なぜ核廃棄物が心配なのだ?
将来の世代がなにかやってくれたのか?
アンドリュー・ブロワーズ Andrew
Blowers
2016年11月16日
凡例:(原注)、[訳注]
アンドリュー・ブロワーズは、核廃棄物の取り扱い方法に関する長期的な問題は、なにひとつ解決していないと書く。それなのに、諸国政府と核産業は深層地下処分場に「埋めて忘れる」政策を、とうてい是認できないのに売り物にしており、これでは現代の核エネルギーおよび核兵器の有毒遺産の重荷を測りしれない将来の世代に押しつけるだけである。
「坊や、これ全部、やがて君のものだ!」。
Cartoon: Katauskes via Greens MPs on
Flickr (CC BY-NC-ND).
核エネルギーの将来について、近年のあらゆる論争のなかで、ひとつの問題、それもおそらく一番重要な問題がはなはだしく無視されている。
それでも、核活動の結果、日没になれば夜になるのと同じぐらい確実に残る廃棄物と汚染に対処する問題は、眉唾ものの恩恵を受ける世代を悩ませるだけでなく、遥かな予見不可能な将来の世代にも、労苦、リスク、コストといった重荷を押しつけることになる。
すでに核施設が立地する地域は、新規の核開発の受け入れ地にされる可能性が最も高いので、不平等なことだが、その重荷はそうした地域社会に押しつけられることになる。
この問題を無視する主な理由はふたつある。第一に、今日の世界において、短期的利害、すなわち現時点およびわたしたちの子どもたちや孫たちといった予見可能な将来の安全保障と雇用が重要視されている。
その先の将来の環境や社会については、想像不可能になり、だから、核の遺産を引き継ぐことになる世代の利害について、不条理・傲慢に度外視しても許されることになり、さらには正常とされてしまう。
最悪の場合、将来の要求は(「われわれのために将来の世代が何かやってくれたのか?」とばかり)現在の要求に比べて二の次になり、せいぜいのところ、たぶんちょっと手助けすれば、将来の世代は自分たちでなんとかするさ、といった思い込みを暗黙の了解にしてしまう。
とはいっても、将来を思いやる必要が全面的に無視されているというわけではない。じっさい、核産業の場合、いつも決まって「維持可能な開発」という謳い文句が表明されている。たとえば、国際原子力機関(IAEA)は次のように簡潔に宣言している――「放射線廃棄物は将来の世代に不当な負担をかけない方法で管理されるものとする」(IAEA報告1995年版、原則5)。
したがって、地層埋設処分が、「相当量の放射能が地表環境に達することがないことを確実にするように、廃棄物を適切な岩石層の内部に隔離する」(Defra[英国・環境食糧農林省]報告2007年版、p.15)至上命題、科学的解決策になった。
最善をつくせば、なんとかなる
埋却して忘却すれば、万事良好とする、この考えかたが、新規開発論争で廃棄物問題が置き去りにされる第二の理由である。
英国政府は、「新規核発電所で発生する廃棄物の管理と廃棄処分については、有効な方針が見つかるだろう」(DECC[エネルギー・気候変動省]報告2011年版、p.15)などと詭弁をもてあそび、口先だけの断定でペラペラと片付けている。
この公的見解は言語道断であり、というのも、科学的に立証された安全な事例は存在しないし、イングランド、ウェールズ、北アイルランドのどこにも(スコットランドは政策の対象外)、主張を支え、適切で期待にそう受け入れ地がまだ見つかっていないのだ。地下研究施設の有望地として(セラフィールド複合核施設が立地する)カンブリア州西部地方が選ばれたが、1997年に拒絶され、その一世代後に自発的な誘致活動が活発になり、その後、衰退したが、その結果、政府が再検討に乗り出し、誘致グループを再編することになった。
別の場所では恒久的な解決に向けて前進していると主張する向きもおられるかもしれない。フィンランドとスウェーデンでは、廃棄処分構想が合意され、適地が見つかり、建設が完工間近である。だが、廃棄物の量が少なく、在庫目録が一目瞭然、政治状況が好意的、バルト諸国の地勢はほどよく均質である。
また別の場所、フランスでは、同国東部のビュール・サイト[ムーズ・オート=マルヌ地層研究所]が地下研究の中核施設であり、やがて国営の埋設処分場になるのかもしれない。そして米国では、ニューメキシコ州カールズバッドでWIPP[核廃棄物隔離試験施設]が軍部の超ウラン元素廃棄物の処分場として1999年に開設された。しかし、岩塩層の浸透流の問題があり、2014年以来、暫定的に閉鎖されている。
米国では、ユッカ・マウンテン放射性廃棄物処分場を仕上げる計画が数十年にわたり繰り返し企てられていたが、失敗に終わった。それにドイツでは、ゴルレーベン施設に対する抵抗運動が和解しがたく熾烈であり、適地選定手続きが継続されているものの、代替地選別にまで至っていない。
こうした経緯は同じ問題を抱えている他の多くの国ぐにのどこでも定型になっており、本気でも仕方なしにでも、解決策を追求しても、科学的に疑問、社会的に不本意、政治的に先送りといったありさまで、前進するにしても手強い障壁が立ち塞がっている。結局、疑念が解消されず、好ましい解決策が、因習にとらわれた政治の時間スケールでは間に合わず、果てしなく先送りされるとすれば、急いだとて、どうなるのだろう?
転地療法?
最も危険で長寿命の高レベル放射性廃棄物と使用済み燃料を受け入れる廃棄処分場は、まだどこにもない。廃棄処分計画は、前進からほど遠く遅れており、飽き飽きするほど面倒、成功も見込めないことが、どこでも変わりなく露見してしまっている。
おまけに、遠未来の環境・社会・経済状態は、断じて確認できない。確かなこととして、知識の現状は、過去と現在の核活動の結果として存在することになる遺産に加えて、さらに廃棄物を生じさせる根拠にならない。
問題の長期的な最終解決として、現在、地層埋設処分が強調されているが、これは転地療法の類いであり、予見しうる将来(次の2世代)までのあいだ、真の解決策から注意を逸らしておくためのもの。課題であり、優先事項であるものは、今ここにある既存の核の遺産を安全・確実に管理することなのだ。この遺産は現存し、増えつづけている。
これはもちろん、建屋、貯留槽、保管区域、汚染地、汚染水、排出、放出で構成される物理・環境問題である。だが、これは同時に、世界最高レベルに汚染されて危険な区域のいくつかに近接して人びとが生きている地域社会のなかに遺産が存在するので社会問題でもある。
これら核の地域社会のうち最重要4事例が、わたしの最新著作“The Legacy of Nuclear Power”(Blowers, 2017)[核の力の遺産]で探求されている。
周辺地域
米国、ハンフォード。アメリカの北西部に位置するハンフォードは、1945年8月9日、ナガサキを壊滅した核兵器「ファットマン」に使ったプルトニウムの生産地に選ばれた。
その後の冷戦期、ハンフォードにおける核活動が拡大され、コロンビア川の土手に核反応炉が並び、広大な敷地の中心に再処理「渓谷施設」が置かれ、その周縁に多種多様な製造・実験施設が散在した。
ハンフォードにおける生産は終わったが、高レベル放射性廃液およびスラッジを保管するタンク群の一部からコロンビア川に向かって漏れ、その他にも、捨て置かれた核反応炉や解体された再処理事業所のなかに、敷地周辺に散在する廃棄物管理施設群や除染事業所のなかに膨大な核の遺産が遺されている。
この遺産を浄化する事業は、長期にわたり、金もかかり(年間連邦予算20億ドル[2216億円/11月19日])、厄介で複雑な仕事だが、逃げるわけにもいかない。
英国、セラフィールド。ハンフォードと同様、セラフィールドの核の遺産は、英国の軍事核プログラムの発足時に遡ることができる。
その手狭な敷地に、英国の核の遺産から放射性物質全量の3分の1内外、国内の高レベル廃棄物の全量、使用済み燃料の大部分、140トン内外のプルトニウムの備蓄、他にも、複雑な流れに乗った廃棄物が詰めこまれている。
燃料、漏出物、その他の高レベル放射性デブリの記録に残されていないことが多い混合物が悪名高い保管槽やサイロに投入され、下院・公共会計委員会のマーガレット・ホッジ前委員長のことばを借用すれば、「我慢ならないリスク」を公衆と環境にもたらしている。
この遺産の浄化事業は、今後数十年かかり、年間17億ポンド[2325億円/同]内外を政府から巻き上げる仕事である。
フランス、ラ・アーグおよびビュール。フランスの電力の4分の3が核によるものであり、ノルマンディーはコタンタン半島の突端に立地するラ・アーグ再処理施設群の周辺に遺産の多くが集中している。
この遠隔地で使用済み燃料が再処理されて、混合酸化物(MOX)燃料としてリサイクルされるか、ガラス固化されて、廃棄処分を待って暫定保管される。
深層埋設処分を受け入れてくれる適地を見つける企てに何回か失敗したあと、フランス東部にある核の無人地帯、ビュールで地下研究施設が人目を避けながら着実に開発されているものの、本格的な埋設処分施設の完成はまだ遠い先の話である。
ドイツ、ゴルレーベン。他にも対照的な場所があり、ドイツのゴルレーベンもそのひとつであって、地域社会の住民側の断固たる持続的な抵抗運動が圧倒し、核産業の押しつけ施設と危険で望まれない遺産の持ち込みを阻止し、あるいは少なくとも抑止した。
それにしても、ゴルレーベンの伝説的なアイデンティティ防衛は、核産業が緑したたる更地に手を伸ばし、植民地にするのがいかに難しいか、顕にしている。
その他の場所。ロシアの長期にわたる閉鎖都市、オジョロスクには、マヤーク・プルトニウム供給施設があって、これは1957年の大事故[ウラル核惨事]の現場であり(Medvedev,1979)、軍事用再処理事業と廃棄物施設群に由来する河川や湖沼の高レベル汚染を遺産として遺している(Brown, 2013)。
また他にも、核の遺産が地域社会に、リスクや破滅、環境劣悪化をもたらしている場所は、世界各地に数多くある。
何もしてはならない――そのまま置いておくこと
核の遺産は現存し、「周縁部」と定義される場所(Blowers and Leroy, 1994)、有害な事業が実施され、これまでと変わらず、中央部から区別された場所に存続するだろう、
そうした場所が環境にリスクを抱えるのは当然だが、地理的にも遠隔地である。多かれ少なかれ、経済的な辺境であり、単一栽培で依存的、したがって政治的に無力である。これらの地域社会の多く、とりわけ主だった核複合施設を抱える地域は、現実主義や回復力と相まった忍従という顕著な社会的性格を示している。
基本的な課題は単純であり、核の遺産の管理を既存の場所で長期にわたって維持し、改善することと認識すれば、方針の主眼は次の重要な5項目に向け直されることになる――
1. 遺産管理は長期にわたり将来世代に受け継がれる事業になることが強調される。
2. これはすなわち、現実がどうであれ、保管が長期的な課題であり、暫定的な解消策ではないと認識することになる。
3. その結果、代わりの長期的解決策の探求を大いに奨励することになり、力点を現在の地下深層処分にこだわることから移すことになる。
4. 方針決定の事情が将来世代に受け継がれることになるので、「継続している現在」という理念に実用的な目的が付与される。
5. 長い期間、気候と社会の変動とその意味合い、そして地域社会に潜在的におよぶ影響に注意が集中される。
管理が長期間にわたる時間のスケールを考えて、廃棄処分による解決を急ぐ必要はない。深層処分は、もちろん選択肢に残るが、唯一のものではない。構想内容を実証し、適地を見つけるのに時間がかかり、急ぐべきではない。
なにはさておき、深層処分を解決策として掲げて、埋設処分施設の新規建設を正当化してはならない。既存の核の遺産を管理するのは困難であることがすでにわかっている。建設してしまえば、時間スケールと廃棄物の内容が不確実になり、遺産の管理が不可能になる。
社会は核の遺産に対処するのに時間をかけることができるし、そうすべきである。核産業の今後の浮沈がどうなるにしても、その遺産とそれを管理する社会は、今後の数千世代にわたって人間とともにあるだろう。
【著者】
Andrew
Blowers
アンドリュー・ブロワーズはオープン大学*社会学部の名誉教授
*[訳注]英国の放送とインターネットを使った通信制大学。日本の放送大学はこれに倣う。
【参照文献】
Blowers, A. (2017) The Legacy of
Nuclear Power, London, Earthscan Routledge
Brown, K. (2013) Plutopia: Nuclear
Families, Atomic Cities, and the Great Soviet and American Nuclear Disasters,
Oxford, Oxford University Press.
Department of Energy and Climate Change
(DECC)(2011) National Policy statement for Nuclear Power Generation
(EN-6), Vol.II - Annexes, June.
Department for Environment, Food and Rural
Affairs (Defra) and devolved administrations (2007) Managing
Radioactive Waste safely, A Framework for Implementing Geological Disposal,
public consultation, 25 June.
International Atomic Energy Agency
(IAEA)(1995) The Principles of Radioactive Waste Management, Safety
Series No. 111-F, IAEA, Vienna.
Medvedev, Z. (1979) Nuclear Disaster
in the Urals, Angus and Robertson, London.
表1.使用済み燃料および高レベル廃棄物の長期管理の国別進捗状況
ヨーロッパ
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国
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方針
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進捗状況
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フィンランド
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使用済み燃料直接処分
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オルキオトにて処分施設開発
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スウェーデン
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使用済み燃料直接処分
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エストハンマルを処分場適地に選定
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フランス
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再処理/保管/処分
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ビュールにてシジウ地下処分場事業
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英国
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再処理/保管/直接処分
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カンブリア西部で進展がなく適地選定手続きを見直し
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ドイツ
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使用済み燃料/外国で再処理・廃棄物引取/直接処分
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適地選定手続きを考慮中
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スペイン
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使用済み燃料保管
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中央保管地選定済み(クエンカ)/処分方法調査
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ベルギー
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再処理(打ち切り)/使用済み燃料/保管/処分
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粘土層埋設処分を研究
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オランド
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長期保管
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集中保管
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スイス
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使用済み燃料保管/処分
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集中保管/地下岩石層研究所/粘土層埋設処分を研究
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チェコ共和国
|
使用済み燃料/保管/処分
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候補地の地学調査
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スロヴァキア
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敷地内保管
|
適地選定中
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ハンガリー
|
敷地内保管
|
処分方法研究
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ブルガリア
|
敷地内保管/ロシアへ搬送
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保管場所の予備的考察
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ルーマニア
|
敷地内保管
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保管場所の予備調査
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ロシア
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再処理/海外から廃棄物返還/保管
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再処理(オゼルスク)/集中保管(クラスノヤルスクおよび反応炉敷地/地下研究
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ウクライナ
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敷地内保管/ロシアへ搬出
|
保管場の予備調査
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アジア
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日本
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敷地内保管/再処理(遅れがち)
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六ケ所村で再処理(遅れがち)/保管場適地を選定中
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韓国
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敷地内保管/集中保管
|
適地選定を考慮中
|
中国
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反応炉敷地内保管/集中保管/再処理を計画
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集中保管および処分場開発(甘粛省)
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インド
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敷地内保管
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処分方法研究
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台湾
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敷地内保管
|
処分を考慮中
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北米
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カナダ
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敷地内保管/直接処分
|
処分場適地選定が進展
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米国
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使用済み燃料を敷地内保管/国防用核施設群の浄化/廃棄処分
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ユッカ・マウンテン処分場の推進に失敗し、適地選定を模索/WIPP(カールスバッド)にて国防用核施設廃棄物を埋設処分
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表1注釈
1. この表は、使用済み燃料および再処理で生じる高レベル廃棄物(HLW)に関して、2016年現在における23か国の基本方針を示す。
2. 核開発諸国の大半は長期保管方法として地下深層埋設処分を選んでいるが、進捗状況はまちまちである。
3. 低レベル廃棄物処分施設は核開発諸国のすべてで稼働している。
【クレジット】
The Ecologist, “Why worry about nuclear waste? What has the future
ever done for us?” by Andrew Blowers, posted on 16th November 2016 at;