2015年5月20日水曜日

ディプロマット誌 @Diplomat_APAC 小沢一郎「危険な日米防衛協力ガイドラインの改定」

THE | DIPLOMAT アジア太平洋評論誌 ディプロマット
危険極まる日米防衛協力ガイドラインの改定
日本の野党指導者が日米防衛協力ガイドラインの改定の問題点を論じる。

小沢一郎 Ichiro Ozawa
2015513

画像クレジット:ホワイトハウス

日本とアメリカ合州国*の両国政府は「日米防衛協力のためのガイドライン」を18年ぶりに改定することに合意した。この改定は、その実質的な内容からいっても、改定手続きの実施手順からいっても極めて問題である。まず、内容に関していえば、新ガイドラインは「途切れのない…二国対応」を求めており、従来のガイドラインにあった「日本周辺事態」に言及する部分が抜けている。これでは、日本と米国は世界のどこでも共同軍事行動に踏みこむことができるといっていることになり、非常に重大な変更である。
  *[訳注]the United States of Americaの直訳。

日本の防衛と安全保障のためであれば、もちろん、日本と米国が共同軍事行動を実施する必要がある。わたしは、この事実そのものを否定するつもりはない。しかし、「日本周辺事態」概念が抜け落ちれば、自衛隊が世界のどこに派遣されても許されることになり、これは明白に憲法を侵犯している。

国会は1999年に「(日本)周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」(日本周辺事態法)を採択した。しかし、日本政府が提出した元の法案では、行動を要する「日本周辺事態」になんの制限も設けておらず、日本周辺で発生するいかなる事態であっても、日米が共同で軍事行動を実施すべきであるかのように読めた。おそらく日本政府が、特に外務省が、そのような文言を使えと米国から圧力をかけられていたのだとわたしは思う。

当時、わたしは自由党の党首の立場にあって、たまたま自由民主党と連携していた。わたしは「この文言は日本国憲法の基本理念に抵触する」述べて、政府提案の内容に強く抗議した。その結果、その文言は「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」*という条文に改められた。わたしが介入した結果、この法律は、このような特別な事態の場合だけ、日米が共同軍事行動を実施することに改められることを余儀なくされた。

しかしながら、改定されたガイドラインから、この「日本周辺事態」概念が消されてしまっており、いまでは日本と米国は無制限の共同軍事作戦を実施できる。これは、日本が集団的自衛権を行使できるとした安倍内閣による昨年71日の閣議決定と軌を一にしている。これらの両者とも、憲法、とりわけ第9条の理念に叛くものであり、明白な憲法違反である。

集団的自衛権の行使を容認すること、またガイドラインから「日本周辺事態」の文言を抹消することに意を決しているなら、安倍内閣はまず憲法改定を国民に提案するべきであり、国会で論議したうえで、この問題に関して決定を下すよう、日本国民に求めるべきである。この意味で、採用されている段取りは、順序がこれとはまったく逆であり、政治手法として問題である。憲法改定が日本国民に支持されているなら、政府はまず憲法を改定すべきであり、そのうえで初めて集団的自衛権の行使を容認し、ガイドラインから「日本周辺事態」を抹消すべきなのだ。これが正しい順序である。

既成事実

しかし、安倍晋三首相のやりかたは、まずガイドラインに関して米国と合意を達成し、これを既成事実として使い、日本の法律を変えるものである。政府は米国からの圧力を口実に使って既成事実を積み上げ、好き勝手な方向にものごとを動かしている。だが、これでは、立憲主義の美点を賞揚する独立主権国家にふさわしい振る舞いとは、とてもいえたものではない。

第二次世界大戦につながった状況を振り返ると、日本国民は「さて、事態がこれほど進んでいるのだから、どうしようもない。われわれにできることは、なにもない」とみずからに言い聞かせて、もっぱら軍部の独断的な行為を黙認していたとわれわれは見る。この状況が最終的に太平洋戦争に行き着いたのである。これが、ものごとを段階的な五月雨(さみだれ)方式で進め、国民が「われわれにできることは、なにもない」といって終わる雰囲気を生じさせてしまう、奇妙にも日本的な流儀なのだ。われわれが過去を悔やむなら、二度とこのような流儀でものごとを決めないと結論するべきである。わたしはこの観点から、今回のガイドライン改定のやりかたは極めて危険であり、弥縫(びぼう=つじつま合わせ)策に他ならないと信じている。

わたしは、日米同盟を日本にとってもっとも重要な二国間関係としばしば言い表している。しかしながら、健全な同盟であれば、締約国は対等の立場で意見を交換し、双方が受け容れる結論を出し、相互協力に進むだろう。日本政府が「米国がこういっているので、わが国には受諾する他に道はない」というなら、これは対等な同盟の兆しではなく、むしろ上司・部下関係の表明になってしまう。

わたしは、安倍氏が本心から、米国路線を踏んでいくことにあれほど熱心であるとは信じていない。彼がじっさいに考えているのは、おそらく、日本が憲法に定められている軍事的制約を取り払えば、世界における国の地位を高めることができるはずだという彼自身の信念を実現するために、アメリカからの圧力を使えるなら、それこそ使うに越したことはない手段だということだろう。

これは非常に危険な手段である。わたしは、首相が選んだ方途が日本の行末に巨大なリスクをもたらそうとしていると信じている。わたしは、日本国民がこの現実を真に理解するようになってほしいと真摯に願っている。

【筆者】
小沢一郎は日本の政治家、生活の党と山本太郎となかまたち代表。

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