2016年10月23日日曜日

アーニー・ガンダーセン @fairewinds「新規核発電炉を建造すれば、地球温暖化は悪化する!」

フェアーウィンズ・エネルギー教育





核の神話を剥ぐ――
原子力の二酸化炭素(CO2)煙幕
20161019






CO2煙幕
新規核発電炉を建造すれば、地球温暖化は悪化する!

【筆者】アーニー・ガンダーセン Arnie Gundersen
ヴァーモント大学の地域社会研究フェロー、非営利団体・フェアーウィンズ・エネルギー教育の主任エンジニア

わたしは1971年以来、「核聖職団」[1]の正団員だった。核工学で2つの学位を習得し、資格認定を受けた核反応炉運転員として出発し、業界で頭角を現して、上席副社長にまで出世した。原子力反応炉の建設と運転のお役に立つことによって、わたしは「消費電力の計測が必要ないほど安価」[2]な電力の生産をしているのだと、信仰のように熱っぽく自認していた。1973年の歴史的なガソリン不足に見舞われ、給油スタンドに何百台もの車が並んだ長蛇の列の光景を目にして、わたしをはじめ、同類の核エンジニアたちに、核発電が唯一の「エネルギー不足」解決策であることが明白になった[3]

1970年代から80年代にかけて、この明白なエネルギー不足解決策は、わたしたちが唯一唱えるマントラだった。当時、化石燃料を地球温暖化や気候変動に結びつける科学データはなかった。わたしたちが目下、体験のさなかにある地球大気中の二酸化炭素(CO2)蓄積と、世界の気候変動にとって恐ろしいCO2蓄積の意味合いを、地球規模の脅威として最初に確認したのは、NASAのジェイムズ・ハンセンであり、1988年のことだった[4]

アイゼンハワー大統領は1953年、原子の力を地獄の業火から人類の福利に貢献するエネルギーに転換する手段として「原子力の平和利用」計画をたちあげ、2000年までに米国の原子力発電施設を少なくとも1,000基建造するという壮大な幻想を描いてみせた[5]。しかし、1979年のチェルノブイリ惨事よりずっと前に、早くも原子力発電所の建設コストが急騰し、建設工期は常に遅れがちになっていた[6]。米国に原子力反応炉1,000基という目標を設定した1950年代の過剰な熱意もやがて萎えてしまって、結局、110基ほどの反応炉を完工しただけで終わり、その他120基を超える反応炉は1ワットを発電することもなく設計段階で放棄された[7]

原子の力を平和目的にかなうように飼いならすというアイゼンハワーの夢は、1985年には化けの皮が剥がれて悪夢になり、フォーブス誌は1兆ドルを超える核発電のコスト過剰と助成金を挙げて、この地球規模の建造ラッシュを「史上最大の経営惨事…金の使いかたが上等と思えるのは、目が見えないか、考えかたが偏っている連中だけ」と論評した[8]。電気料金は急騰し、電力会社の顧客はアトムズ・フォー・ピースのピース(かけら)を摘みあげるだけだった[9] [10]

20世紀中に230基を超える原子力反応炉を建造するとした米国の企てのうち、99基だけが米国でいまでも稼働している。世界原子力協会によれば、2015年時点の世界で合計438基が稼働している[11]

20世紀に人里の明かりは消えなかったし、恐ろしいエネルギー不足の予言は現実にならなかった。「消費電力の計測が必要ないほど安価」といった経済的ニルヴァーナの世が到来するといった原子力産業の言い分もやはり破綻した。21世紀になると、再生可能エネルギー利用の可能性がいよいよ明白になりはじめ、そこで原子力産業は、その存続の新たな正当化として、地球規模のCO2蓄積の結果、地球の気候変動が起こるというジェイムズ・ハンセンの予測にしがみついた。原子力ロビイストたちはこの新しいマーケティングの小道具で理論武装して連邦議会議事堂に群がり、21世紀の「核ルネッサンス」に資金を注ぎこむ財政支援を求めた。

世界をCO2レベル上昇から救うためだという、この核産業の主張は、精査を積んで提起されているのだろうか? 否! 核反応炉を新規に建造すれば、地球温暖化が悪化することを示す明らかな証拠がある。

データを検討する前に、2つの概念を明確にしておくことが大事である。第一に、石炭や石油などの化石燃料を燃やせば、CO2が放出される[12]。年ごとに大気中に放出されるCO2の量は膨大であり、ギガトン(GT)で測られる。CO2ガスの1ギガトンは10億トンである[13]。二番目の概念は“ppm”、つまり100万分の1の単位で表す粒子の数である。CO2が大気中に放出されると、空気で希釈される。空気中のCO2分子の蓄積は空気の分子100万個で割った分子の数で測られるので、100万あたりの分子の数ということになる。産業革命前の時代の世界CO2レベルの正常値は、280 ppmだった[14]

最初の大規模な商業用原子力反応炉が発電をはじめたころ、1970年のCO2の世界放出量は約16ギガトン(GT)であり、CO2の大気中蓄積レベルは約320 ppmだった[15]。ジェイムズ・ハンセンと350.orgグループは、破局的な気候変動を避けるためには、世界のCO2レベルを350 ppm以下に保たなければならないと主張しており、このレベルは1980年代の末期に突破されている[16]。手厚い助成金を受けた世界の原子力発電炉が438基以上も建設されてからずっと後の2015年には、化石燃料の燃焼による世界のCO2放出量が36 GTに達していた。CO2の大気蓄積レベルはすでに400 ppmを超えており、年ごとに約2 ppm上昇している。

原子力ロビイストたちと彼らのマーケティング企業は、人類による現在の大気中CO2放出状況は、現在稼働中の発電炉438基がなければ、もっと悪化していたとわたしたちに信じ込ませようとしている。それでは、どれほど悪化していたのだろうか? 世界原子力協会の産業取引部会は、天然ガス火力発電所がそれら438基の発電炉に代わりに電力を供給していたと仮定すると、2015年に発生していた追加分のCO21.1 GTに達していたと推計している[17]

さあ、算数だ! 実際に放出された36 GTに比べて、追加分の1.1 GW3%の差でしかない。この3%という値は、タイピングミスではない。世界全体のそれら原子力発電炉全部で年間CO2排出量の3%を削減しただけである。言い換えれば、個別の発電炉438基のそれぞれがCO2削減量の1%7,000分の1に寄与しただけである[18]。これでは、海水面の上昇を防ぐために、田舎の古びた発電炉を稼働しつづけなければならないと正当化する主張の根拠にはとてもならない。

時期尚早かもしれないが、2050年を展望してみよう。マサチューセッツ工科大学(MIT)は、たとえ2015年のパリCO2協定(COP 21)が施行され、1,000基の新規発電炉が建造されても、世界のCO2排出量は最小限に見積もっても、やはり64 GTに達すると見積もっている[19]。パリ合意に鑑みれば、これほどの増加は信じがたいかもしれないが、インド、中国、東南アジア、アフリカの膨大な人口の諸国民が欧米先進諸国の生活水準に追いつきたいと思っており、これまで抑制されてきたエネルギー需要を背景に目標として設定されているのである[20]

新規核反応炉は、本当に2050年までのCO2削減に貢献するのだろうか? 残念ながら、過去のできごとは前触れなのだ。世界原子力協会はCO2削減を実現するため、つまりCO2蓄積および気候変動に対処するために、2050年までに新規の核反応炉が1,000基必要になると主張している[21]MITの判断も、やはり2050年までに1,000基の核反応炉が稼働していなければならないと想定している。核取引の仲間うちで独自の計算を用いれば、新規核反応炉が2050年時点で帳消しにできるCO2は、たった3.9 GTということになる。もう一度、計算だ! 64 GTのうちの3.9 GTは、2050年時点の大気中CO2排出総量の6.1%にすぎず、これでは北極の白熊救出にはとても間に合わない!

それら1,000基の核発電炉が安上がりで工期も短いと仮定すれば、核に投資するのも悪くないかもしれない。ところが、利害関係のないラザード財務顧問・資産管理[22]が作成した試算書によれば、それら新規核発電炉の建設コスト総額は$8,200,000,000,000と見積もられるという。そう、そのとおり、たかが6%CO2削減に、82000億ドル![23]

この巨額の金をもっと安上がりな代替品に使ったほうが、確かにお買い得! ラザードはまた、ピーク時発電総量をソーラーまたは風力で賄えば80%の安上がりになると見積もってもいる[24] 

1,000基の核発電炉が完工するのを待つ間、大気中CO2放出は休暇で一服してくれているわけではない。『世界核産業動向報告』2016年版[25]によれば、2006年から2016年までに稼働を始めた46基の核発電炉の平均工期は、工学設計、認可申請、用地選定に要した期間を含めずに10.4年だったという。一般的な産業規模のソーラー発電所の設計と建設に要する期間2年とは大違いである[26],[27]。新規核発電炉1,000基の建造に要する35年間で、大気中CO2レベルは70 PPM近く上昇するだろうし、それらの新規核発電炉が――仮に操業するとしても――とても帳消しにできない増加分である。

核発電推進派は、将来のいつの日か、なんとかすれば、原子力発電炉の建設費はずっと安上がりになり、建設工期の遅延は過去のものになると言い張っている。「これらの新型炉設計が2030年に建造原型炉になるのを待ちながら、もっと設計費をわれわれに寄越せ」と、核推進派は言っているようだ。彼ら核発電教の信者たちは、原子力の可能性はふんだんにありますし、進行波炉の類はいかが、それとも小型モジュラー炉はどうですか、液体ナトリウム炉もありますし、あるいはキセノン気体冷却炉、トリチウム炉もいけますよ、云々と熱心である。核産業と核ロビイストらによれば、彼らのユートピア夢物語を実現するために政府助成金を使うとなれば、原子力発電炉の意匠に不足はないそうだ。

地球の気候変動は、現時点の解決が必要な現時点の問題である[28]。いわゆる原子力によるCO2削減解決策なるものの提案のコストがどれほどになるか、だれにもわからず、実現が2030年だというのに、貴重な資源を割り当てるようなら、諸国政府はCO2問題を悪化させるだろう。幸いなことに、コストが安上がりにつく再生可能エネルギーによる解決策は、大気中CO2濃度の急速な上昇を逆転させるのに必要な時宜にかなって実施することができる。

新規核発電炉の建設は、20世紀のテクノロジーを21世紀の問題に適用することである。そのうえ、CO2削減の見返りに、核発電炉を建設すれば、世界中で原子力廃棄物という毒物の遺産を生み出してしまう。原子力推進派は、人類は利口なので、25万年のあいだ核廃棄物を蓄えておくことができるけれども、同じ人類が愚鈍なので、ソーラー電力を宵越しに蓄えることができないとわたしたちに信じこませようとした。とても、納得できることではない。

この原子力テクノロジーを21世紀にリサイクルして、20世紀の愚かな行為を繰り返すことはやめよう。新規核発電炉は巨額のコストと建造時期の遅れのため、地球の気候変動を悪化させることは、証拠が示している。CO2の煙幕を吹き払って、現時点で導入可能な――迅速に実施できて、大幅に安上がりな――代替エネルギー解決法を採用しようではないか。

【脚注】

[1]アルヴィン・ワインバーグ博士の造語。http://www.counterpunch.org/2012/06/18/the-nuclear-cult/  

[2] 1954年、当時の原子力委員会の委員長、ルイス・ストローズ。



[5] Belief Based Energy Technology Development in the United States, Chi-Jen Yang, Cambria Press, New York, c 2009, The Bandwagon Market, page 161, Figure 16, Projections of nuclear capacity growth vs. reality



[8] Forbes Magazine, February 11, 1985

[9] Bankruptcy filed by leading utility in Seabrook Plant, New York Times, January 29, 1988

[10] Regulatory Opportunism and Investment: Evidence From the U.S. Electric Utility,  John W. Mayo, Georgetown University and Thomas P. Lyon ,University of Michigan , November 2004, http://www.erb.umich.edu/Research/Faculty-Research/LyonMayoRAND.pdf



[13] 米国など、一部の文化圏では10億トンと表記するが、科学界の標準ではギガトン(GT)。http://www.dictionary.com/browse/gigaton?s=t


[15] Scripps Institution of Oceanography, http://www.esrl.noaa.gov/gmd/ccgg/trends/mlo.html



[18]  3%438 = 0.0068 %




[22] ラザードは157年にわたり民間共同経営会社として活動したあと、2000年に公営企業になり、LAZとしてニューヨーク証券取引所に登録されている。ラザードは27か国の42都市にオフィスを構え、まだ成長している。https://www.lazard.com/our-firm/history/

[23] Capital Cost Comparison table, Lazard’s Levelized Cost of Energy Analysis—Version 9.0, https://www.lazard.com/media/2390/lazards-levelized-cost-of-energy-analysis-90.pdf

[24] Capital Cost Comparison table, Lazard’s Levelized Cost of Energy Analysis—Version 9.0, https://www.lazard.com/media/2390/lazards-levelized-cost-of-energy-analysis-90.pdf

[25] http://www.worldnuclearreport.org/The-World-Nuclear-Industry-Status-Report-2016-HTML.html#_Toc455973189 , The World Nuclear Industry Status Report 2016, Mycle Schneider et al. 





【クレジット】

Fairewinds Energy Education, “Demystifying Nuclear Power: Nuclear Power’s Carbon Dioxide (CO2) Smoke Screen,” by Arnie Gundersen, posted on October 19, 2016 at;



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