2016年4月28日木曜日

#チェルノブイリ30周年☢#フクシマ5周年【海外論調】ティム・ムソー「野生生物に深刻な悪影響」


チェルノブイリとフクシマ
放射能が野生生物に深刻な悪影響


チェルノブイリ近くの路上に群がるコウノトリ。チェルノブイリの多くの場所で、放射線レベルが低くなっており、動植物の逃げ場になっている。だが、その他の場所の放射能の毒は依然として強烈である。特に鳥類は放射線の影響に対して感受性が高い傾向がある。Photo: Tim Mousseau.
サウスカロライナ大学
ティモシー・ムソー
Timothy A. Mousseau, 
University of South Carolina
2016427

ティモシー・A・ムソー氏は、現地調査の結果、チェルノブイリとフクシマの核災害によって放出された強烈な放射能が――動植物の健全性と個体数におよぼす影響はゼロまたはほとんどないという理論的研究の結果とはまったく違って――野生生物を深刻かつ不可逆的に痛めつけていると書く。

放射能レベルが最高の汚染地域では、繁殖期の鳥類の場合、生殖器官に精子がなかったり、いくつかの死んだ精子があるだけだったりして、完全に生殖能力を喪失した雄鳥が40%に達している。

史上最大規模の核災害が、30年前、当時のソヴィエト連邦のチェルノブイリ核発電所で勃発した。

メルトダウンと爆発、10日間にわたり燃えつづけた核火災によって、膨大な量の放射能が放出され、ヨーロッパとユーラシアの広大な地域が汚染された。

国際原子力機関は、チェルノブイリから大気中に放出された放射能量が、1945年、広島に投下された原爆のそれの400倍になると推計している。

今日になっても、一部の食品からチェルノブイリに由来する放射性セシウムが検出されている。またヨーロッパ中部、東部、北部の各地において、多くの動物、植物、キノコにあまりにも多くの放射能が含まれており、人間の食用としては安全ではない。

70年以上前、ニューメキシコ州のアラモゴードで最初の原子爆弾が炸裂した。それ以降、2,000発あまりの原子爆弾が実験され、大気中に放射性物質を放出した。また、事故が大小取り混ぜて200あまり、核施設で発生している。だが、専門家たちと擁護団体がいまだに、放射能が健康と環境にもたらす影響について激しく論争しているありさまである。

しかしながら、個体群生物学者はこれまでの10年間にわたり、放射能が植物、動物、微生物にもたらす影響の様態を記録することで、有意義な前進を果たしている。わたしの研究仲間とわたしは、チェルノブイリとフクシマ、また地球上の天然放射能地域におけるこうした影響を分析してきた。

われわれの研究は、複数世代にわたる慢性的な低線量電離放射線被曝の影響について、新たで基本的な洞察を提示している。最も重要なことに、生物個体が多様な形で放射線によって傷つけられることをわれわれは突き止めた。こうした損傷の累積効果が働く結果、高レベル放射能汚染地域では、個体数が縮小し、生物多様性が損なわれる。

チェルノブイリにおける広範な影響

チェルノブイリ地域において、放射線被曝が遺伝子損傷の原因になり、多くの生物種の突然変異発現率を引き上げる。われわれはこれまでのところ、生物の多くが進化して、放射線耐性を高めることを確実に示す証拠をほとんど見つけいない

生物進化の歴史が、放射能に対する脆弱性の程度を決めるのに大きな役割をしているのかもしれない。われわれの研究では、ツバメ(Hirundo rustica)、キイロウタイムシクイ(Hippolais icterina)、ズグロムシクイ(Sylvia atricapilla)といった、歴史的に高い突然変異発現率を示す鳥類種が、チェルノブイリにおいて個体数の減少を示している可能性が最も高い部類に含まれている。

われわれの仮説では、DNA修復能力が種ごとに違っており、このことがDNA置換率とチェルノブイリに由来する放射能に対する感受性の両方に影響している。

チェルノブイリの鳥類哺乳類は、ヒロシマ・ナガサキ原爆被爆者とよく似て、目に白内障を発症し、脳が縮小している。こうした異常は、空気、水、餌に由来する電離放射線被曝による直接的な影響である。

放射線療法を受けている癌患者の一部と同じように、鳥類の多くに奇形精子が認められる。放射能レベルが最高の汚染地域では、繁殖期の鳥類の場合、生殖器官に精子がなかったり、いくつかの死んだ精子があるだけだったりして、完全に生殖能力を喪失した雄鳥が40%に達している。

高レベル放射能汚染地域の鳥類に、癌性と思われる腫瘍が明らかに認められる。植物類虫類の一部にも、発育異常が顕著である。

減少する野生生物の個体数

遺伝子損傷と個体の傷害を示す圧倒的な証拠を考えると、高レベル汚染地域における多くの生物種の個体数が減少しているのは驚くことではない。

われわれがチェルノブイリで調査した主要動物集団のすべてにおいて、地域の放射線量が高いほど、個体数が少なかった。これには、鳥類蝶類、トンボ類、ハチ類、バッタ類、クモ類、大小の哺乳類動物が含まれている。

すべての生物種が同じ減少傾向を示しているわけではない。オオカミなど、放射線が生息個体密度に影響をおよぼしていない種も多い。いくつかの鳥類種の場合、地域の放射線レベルが高いほど、個体数が多いようである。どちらの場合でも、数値の高さは、高レベル放射能汚染地域において、競合種や捕食者が少ないという事実を反映しているのかもしれない。

さらにまた、チェルノブイリ立入禁止地帯の広大な地域が、現在の汚染度合いがひどいわけではなく、多くの種にとって、逃げ場になっているようである。2015年に公表された1本の報告が、イノシシやエルクといった狩猟動物がチェルノブイリの生態系のなかで繁栄している様子を描写していた。だが、チェルノブイリとフクシマにおける放射線の影響に関する記録のほぼすべてが、放射線に被曝した生物個体が深刻なを受けていることを認めている。

例外はあるかもしれない。たとえば、抗酸化物質という薬物は、電離放射線による、DNA、蛋白質、脂質の損傷を防ぐことができる。個体が体内で利用できる抗酸化物質のレベルが、放射線による損傷を減らすうえで、重要な役割を担っているのかもしれない。いくつかの鳥類が、体内の抗酸化物質の使いかたを変えることによって、放射線に適応している可能性を示す証拠がある。

フクシマにおける類似性

われわれは最近、われわれのチェルノブイリ調査の妥当性を試験するために、日本のフクシマで同様な調査を実施した。フクシマにおける電源喪失と核反応炉3基のメルトダウンの結果、チェルノブイリ核惨事の分の10分の1量の放射性物質が放出された。

一部のは他の種に比べて放射線感受性が高いものの、全般的に見て、鳥類の個体数と多様性に同じような減少傾向が認められた。また、蝶類など、一部の虫類に個体数の減少が認められたが、これは複数の世代にわたる有害な突然変異の蓄積を反映しているのかもしれない。

われわれのフクシマにおける最新研究は、動物が受けた放射線量を解析するのに、より先端性が進んだ手法を用いた利点を活かしている。われわれの最新論文の場合、放射線生態学者たちとチームを組んで、約7,000羽の鳥が受けた線量を再現した。われわれが認めたチェルノブイリとフクシマの類似性は、われわれが両地で観察した影響の根っこにある原因が放射線であることを示す有力な証拠になる。

現地調査VS理論モデル

放射線規制行政界にかかわる面々の一部は、核事故が野生生物を傷つけてきた様相を認めるのに、遅きに失しっている感がある。たとえば、国連主催のチェルノブイリ・フォーラムは、立入禁止地帯において、人間活動の不在によって、事故が生息生物にプラスの影響を与えたという考えを煽り立てた。

国連の原子放射線の影響に関する科学委員会の最近の報告は、福島県土における動植物がこうむる影響は最小限に留まると予測している。残念なことに、これら公式アセスメントは、これらの領域に生息している動植物の直接な現地観察ではなく、理論モデルに大きく則っている。

われわれの調査にもとづき、また他の人たちの研究にもとづき、自然のありとあらゆるストレスにさらされて生きている動物が、今まで信じられてきたよりも、放射線の作用に対する感受性がはるかに高いことは、今では周知になっている。

野生生物を用いて、「自然」環境における放射線の影響を記録することをわれわれが重要視することによって、多くの発見が得られたのであり、これらの知見は、われわれが今後の核事故核のテロ行為に備えるさいに有益になるだろう。われわれが、人間のためだけではなく、この惑星上のあらゆる生物を支えている、生命有機体と生態系の役割を守るために環境を保全するとすれば、この情報は間違いなく必要である。

目下、世界各地で400基あまりの核反応炉が稼働しており、65基の新規反応炉が建造中、さらに165基が発注済み、または計画されている。稼働中の核発電所はすべて、今後の数千年間は保管する必要がある大量の核廃棄物を発生させている。

このことに鑑み、また将来の事故や核のテロの可能性に鑑み、将来の事故の影響を緩和するためにも、証拠にもとづくリスク評価とエネルギー政策方針を策定するためにも、これら環境中の汚染物質の影響について、科学者たちができるかぎり多く学ぶことが重要である。




Timothy A. Mousseau
The Conversationティモシー・A・ムソーは、サウスカロライナ大学生物学部の教授。

本稿原文の初出稿は、The Conversationサイト、このリンク先記事

【クレジット】

The Ecologist, “At Chernobyl and Fukushima, radioactivity has seriously harmed wildlife,” by Timothy A. Mousseau, posted on 27th April 2016 at;

【チェルノブイリ30周年シリーズ】

2016427日水曜日


2016425日月曜日


【フクシマ5周年シリーズ】

Twiiterハッシュタグ「#フクシマ5周年」ウェブページを参照のこと。



2016年4月27日水曜日

#チェルノブイリ30周年☢フェアーウィンズ「チェルノブイリの忘れられた人びと」






核の神話を剥ぐ:チェルノブイリの忘れられた人びと~原子メルトダウンの犠牲者

2016426

キッチンで搾りたての牛乳のビンを示すヴィクトリア・ヴェトロフさん。
Photo Credit: Associated Press

キャロライン・フィリップス(日程管理担当)
Caroline Phillips, Program Administrator

ウクライナのチェルノブイリ核発電所の原子メルトダウンから30年たった今も、世界の諸国政府機関は、これほどの規模の放射能放出にどのように対処すればいいのか、あるいは公僕の奉仕対象である国民を防護する方策について理解することにおいて、70年前に広島と長崎に原爆が投下された時代に比べて進歩していない。わたしたちは毎日のように、東京電力が日本政府の指示に乗っかって、現在も進行している福島第一核発電所災害を封じ込めるために、(凍結壁を建造するなど…本当に?)無駄な企てを実行するといった暗黒コメディを見せられて、この進歩のなさを思い知らされている。それなのに、日本政府は安倍晋三首相の主導のもと、少なくとも160,000人の人びとに自宅退去を余儀なくさせた三重炉心メルトダウン以来、停止していた原子炉すべての再稼働をねらって、執拗に働きかけてもいる。安倍政権は、世界中の政府が原子力の惨禍とその結果である放射能フォールアウトから国民を守りそこねているありさまを例証している。

福島第一の原子力破局的惨事はチェルノブイリで起こった事態より遥かに悪質であるという妥当な見解が論じられている。フェアーウィンズの主任工学者、アーニー・ガンダーセンは周知のとおり、フクシマを“Chernobylon steroids”(チェルノブイリのステロイド増強版)と表現した。それでもなお、わたしたちが福島県内で展開している悪夢を直に目撃している今、世界が今後30年間に予測できる事態とそれに対処する準備について、チェルノブイリは直近の実例になっている。

主流メディアは、チェルノブイリ立入禁止地帯を、エルク、オオカミ、クマ、オオヤマネコが栄える「ヒトのいない」野生オアシスと描写することを新しいトレンドにしている。この牧歌的な生物多様性ファンタジーが、PBS’ “RadioactiveWolves” (全米ネット公共放送『放射能オオカミ』)やThe History Channel’s “Life AfterPeople”(歴史チャンネル『人類絶滅後の生命界』)などのドキュメンタリー番組で延々と繰り返されている。こうした描写は、人間の影響がなければ、より急速に自然界が栄えるという点では間違っていないが、放射線が生物種それぞれの長期的な発展と多様性にもたらす現実の影響を途方もなく過小評価している。

写真出処:ティム・ムソー博士提供

コロンビア市はサウスカロライナ大学生物学部、ティム・ムソー教授は、チェルノブイリ、そして今では福島第一の周辺地域における生物多様性に関する長期間調査を実施する研究チームを主導している。ムソー博士は、狼、野生馬など、チェルノブイリで繁栄する大型動物に大袈裟に陶酔し、挙句の果てに賛美する風潮(例:PHYS.org, Chernobylzone turns into testbed for Nature's rebound:「チェルノブイリ・ゾーンが自然再生の試験区に」)について、次のように説明する――

「一帯を柵で囲めば、明らかに一部の動物種が勢力を拡大するが、そのように見えているだけであり、生息数が本来のそれと同様に増えているわけでも、正常の場合と同様に生物多様性が保たれているわけでもない」

ムソー博士はさらに、学界と研究者たちのニュースと見解を公開する場を提供する独立メディア、The Conversationサイトに掲載された最近の記事(AtChernobyl and Fukushima, radioactivity has seriously harmed wildlife:「チェルノブイリとフクシマで、放射能が野生生物の深刻な害に」)で、彼の野外研究チームの「野生生物に対する放射線の作用」に関する仮説と最近の知見について、次のように説明している――

「われわれの仮説によれば、DNA修復能力は種ごとに異なっており、この違いがDNA置換率およびチェルノブイリ由来の放射能に対する感受性に影響している……チェルノブイリにおいて、われわれが調査した主要動物集団の個体数は、地域の放射能レベルが高くなるほど、少なくなっている。このことは、鳥類、蝶類、トンボ類、ハエ類、ハチ類、バッタ類、クモ類、そして大小の哺乳動物で言えている」

科学誌に掲載され、研究の行き届いた査読済み論文や、それぞれの分野で指導的な科学者たちが執筆した報告を深く掘り下げ、徹底的に調べると、慢性放射線被曝が生物種と生態にもたらす作用について、重要な証拠を見つけることができる。悲しいかな、このレベルの専門性と科学的権威は、一般的なメディアが引用する夥しい数の論文の標準になっていない。チェルノブイリにおける放射性物質の大気中放出量は1945年に広島に投下された原爆の400倍に達すると見積もる、核推進派の国際原子力機関の報告28058918.pdf)すら、なかなか報道されない。

チェルノブイリとその周辺地域は、ウクライナの首都、キエフから約100キロ、ウクライナとベラルーシの国境から、ほんの20キロのところに位置しており、核の放射能によって完膚なきまでに汚染される前は、ざっと120,000人の人びとの居住地だった。原子のメルトダウンのあと、最も酷く被災した地域は4つのゾーンに線引きされた。ゾーン1ないし3は、避難命令区域や希望者の移住が許可される区域に指定された。破壊された反応炉から50キロしか離れていないザリシャニーの村など、ゾーン4は、移住するほど汚染されているとは考えられていないが、住民に医療助成資格が認められる区域である。

AP通信の記事"Peopleare still eating food contaminated by Chernobyl"(住民は今でもチェルノブイリ事故で汚染された食品を食べている)は勇敢にも、狼の群の繁栄といった一般受けするチェルノブイリ話から離れて、余人のあまり踏みこまない道を選び、ザリシャニーの子どもたちと母親たちが日ごとに向き合っている、心痛む環境に焦点を絞っている。絶望的な経済の落ち込みに苦しむウクライナの現況を背景に、ゾーン4の住民に政府が約束した不可欠な医療助成金は打ち切られてしまった。AP通信の報道によれば、ウクライナ政府はゾーン4に住む子どもたちに学校給食を提供しなくなった。教師のナタリア・ステパンチュクさんは、次のように語った――

「子どもたちにとっと、放射線検査を受けた温かい給食だけがクリーンな食品なのです。子どもたちは今、まったく統制されていない地場産の食品に頼っています」

4人いるヴェトロワさんの子どもたちのうちの2人。Photo Credit: AP

ウクライナの農業放射線学研究所によれば、ゾーン4における最近の検査の結果、ナッツ類、ベリー類、キノコ類など、野生食品のほうしゃのうレベルが、安全とされる基準の2倍から5倍の高さであると判明している。だからといって、ザリシャニーのお腹をすかした子どもたちが食べるのを思いとどまるものではない。

AP通信は、次のように伝える――

9歳の女の子、オレーシャ・ペトロワさんの母親は癌を患っており、働くことができない。オレーシャはお腹をすかして、森に分け入って、ベリー、その他の美味いものを探すことのできる温暖な天候の到来を持ち望んでいる」

悲しいことに、幼いオリーシャちゃんの物語は珍しいものではない。4児の母親、ヴィクトリア・ヴェトロワさんは、周辺の汚染された野原で草を食んでいる一家の牛のミルクを子どもたちに飲ませている。ヴェトロワさんは、台所でミルクをグラスに注いでから、次のようにいった――

「わたしたちは危険に気づいていますが、どうすればよいのでしょう? 生きるために、他に方法はないのです」

ヴェトロワさんの8歳になる息子さんは甲状腺が肥大しており、これは人工放射能に直接関連した病態である。

年に一回の放射性元素検査を受ける10歳のオクサナさん。Photo Credit: AP

飢えと甲状腺の病気だけが、ゾーン4の子どもたちを脅かしているのではない。ユーリ・バンダジェフスキー博士はベラルーシの著名な小児科医であり、小線量放射線が人体におよぼす作用に関する博士の研究は広く諸外国で引用されている。バンダジェフスキー博士は、心臓血管系の不具合や癌の原因になりかねない「非常に深刻な病理過程がある」という。バンダジェフスキー博士は、APに求められたコメントで、「わたしは遺憾ながら、これについて、だれも気にかけておらず、このお腹をすかせた子どもたちは、当局者たちがこうした領域で被災している住民を処遇している実態のさらなる証明になる」と思いを打ち明けた。バンダジェフスキー博士は、その研究のせいで、ベラルーシで4年間の勾留をこうむった。彼はいま、ウクライナに住んでいる。

各国政府機関は、国民の安全衛生防護を仕事にしているはずだが、核兵器撤廃の問題となれば、合意にいたっていない。ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、米ロ両国の核兵器プログラムで発生した、それぞれ34トンの余剰プルトニウムを処分する合意に関して、米国のバラク・オバマ大統領に同意しなかった(Bad science:Russian objections to US plutonium proposal not a reason to keep MOX:「悪質な科学~米国のプルトニウム提案にロシアが反対しても、MOX維持の理由にならない」)。オバマ大統領は、希釈処理を施したうえ、地層保管場に埋設する案を推していた(適地はまだ見つかっていない…だが、この話は別の当欄記事に譲る)。プーチン大統領はこの提案に反対した。ロシアの広報官は、「唯一の方策は、アイソトープ構成を変えることによって、プルトニウムを核兵器に使えない物質に不可逆的に転換することである。いかなる化学的手法も可逆的である」と主張して、プーチン大統領の姿勢を明確にした。サウスカロライナ州選出、リンゼー・グラム、ティム・スコット両上院議員は、ロシアの提案が、核兵器解体の残り物を安全に使うことができると言われている発電方式であるMOX反応炉を後押しするものだと解釈して、ロシアのプルトニウム処分法に喝采の声をあげた。

憂慮する科学者同盟の加盟員、エドウィン・ライマン博士と、プリンストン大学ウッドロウ・ウィルソン記念公共・国際状況学部教授団の一員であり、同大学のエネルギー・環境研究センターと提携しているフランク・フォン=ヒッペル博士は、プルトニウム「処分」に向けたロシアの手法と、リンゼー・グラム、ティム・スコット両上院議員がロシアの主張をMOX反応炉の理由付けに使おうとする熱心な動きを拒否して、この覚え書きで、次のように述べている――

「ロシアの処分手法、同国のBN800プルトニウム増殖反応炉における放射線照射によって生成されるプルトニウムは、兵器品質の製品ではないかもしれないが、兵器使用が可能であるので、この立場には、技術的利点がほとんどない。さらにまた、ロシアは米国と違って、放射線照射されたBN800燃料のプルトニウムと、BN800炉心の周りのプルトニウム増殖ブランケットで生成される兵器品質プルトニウムを分離する意向なので、ここでもまた非国家集団による流用の余地が生じることになる」

忘れてはいけないが、チェルノブイリでメルトダウンが起こった1986年、ウクライナはソ連の一部だった。そして、米国が初の商業用原子炉のメルトダウンにみまわれ、スリーマイル・アイランドの間違いなく最大規模の原子炉メルトダウンを被ったのは、チェルノブイリのメルトダウンに先立つこと、ほんの7年前のことだった。余剰プルトニウムを処分する企ては世界屈指に強力な二国の指導者たちの口論の種になったが、米国とロシアの両国が原子力の混迷の可能性に密接に慣れ親しんでいる様相と、これら両国が国民を大量放射線被曝から守るべきときに、国民を裏切った実態を忘れないでいることが、わたしたち全員にとって、知恵というものである。


フェアーウィンズのわたしたちはムソー博士のおかげで、放射線が野生生物と生物多様性の健全性におよぼす影響に関して、(ムソー博士を含む)専門家たちによる科学論文のリンク集をここに提示する――

白内障

チェルノブイリの鳥類における白内障頻度の上昇

チェルノブイリの野生哺乳類個体群における白内障頻度上昇の適応コストと蓄積放射線量

主要と生育異常

チェルノブイリ周辺の野生鳥類における高頻度の色素欠乏症と腫瘍

チェルノブイリのツバメにおける色素欠乏症と表現形

チェルノブイリのツバメにおける異常頻度上昇

脳のサイズ

チェルノブイリの鳥類は脳が小さくなっている

生殖能力に対する影響

チェルノブイリの鳥類における無精子症、精子の質と放射線

ツバメにおける血漿の酸化状態による精子の遊泳行動に対する放射線の作用

ツバメにおける精子の遊泳行動障害と形態

【クレジット】

Fairewinds Energy education, “Demystifying Nuclear Power: Chernobyl's Forgotten People/Casualties of Atomic Meltdown,” by Caroline Phillips, posted on April 26, 2016 at http://www.fairewinds.org/nuclear-energy-education//s3g1bv97a8shwbzifm03cwf1bcevvx.