たに設置される「原子力規制委員会」の委員長に「放射線安全フオーラム」理事長・田中俊一氏を内定する人事も、そのエートス政策の一環であるようです。
ちなみに、細野晴臣・原発担当大臣が主宰する内閣官房「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ(WG」の第7回会合において田中氏は報告をおこない、この同じWGの第5回会合に、ICPR(国際放射線防護委員会)科学事務局長のクリストファー・クレメント氏とともに、エートス・プロジェクトの主唱者、ジャック・ロシャール氏が出席し、その理念と実践を報告しています。
田中俊一氏の人物像について、東京新聞特報部がすぐれた調査報道を記事にしていますので、東京新聞東京メディア事業部知的財産課によるご厚意により、ここにOCR復刻のうえ、掲載させていただきます
2012724日付け【東京新聞】
こちら特報部
規制委員長内定、田中氏の「素顔」
市民派というより「ムラ人」
政府は原子力規制委員会の初代委員長に、元日本原子力学会会長の田中俊一氏を内定した。国会の同意が必要で、近く諮られる。政府はこの人事に「透明性」「中立性」を求めた。人選はその理念にかなっているのか。田中氏を「市民派」「脱・原子カムラ」と評価する見方もあるが、本当にそうなのか。「こちら特報部」も身体検査を試みたが、どうにも納得がいかないのだ。   (小倉貞俊、中山洋子)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
被ぼく楽観、帰還後押し
疑間が多い飯舘村対策
田中氏が「市民派」「脱・原子カムラ」と見られるのは、福島原発事故直後に緊急提言をした十六人の原子力専門家の一人だったからだ。
総力を挙げて事故収拾にあたるべきだとする提言の冒頭で「原子力の平和利用を先頭に立って進めてきた者として、国民に深く陳謝いたします」と率直に謝罪した。
事故の当事者意識を欠く専門家らに失望が広がっていたが、少なくない人々がこの謝罪に「研究者の良心」を感じた。
田中氏は福島県出身。事故直後から同県内で除染活動に携わり、政府の縦割り行政を批判してきた。しかし、実際に政府の人選基準はクリアできているのだろうか。
福島県除染アドバイザーを務めるが、日中氏が策定に加わった同県飯舘村の復興計画について「避難より除染ありき」と疑間視する声は多い。
田中氏は事故直後、高線量の同村長泥地区で民家の除染実験を行い、「(飯舘村は)これだけ広いんだから」と、除染上の仮置き場を村が提供するよう説得。「何もしなければ帰ってこられないんですよ」と被災者を追い込む姿がテレビで放映され、物議を醸した。
同地区は今月十七日、「帰還困難区域」に再編されたが、飯舘村の酪農家で、現在は同県伊達市に避難する長谷川健一さんは「除染はまったく進んでいない」と断じる。
「田中さんは『線量を下げることはできる』と言ってこられた。だが、除染がどれだけ困難な作業かは、住民たちも分かっている。村から避難する選択肢を排除する中途半端な除染や、場当たり的な仮置き場の設置案には同意はできない」
被ぼく限度量に対しても、楽観的な発言がしばしば注目されてきた。
委員を務める政府の原子力損害賠償紛争審査会の議論では、自主避難者に賠償を認める方針に異を唱え、国が住民帰還の目安とする年二〇ミリシーベルトという基準への賛意を強調してきた。
昨年十二月六日の会合では「放射線被ばくの恐怖と不安は個人差も大きく(中略)、賠償という形で対応することが、克服する最も適切な方法であるとは考えていません」と発言している。
さらに二月八日の会合では、避難区域の見直しについて「それなりに放射線量のある場合でも、年二〇ミリシーベルトを切ると(避難の対象から)解除される」と懸念する能見善久会長に対し、「現実には半分以上、さらにもっと多くの人が住んでいる」などと、帰還を後押しする発言を繰り返した。
こうした主張が結果的に東京電力の賠償軽減につながることから、被災者たちの間では田中氏に対し、「東電を助けるために住民を切り捨てている」といった批判の声も上がっている。
【デスクメモ】
この人事は、首相官邸前行動や十七万人の脱原発集会に対する政府の回答なのだろう。再稼働のため、大飯原発以外にも、約二十基が安全評価(ストレステスト)の一次評価を終え、規制委の始動を待っている。国会がこの人事を通せば、結果は火を見るより明らかだ。原子カムラの再興は許されない。(牧)
【話題の発掘】
委員候補 つながり
田中氏「周囲が勝手にレッテル」
「中立」「透明」選考基準かけはなれ
田中氏の経歴をたどると、原子カムラを牽引してきた軌跡が見える。現在も、そこから距離を置いたとは思えない。
東北大原子核工学科を卒業後、旧日本原子力研究所(原研)に入所、副理事長を務めた。原研と「もんじゅ」を運営する核燃料サイクル開発機構が合併した独立行政法人・日本原子力研究開発機構〈原子力機構)では顧間に就任。原子力学会会長、内閣府原子力委員長代理なども歴任した。
現在、田中氏が関わる団体は二つ。ひとつは三月まで会長を務め、現在は顧間をしている財団法人「高度情報科学技術研究機構」(茨城県東海村など)で、一九九五年に同「原子カデータセンター」を改称した。
もう一つは副理事長を務めるNPO法人「放射線安全フオーラム」(東京都港区)。同団体主催のセミナーでは「プルサーマルの必要性と安全性」などのテーマで、同氏自身も講演してきた。
この団体の理事や顧間の顔ぶれを見てみると、田中氏の″ムラ人脈″の太さが浮かび上がる。例えば、取締役が同団体の理事に名を連ねる放射線管理商品販売会社「千代田テクノル」(文京区)。同社は二〇〇〇年、原研から放射線源の販売部門を移譲された“つながり”がある。
先のセミナーの会場も同社内で、現在は「フォーラム」と福島県の個人被ばく線量測定事業に取り組むなど、除染ビジネスで連携している。
テクノル社と取引のある社団法人「日本アイソトープ協会」(文哀区)の専務理事は「フオーラム」の顧間。同協会は医療用放射線源などの輸出入や製造販売を担う。
民間調査機関によると、同協会の主要な取引先である医薬品製造会社(江東区)は、米ゼネラル・エレクトリツク(GE) の関連会社と住友化学が共同出資。福島第一原発1号機の原子炉はGE製。住友化学は原発推進派の米倉弘昌経団連会長が会長を務めている。
こうした連関は果てしなく広がるが、ここまででも、今回の規制委委員候補五人のうち、田中氏と更田豊志氏(原子力機構副部門長)、中村佳代子氏(日本アイソトープ協会主査)の所属機関が何らかの糸でつながっている事実が浮かぶ。
当の田中氏は“ムラの住人″という指摘をどう受け止めているのか。
「こちら特報部」の取材に「周囲が勝手にレッテルを貼っている。ムラがどうだとか、わたしは考えていない。科学者、技術者としてやるべきことをやつてきた」ときっぱり。加えて「一方的な価値観を押しつけようとするメディァは、歴史に過ちを残すことになる」と憤りを隠さなかった。
ただ、こうした客観的な所属や人脈が、少なくとも規制委の掲げる中立性や透明性とかけ離れていることは明白だ。
奥平康弘・東大名誉教授(憲法)は、原子力推進に携わってきた田中氏の委員長登用は「避けるべきだ」と断じる。「原発事故を引き起こした制度の運用にかかわった人が、委員会の委員になることは避けがたいのかもしれない。しかし、強大な権限を持つ委員長にだけはしてはならない」
そして、人選についてこう注文を付けた。
「意見を取りまとめる委員長に知識があることは望ましいものの、実務経験はむしろいらない。中立、客観的であり、国民から信頼を得られる人であることが大前提だ。政府は任命前に国民の目線で考えるべきだ」


(当該記事テキストの無断転載を禁じます。
 転載にあたっては、東京新聞メディア事業部知的財産課の書面による許諾が必要です)
*** 以上、記事おわり ***
さて、前述WGのサイトに、田中俊一氏による発表の概要版が掲載されていますので、田中氏のお考えをじかに知るために、それを以下に紹介しておきます――
発表概要
児玉和紀 (財)放射線影響研究所主席研究員
酒井一夫 (独)放射線医学総合研究所放射線防護研究センター長
柴田義貞 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授
木村真三 獨協医科大学国際疫学研究室福島分室長・准教授
丹羽太貫 京都大学名誉教授
島田義也 (独)放射線医学総合研究所発達期被ばく影響研究グループリーダー
甲斐倫明 大分県立看護科学大学教授
中谷内一也 同志社大学心理学部教授
神谷研二 福島県立医科大学副学長
田中俊一 福島県除染アドバイザー、(財)高度情報科学技術研究機構会長
仁志田昇司 福島県伊達市長
福島県除染アドバイザー
(財)高度情報科学技術研究機構会長
田中俊一
① 先生のご意見の骨子を箇条書きにしてください(5 行以内)。
住民が抱いている放射線に対する不安と不信の原因は、これまで国や行政庁から提示されている放射線防護に関わる基準や考え方に一貫性と整合性がないこと、加えて現実の状況に適切に対応していないことにある。さらに、一部の科学者とメデアから発信される低線量被ばく、特に内部被ばくに関する科学的な根拠のない特異な情報が、住民の放射線被ばくに対する不安に拍車をかけている。
 もっとも大事なことは、放射線防護に関する国や行政の混乱を正し、低線量被ばくに関する科学的で断固たる指針を提示することである。
② 先生のご意見の根拠となった文献を10編列挙して下さい(10編以内)。
・「飲食物摂取制限に関する指標について」平成10 3 月6日、原子力委員会環境ワーキンググループ.
Accidental Radioactive Contamination of Human Food and Animal Foods: Recommendations for State and Local Agencies, U.S. Department of Health and Human Services, U.S. Dood and Drug Administration Docket. No. 2003D-0558, July 2004.
・「除染に関する緊急実施基本方針」及び「市町村による除染実施ガイドライン」に基づく除染作業における労働者の放射線障害防止措置について
(基安発0909 1 号、平成23 9 9 日、厚生労働省労働基準局通達)
・除染作業等に従事する労働者の放射線障害防止に関する専門家検討会報告書
(平成23 11 28 日、厚生労働省労働基準局)
③ 国民、特に福島県民の方々がご理解頂けるように、できるだけ平易な言葉で先生のご意見を400字程度でまとめて下さい。
福島の住民にとって重要なこと:
福島県民は、今後も相当長期間にわたって通常と比べて高い放射線・放射能環境下で生活することを余儀なくされる。こうした状況では、放射線の健康リスクについての知識を身につけて、不安やストレスを軽減する知恵を身につけることが極めて重要である
 国は、避難状況、現存被ばく状況に置かれている住民が抱いている様々な不安に真摯に向き合い、住民が自ら低線量被ばくのストレスを克服し、正常な生活を取り戻す力を身につけられるような施策を講じるべきである。そのためには、生活環境の放射線量を低減するための除染作業を、国、自治体それに住民が協力して速やかに進めること、安心して飲食物を摂取するために身近で手軽に放射能を測定できるシステムを整備すること、定期的な健康診断あるいは随時相談できる健康・医療相談のシステムを整備すること、個々人の被ばく線量を継続的にモニタリングし、モニタリング結果を踏まえた放射線リスクコミュニケーションを図る体制等、一人ひとりの不安やストレスにきめ細かく対応できる長期的で継続的な対策を早急に具体化すべきである。
この短い文章のなかに、「不安」とストレスそれぞれ3回と頻出します。田中氏にとって放射線リスクは健康障害ではなく、心理的抑圧であるようです。この特質は、エートス論者に共通のものなのでしょう。


【リンク】
エートス関連記事・情報リンク集

2012年7月24日火曜日

7.27スタート、官邸前(策源地)・郡山駅西口広場(原発被災地)同時抗議アクション


今週金曜日(7月27日)、首相官邸前広場「ふくしま集団疎開裁判」抗議集会の金曜日恒例アクションとしてスタートします。「ふくしま集団疎開裁判」現地である福島県郡山市でも先週7月20日(金)に金曜日恒例トーク集会がスタートしています。福島、近県のみなさんのご参加をお願いします。
政策決定の策源地および原発被災現地から同時に声をあげ、世界にメッセージを発信しましょう。
     日程・集合場所
 7月27日(金)午後6時~ (その後、毎週金曜日午後6時に集合)
 JR郡山駅西口広場
     持参品・注意事項
 できれば、Tシャツ、バンダナなど黄色のシンボルカラーのものを着用
 
プラカード、 ポスター、ゼッケンなど思いの丈を込めたアピールグッズをどうぞ
 但し、抗議はあくまでも非暴力で行動します。
     抗議内容
・市民、とりわけ子どもたちの被曝状況に対する抗議
・原発再稼動に対する抗議
・そのほか、思い思いのメッセージをどうぞ
以下は、「ふくしま集団疎開裁判」公式ブログからの転載です――
2012723日月曜日
 3.11以来、ふくしまの子どもたちは核戦争の中にいます。
福島原発から放出された大量の放射性物質によって、外部から、そして体内に取り込まれ内部から、桁違いな量でくり返される核崩壊と同時に発射される放射線とのたえまのない戦い(年間1mSvだけでも「毎秒1万本の放射線が体を被曝させるのが1年間続くもの」(矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授))を強いられているからです。「核崩壊による放射線の被ばく」という、目に見えず、臭いもせず、痛みも感じない、要するに私たちの日常感覚ではぜったい理解できない相手との戦いの中にほおり込まれています。それは放射性物質(核種)からの攻撃という意味で核戦争です。
子どもたちが核戦争で受けた甚大な被害はチェルノブイリの記録(「真実はどこに?WHOとIAEA 放射能汚染をめぐって 」 「チェルノブイリ原発事故その10年後」)からも明らかです。
その上、この核戦争は単なる自然災害ではなく、これを引き起こした者がいます。それが原発を推進してきた国と東電です。彼らはこの核戦争の戦犯なのです。  
昨年6月、ふくしまの子どもたちを安全な場所で教育をせよと求めて「ふくしま集団疎開裁判」を提訴して以来、裁判の中で、ふくしまの子どもたちが被ばくの大変な危険な中に置かれていて、子どもたちの避難は一刻の猶予もならない取組みであること、すなわち復興事業の最優先最重要課題であることを、議論の余地のないまでに明らかにしてきました(裁判資料の詳細は-->こちら)。
しかし、国は「復興」「復興」と口にするにもかかわらず、復興事業の最優先最重要課題である子どもたちの集団疎開は今なお全く実現していません。その最大の理由は、官民一体の情報隠しのおかげでまだ疎開裁判のことも知らない市民が大勢いて、疎開裁判を支持し、「集団疎開を今すぐ実行しろ」と要求する多くの市民の声が形成されていないからです。
そこで、 私たちも、世界中の市民と一体となって「ふくしま集団疎開裁判」」の真実を一人でも多くの市民に知ってもらおうと、集団疎開が実現される日まで、毎週金曜日、首相官邸前広場で、抗議行動を起こすことに決めました。
その第1回目の抗議行動が今週 、以下の通りスタートします。
     日程・集合場所
 7月27日(金)午後5時30分~8時 
 官邸前広場(国会記者会館前) 参考地図
     持参品・注意事項
 プラカード、 ポスター、ゼッケンなど思いの丈を込めたアピールグッズをどうぞ
 但し、抗議はあくまでも非暴力で行動します。
     抗議内容
「復興事業」のうち最優先最重要課題である子どもたちの「集団疎開」の隠蔽に抗議するアピール
 「脱原発」のうち最優先最重要課題である子供たちの「脱被ばく」の即実行を求めるアピール
 子どもたちの「集団疎開」を求める疎開裁判の再現劇(第3回 世界市民法廷)の上演
(※)これまでの世界市民法廷については-->第1回東京裁判(2.26) 第2回郡山裁判(3.17)
(※)2.26東京裁判のシナリオをご覧になりたい方は--> 法廷編 陪審編 

「集団疎開を今すぐ実行しろ」という真実のつぶやきは小さい声かもしれません。しかし、皆さんが一斉につぶやくとき、それは天地を響かす巨大な声になります。真実のつぶやきは決して止むことはありません。
皆さんと共に、子供たちを救う最初の一歩を踏み出したいと思います。
     国内遠方・海外からの参加
国内遠方の皆さん、海外の皆さんからも、この抗議行動に参加ください。このブログの以下のコメント欄で、またはメール(sokai@song-deborah.com)で抗議の声を表明して下さい(ブログで紹介させていただきます)。
     主催 ふくしま集団疎開裁判の会
     連絡先 
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2012年7月23日月曜日

「命の現場」と「経済の論理」~7月23日付け毎日新聞から


715日仙台市、16日名古屋市で開催された「エネルギー・環境の選択肢に関する意見聴取会は、相次いで電力会社の原発担当者が登壇して物議をかもしましたが、その騒ぎはまだ収まっていないようです…
【北海道新聞】723
社説:原発意見聴取 国民的議論は形だけか
そんななか、723日付け毎日新聞にこの同じ話題を取り上げたコラムが2本掲載され、いずれも興味深いので、ここに転載させていただきます…

山田孝男
風知草:意見聴取会の激白
毎日新聞 20120723日 東京朝刊

批判続出のエネルギー政策意見聴取会(政府主催)にも功績はある。原発護持の電力会社幹部の激白を引き出し、脱原発派の反発を誘って議論を盛り上げた。政府は今後、電力会社社員の意見表明を認めない方針らしいが、むやみな規制より、何が問題か、激白の中身を点検する方が建設的だろう。
先週の聴取会は電力会社の社員が意見を述べた仙台、名古屋会場の混乱が話題だった。それぞれヤジで中断した。東北電力に届いた抗議の電話・メール100件に対し、中部電力802件。中電はホームページに謝罪文を載せた。最大の反響を巻き起こした中電の課長の発言はどんなものだったか。
会場のヤジを誘ったくだりはこうだった。「放射能の直接的な影響で亡くなった方は(福島原発事故の場合)一人もいらっしゃいません。5年、10年たっても状況は変わらないと思います。疫学のデータから見てまぎれもない事実です。5年、10年たてばわかります」
この種の発言とそれに対する批判は昨年来、何度も繰り返されてきた。なるほど直接被ばくの死者はいないが、統計を盾に内部被ばくの影響なしと割り切ることはできない。
ベラルーシで甲状腺がんの治療にあたった菅谷(すげのや)昭(68)=外科医、長野県松本市長=は「新版チェルノブイリ診療記」(新潮文庫)の序文にこう書いている。「統計上は致死率が高くないとしても、現実には病と闘う子どもがいて、時に命を落とす子どももいた。(中略)机の上で何をどう分析しても命を失う痛みはわからない」
聴取会は11都市で開く。既に5カ所で終えた。インターネットで同時中継し、国家戦略室のホームページに動画を載せているが、アクセス数は少ないらしい。むべなるかな、前半は大臣あいさつと官僚の説明だし、進行も円滑にはいかない。
だが、動画を追うとニュースから抜け落ちた部分が見えてくる。中電の課長の発言は「経済成長なくして幸福なし」というメッセージの一部だ。この人はこうも言っていた。
「実質的な福島の被害って何でしょう。警戒区域設定で家や仕事を失ったり、過剰な食品安全基準値の設定で作物が売れなくなるなど、経済的な影響が安全や生命を侵してしまっている事例だと思います」
「経済が冷え込み、企業の国際競争力が低下すれば福島事故以上か、それ以上のことが起きると考えています」
逆風の中、顔も名前も明かして所信を述べた勇気には敬意を表するが、原発を動かさなければもっとひどい事故が起きるという主張は常識を超える。カネさえ回れば万事解決という確信も疑問だが、「成長なくして幸福なし」という感覚は経済大国のエスタブリッシュメントに共通する本音だろう。
そんな幸福観とは相いれない意見陳述が多かった。名古屋で発表した東京の大学生はこう語って拍手を浴びた。
「なぜ、経済成長が前提になるのでしょう。人口が減り、生産人口はさらに早く減るのに国内のモノやサービスを増やす必要があるでしょうか。欲しいときに欲しいものが、どこでも手に入る大量消費、大量生産の社会は本当に心豊かな社会と言えるでしょうか……」
経済より脱原発か、脱原発より経済か。渡る世間はカネ次第か、そうでないか。明日の幸福観をめぐる論争は歴史的な要請に違いない。(敬称略)(毎週月曜日掲載)

柳田邦男
深呼吸:「命の現場」の視点で検証を
毎日新聞 20120723日 東京朝刊

「福島第1原発事故で放射能の直接的影響で亡くなった人は一人もいない」
中部電力原子力部の課長A氏(46)は、こう言い切ったと報じられている。今月16日、名古屋市内で開かれた今後のエネルギー政策についての政府の第3回意見聴取会で、抽選で選ばれた発言者9人の一人としての発言だ。
A氏は「個人としての意見」と断っていたが、原発担当の現役の課長である。原発推進の意見を述べるのは、当然のことだろうが、私が《えっ》と驚き、《やっぱりそうだったのか》と、暗たんたる思いにさせられたのは、右の発言だった。
確かに東京電力福島第1原発の事故で放射能の直接的影響によって誰かが死亡したという報告はない。しかし、原発事故の特異性と深刻さは、直接的死者数ではとらえられないところにある。
事故によって大量の放射性物質が放出されたために、周辺の住民や病院の入院患者・福祉施設の入所者などが緊急避難を余儀なくされたが、とくに原発立地の大熊町の双葉病院では、県、自衛隊、警察による救出・搬送の混乱から、搬送中だけでも高齢の重症患者15人が死亡した。
また、復興庁の震災関連死に関する検討会の調査によると、福島県内の災害関連死者数は今年の3月末現在で761人に上り、その多くは原発事故避難者とみられている。
死亡原因は「避難所等への移動中の肉体的疲労・精神的疲労」(双葉病院の死者はこれに該当)と「避難所等における生活の肉体的・精神的疲労」が圧倒的に多く、「病院の機能停止(転院を含む)による既往症の増悪」もかなりの数に上っている。避難者以外でも「原発事故・放射能汚染に対する不安などのストレスによる肉体的・精神的負担」が死因に関係していると診断された例も21人いる。
このように死亡者数という明確な形で表れた被害は、氷山の一角と言ってよい。放射能汚染によって、住みなれた家やまち、むらに帰れなくなり、職を失い、農業・畜産業を続けられなくなり、慣れない遠方の地で長期にわたる避難生活を強いられ、生活・人生を破壊された人々の被害の深刻さは、数字では表せない。
1年以上たっても避難生活を余儀なくされている人々は約16万人に上るが、数字だけでは、深刻さのリアリティーがない。生活。人生は一人ひとり違う。働き盛りなのに、無気力症に陥って就労しない人々が、かなりの数に上る。親子・夫婦にも亀裂が入った家族が少なくない。子どもの教育・保育に悩む親が多い。放射線被ばくを避けるため、屋外で遊ばないうちに、ゲームや携帯の依存症に陥った子どもも少なくない。悲劇が16万件起きていると言えば、現実感に近いと言えるだろう。
中部電力のA氏が「放射能の直接的影響で亡くなった人は一人もいない」と発言したねらいは、その後に続く「(政府は)原子力のリスクを過大評価している」という発言との文脈から明白である。福島原発事故の被害は大したことでないのに、騒ぎ過ぎる。この程度のリスクで、原発推進にブレーキをかけるべきではないという論理だ。電力会社の幹部にそのような確信を抱かせる根底にあるものは、何なのか。私はこう考える。
① 被害の現場に身を置いて問題を直視しようとする発想がない。集団避難所や辺ぴな土地の仮設住宅で子育てをしなければならない親や高齢者がどんな苦難を強いられているか、その「命の現場」に身を置いて自己検証をすべきだ。
② 乾いた「三人称の視点」でしか事故を見ていない。人間の命には人称性がある。私がどう生きどう死ぬかは、「一人称の視点」。大切な家族の生と死にどう対応するかは、「二人称の視点」。一般の人々の命を見る富僚、企業人などの目は、「二人称の視点」。客観性、平等性を重視するあまり、机上の理屈や数字を根拠に乾いた目で事故や災害を見がちだ。《これがもし自分の家族だったら》と「一人称、二人称の視点」に寄り添う潤いのある目を、官僚や公共性の強い企業人が持つように変革しない限り、国民の命は守られない。
③ 原発とは、プラントの安全性だけで成り立つものではない。地域の人々の命や生活の安全を不可欠の条件とする社会システムなのだという意識が、電力会社には希薄だ。
A氏の発言は図らずも電力会社の安全意識のゆがみを露呈したと言えよう。原発の安全性は住民・被害者の視点からの徹底検証が必要なのだ。
やなぎだ・くにお 作家。次回は820日に掲載します。       2012.7.23

2012年7月22日日曜日

エートス、その他の被曝問題に関連する記事・情報リンク集

エートス、その他の被曝問題に関連する記事が増殖しそうなので、整理しやすいうちにリンク集を作成しておくことにしました。順次、当ブログ外サイトの記事や情報のリンクも貼っていくつもりですので、ご活用ください。

最終更新日:2012年10月23日
【ブログ内リンク】







2012年10月3日
「甲状腺癌は放射線と無関係」決定は秘密会で


2012年9月25日
ETV特集 シリーズ「チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告」


2012年9月24日
黒田節子「福島に生きる」(新刊書『福島と生きる』から)


2012年9月22日
メッセージ「植物のセックスの覗き見でわかったこと」生井兵冶


2012年9月13日
被曝の国の福島県立医大訪問記 @yuima21c tweet-log


2012年9月12日
【資料】福島県・子どもの甲状腺検査結果と甲状腺癌報道

2012年9月4日(初出6月24日) 

90歳ブロガーの<随想>ふくしま集団疎開裁判の視点


2012年9月4日

【学習資料】食品汚染と内部被曝


2012年8月31日
知られざる核戦争~ECRRレスボス宣言(矢ケ崎克馬・解説、松元保昭・訳)

2012年8月29日

【海外論調】カール・グロスマン「フクシマをおおう死の沈黙」


2012年8月26日20mSv/年被曝を強いる国際的陰謀の連鎖:ICRP・文部科学省・山下俊一

2012年8月26日
【資料】国会事故調「学校再開問題」

2012年8月23日
8.22野田首相あて「ふくしまの子どもたちの集団避難の即時実現」申入書
2012年8月20日
ペクチン論争――原子力産業を守るために、科学と科学者を攻撃する政府


2012年8月17日
郡山市からの報告~見えてきた国際原子力ロビー


2012年8月17日
ミシェール・フェルネックス「フクシマ、無視されたチェルノブイリの教訓」(完訳版)

20128月15日ミシェール・フェルネックス博士「福島、無視されるチェルノブイリの教訓」

20128月10日
フクシマから直視する放射線被曝の歴史


20128月9日
ICRP 2011年3月21日付け書簡
【外部リンク】
【映像資料】

真実はどこに?―WHOとIAEA 放射能汚染を巡って