2017年4月19日水曜日

エコロジスト誌「偽りの約束 ~核発電の過去と現在、そして(存在しない)未来」

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偽りの約束
~核発電の過去と現在、そして(存在しない)未来

デイヴィッド・エリオット David Elliott
2017412

核発電はもともと虚言で売り込まれたと、デイヴィッド・エリオットは書く。核発電は「電力計で測るのも不要なほど安価」な電力を生産すると言い聞かせられたが、内部の事情通は従来型の発電方式より少なくとも50%は高くつくことを知っていた。その後、核のコストは上昇する一方であり、再生可能エネルギーの価格は急激に下落している。そしていま、核の巨大産業は崩壊しようとしている…それも、決して早すぎとはいえない。

偽りの約束…ウェールズ、アングルシーの暗闇に輝くウィルファ2核発電所。
Photo: Adrian Kingsley-Hughes via Flickr (CC BY-NC-ND).

ドワイト・D・アイゼンハワー大統領は195312月の国連演説で「核の平和利用」計画を提唱し、次のように述べた――

「この奇跡のような人類の発明を、人類滅亡のためではなく、人類の生命のために捧げる」

アイゼンハワーは、「核エネルギーの平和利用は、将来の夢ではないと考えている。その可能性はすでに立証され、 今日、現在、ここにある」と主張した。そして、米国は核が世界的に使用可能になるように支援すると述べた。

しかし、大統領の顧問たちは、これは実行不可能であると進言した。19541月に配布された国務省の機密内部報告書、「諸外国における原子力の経済的含意」は次のように警告した――

原子力の導入は「…一般的に信じられているようには、豊かさと目覚ましい経済発展の新時代の先導役とはならないだろう。核発電所は従来型の熱火力発電所に比べて、運転費が2倍、建設・装備費が50パーセント増しになるかもしれない」(『19531955年の外交史』405948974頁「核の緊急課題~核の平和利用と核輸出に関する米国の政策の展開」[The Nuclear Imperative: Atoms for Peace and the Development of U.S. Policy on Exporting Nuclear Power, 1953-1955 Diplomatic History 40 Issue 5 948-974]におけるモラ・ドロガンによる引用)

それなのに、核のお祭り騒ぎは繰り広げられ、米国原子力委員会のルイス・ストラウス委員長は1954年に科学作家に向けて講演し、次のように語った――

「われわれの子どもたちの世代が自宅で、電力計で測るのも不要なほど安価な電気エネルギーを享受するようになるといっても、言い過ぎではないでしょう」

米国と、それに続く英国、フランス、ロシア、日本は核エネルギー――新規発電所および新規研究プロジェクト――に莫大な資金を注ぎ込んだ。

核エネルギーにおけるマーフィーの法則?

だが、ものごとは常に計画通りに進んだわけではなかった。たとえば、米国の実験炉現地で事故が連発し、1961年にはアイダホ州のSL1プロジェクトで爆発事故が起こり、3名の運転員が死亡しており、そのうちの一人は燃料棒で天井に釘付けになっていた。

次いで1966年、デトロイト近郊のフェルミ高速炉が燃料メルトダウンに見舞われ、1979年には、スリーマイル・アイランドの加圧水炉(PWR)が放射性ガスを空中に放出することで、かろうじて大規模な水素爆発を免れた。この事故は米国で核の成長が終わるきっかけになった。この数百万ドル規模の発電所は閉鎖を余儀なくされた。反対が高まった。新規発電所、新規発注はご破算になった。

そして1986年、ウクライナでチェルノブイリ核惨事が勃発し、放射性降下物がヨーロッパの大半に拡散した。それが新規発電所発注の世界的メルトダウンにつながった。

だが、問題は事故だけではなかった。核の貧弱な経済性が――もっと安価な代替発電が現れはじめて――ますます明白になった。核発電は――たとえば、英国で安価なガス発電と競争にならず――高くつきすぎることがはっきりした。かつての英国原子力公社総裁、ウォルター・マーシャル卿が、英国中央電力庁長官だった1987年、次のようにいったとおりである――

「英国民は、われわれが原子力で常に約束していた安上がり電力を享受したことなんて一度もなかった。安価な電力は『明日はジャムだが、今日はジャムじゃない』の事例であったし、そうでありつづけるだろう」
[訳注]ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』より

だが、英国の政治家連中にとって、核の夢は潰えない

だが、それでもマーガレット・サッチャーはサイズウェルの新規核発電所(PWR)計画の推進を断念せず、同事業は1987年に着手された。あるいは、トニー・ブレアは後に新規計画を「執念をもって」再開しようと試みた。これはまだ実現していない。それでも、2400万ポンド相当のヒンクリー・ポイントCヨーロッパ型加圧水炉(EPR)として保留中であり、これが実現すれば、英国で30年ぶりの新規核発電所になる。

2011年のこと、フクシマ核惨事が勃発して、世界的に核計画の動きが鈍化し、億ドルもの負債が生じた。だが、英国はおそらく18ギガワット――2030年代の英国の電力供給量の30%内外――に達する新規核発電を開発する計画を推し進めた。

この増産は、基本的に第2世代PWRの改良型であり、現状では核発電の頼みの綱である設計と同じ、いわゆる「第3世代」炉を基盤にしている。新型といえども、安価なガスやますます安価になる再生可能エネルギーに比べて、競争力があるとはいえそうもない。

核産業界は、フランスのEPR、東芝・ウエスチングハウスのAP1000、日立のABWR――フクシマの沸騰水型炉の改良型――にいまだ望みを捨てていない。

だが、フランスとフィンランド、すなわちフラマンヴィルとオルキルオトで建造中のEPRは両者とも工期が8年ほど遅れており、予算が3倍も超過している。フラマンヴィルの巨大なステンレス鋼製の反応炉容器とドームもまた深刻な冶金学的欠陥を抱えており、その完成が危うくされるかもしれない。

米国で建造中のAP1000型炉2基もまた工期が遅れており、そのために100億ドルを超える損失が生じて、ウエスチングハウスを破産に追い込み、その親会社である日本企業、東芝も末期的な財政メルトダウンになるかもしれない事態に陥っている。米国で建造中である2基のABWRもまた工期が深刻なほど大幅に遅れている。

4世代反応炉が解決策になるか?

これらの問題を前提として、「第4世代」設計炉を概観してみよう。これは基本的に、米国とその他の国ぐにで、1950年代、60年代、70年代に見受けられた――そして実用にならないとして、あるいは事故のあと、放棄された――古い設計炉の新型である。

4世代設計炉には、高速中性子プルトニウム増殖炉、高温炉(HTR)、トリウムを燃料に使うという溶融塩炉(MSR)、小型化するという小型モジュール炉(SMR)がある。

過去からのメッセージには頼れない。たいがいの国(米国、英国、フランス)は1980年代と90年代に高速増殖炉を諦めた。日本もいま、断念している。英国は1960年代、ウィンフリスのドラゴン計画でHTRを試験した。ドイツと米国もやってみた。米国はまた、1960年代になんらかのMSR技術を試験し、トリウムを燃料として試してもみた。SMRも試験済みである。

これらの思いつきは、コストが大幅に膨れ上がり、技術的困難が次つぎと持ちあがったため、どれひとつとして先に進めることができなかった。だが、業界は、これら古い設計の新たな変種は改良され、安上がりで安全になると言い張っている。

しかし、フランスの核関連機関、IRSN[放射線防護・原子力安全研究所]は第4世代オプションを評価して、現在の開発段階では、「おそらく高温炉を除き、審査したシステムのいずれも、第3世代炉に比べて著しく改善された安全性水準を呈示している」証拠が見受けられないと――さらには「設備単位あたり出力を大幅に制限する」必要があるとすら――述べた。

米国原子力規制委員会の前委員長、HTRについて、「前向きな方向性を示す過去の経験が見当たらない」と語った。

彼女はまた、次のように指摘した――

高速増殖炉は「建造コストが非常に高くつく技術であることが判明しました。多くの国ぐにが何度も何度も試してみました。非常に印象的なのは…多くの国ぐにの政府が明確に失敗している技術に資金を手当てしつづけていることです」

核エネルギーはますます高上りになり、再生可能エネルギー価格は急落する

これら提案のいずれかがものになるとすれば、明らかにコスト削減は必定である。これは、小型モジュール炉(SMR)について語られた主張のひとつなのだ。SMR工期が短く、したがって資金調達が容易になる可能性がある。住民が市内または近郊にSMRを受け入れてくれるとすれば――SMR廃熱を活用して、市街地区域に熱を供給することができるだろう。

だが、その可能性はあるのか? SMRが安上がりになることは、非常に疑わしい。EPR1.6メガワット)、ABWR1.6ギガワット)、AP10001.25ギガワット)のように、民生用核発電所が常に大型化した理由は、「規模の経済」の利点を確保することにあり、小型化していけば、これが失われる。

おまけに、もちろんのこと、SMRに「新規」なことは全然なく、じっさいのところ、これは歴然とした成熟技術なのだ。SMRは数十年来、軍用の潜水艦や艦船に何百基も装備されてきた。民生用核発電で決して使われなかった理由は、単純だ――高くつきすぎる! さて、いまさら変えようなんて、正しくどういうことだ?

いずれにしても、第4世代提案はすべて、商用化の実現に向かうまで、10年か20年、あるいはもっと早い。再生可能エネルギーが1980年代に直面していた状況と同じである。再生可能エネルギーは――とりわけ風力と光起電ソーラーは――壁を打ち破り、いまでは実用化している。第4世代核反応炉は同じ道程を辿れるだろうか? あるいは、第5世代――核融合――の実現まで待つ必要があるのだろうか? あるいはまた、これら核の提案のどれであれ、本当に必要なのだろうか?

再生可能エネルギーは核を全面的に凌駕し、コスト面で下回り、年間世界電力供給量総計で2倍を超えている。再生可能エネルギーは目下、世界電力量の24%を供給し、なおも急速に成長しており、それに対して、核による供給量は11.5%でまったく動いていない。

再生可能エネルギーは多くの国ぐにで、2030年までに50%に迫る途上にあり、たぶん2050年までに100%近くになるだろう。資源は莫大であり、ウラニウムやトリウムと違って、決してなくならならず、また長期にわたって有害な廃棄物を遺すこともない。これこそ、われわれにとって最善の未来であると見受けられる。

【筆者】

Dave Elliott
デイヴィッド・エリオットはオープン大学技術政策講座の名誉教授であり、再生可能エネルギー政策分野で活動。

著書:デイヴが物理研究所のために書き下ろした新刊書“Nuclear Power: past, present and future”は、長期にわたり仰々しく展開した核の物語を詳細に検討し、完全な出典目録を付している。今月(20174月)中に出版の予定。

既刊書

【クレジット】

The Ecologist, “False promise: nuclear power: past, present and (no) future” by David Elliott, posted on April 12, 2017 at;


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