2013年8月5日月曜日

【#海外論調】フクシマ――リアルタイム生態研究フィールド


フクシマ――リアルタイム生態研究フィールド
だが、生態学者は資金不足に悩む
Fukushima offers real-time ecolab
But ecologists say they need more funding.
イーウェン・キャラウェイ 2013616
Ewen Callaway 16 July 2013
翅に異常のあるZizeeria maha 
CHIYO NOHARA & JOJI M. OTAKI

20113月、日本の東岸にマグニチュード9の地震が勃発し、フクシマ核惨事を引き起こしてから数刻後、マルタ・ウェインは日本にいる同僚たちにEメール送信した――まずは無事を確かめ、次いで計画を練るためである。
ウクライナで起こった1986年のチェルノブイリ原子炉メルトダウンの場合、研究者たちは低線量放射線による生態学的な影響に関するデータを収集する機会を逸してしまった、と彼女はいう。10年にわたり、無所属の科学者らは現場に近づくことがかなわなかった。今回の場合、「時宜を逃さず研究し、そのような惨事がもたらす実際の結果に関するデータをえることが重要であると、わたしは即座に考えました」と、ゲーンズヴィルのフロリダ大学・集団遺伝学者、ウェインはいう。
先週、ウェインほかのフクシマとチェルノブイリを研究する生物学者たちがイリノイ州シカゴで開催された分子生物学・進化学会年次大会に集結し、それまでに学んだ知見――およびこれから必要と思われる諸研究――について報告した。彼らは、チョウやツバメといった動物に対する低線量放射線の効果に関する自分たちの研究が人間に対する低線量放射線の影響を理解することに関連し、ひいては放射能放出に対する政府の適切な対応を促すと信じている。
ニューヨークのコロンビア大学・放射線研究センターの所長、デイヴィッド・ブレナーは、人に対する放射線被曝の効果に関する理解は貧弱であるという。彼とその同僚らは、米国大統領の主席科学顧問、ジョン・ホールドレンに宛てた318日付けの書簡において、この問題に関する包括的な研究戦略を要請した。「わたしたちは、当て推量にも等しい根拠にもとづいて政策決定を下さなければならないというジレンマに陥っています」と彼はいう。
ブレナーはリスク――主として癌の危険性――は小さいと付言する。ジュネーブを本拠とする世界保健機関(WHO)の20133月付け報告は、福島県内で確認されるホットスポットでは、甲状腺を冒すものなど、子どもたちの稀な癌のリスクが全般的に少しばかり増加すると予測する。だが、ヒトを対象とする疫学研究の大半は規模がじゅうぶんでなく、稀な健康状態の発現率の小さな増加をすくいとることができない。
ウェインなどの科学者らは、必要な資金さえ確保できるなら、ヒト以外の種を研究することによって、知見の欠陥をいくらか補うことができると考えている。これは、核エネルギー利用にまつわる議論において、放射線の効果が発熱した論争の主題になっている状況で、極めて困難であることが実証済みである。
フクシマに関するデータがあるにしても、散発的――しかも異議の的――である。一陣の突風に比すべき研究が、チョウを対象として実施されている。大瀧丈二は琉球大学の生態学者であり、10年以上にわたり、日本種、Zizeeria maha(ヤマトシジミ)に関して翅の斑点配列やその他の形質を研究してきた。大瀧はシカゴの学会で研究成果を報告したさい、「わたしの研究を核事故の役に立てるようになるとは、夢にも思ったことはありません」と語った。だが、フクシマがメルトダウンしたあと、研究室の大学院生の二人が大瀧に、放射線効果の環境指標としてチョウに発現する異常を調査する決心を促した。
地震から2か月後の20115月、チョウが羽化するころ、研究チームは福島に行き、同年9月に再び行った。彼らは原子炉から20ないし225キロメーターの範囲の各地でチョウを採集した。5月に採集した昆虫には、ほとんど異常は見られなかったが、研究室で育てた子世代では、翅の形態異常、不自然な眼状斑点など、多くの異常が発現し、多くのものは蛹のうちに死んだ(A. Hiyama et al. Sci. Rep. 2, 570; 2012)。9月に採集したチョウでは、子孫の半数以上に上記の異常があった。
大瀧のチームは研究室で、フクシマに近いチョウが受けたのと同程度の線量の放射線をチョウに照射した。子孫に同じ問題が生じた。「別の説明も可能でしょうが、放射線が死亡と異常を引き起こしたとする仮説が最も合理的であるようです」と大瀧はいう。
コロンビア市、サウスカロライナ大学の進化遺伝学者、ティモシー・ムソーは、もっと多くのこのような研究が痛切に必要とされているという。彼は今週、メルトダウン以降、3期目の野外調査に着手し、鳥類、昆虫などの小動物を観察するためにフクシマに向かう。彼の研究チームは1期の研究のあと、何種類かの昆虫の生息数激減と一部の鳥類の生息数の減少に気づいた(A. P. Møller et al. Environ. Pollut. 164, 3639; 2012)。彼は、3年間の観察成果をまもなく発刊することを願っている。
大瀧は、資金の大部分を民間財団に頼らなければならないといった。「たぶんこれは、政治的に非常に微妙なテーマなのだと思います」と彼はいう。ムソーはドイツのバイオテクノロジー企業から資金提供を受け、現在、フィンランド政府から援助を受ける研究者たちと共同で研究している。だが、米国政府の助成金は確保が難しいと彼はいう。エネルギー省が低線量被曝に関する資金拠出を大幅に停止し、国立科学財団および国立衛生研究所がこのテーマに関する研究の助成をほとんど授与していないのだ。「どのような研究であれ、実行していると思える最良の人びとは、冒険を厭(いと)わず、機会に敏感で、かつ独立心旺盛なのです」とムソーはいう。「彼らはかなり柔軟な姿勢で事に臨み、公的支援を受けず、自力でやっているのです」
他の科学者らはフクシマ核惨事が生態系におよぼす悪影響に関する報告に異議を唱える。翅の形態など、チョウの形質は、地理的条件によって当然にも変化するので、大瀧の研究には欠陥があるというのである。「この研究はセンセーショナルな主張をしており、このような比較的低線量の環境放射線が深刻な健康リスクをもたらすと地域住民を脅すために使われるべきではありません」と、ワシントンDC、ジョージタウン大学の分子放射線生物学者、ティモシー・ジョーゲンセンは大瀧の2012年論文に対するコメントに書いた。フクシマ核惨事1年後の鳥類への害に関するムソーの報告は、サンプリング(試料採取)周期が1期に留まり、基本データが欠けていると批判されてきた。
英国マンチェスター大学の疫学者、リチャード・ウェイクフォードは、フクシマ核惨事の効果に関する生態学研究が低線量放射線に被曝するヒトの健康効果を明らかにする取り組みと同じような困惑をもたらすことになるだろうと考えている。人間が避難したあと、多くの生態系とその生物種は改変したのであり、とりわけ放射線は関係ないと彼はいう。
ウェインは、ポスト・フクシマ核惨事研究の質的向上を図るために、もっと多くの支援が必要だという。彼女とその同僚たちは、データ収集・分析・共有のためのよりよい基準の確立を期して白書を執筆している。「もっとデータがほしいからといって、核惨事の発生を望むのではありません」と彼女はいう。「しかし、起こってしまったからには、わたしたちはそれからもっと学ぶべきです」
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