2011年5月31日火曜日

朝日新聞記事をめぐって ジャーナリズムを問う

朝日新聞オンライン(asahi.com)に次のような記事が掲載されました――

放射能から守りたい 小中学生の避難広がる 福島

2011530170

東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い、原発から約60キロ離れた福島市福島県郡山市で、子どもを県外へ避難させる動きが続いている……

記事は、福島市教育委員会によると市外に転校した小中学生は4月から527日までに216人、郡山市教育委員会の調べでは、郡山市外から県外へ転校した小中学生が403人にのぼるとつづき、「このまま住み続けたら、将来、子どもの健康にどんな影響が出るかわからない」などの声とともに実例を紹介しています。また「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」による29日の相談会についても触れています。

530日、朝刊を開いてみると、この記事が見当たりません。福島県では夕刊は発行されず、朝・夕刊を統合した総合版となっています。編集のさい、夕刊掲載のこの記事をデスクは採用しなかったのでしょう。

その結果、夕刊が配達される首都圏など福島県外の読者はこの記事に接し、一方、不安に駆られ、実用的な情報に切に求めている福島県内の読者にこの記事が提供されないのは、どうしたことでしょう?

さっそく朝日新聞福島総局に電話してみました。受付嬢は「ご意見承ります。ご要望は記者に伝えさせていただきます。なお、詳しくは東京本社にご連絡ください」というばかりで、埒(らち)が明きません。

そこで東京本社お客さま窓口(03-5540-7616)に電話してみました。記事にまつわるいきさつを伝え、不安に駆られている福島県内の親御さんたちの実情を説明し、この記事が福島県内配達の紙面で読めないとは理不尽であると訴えました。受付の女性は非常に同情し、記事が掲載されなかったのは不思議ですねと同情してくれました。明61日にでも掲載してほしいと要望すると、まちがいなくデスクに伝えると答えてくれました。

明朝の紙面に掲載されるかどうか、もちろんわかりません。ともあれこの件で、朝日新聞のジャーナリズム、読者に対する姿勢が問われていると、小生は考えます。

2011年5月29日日曜日

6.11原発いらね!郡山パレード - テーマソング

実行委員会で、パレードのテーマソングに"We Shall Overcome!"が選ばれ、日本語訳歌詞を探しましたが、適切なものが見当たらず、独自に訳してみました。これは完成稿ではなく、あくまでも試訳であり、なお委員諸氏の推敲に委ねるものです。読者諸氏もコメントをどうぞ…… (yuima記)

***********


We Shall Overcome! 勝利をこの手に

We shall overcome 勝利をこの手に
We shall overcome, 勝利をこの手に
We shall overcome, some day. 勝利をこの手に いつの日にか
リフレーン
Oh, deep in my heart, おお、こころの奥で
I do believe 信じている
We shall overcome, some day. 勝利をこの手に いつの日にか

We'll walk hand in hand, 手に手をとって
We'll walk hand in hand, 手に手をとって
We'll walk hand in hand, some day. 手に手をとって いつの日にか
リフレーン

We shall live in peace, 平和をこの手に
We shall live in peace, 平和をこの手に
We shall live in peace, some day. 平和をこの手に いつの日にか
リフレーン

We shall all be free, 自由をこの手に
We shall all be free, 自由をこの手に
We shall all be free, some day. 自由をこの手に いつの日にか
リフレーン

We are not afraid, 恐れていないぞ
We are not afraid, 恐れていないぞ
We are not afraid, TODAY 恐れていないぞ 今日一日は
リフレーン

2011年5月28日土曜日

国際脱原発デー全国100万人アクション

『6.11原発いらね!郡山パレード』


JR郡山駅前公園(西口)12時集合

集会・歌など~「パレード」~駅解散


 主催: 6.11原発いらね!実行委員会

 協賛: 脱原発福島ネットワーク

  ハイロアクション福島原発40年実行委員会

子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク


連絡先

024-873-0331 自然食レストラン「銀河のほとり」

080-3195-0229 黒田


☆手作りプラカード、バナーなど、なんでもご持参くださいさい。(参照『No Nukes ポスター展

 鳴り物、パフォーマンスも大歓迎。

☆子ども、妊産婦はご遠慮下さい。

 各自、帽子やマスクなど、放射線防御をお願いします。

☆悪天の場合は順延して「6.26福島市1万人パレード」に合流しましょう。

☆参加費ナシ、カンパよろしく。

被曝しながらの屋外行動には賛否両論がありますが、

 閉じこもっているわけにはいかない!!

 フクシマ現地からも声をあげたい!!

 6.11脱原発の日、全国・世界各地の行動とリンクしたい!!


実行委員会からのお願い――メッセージ募集

当日、参加できないみなさん、遠方のみなさんあなたの声をお寄せください。当日、ボードに貼って、紹介します。

応募は、下のコメント投稿欄でどうぞ

 

2011年5月26日木曜日

原発いらね 6・11郡山パレード宣言(案)

2011年6月11日

宣言案)

「全ての原発を廃炉に!」

この集いに参加した、わたしたち一同は次のように宣言します。

1.メディア総動員の原子力発電所「安全」キャンペーンにもかかわらず、福島第一発電所は史上最大級レベル7の事故を起こしました。この人災を「想定外」の事故、天災だったという言い訳で許すことはできません。

2.政府は一般公衆の年間放射線被曝許容限度を1ミリシーベルトとする法的な基準をほごにし、避難基準を年間20ミリシーベルトに引き上げました。わたしたちは、ゆえなく許容限度を超える被曝を強いられることを黙認するわけにはいきません。

3.文部科学省は、1時間あたり放射線量3.8マイクロシーベルトを超えない学校や保育所などの校庭・園庭における生徒や児童の通常活動を認めると福島県に通知しました。この放射線量は、文部科学省主管の法令にもとづく放射線管理区域設置基準値0.6マイクロシーベルトの6倍を超えています。わたしたちは、子どもたちに異常な被曝を強いる文部科学省の違法な措置を見過ごすわけにはいきません。

4.美しい故郷福島と私たちの健康を破壊する原子力発電所の巨大事故にもかかわらず、原発必要(安全)キャンペーンが進められています。2010年時点で、世界の自然エネルギー発電総量が原子力発電総量の世界合計を超えたことを知っている私たちは、だまされるわけにはいきません。

5.このパレードは、これまで自然界にはけっしてなかった放射線を浴びながらのものです。当然、賛否両論があり、私たちは悩みました。しかし、ここに生活している限り、私たちは原発被災地フクシマから世界に発信していきたいと思うのです。怒りと悲しみと、そして新たな社会を目指す祈りのパレードにしたいという結論に達しました。おとなしくしているわけにはいきません。

わたしたちは、子どもたちを、わたしたち自身を守ります。

わたしたちは、新しい世界を創るために行動します。

「6.11原発いらね!郡山パレード」参加者一同

2011年5月25日水曜日

5月23日 文部科学省・中庭ベランダに座りこんで




子ども年20ミリシーベルト、文科省へ撤回を要請
523日、子どもに年間20ミリシーベルト基準の撤回を求め、福島のお母さんお父さんらが文科省にのりこみました。
要請した内容は、以下のとおりです。
*******************
2011年5月23
文部科学大臣 高木義明 様
子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク
代表 中手聖一
福島の子どもたちの被ばく最小化のための行動を直ちに執るよう要請します
私たちは、自分たちの子どもを放射能から守りたい、ただただその一心で集まった福島の親たちをはじめとする市民団体です。私たちの苦悩と悲しみがどれほどのものか、大臣はお分かりでしょうか。
貴省が419日に通知した「3.8μSv/h=年間20ミリシーベルト」の基準は、いわゆる安全基準として一人歩きし、私たちの愛しい子供たちは、部活や体育などで、校庭へグランドへと駆り出されています。校庭には毎時数十~数百マイクロシーベルトという、恐ろしいほどの放射線を放つ場所が、何の管理もされずに放置されています。校舎内の放射能汚染は日に日に進み、子どもたちは毎日毎日学校で被ばくさせられています。
全国全世界から福島に集まっている関係者は、みな線量計で被ばくを管理しながら働き、その傍らで子どもたちは無防備のまま生活しています。このような異常な状態を作りだしたのは、大臣、貴省が出した子ども20ミリシーベルト基準によるのです。
私たちの我慢ももう限界です。のんびりとモニタリングをしているときではありません。
高木大臣、以下の被ばく低減策を直ちに行うことを決断してください。
一、今すぐ子ども20ミリシーベルト基準通知を撤回し、あらゆる被ばく低減策を、国が行ってください。
二、そのために、授業停止やいわゆる学童疎開・避難が必要なところは、躊躇なく行ってください。また、自主的に避難や疎開を行う者への経済支援を行ってください。
三、校庭削土をはじめとする除染作業、高放射線区域の隔離等を急いで行ってください。その際に集められた放射能は、国と東京電力が引き取ってください。
四、マスク・手洗い等の励行はもちろん、給食食材の配慮など内部被ばく防護策を徹底してください。
五、これらにかかった費用は、国が責任を持って負担し、東京電力に請求してください。

*******************
毎日 「福島第1原発:20ミリシーベルト基準 父母ら撤回要請」
時事通信 「20ミリシーベルト、「撤回を」=子ども被ばく量、文科省前で訴え」
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011052300803
朝日 「校庭の放射線基準甘い」福島の保護者ら文科省で訴え
(59秒間の動画配信つき)
http://www.asahi.com/national/update/0523/TKY201105230436.html
読売 「子供の屋外活動制限、基準高すぎ保護者ら抗議」
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110523-OYT1T00999.htm
ついでですが、毎日新聞23日の朝刊には、まとまった記事も。福島ネットワーク代表の中手聖一さんのコメントも載っています。
「東日本大震災:暮らしどうなる?/38 子の被ばく、減らす努力を」
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110523ddm013040002000c.html
20mSv」撤回求める福島の父母を雨中コンクリートに座らせた文科省 : 田中龍作ジャーナル
http://tanakaryusaku.jp/2011/05/0002365
福島からバス2台の代表団!「高木文科大臣、なぜ出てこない!」
作成者 湯本雅典 558
5月23日、20ミリシーベルト/年の撤回を求める文科省交渉が行われ、福島からバ ス2台(60名)の代表が参加した。(主催:子どもたちを放射能から守る福島ネット ワーク-以下「福島ネットワーク」)
脱原発の日実行委員会 @ ウィキ今日、23日文科省前&院内集会に諸事情で参加できなかった方の熱い想い。
http://www35.atwiki.jp/datugenn/pages/264.html
523日 子どもだけは守りたい 小出裕章 (院内集会) 小出裕章 (京大助教) 非公式まとめ
http://hiroakikoide.wordpress.com/2011/05/23/20msv-may23/
最後に、福島の方々にまったく会おうとしなかった高木文科相が、同じ日にやっていたことです。「安心・安全」を唱えることしか頭にない文科省を象徴するようなシーンです。テレビニュースでは、鈴木副大臣も笑顔で映ってました。野蛮そのものです。
http://www.ninomiyasports.com/sc/modules/bulletin02/article.php?storyid=4950
「国際サッカー連盟(FIFA)のゼップ・ブラッター会長が23日、来日し、今回の東日本大震災を受けたFIFAの支援策について日本サッカー協会の小倉純二会長らと話し合いの場を設けた。同日午前には高木義明大臣 夕方には菅直人首相を相次いで訪問。被災者へのお見舞いを表明するとともに、FIFAとしての復興支援を約束した。高木大臣からは12月に日本で開催が予定されているクラブW杯について「安心して行ってほしい」とのレターを受け取り、ブラッター会長は「日本で実施できる自信を持っている」と開催地を変更する考えがないことを表明した。」
*******************
原発に向き合う世界と私たち
出所:FoE Japan

高木大臣はどこへ?なぜ福島の親たちに会おうとしないのか?
20ミリシーベルトの即時撤回を!

あまりの事態に、福島の親たちが立ち上がりました。5月23日、文部科学省前に福島からの親たちを含む多くの人が結集しました。本日、主催グループは以下の声明を発表しました。

2011
523
子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク
グリーン・アクション
福島老朽原発を考える会(フクロウの会)
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(美浜の会)
国際環境NGO FoE Japanグリーンピース・ジャパン
   高木大臣はどこへ? なぜ福島の親たちに会おうとしないのか?

   20ミリシーベルト(毎時3.8マイクロシーベルト)の即時撤回を!

523日、文部科学省前に、福島からの親たち100人を含む多くの人々が結集した。親たちの願いはただ一つ、子どもたちを放射能から守るために文科省の学校の暫定基準20ミリシーベルト(校庭での毎時3.8マイクロシーベルト)の撤回を求めて、直接、高木義明大臣に面会することだった。しかし、ついに、高木大臣をはじめ、5人の政務三役が姿を現すことはなかった(注)。

この20ミリシーベルトに関しては、内外からの強い批判・憂慮の声があがっている。文部科学省にお墨付きを与えたはずの原子力安全委員会は「20ミリシーベルトを基準として認ない」と発言している。

文科省は今になって、暫定基準は「できるだけ放射線を受けないようにするために設定された」などと弁明している。しかし、福島の現場においては、この20ミリシーベルトが基準とされたことにより、それまで、校庭での使用を控えていた学校が、基準以下であることを理由に屋外活動や部活動を再開したり、運動会を実施したりしており、子どもの被ばく量を増加させる役割を果たしている。

これに対し、福島の親たちの不安と怒りの声が増している。求められるのは、20ミリシーベルトの基準の即時の撤回であり、そのための高木大臣による政治的決断である。

ところが、高木大臣はじめ政務三役は、この決断をくだすべきときに、実際に被害をこうむっている福島の親たちとの面会を拒んだ。私たちはこれに強い憤りを感じる。

ここに、改めて20ミリシーベルト(屋外での毎時3.8マイクロシーベルト)の即時撤回を要求するものである。


注)
5
2日に20ミリシーベルト問題で、大規模な政府交渉が開かれ、政務三役(大臣または副大臣または政務官)に出席してほしい旨を伝えていたが、三役は欠席した。
政府交渉後、私たちは、本問題は政治的な決断が必要とされるという認識から、56日に、福島みずほ事務所を通じ、政務三役とのアポイントを申し込んだ。
5
10日の段階で、福島から親たちバス2台を連ねて文科省に要請に来ることが決定。513日、高木文部科学大臣に会いたい旨を福島事務所経由で要望。
しかし、518日の政務三役会議において、「福島の親たちに、政務三役はだれも会わない」という結論した。その後、事態を知った市民から、多くの抗議が高木大臣事務所および文科省によせられた。
5
20日(金)の15時から、本件は、再度三役会合で議論された。しかし、再度「政務三役(大臣・副大臣・政務官)」は対応しない、と結論された。なぜ、政務三役が対応しないのかの理由は現時点では不明である。

2011年5月21日土曜日

原発いらね 郡山パレード

国際脱原発デー全国100万人アクション

『原発いらね!6.11郡山パレード』


フクシマ3. 11原発震災から3か月

被曝地・郡山の街なかで

 コンサート、メッセージ発信 

そして…パレードを…

全県から集まる会なのだ!!!

JR郡山駅西口広場 611日(土)昼1200 集合

悪天中止。その場合、エネルギーを626日(日)福島パレードで発散しましょう。

郡山市では中心街の放射線値が高い傾向にあります。帽子、マスク、長袖衣服など、被曝対策をお願いします。

妊娠中のかた、お子さま連れの参加はご遠慮ください。


主催

6.11 原発いらね!! 実行委員会』


協賛

脱原発福島ネットワーク

ハイロアクション福島原発40年実行委員会

子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク


連絡先

024-873-0331 自然食レストラン「銀河のほとり」

080-3195-0229 黒田



2011年5月1日日曜日

カトリーナとフクシマを比べてみれば

天災であれ、人災であれ、郷土に大惨禍を残す災害は、日常下に隠されていた社会の真の姿をわたしたちの目にあらわにします。フクシマ原発震災は旧ソ連のチェルノブイリ事故と比較されることが多いですが、東日本大震災と原発震災をひっくるめて、2005年のハリケーン・カトリーナ災害および当時のブッシュ政権の対応に比較して、見えてくるものがあると思います。そこで、わたしのPCアーカイブの奥深くから古い翻訳文を引っ張りだしてみました――











レベッカ・ソルニット 著、井上利男 訳、七つ森書館 刊

『暗闇のなかの希望――非暴力からはじまる新しい時代』

http://www.pen.co.jp/syoseki/syakai/0596.html



TUP速報No.543 2005年9月8日

ハリケーンが暴いた

アメリカ社会の矛盾と非暴力の祈り


本稿は、レベッカ・ソルニットが緊急に寄稿したTUPオリジナル記事です。いつもの訳者駄文に代えて、作家とのメール交換のさわりをどうぞ――

送信: rebecca solnit

日時: 200596 0:19

宛先: inoue21c

件名  Re: Driving Cindy Sheehan

お見舞いのお言葉、ありがとう。私は、ボランティアに行くために新刊書キャンペーン・ツアーを中止するかもしれません――このところ、講演する者であるよりも、被災者救援にかかわる者でありたいと本気で思ったりしています。ハリケーンはこの国の針路を少しばかり変えるかもしれないと考えています――すでに、多くの、とても多くの政治家たちが、右も左も含めて、わが国はなぜ戦争しているのか、国家の社会計画や社会基盤を台無しにするような数多くの減税政策をなぜ実施したのか、気候変動なんて起こっていないとなぜ主張したのか、と問いはじめています。

親愛をこめて

レベッカ


送信: inoue21c

日時: 2005年9月5日 12:58

宛先: rebecca solnit

件名: Re: Driving Cindy Sheehan

私も、1995年の阪神淡路地震いらい繰り返し襲う地震が、ここ日本における考え方を変えてきたと信じたいものですが、土木工学専門家たちが技術を誇らなくなったことを除いて、たいして目に見える形にはなっていません。ハリケーン・カトリーナがあなたのアメリカ社会に与えた衝撃に関する情報は私たちにとっても重要であると信じ、それをTUP読者に伝えたいと考えています。

いつもあなたの友、利男


送信: rebecca solnit

日時: 2005年9月6日 0:19

宛先: inoue21c

件名: Katrina's Questions

この災害を、下記のような疑問の形にして考えてみました。具体的な疑問、社会、メディア、政府、科学、政策優先順位、倫理……にまつわる疑問です。

最高の親愛をこめて

レベッカ

凡例: (原注)[訳注]〈ルビ〉

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カトリーナが残した数多の疑問


●まるまる一地方が、9・11に崩壊したマンハッタンの摩天楼群16エーカー[約6万5000平方メートル]に匹敵するほどの凄まじさの廃虚になってしまい、お粗末な国内・環境政策がテロよりも破壊的であると露呈してしまった今、国家安全保障は、実際には何を意味しているのだろう?


●ハリケーンはほんとうに天災だったのだろうか? あるいはただ単に、社会基盤に投資したり、豊かさを分かち合ったり、環境問題に取り組んだり、人種差別を克服したりすることを拒む社会が、久しい前から内に抱えてきた多様な形の不幸を強烈に拡大し、目に見える形にしただけだったのだろうか?


●私たちの社会が強く正しいとしたら、ハリケーンは、財産に対してだけでなく、人間に対してさえも破局的惨事をもたらしただろうか?


●キューバは、昨年、ハリケーン・デニスに襲われたさい、60万人の貧しい人びとをひとり残らず避難させるという力量を発揮したが、この事実は社会や政策優先順位に関して私たちに何を語っているだろう?


●わが国の歴代大統領のうちの二人が私たちに託そうとしたニュー・ディール[第32代フランクリン・ルーズベルト]と偉大な社会[第36代リンドン・B・ジョンソン]とを堅持していたならば、このような貧困、このような公共事業の無策、あるいは、養護施設、老人ホーム、病院、視覚障害者住宅にいる人たち、出産まぎわの妊婦たち、新生児たち、精神障害者たちを救ったはずの社会的ネットワーク[絆の環]のこのような欠如が、わが国にありえただろうか?


●ニューオリンズの最貧困層市民を対象にした避難計画はどこにあったのだろう?


●ニューオリンズ市長が連邦政府高官たちに噛みついたのは愉快〈ゆかい〉な見ものだったとしても、間に合ううちに、このような最も弱い人たちを市外に搬送できたはずのバス、避難計画、関係機関はどこにあったのだろう?


●防災用品が備蓄されていなかったのは、なぜだろう? また、サンフランシスコ市が将来の地震に備えて設置した緊急時医療対策室に相当する機関はどこにあったのだろう?


●世界最強の軍隊と最も豊かな社会が、取り残された5万人程度の人びとに飲料水を届けることができなかったのは、なぜだろう? 5万ガロン[約19万リットル]と言えば、マリブ[ロサンジェルス郊外の海岸地域]のとき程度の規模の山火事のさい、ヘリコプターのバケットで投下する水の平均的な量ではないのだろうか?


●オーナーシップ社会[1]は、貧窮者、弱者、高齢者を死ぬがままに放置する社会的ダーウィン主義に他ならないと見てしまった今、また、こういう人たちが見捨てられている場合が余りにも多いことを見てしまった今、私たちは完全に私営化[2]された社会を考えなおすだろうか?

[1.ブッシュ政権が政策として提唱・推進する、だれもが持てる者になるという株式などの所有者だけで構成された社会]

[2.日本で言う「民営化」は privatization の意識的な誤訳]


●このハリケーン襲来が、アメリカの政治と国民生活の転換点になるだろうか?


●それとも、一週間ずっと快適に過ごしていたニューオリンズ・ハイアット[高級系列ホテル]の週末スタッフと客たちが、スーパードームでの避難順番待ちの行列の先頭に移されたという事実があるが、これは、わが国がいつもの流儀にすぐさま戻ることを意味しているのだろうか?


●これでも大統領は気候変動の現実を否定したり、これに関して何らかの対策を取る必要性があっても、言い逃れたりしつづけるのだろうか?

(それに、大統領が、ハリケーン被害の凄まじさをやっとのことで直視するために、避暑地から重い腰を上げ、「対テロ戦争」遊説を中止したことは、世界貿易センターのタワーが爆撃されたと聞いたさい、[たまたま訪問中の小学校の教室で]『ペットの子山羊ちゃん』を半時間近く朗読しつづけていたことと並んで、歴史に残るのだろうか?)


●コンドリーザ・ライスは水曜日にニューヨークに居て、靴の買物と観劇に行ったのだが、とても信じられないことに、「あのアメリカ人たちは、どこか色に左右される流儀で、助ける人と助けない人を決めるものなのよ」と言ったのは、どういう意味だろう?


●短い間の略奪者の急増と、見知らぬ人たちに無料の宿泊を申し出る篤志家たちの長いリストのどちらが、今回の危機に現れたアメリカ人の本当の姿を見せているのだろう?


●20歳のジャバー・ギブソンは、スクールバスを勝手に動かし、たったひとりで70人のニューオリンズ避難民をヒューストンに搬送したが、バスの排他的権利者と目される人たちから自発的決断と責任遂行の機会を掠〈かす〉め取ったことにより、略奪犯のなかの略奪犯と記憶されるだろうか?


●また、スーパードーム[フットボール場]とコンベンション・センター[大公会堂]のなれの果て、不潔な家畜囲いから人びとが歩いて脱出するという単純なことが許されなったのはなぜか、事情は明らかになるだろうか?


●なんらかの市民意識なり連帯なりが、政策優先順位と社会計画とを変革するかもしれない形で再生するだろうか?


●見知らぬ人たちに自宅を開放するという何万人もの人びと、クレイグのリスト(Craigslist)ほか、何十ものウエブサイトに支援の申し出を書きこんだマサチューセッツとミネソタとジョージアとカリフォルニアの人びとから何が生れるのだろう?


●その人たちは報われるだろうか? その人たちの寛大な行ないは、スーパードームやハイウェイに居ることを余儀なくされた人びとが抱いたはずの見捨てられた思いを和〈やわ〉らげるだろうか?


●一部の避難民が客のあるべき本分を逸脱し、ごく一部の人たちがやむにやまれず略奪に走る気になったとき、メディアは、その一点に焦点を当てて報道したが、不可避的に信頼毀損〈きそん〉行為におよばなければならなかった事情に注目するだろうか?


●私たちは、スラム街、アメリカ南部、アフリカ系アメリカ人社会の貧困を、[今回の災害の]根っこにある問題と認識し、堤防を再建するのと同時に、貧困に対処する計画を考えるだろうか?


●あるいは、昨年の津波のときのように、私たちは、救済とは、貧窮者を以前に享受していた耐えがたい生活条件に戻すことと考えるのだろうか?


●イラクにおける戦争は、アメリカの先制攻撃によって、突如として武力衝突が頻発する事態を招いたが、これが、これまでの数日間に私たちが目にしてきたのと同じ、いやそれ以上の荒廃をもたらしていることに、私たちは思いを馳せることがあるだろうか?


●こんなに大勢の南部諸州の政治家たちが、戦争のために、国内で必要とされる資材と州軍部隊が奪われていると悲鳴をあげているが、これは意に介されるだろうか?


●カトリーナがもたらした災害は、思いも寄らない形で早い時期に、戦争の終結をもたらすだろうか?


●何が国内危機の要因になっているか、何がこれらに対処するための具体的な方策になるか、これらの答を知るための具体的な実例を私たちが見たからには、戦争が私たちをより安全にしているという最後のあがきみたいな言い訳は、引っ込められるだろうか?


●ウォルマートは、店舗や搾取工場の従業員から、それに低賃金労働者や環境のための助成金を出す地方自治体から、組織ぐるみで掠め取っているというのに、そこから物を持ち出したとして、それが略奪行為になるだろうか?


●生存し、尊厳のある生活を維持し、衣食住を平等に確保する権利を行使したとして、それが略奪行為になるだろうか?


●あなたが報道関係者であり、広義の略奪者としての行為におよんでいる広範な人びとを晒し者にするとすれば、それは人間の尊厳と身分を剥奪する行為ではないだろうか?


●来年の春、マルディ・グラ[*]はおこなわれるだろうか? あるいはそれは、これまでのマルディ・グラに勝る最高のマルディ・グラ、復興と解放を祝う究極のお祭りになるだろうか?

[告解火曜日、ジャズの都ニューオリンズのパレード祭]


●水没した家屋が再建され、そのさい貧乏人の粗悪な住宅は改善されるだろうか?


●ニューオリンズの音楽が絶望と恐怖の叫びを洗い流すまで、どれくらいかかるだろう?

●ドレスデンが1945年[空襲]以降も都会であり、広島が1945年以降も都会であり、サンフランシスコが1906年[地震]以降も都会であり、メキシコ・シティが1985年[地震]以降も都会であるならば、いつの日か、ニューオリンズは、たとえ今から1週間前とまったく同じ姿にならないとしても、ふたたび都会として自立するだろうか?


[原文]Katrina's Questions

By Rebecca Solnit, September 6, 2005

Copyright 2005 Rebecca Solnit and Inoue Toshio

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   [翻訳]井上利男