2015年5月26日火曜日

英紙ガーディアン「中国の“常軌を逸した”原発増設計画に警告」


Winner of the Pulitzer prize 2014

中国の“常軌を逸した”原発増設計画に警告
Chinawarned over 'insane' plans for new nuclear power plants

中国有数の科学者、何祚庥は、フクシマ惨事後の反応炉新設禁止令を撤回したあと、中国が安全管理にじゅうぶんな資金を投じていないという

海南省、長江原子力発電所の建設作業。中国の原発拡大計画の一環として、3つの行政区が新規原発の立地点に選ばれた。Photograph: AP

エマ・グラハム=ハリスン EmmaGraham-Harrison 北京駐在

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中国の原子力発電所を急速に増設する計画は、安全管理にじゅうぶんな投資をしていないので「常軌を逸している」と、中国有数の科学者が警告した。

中国が2011フクシマ惨事後に導入した原発増設モラトリアムを終了し、内陸に原発を建設する提案は、事故が勃発すると、数百万の人民が水源として頼っている河川を汚染し、広大で重要な農業地帯の地下水源を損なうので、特に危険性が高いと物理学者の何祚庥(カ・サシオ)はいう。

中国2011年に安全基準を見直すために新規反応炉の認可を中止したが、2020年までに日本の核発電容量を追い抜き、10年後には世界一の原発大国になる企ての一環として、3月に2基の建設にゴーサインを出した。

バラク・オバマは最近、米中核協力協定を改定する計画を発表しており、これが実現すれば、中国は米国が設計した反応炉をさらに多く購入し、使用済み燃料からプルトニウムを抽出する技術を追求する可能性が広がることになる。

政府は、大気汚染と温室ガス排出を削減するとともに、輸入石油・ガス依存を抑えるための幅広い取組の一環として、核発電の拡大を熱望している。

何は中国の核兵器プログラムに取り組んできたが、計画された日程の進行が速すぎ、事故を避けるための安全・監視技能が確保できないと述べた。

何は中国科学院でガーディアンのインタビューに応じ、「核エネルギーについて、いま中国で二つの声が聞こえます。一方が安全優先といえば、他方が開発優先といっています」と語った。

何は、「腐敗、管理能力と決断力の乏しさ」もリスク要因に挙げた。「彼らは2020年までに58(ギガワット核発電容量)に、やがて120ないし200に積みあげたいとしています。これは狂気の沙汰です」。

何は科学の素養が高く評価され、1950年代の北京城壁の取り壊し、1990年代の宗教団体・法輪功に対する弾圧など、物議をかもした問題で政府を支持してきた古くからの姿勢から考えて、核計画に対する彼の意義には、格別な説得力がある。

何は、中国が認可済みや建設中の施設を完成しだい、拡大路線をいったん停止し、拡大を再開するなら、数十年間は安全操業の経験を積んでほしいと望んでいる。国内で稼働中の反応炉は、ほぼすべて2000年以降に始動したものである。

何はこういう――

「中国の現状では、事故の可能性を正しく判断できるほどの経験を積んでいません。反応炉の数と安全に運転してきた年数が揃って問題なのです。

「フクシマ後の安全審査の結果、いくらか問題が見つかりましたが、些細なものばかりで、最終結論は中国の原発は安全ということになりました。だが、安全検査は旧来の基準にもとづいて実施され、その基準そのものが大幅な改善を要することが明白なのです」

中国の政府当局者らはチェルノブイリとスリーマイル・アイランドの事故のあと、核技術が改善されたと主張するが、両方の事故で見受けられたヒューマンエラーと安全管理体制の不備を無視していると何は語った。

フクシマ原発の事業会社は、訴訟や反対運動を恐れるあまり、地震と津波に先立って強力な事故予防策を実施できなかったことを認めている*

「日本のほうが優秀な技術と優秀な管理体制を備え、米国とソ連から学ぼうと懸命に努めていたにもかかわらず、事故を避けることができませんでした」と、何はいい、中国の核監視にあたる人材は日本より少なく、給料も低くて、最も優秀な若手科学者を惹きつけないと付け加えた。

中国は基準の強化を考えていたが、急速な拡大を求める圧力がすさまじく、事業会社が有力なので、企業利益を国家安全保障に優先させ、引っ込めてしまったと何は語った。

「過去4年にわたり、基準の強化が内部で議論されましたが、強化が実現すれば、投資がもっと必要になり、原発の競争力と収益性が影響をうけることになります。わが国の基準が低いので、核エネルギーのコストが安上がりなのです」と、何はいう。

政府は弱みをさらす論争を奨励するどころか、議論を撲滅しようとしており、役人に歯向かうことがリスクをともなう国に、内部告発者を後押ししたり擁護したりするメカニズムは存在しない。

何は、「環境保護部はたった今、新しい規制機関の設置を考慮しています。わたしは議論に招かれたとき、『あなたがたの安全性監視機関は独立しておりません。国営の核企業に耳を傾けていますので、検査がまやかしになっています』と申しあげました」という。

何にとって最大の懸念事項のひとつは、内陸部に原発を建設することによって積極的な拡大計画を達成する提案である。3つの行政区がすでに原発立地点を選定し*、準備作業をはじめており、他にもいくつかの立地点が提案されている。

中国は水不足であり、日常の運転時や緊急時にじゅうぶんな冷却水を確保できる地域は、人口密集地である。何は、「あの人たちは砂漠に原発を造ればいいというのですが、問題なことに、砂漠に水はありません」といった。

都市近郊や農業地帯に原発を建設すれば、どのような事故であっても、フクシマの放射能漏れ*のような即座のフォールアウトと長期的な汚染のため、数百万の人民を危険にさらすだろう。

何は次のようにいう――

「水の多い場所に原発を造るなら、放射能漏れの影響は極めて甚大になるでしょう。100パーセント安全であると保証できるなら、わたしは反対しませんが、だれにも保証できません。

「実をいえば、わたしはすでに88歳であり、わたしにとって、原発が安全かどうかはそれほど関係ありません。ですが、わたしはわれわれの子どもたちの福祉を心配しており、新規プロジェクトの収益性を評価するばかりであってはなりません」

取材協力:ルナ・リン

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