以下、本文ですが、テキストは大瀧研究室による日本語訳文PDFから転載させていただきました。表および図は、投稿者が英語原文版データを日本語訳したものです。
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Ingestion of
Radioactively Contaminated Diets for Two Generations in the Pale Grass Blue
Butterfly
ヤマトシジミにおける二世代にわたる放射能汚染食物の摂取
[最新論文(第5報)] 内部被曝による影響をさらに掘り下げた論文
本研究では、小型の蝶ヤマトシジミへの汚染食草の影響を詳しく調べた。食草は、東北2地域(本宮市:161Bq/kg、郡山市:117Bq/kg)、関東2地域(柏市:47.6Bq/kg、武蔵野市:6.4Bq/kg)、東海1地域(熱海:2.5Bq/kg)、および沖縄(0.2 Bq/kg)にて採集した。第一世代への影響に加え、2世代連続で汚染食草を与えた時の影響(継代効果)についても調べた。
第一世代では、東北地域の食草を与えた群において、沖縄の食草を与えた群よりも高い死亡・異常率、前翅の矮小化がみられた。また、死亡率はセシウムの摂取量に大きく依存していた。関東および東海地域の食草を与えた群の生存率は80%を維持したが、東北地域の食草を与えた群でははるかに低い値となった。第二世代では、東北地域の食草を与えた群の生存率は20%を下回ったが、沖縄の食草を与えた群では70%を超えた。第二世代における生存率は、第一世代の摂取した放射線量に依存するものではなく、第二世代の摂取した食草に依存していることを示している。さらに、第二世代でも前翅の矮小化がみられ、これは2世代を通じたセシウムの累積摂取線量と相関があった。このことから、第一世代の摂取した食草もまた、第二世代へ影響を与えることを示唆している。
汚染食草由来の放射線による生物学的影響は、放射性物質の摂取量が少量の場合でも検出され得る。影響は継代的だが、非汚染食草の摂取により回復することも可能であった。このことから、観察された影響のうち少なくとも一部は、非遺伝的な生理的変化に起因することを示唆している。
Chiyo Nohara1, Wataru Taira1, Atsuki Hiyama1, Akira Tanahara2, Toshihiro Takatsuji3 and Joji M Otaki1*
野原千代1、平良渉1、檜山充樹1、棚原朗2、高辻俊宏3、大瀧丈二1
1 琉球大学理学部海洋自然科学科生物系 BCPM 分子生理学研究室、沖縄県
2 琉球大学機器分析支援センター、沖縄県
3 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科、長崎県
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BMC Evolutionary Biology 2014, 14:193 doi:10.1186/s12862-014-0193-0
受理:2014年5月23日 / 承認:8月19日 / 刊行:9月23日
© 2014 Nohara et al.; licensee BioMed Central Ltd.
本論文は、クリエイティブ·コモンズ表示ライセンス*1に定める条件にもとづくオープン・アクセス記事であり、原文クレジット表示が適正になされる条件において、いかなる媒体においても無制限の使用、配布、複製が許される。クリエイティブ・コモンズ・パブリック・ドメイン権利放棄*2は、特記のない限り、本稿のいかなるデータにも適用される。
要約
背景
福島原子力発電所事故による放射性物質の放出は、放射能汚染食草※の摂取による生物学的影響に対する懸念をもたらした。我々はこれまでに、汚染地域にて採集した汚染食草を、日本において最も汚染度合いの低い地域である沖縄のヤマトシジミ(Zizeeria maha)の幼虫に与えるという、内部被曝実験を行った。本研究では、同じ実験系を用いて、このチョウへの低レベル汚染食草の影響をさらに調べた。食草は、東北の 2 地域(本宮市(161 Bq/kg)および郡山市(117 Bq/kg))、関東の 2 地域(柏市(47.6 Bq/kg)および武蔵野市(6.4 Bq/kg))、東海の 1 地域(熱海市(2.5 Bq/kg))、および沖縄県(0.2 Bq/kg)にて採集された。第一世代への影響に加え、次世代への汚染食草の影響として考えられる継代効果についても調べた。
結果
第一世代では、東北地域の食草を与えたグループにおいて、沖縄の食草を与えたグループに比べ、より高い死亡率および異常率、また前翅の縮小が見られた。死亡率は、セシウムの摂取量に大きく依存していた。関東および東海地域の食草を与えたグループの生存率は 80%を超えたが、東北地域の食草を与えたグループの生存率は、はるかに低かった。第二世代では、東北地域の食草を与えたグループの生存率は 20%を下回ったのに対し、沖縄の食草を与えたグループでは 70%を超えた。第二世代における生存率は、第一世代の摂取した食草の採集地域に依存するものではなく、第二世代の生存を決める要因が、第二世代の摂取した食草にあることを示唆している。さらに第二世代では、東北地域の食草を与えたグループにおいて、前翅の縮小が見られた。しかしながら、前翅長については、2 世代を通じてのセシウムの累積摂取線量と負の相関があることから、第一世代の摂取した食草もまた、第二世代の前翅長に影響を与えることを示唆している。
結論
汚染食草由来の放射線による生物学的影響は、経口摂取による少量の摂取の場合でも検出され得る。影響は継世代的だが、非汚染食草の摂取により回復することができ、これは観察された影響のうち少なくとも一部は、非遺伝的な生理学的変化に起因することを示唆している。
※ 食草:チョウの仲間は幼虫期に種ごとに決まった特定の植物を食べる。その植物を食草と呼ぶ。
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キーワード :
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福島原子力発電所事故、経口摂取、内部被曝、低線量被曝、ヤマトシジミ、放射能汚染、継代効果
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背景
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災による福島第一原子力発電所の崩壊は、 大量の放射性物質を周辺環境に放出することとなった。この大規模な環境汚染は、汚染地域に生息する生物の生活に影響を与えた。ある現地調査で、汚染地域においてチョウの数が減少していることが明らかになり[1,2]、また福島においてアブラムシの形態異常が発見されている[3]。しかしながら、事故後の生物学的影響を調査するこのような研究は依然として乏しい。
我々のグループは、環境ストレスへの反応としてのチョウの発生および進化について研究を続けてきた[4]。我々の最も扱い慣れたチョウの一種として、シジミチョウ科の小型のチョウであるヤマトシジミ、Zizeeria maha(鱗翅目シジミチョウ科)、があり、これは北海道を除く日本全国で見られる種である[4-6]。このチョウを用いた実験系を使い、我々はこれまでに、高度に汚染された地域にて採集した成虫に見られた、多様な形態異常および前翅の縮小について報告した[7-9]。これらの形態異常のうち、翅の色模様の異常を含む一部の形質は遺伝性のものであり、今回の事故によって遺伝子の損傷が引き起こされたことを示唆している[7-9]。この遺伝子損傷は主に、これらのチョウが、原発事故直後の初期に放射性物質にさらされたことで起こったものと、我々は考える[9]。現地調査で得られたこれらの結果は、チョウの幼虫および蛹を人工的なセシウム放射線源の周囲で飼育する外部被曝実験、および、汚染地域にて採集した汚染食草を幼虫に与える内部被曝実験によって、再現された[7-9]。高い死亡率および異常率が見られ[7]、食餌ストレス下のチョウに見られるような[10]、前翅(チョウの個体の大きさに相当)の縮小も観察された[7]。
これまでの研究では、食草であるカタバミ(Oxalis
corniculata)を、2011 年夏に、比較的高度に汚染された東北の 4 地域(飯舘村山間部、飯舘村平野部、福島市内、広野町)、および対照群として山口県宇部市にて採集した(図 1) [7]。そして、汚染食草を摂取した個体の蛹内の放射性セシウムの線量を数値化し、セシウムの摂取線量と、その結果生じた死亡率および異常率との数学的関係を明らかにした[11]。その結果、死亡率および異常率は、セシウム線量の低いときに、摂取線量の増加に伴って急激に上昇し、べき関数に従うことがわかった。しかし、放射性セシウム濃度の最も低い値を示したのが広野町の食草(1,452 Bq/kg)であったため、低線量放射線を摂取した場合の影響を把握するには、より汚染度の低い他地域の食草を調べてみる必要がある。
本研究にて調べた食草の採集地点は青字、これまでの研究[7-10]にて調べた食草の採集地点は黒字にて示した。福島第一原子力発電所の位置は赤字で NPP と示した。
本研究では、ヤマトシジミの食草を、比較的低い汚染度合いを示した 6 地域にて採集した:本宮市および郡山市(ともに東北地方福島県、2012 年秋に採集)、柏市および武蔵野市(それぞれ関東地方 千葉県および東京都、2012 年夏に採集)、熱海市(東海地方静岡県、2012 年夏に採集)、そして沖縄県内(日本国内で福島第一原子力発電所から最も遠く離れた地域のひとつ、2012年夏および秋に採集)である(図1;表1)。これらの食草は、標準的な飼育環境のもと、検出し得る限りでは原発事故の影響を受けていないとされる沖縄の幼虫に与えられた [12]。このようにして、様々なレベルの放射能汚染がこのチョウに与える生物学的影響を評価した。さらにこの内部被曝実験は、第一世代(F1)のみでなく第二世代(F2)に対しても行われ、継代効果の可能性についても検討した。
表 1:食草の採集地点についての詳細(採集日、原発からの距離、地面線量)
採取地
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採取日
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原発からの距離km(平均)
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地表放射線量μSv/h(平均)
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沖縄
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沖縄県西原町千原1琉球大学
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2012年7月20、30日
2012年10月2~22日
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1,760
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0.05 (2012.4.8)
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熱海
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静岡県熱海市伊豆山1164
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2012年7月25日
2012年8月4日
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311
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0.07
|
武蔵野
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東京都武蔵野市御殿山2
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2012年7月27日
2012年8月3日
2012年10月20日*1
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232
|
0.12
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柏
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千葉県柏市柏の葉6
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2012年7月23日
2012年8月7日
2012年10月5日*1
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196
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0.47
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郡山
|
福島県郡山市富田
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2012年10月4、14日
2012年11月1日
|
61
|
1.13
|
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福島県本宮市荒井
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2012年10月4、14日
2012年11月1日
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59
|
1.43
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*1 放射性セシウム濃度の測定のためのみに採集。
Nohara et al.
Nohara et al. BMC
Evolutionary Biology 2014 14:193
doi:10.1186/s12862-014-0193-0
結果
第一世代への影響
これまでの研究から、平均的な幼虫の体重は 0.035g であり、一生を通じて平均 0.388g の食草を摂取することがわかった[11]。前述の 6 地域にて採集した食草の放射性セシウム濃度を求めた後(表 2)、グループごとに幼虫の摂取した放射性セシウムの線量と死亡率・異常率を算出した(表 3)。死亡率は死亡した個体の割合、異常率は死亡個体および異常個体の割合(すなわち全体異常率)としてそれぞれ定義した。その上で、セシウムの摂取線量と死亡率の関係(線量−反応関係)を明らかにした(図 2a)。死亡率(y)は、セシウム摂取線量(x)の増加に伴い直線的に増加し、y = 0.60
(±0.21) x + 10.21 (±6.23) (R2= 0.659、df = 5、F = 7.71、p = 0.0497)の式で表される回帰モデルに当てはまる。注目すべきことに、郡山市の食草を与えたグループ(幼虫一個体当たり 40.9 mBq)の死亡率は 53%に昇った。異常率の線量−反応関係は、死亡率とほぼ同一であった(図示せず)。
表 2:食草の放射性セシウム濃度(単位:Bq/kg)
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137Cs濃度(±SE)
|
134Cs濃度(±SE)
|
137Cs+134Cs合計(±SE)
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F1
|
沖縄
|
0.12 ± 0.02
|
0.06 ± 0.02
|
0.18 ± 0.03
|
熱海
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1.48 ± 0.06
|
1.05 ± 0.06
|
2.53 ± 0.08
|
武蔵野
|
3.82 ± 0.07
|
2.56 ± 0.07
|
6.38 ± 0.10
|
柏
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28.40 ± 0.33
|
19.17 ± 0.32
|
47.57 ± 0.46
|
郡山
|
71.87 ± 0.40
|
45.34 ± 0.37
|
117.21 ± 0.54
|
本宮
|
98.19 ± 0.54
|
62.41 ± 0.49
|
160.60 ± 0.73
|
F2
|
沖縄
|
0.11 ± 0.02
|
0.06 ± 0.02
|
0.18 ± 0.03
|
郡山
|
71.73 ± 0.40
|
44.07 ± 0.36
|
115.80 ± 0.54
|
本宮
|
98.00 ± 0.53
|
60.65 ± 0.48
|
158.65 ± 0.72
|
*1 放射性セシウム濃度は、幼虫が汚染食草を与え始めた後からその後の成長に必要とされる食草の量すべてを、汚染食草摂取初日の 1 日で完食し、またセシウム 137 および 134 が 1:1 の濃度割合で、2011 年 3 月 15 日の福島第一原子力発電所の一度の爆発によって放出されたという仮定のもとに算出された。
Nohara et al.
Nohara et al. BMC
Evolutionary Biology 2014 14:193
doi:10.1186/s12862-014-0193-0
表 3:F1世代における放射性セシウムの摂取線量、死亡率および異常率
F1食草採取地
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幼生個体数
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セシウム
摂取量(mBq)
|
死亡率(%)
|
総異常率(%)
|
沖縄
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308
(夏67、秋241)
|
0.0629 ± 0.0011
|
8.05*1
|
8.25*1
|
熱海
|
55
|
0.883 ± 0.003
|
9.10
|
9.10
|
武蔵野
|
54
|
2.23 ± 0.004
|
13.0
|
13.0
|
柏
|
55
|
16.6 ± 0.02
|
16.4
|
16.4
|
郡山
|
249
|
40.9 ± 0.02
|
53.0
|
54.2
|
本宮
|
256
|
56.1 ± 0.03
|
31.2
|
32.0
|
*1 夏および冬の平均値。
Nohara et al.
Nohara et al. BMC Evolutionary Biology 2014 14:193
doi:10.1186/s12862-014-0193-0
図 2:放射性セシウム摂取線量の F1世代への影響
(a) 死亡率
(b) 相対正常率(健全性)
成虫の生存個体の形態的形質が必ずしも健常でなかったため、健全性を示すものとして、沖縄の食草を与えた対照群と比較した相対的な正常値を各グループごとに算出した(図 2b)。この計算は、まず「スタート時の幼虫の個体数」に対する「形態的に正常な(異常でない)成虫」の割合を算出し、さらにその値を沖縄の対照群における割合が 100%になるように標準化した。有意ではなかったが、予測された通り、健全性(y)の分布はセシウム摂取線量(x)に対し、y =
-0.53 (±0.24) x + 89.07 (±6.23)(R2 = 0.555、df = 5、F = 4.99、p = 0.089)の回帰式で表される負の相関を示した。本宮市の標本を外れ値として除外した場合は、回帰式は y = -1.03 (±0.17) x + 92.37 (±3.41) (R2 = 0.923、df = 4F = 35.95、p = 0.0093) となり、死亡率において得られた結果とも一致する高度に有意な線量−反応関係を示した。
各グループにおける、成虫の生存個体の前翅長を測定し、その値をセシウム摂取線量に対してグラフに表した(図 3)。摂取線量の低いグループでは前翅の長さに変動があったが、摂取線量の比較的高いグループでは雌雄ともに縮小が見られた。沖縄と郡山市のグループの間では、オス(t = 2.22、df = 137、p = 0.028、ウェルチの t 検定)並びにメス(t = 3.17、df = 98、p = 0.0020、ウェルチの t 検定)で、ともに統計的に有意な差が見られ、これは沖縄と本宮市のグループの間においても、オス(t = 3.31、df = 166、p = 0.0011、スチューデントの t 検定)並びにメス(t = 3.51、df = 155、p = 0.0006、ウェルチの t 検定)で、ともに有意差が見られた。線形回帰モデルによる解析では、オスでは統計的に有意な関係は認められなかったが、y = -0.00083 (±0.00034) x + 1.0215 (±0.0099)(R2 = 0.598、df = 5、F = 5.95、p = 0.071) の式により、セシウム摂取線量(x)と前翅の長さ(y)の関係が示せた。その一方で、メスでは、y =
-0.00076 (±0.00017) x + 1.0098 (±0.0050) (R2 = 0.827、df = 5、F = 19.14、p = 0.012) の式により、有意な関係が認められた。この雌雄の差は、単純にメスの方がより長い前翅を持つことによるものである可能性がある。
図 3:F1世代における放射性セシウム摂取線量と前翅の長さの関係
前翅長の平均値を、標準誤差を示すエラーバーとともに相対的に示した。沖縄の食草を与えたグループにおける前翅長を 1.00 とした。
(a) オスの前翅。測定の対象となった個体数は次の通りである:沖縄(n = 97)、熱海市(n = 25)、武蔵野市(n = 19)、柏市(n= 25)、郡山市(n = 84)、本宮市(n = 71)。
(b) メスの前翅。測定の対象となった個体数は次の通りである:沖縄(n = 99)、熱海市(n = 23)、武蔵野市(n = 27)、柏市(n= 21)、郡山市(n = 63)、本宮市(n = 87)。
6 地域の各グループにおいて、発達過程における生存曲線(発育段階を通じた、生存率(生存個体の割合)の変化)を示した(図 4)。この生存曲線は、生存個体の割合が、発育段階ごとにどのように変化したのかを示している。比較のため、これまでの研究[7]で調査した 5 地域の食草を与えたグループの生存曲線についても、併せて図示した。曲線の多数は概ね互いに平行であり、全体としては、それぞれの生存曲線の間には統計的な有意差が認められた(df = 11、χ2= 300、p < 0.0001、ログランク検定;df = 11、χ2= 292、p < 0.0001、ウィルコクソンの順位検定)。
本研究で調査した 6 地域の食草を与えたグループとともに、これまでの研究[7-10]で調査した 5 地域の食草を与えたグループについても併せて図示した。全ての実験群の生存曲線は、大まかに 3群に分かれた。幼虫の摂取した食草の放射性セシウム濃度を、それぞれの実験時期とともに示した。2012 年夏に調査したグループは、茶系の色に円形の記号で示した。2012 年秋に調査したグループは、紫系の色に四角の記号で示した。2011 年夏にこれまでの研究[7-10]において調査したグループは、緑系の色に三角形の記号で示した。
Nohara et al. BMC
Evolutionary Biology 2014 14:193
doi:10.1186/s12862-014-0193-0
本宮市および郡山市の食草を与えたグループにおいて、幼虫から前蛹の時期に相当量の死亡が見られた。全ての実験グループの生存曲線は、3 群に分かれた:高い生存率を示したグループ(沖縄、宇部市、熱海市、武蔵野市、柏市)、中程度の生存率を示したグループ(広野町および本宮市)、そして低い生存率を示したグループ(飯舘村山間部、郡山市、福島市、飯舘村平野部)である。この 3 群の生存曲線の間には、統計的な有意差が認められた(df = 3、χ2= 286、p < 0.0001、ログランク検定;df = 3、χ2= 276、p < 0.0001、ウィルコクソンの順位検定)。しかしながら、それぞれのグループ内での食草の放射性セシウム濃度には、大きなばらつきが見られた。グループ内におけるこのようなばらつきの原因として、異なった時期に実験が行われ、3 つの異なった遺伝系統のチョウが用いられたために、汚染食草への感受性について種内変異が表れた可能性が最も高い。従って、同時期に調査したグループ間での比較の場合のみ、同じ系統に由来した個体を用いたため、比較が可能である (方法を参照)。
成虫の生存個体において、様々な形態異常が見られた(図 5)。図 5 に示したような重度でまれな異常は、汚染食草の影響である可能性も示唆する。沖縄の食草を与えた対照群では、歪曲した翅や変形した脚といった、極めて軽度な形態異常が 3 個体に見られたのみであり、これは F1 世代における他のグループに見られた異常の深刻さとは比べものにならない。
形態的に異常な部分を赤い矢印で示した。
(a) 熱海市の食草を与えた個体に見られた、左前脚の奇形。
(b) 熱海市の食草を与えた個体に見られた、触角の不完全な羽化。
(c) 柏市の食草を与えた個体に見られた、丸まった翅。
(d) 柏市の食草を与えた個体に見られた、翅の奇形。
(e) 郡山市の食草を与えた個体に見られた、右複眼の凹み。
(f) 本宮市の食草を与えた個体に見られた、触角、口吻、および翅の異常。
Nohara et al. BMC
Evolutionary Biology 2014 14:193
doi:10.1186/s12862-014-0193-0
第二世代への影響
F2 世代の個体は、沖縄、郡山市、および本宮市の食草を与えた F1 世代において、形態的に健常な(異常でない)成虫から得られた。食草から検出された放射性セシウム濃度に基づき、セシウムの摂取線量(表 4)、並びにその結果生じた死亡率および異常率(表 5)を算出し、セシウムの摂取線量と死亡率の関係(線量−反応関係)を明らかにした。回帰モデルによる解析では、死亡率(y)は、y = 1.445 (±0.088) x + 17.04
(±3.24) (R2 = 0.982、df = 6、F = 267、p < 0.0001)の式により、F2世代のセシウム摂取線量(x)に依存するように見られたが、F1世代のセシウム摂取線量に対しては、統計的に有意な関係は認められなかった(R2 = 0.00675、df = 6、F = 0.034、p = 0.86)(図 6a、b)。
表 4:F2世代における放射性セシウムの摂取線量(幼虫の個体数、セシウム摂取線量)
F2食草採取地
|
幼虫個体数(匹)
|
セシウム摂取量(mBq)
|
沖縄
|
522
(=170 + 128 + 224)
|
0.0629 ± 0.0011
|
郡山
|
290
(=158 + 132)
|
40.4 ± 0.02
|
本宮
|
516
(=158 + 358)
|
55.4 ± 0.03
|
Nohara et
al.
Nohara et al. BMC
Evolutionary Biology 2014 14:193
doi:10.1186/s12862-014-0193-0
表 5:F2世代における死亡率および異常率(F1 世代および F2 世代それぞれの摂取した食草の採集地域、死亡率、全体異常率、個体数)
F2食草
|
沖縄(F2)
|
郡山(F2)
|
本宮(F2)
|
F1食草
|
沖縄(F1)
|
MR = 16.5%;
|
MR = 79.1%;
|
MR = 89.9%;
|
AR = 18.8%
|
AR = 79.7%
|
AR = 90.5%
|
(n = 170)
|
(n = 158)
|
(n = 158)
|
郡山(F1)
|
MR = 10.2%;
|
MR = 78.8%;
|
検査せず
|
AR = 15.6%
|
AR = 87.9%
|
|
(n = 128)
|
(n = 132)
|
|
本宮(F1)
|
MR = 22.8%;
|
検査せず
|
MR = 99.2%;
|
AR = 29.9%
|
|
AR = 99.2%
|
(n = 224)
|
|
(n = 358)
|
*1 MR は死亡率、AR は全体異常率、n は調査した個体数を示す。
Nohara et al.
Nohara et al. BMC
Evolutionary Biology 2014 14:193
doi:10.1186/s12862-014-0193-0
図 6:放射性セシウム摂取線量の F2世代の死亡率への影響
(a)
二次元散布図。F2世代のセシウム摂取線量(F1世代の摂取線量は除く)をx軸に示した。
(b)
三次元散布図。F1世代および F2 世代のセシウム摂取線量を併せて示した。図内の F1および F2 はそれぞれ、F1 世代および F2 世代のセシウム摂取線量を示す。MR は死亡率を示す。F1 世代における摂取線量が同じものを線で結んだ。
次に、F2 世代の発達過程における生存曲線を作成した(図 7)。全体としては、それぞれの生存曲線の間には統計的に高度な有意差が認められた(df = 6、χ2= 818、p < 0.0001、ログランク検定;df = 6、χ2= 824、p < 0.0001、ウィルコクソンの順位検定)。これらの生存曲線は、明らかに 2 群に分かれた、高い生存率を示した群と極めて低い生存率を示した群である。この 2 群の生存曲線の間には、統計的に高度な有意差が認められた(df = 1、χ2= 758、p < 0.0001、ログランク検定;df = 1、χ2= 774、p < 0.0001、ウィルコクソンの順位検定)。この分離の要因が、F1 世代の摂取した食草ではなく、F2 世代の摂取した食草にあることは明らかである。この注目すべき 2 群への分離は、F2世代における食草の重要性を示唆している。
全ての実験群の生存曲線は 2 群に分かれた。各曲線について、F1
世代および F2世代の摂取した食草の採集地域を示した(例:郡山市(F1)−沖縄(F2))。
成虫の生存個体について、前翅長を比較した(図 8a、b)。F1 世代および F2世代を通じて郡山市の食草を摂取したグループでは、2 世代を通じて沖縄の食草を摂取したグループに比べ、雌雄ともに非常に短い前翅がみられた(オス:t = 8.44、df = 74、p < 0.0001、スチューデントの t 検定、メス:t = 5.03、df = 13、p = 0.0002、ウェルチの t 検定)。興味深いことに、F1 世代および F2 世代を通じたセシウムの累積摂取線量は、F2 世代単独での摂取線量に比べ、前翅長との間により高い相関を示した。これは雌雄ともにみられたが特にメスにおいて顕著であった(表 6;図 8c)。メスにおける、F1 世代および F2 世代を通じた累積摂取線量(x)と前翅の長さ(y)との相関は、y = -1.70 (±0.31) x + 1.259 (±0.020) (R2 = 0.857、df = 6、F = 29.99、p = 0.0028) の式が示す回帰直線で表される。
(a)
オスの前翅の長さ。平均値を、標準誤差を示すエラーバーとともに示した。本宮市(F1)−本宮市(F2)の食草を与えたグループについては、成虫の生存個体が極めて少なかったため、エラーバーは示していない。これは(b)に示したメスのグループについても同様である。沖縄−沖縄のグループと郡山市−郡山市のグループとの間には、統計的な有意差が認められた(p < 0.0001、スチューデントの t 検定)。
(b)
メスの前翅の長さ。沖縄−沖縄のグループと郡山市−郡山市のグループとの間には、統計的な有意差が認められた(p = 0.0002、ウェルチの t 検定)。
(c)
F1世代および F2世代を通じたセシウムの累積摂取線量と、前翅の長さとの関係。セシウムの摂取線量には、セシウム 137 および 134 の合計線量を用いた。
表 6:F2世代における、放射性セシウム摂取線量と前翅長との間のピアソンの相関係数r および p値(F2 世代単独および 2 世代累積の雌雄別の係数 r および p 値)
セシウム量
|
r
|
p
|
オス、F2のみ
|
−0.35
|
0.44
|
オス、F1 + F2
|
−0.59
|
0.17
|
メス、F2のみ
|
−0.58
|
0.17
|
メス、F1 + F2
|
−0.93
|
0.0028
|
Nohara et al.
Nohara et al. BMC Evolutionary
Biology 2014 14:193 doi:10.1186/s12862-014-0193-0
F1世代に見られたように、F2世代においても、成虫の生存個体に様々な形態異常が見られた(図9)。死亡率および異常率が極めて高いことを考慮すれば、観察された影響の多くは、汚染食草の摂取に起因するものである可能性が高い。
形態的に異常な部分を赤い矢印で示した。
(a)
郡山市−郡山市の食草を与えた個体に見られた、左複眼の凹み。
(b)
郡山市−郡山市の食草を与えた個体に見られた、羽化不全。
(c)
本宮市−沖縄の食草を与えた個体に見られた、羽化不全。
(d)
郡山市−沖縄の食草を与えた個体に見られた、右触角の欠失。
(e)
沖縄−本宮市の食草を与えた個体に見られた、羽化不全。
(f)
沖縄−本宮市の食草を与えた個体に見られた、右触角の欠失。
考察
本研究では、放射能汚染食草を用いた内部被曝実験を行った。食草は、東北の 2 地域(郡山市および本宮市)、関東の 2 地域(柏市および武蔵野市)、および東海の 1 地域(熱海市)といった、低い汚染度合いを示す地域にて採集された。類似の実験はこれまでの研究[7]においても行われており、本研究はこれまでに得られた結果を再現し、その正当性を裏付けるものである。さらに本研究は、前回の実験に用いたものより汚染濃度の低い食草を用いることで、これまでの研究をさらに広げたものとなっている。
本研究においては、東北の食草を与えた F1
世代のグループに見られた、死亡率および異常率の高さ、正常率(健全性)の低さ、生存率の低さ、そして前翅の縮小という形で、低線量放射線のチョウへの影響が明確に検出された。117 Bq/kg の放射性セシウム濃度を示す汚染食草から、40.9 mBq の放射性セシウムを幼虫期に摂取した郡山市のグループにおいて、死亡率および異常率が50%を超え、それが本宮市のグループにおける数値を上回るものであったことは、少々意外であった。この結果は、100 Bq/kg 前後の低線量の摂取が、特定の生物種にとって極めて有毒となり得ることを示唆する。郡山市および本宮市のグループでは、成虫の生存個体においても前翅の縮小が見られ、これは死亡率、異常率、正常率、および生存率において見られた傾向と一致するものである。
2.53 Bq/kg から 47.57 Bq/kg までの比較的低濃度の汚染を示した関東および東海の食草を与えたグループでは、死亡率(生存率)および異常率(正常率)ともに摂取線量に依存しているように見えた。これら関東および東海のグループについては、同時期に同じ系統のチョウを用いて実験が行われたため、互いに比較可能であった。従って、関東・東海地方由来の汚染食草は、チョウの適応度に対してわずかながらも検出可能な程度の影響を及ぼした可能性がある。このように有害な影響が考えられるなか、前翅の長さについては、関東・東海のグループのオスにおいては沖縄のグループに比べ長い傾向にあった(図 3)。この拡大の理由は明らかではない。極めて低線量の放射線に対する生物学的反応は、比較的高い線量に対する反応とは単純に異なるとも考えられる。
前回の研究[7]と本研究では、用いた食草の放射性セシウム濃度には大きな差があったにもかかわらず、一連の実験で得られた異なる地域のグループの生存曲線が揃って、「生存率の高いもの」「中程度のもの」「低いもの」という 3 群に分かれたことは興味深い。前回の研究[7]における半数致死量は、幼虫一個体当たり 1.9 Bq と算出され、これは幼虫期を通して 4,900 Bq/kg の食草を摂取し続けた場合に相当する。この値は、本研究における郡山市のグループから得られた値の 40 倍を上回るものである。結果として、生存曲線によってまとめられる 3 つのグループそれぞれにおいて、グループ内の食草の汚染濃度には大きなばらつきが見られた(図 4 参照)。しかしながら、同時期に実験が行われた(すなわち同じ系統の)一連のグループにおいては、生存率は食草のセシウム濃度に大きく依存するものであった。これらの結果は、単に放射線に対する感受性が系統の持つ遺伝的背景に依存していることで生じた可能性が考えられる。すなわち、異なる系統のチョウを直接比較することは、遺伝的な条件以外の実験条件がほぼ同一であっても難しいと言える。従って我々の得た結果は、低線量放射線への感受性には同一種内においても個体差があるということを示唆し、これは既存の文献[13]とも一致するものである。
F1 世代の親個体が形態的には健全であったにもかかわらず、汚染食草の摂取による F2 世代への生物学的影響はより深刻なものであった。具体的には次のような差が挙げられる:F1世代において郡山市の食草を摂取したグループと、そのグループから得られ同じく郡山市の食草を摂取した F2 世代のグループは、それぞれ 53.0%および 79%という死亡率を示し、さらに本宮市の食草を摂取した F1世代のグループ、およびその子世代で同じく本宮市の食草を摂取した F2 世代のグループは、31.2%および 99%という死亡率を示した。沖縄の食草を摂取した F1 世代のグループおよび、その子世代で同じく沖縄の食草を摂取した F2 世代のグループにおいても、それぞれ 8%および 17%という死亡率が見られたことから、F2 世代における死亡率の上昇は、放射線による影響の継世代的な蓄積によるものと直ちには言えない。しかしながら、F1 世代が F2 世代に及ぼす影響は、前翅の縮小と、特にメスでみられた前翅長とセシウム累積摂取線量との高い相関という形で認められた。留意すべき点は、この種では汚染食草の摂取に限らず、長期低線量外部照射によっても前翅の縮小が誘発されたことである[7]。さらに、汚染地域での野外調査においても前翅の短い個体が発見されている[7]。従って、本研究において前翅の縮小が認められたことは、内部被曝がこの死亡率の高さの一因であることを示唆している。とは言え、F1 世代が F2 世代へ及ぼす影響はわずかであり、F2 世代において沖縄の食草を摂取することで大きく改善することが可能である。しかしその反面、郡山市や本宮市の食草を摂取し続けることでその影響は大幅に増幅される。すなわち、影響は継世代的であると言えるが、影響の大部分は食草を変えることで回復され得る非遺伝性の生理的影響であると言える。その発現機構としては、母性効果やエピジェネティックな影響、ゲノムの不安定性、および類似の現象による説明が考えられる。
これらの結果は、「F1世代に見られた翅の斑紋異常を含む形態異常は F2世代へと遺伝し得る」とする我々のこれまでの研究結果と矛盾しかねない[7-9]。前回の実験では、2011 年春に野外にて採集された P 世代(親世代)の成虫を用いた。この P 世代の個体は幼虫期に、原発の爆発により放出された全ての放射性物質に直接さらされており、これは遺伝子の損傷を引き起こした可能性がある。その P 世代から F1世代をとり、非汚染食草を用いて飼育し、形態異常を示した成虫からさらにF2 世代を得た。2011 年に起きたと考えられる遺伝子の損傷は、幼虫が食草の表面に吸着した放射性物質を摂取したことに起因する可能性がある。 また、β線放射核種の影響も無視できない[14]。一方で、本研究は 2012 年に行われたため、存在していた放射性核種は主にセシウムであり、食草への放射性物質の吸着もそれほど深刻ではなかったと考えられる。従って、本研究における汚染食草の摂取による遺伝子損傷の可能性はどちらかと言えば低い。いずれの実験条件も、遺伝的または生理的な(あるいはエピジェネティックな)変化による遺伝性の影響を調査するには妥当なものであった。
前翅長については、性差が見られた。メスはオスに比べ、F1世代および F2世代ともに放射線摂取線量とのより高い相関を示した。この性差の理由は明らかでない。しかしながら、この種のチョウにおいては、環境ストレスの一種である低温ショックに対して、メスの方がより高い感受性を持つとの報告がある[4]。従って、この種では概してメスのほうがストレスに対して敏感である可能性が高い。
汚染地域に生息する生物にとって、汚染食物を通じた内部被曝は避けられない。実際にチェルノブイリでの事故後、汚染食物によるものと考えられる人への生物学的影響が確認されている[15、16]。しかし、いくつかの事例報告や未発表の研究は存在しうるが、我々の知る限りでは、チェルノブイリの事故後、放射線生物学の分野において、食物を通じた内部被曝について、きちんとコントロールされた実験によって評価した例は、数例[17]を除き、生物種を問わず乏しい。従って、我々の実験結果がこの研究分野に寄与するところは大きい。低線量放射線による生物学的影響についての知見を確立するためには、このような科学的証拠の蓄積が求められる。
結論
汚染食物を通じた内部被曝の生物学的影響を評価する我々の実験系は、低線量放射線の経口摂取が、ヤマトシジミの少なくとも一部の個体において、死亡(高い死亡率および低い生存率)、および疾患(高い異常率および低い正常率)、成長の阻害・遅延(前翅の縮小)を引き起こすことを明らかにした。生存率並びに前翅長への汚染食草の影響は継世代的であることが示された。しかしながら、F1 世代における汚染食草の摂取の影響は、F2 世代における非汚染食草の摂取により大きく改善することが可能である。低線量放射線による内部被曝の生物学的影響のうち少なくとも一部は、非遺伝的な生理学的(あるいはエピジェネティックな)変化に起因すると考えられる。
方法
倫理
日本においては、ヤマトシジミ ( Z.
maha )およびその食草 ( O.
corniculata (カタバミ) )の採集にあたり特別な許可は必要ない。ヤマトシジミは日本で最も繁栄しているチョウであり、その食草は園芸や農業においては雑草として除草の対象とされることが多い。
チョウの飼育
過去の研究[8]において確立した標準的な飼育方法に、わずかな変更[4, 7]を加えた。採卵方法についても既に報告した通りである[7]。卵(F1 世代または第一子世代と定義)の採卵には、沖縄で野外採集した複数のメス(P 世代と定義)を用いた。これら F1 世代の卵を、4 群(2012 年夏)または3 群(2012 年秋)のグループに分けた。そのため、グループ間の遺伝的差異は無視できる。これらに加えて、同様の採卵方法に従い、沖縄にて野外採集した別の複数のメスから得た卵を 3 つのグループに分けた。この 3 グループには、それぞれ沖縄、郡山市、または本宮市の食草を与えた。この追加の 3 グループは、次世代(F2世代または第二子世代と定義)を得るために、F1世代との交配に用いられた。この過程は、子世代の健全性に悪影響を与える可能性のある近親交配を避けるために必要であった。F2 世代の卵は、F1 世代から選ばれた形態的に正常かつ健全(異常でない)な成虫と、同じく F1 世代の別のグループから選ばれた健全な成虫との交配により得られた。本論文ではしばしば、F1世代において A 地域の食草を与え、F2世代において B 地域の食草を与えたグループを、A−B 群と示すが、これらのグループのチョウは遺伝的には全て沖縄の系統に由来する。飼育実験は、関東・東海ののエサを与えたグループを除き、全て沖縄県の琉球大学西原キャンパス内にある我々の研究室において行われた。関東・東海のエサを与えたグループ(2012 年夏のグループ)については、東京都武蔵野市吉祥寺にある我々の支部において飼育され、この間、窓は常に閉め切られ、放射線レベルは 0.04-0.05 μSv/h に保たれた。
食草の採集
食草である O. corniculata (カタバミ)の葉は、表 1 に示す通り、2012 年夏および秋に各地で採集された。採集された食草の束は、湿らせた紙で覆い冷蔵容器に保管した状態で研究室へ送られ、使用直前まで冷蔵庫に保管された。この状態で保管された葉は、幼虫に与えられる際にも新鮮なままであった。異なる採集地間での交差汚染を防ぐため、食草の束は採集地ごとに別々に保管された。関東・東海地域(柏市、武蔵野市、熱海市)および沖縄の食草を用いた給餌実験は 2012 年夏に、東北地域(郡山市および本宮市)および沖縄の食草を用いた給餌実験は 2012 年秋に行われた。
前翅長の測定
前翅長の測定には、SKM-2000 デジタル顕微鏡および関連ソフト
SK-Measure(斉藤光学、横浜)によるデジタル画像を用い、腹側の基部から外縁の M1 脈末端までの長さを測定した。関東地域および東北地域の食草を用いた給餌実験はそれぞれ別々に行われたため、夏および秋の給餌実験におけるそれぞれの沖縄の群から得た値をともに 1.00 とすることで、双方の実験結果を統合して図 3に示した。
放射線量の測定および算出
採集地点における地面線量の測定には、Aloka
TCS-161 シンチレーションサーベイメータ(日立アロカメディカル、東京)または RAE Systems DoseRAE 2 線量計(米国カリフォルニア州サンノゼ)を用い、地表面(地上 0cm の高さ)で測定された。食草および蛹内の放射性セシウム線量の測定には、Canberra GCW-4023 Ge 半導体放射線検出器(米国コネチカット州メリデン)を用い、琉球大学機器分析支援センターにて測定された。測定値の再現性を確認するため、同様の測定は、Ortec GMX30 N 型 HP Ge 半導体検出器を用い、長崎大学においても行われた。既に報告した通り[7、11]、食草のサンプルは乾燥し灰化(無炎燃焼)された上で測定に用いられた。蛹のサンプルは、過去に報告した通り[11]小型の円筒型プラスチック容器に入れて測定されたが、結果は全て検出限界値を下回るものであった。
セシウム摂取線量の算出に当たっては、幼虫は産卵後 6 日目に孵化し、沖縄の食草を 8 日間摂取したのちに、各地域の汚染食草を摂取したと仮定した。従って、産卵後 14 日間は全ての幼虫は沖縄の食草を摂取した。過去のデータ[7]に基づき、幼虫1個体の摂取した食草の総量のうちおよそ10%は沖縄由来であると推定し、これもセシウム摂取線量算出の際に考慮した。さらに簡素化のため、幼虫は汚染食草を与え始めた後からその後の成長に必要とされる食草の量すべてを、汚染食草摂取初日の 1 日で完食し、またセシウム 137 および 134 が 1:1 の濃度割合で、2011 年 3 月 15日の福島第一原子力発電所の一度の爆発によって放出されたと仮定した。
統計解析およびグラフ
統計ソフト R バージョン 3.0.2(R Foundation for Statistical Computing、オーストリアウィーン)、JSTAT バージョン 13.0(横浜)、および JMP 11.0.0(2013)(SAS Institute、米国ノースカロライナ州ケーリー)を用いた。線形回帰式は標準誤差とともに示され、R2 値および p 値により評価された。ピアソンの相関係数 r を用いたデータ評価も行われた。前翅長の比較には、スチューデントの t 検定もしくはウェルチの t検定を、F 検定と併せて用いた。生存曲線の評価には、ログランク検定およびウィルコクソンの順位検定を用いた。グラフは Excel(2013)を用いて作図した。
ここまでの翻訳:Chikako Ushiro, Chiyo Nohara, Wataru Taira
利益の競合
著者らは、競合する利益を有しないと宣言する。
JMOおよびCNは研究を企画し、調整した。CN、AH、WT、TT、ATは実験を実施した。CNとJMOはデータを分析した。JMOは論文を執筆した。
J. Nohara(東京都)、J. Ishida(大熊町)、N. Itou(飯舘村)、K. Yoshida(南相馬市)、K. Nakanome(南相馬市)、K. Morizono(郡山市)の諸氏には宿主植物食草の採集にご助力いただき、K. Yoshida氏(南相馬市)には技術支援をいただき、われわれは感謝を申しあげる。また、分子生理学BCPH UnitのM. Iwasakiほかの諸氏には議論と技術支援の面で感謝を申しあげる。本研究は部分的に、東京都の住友財団の環境研究助成、琉球大学の奨励事業に支えられた。
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