アジア太平洋ジャーナル:ジャパン・フォーカス
アジア太平洋…そして世界を形成する諸勢力の批判的深層分析
アジア太平洋…そして世界を形成する諸勢力の批判的深層分析
アジア太平洋ジャーナル Vol. 11, Issue 30, No. 3 2013年8月5日
東京電力の闇のなかで――核エネルギーがこうむるフクシマの遺産
In the Dark With Tepco: Fukushima’s Legacy for Nuclear Power
In the Dark With Tepco: Fukushima’s Legacy for Nuclear Power
アンドリュー・デウィット
Andrew DeWit
Andrew DeWit
フクシマの悲しい大河物語は、繰り返される無能と錯乱が露見しながら、まだ続く。最近では、7月30日付けロイター記事が詳しく報じているように、説明できないままに蒸気が排出し、信頼できる対処策に欠けているまま、1日あたり400トンの地下水が流入している。幾十年も続くことになる、この危機に対して、明らかに東京電力には必要な資源を投入する能力も意志もない。国連大学の研究フェロー、クリストファー・ハブソンがジャパン・タイムズで論じるように、唯一の解決策は政府が肩代わりすることである。
東京電力は生き残りに必死である。日本一嫌われる企業――それに、世界核ビジネスのお荷物――同社は最近、安全キャンペーンの監督役として、2004年から10年まで英国原子力公社の会長を務め、いまも名誉会長である英国系アメリカ婦人、バーバラ・ジャッジを雇った。東京電力の新しい顔を据えることになる、この外人女性の雇入れは、7月はじめに発表された。だが、こうした攻めの広報活動をもってしても、放射能汚染水の海中流出という真相にまつわる東京電力の慎重姿勢はおしまいにならなかった。証拠が積み上がり、原子力規制庁を含む批判の大合唱を浴びても、東京電力は何か月にもわたり流出を否定していた。規制庁は明らかに7月18日には流出を確認していた。
広瀬直己東電社長と同席する バーバラ・ジャッジ |
もっといえば、以下の記事が際だたせるように、昨年12月以来のロイター通信による調査によれば、東京電力は、廃炉や除染のさまざまな側面に関する海外の実務専門知識の活用を、せいぜいのところ、限られた範囲でしか図ってこなかった。だから、ジャッジ夫人の配属は――しゃれた表現を借用すれば――実に豚に口紅と見受けられる。
核推進派から聞こえてくる言説のひとつは、福島第1原発の原子炉は旧式であり、東京電力が同社の柏崎刈羽原発の修理に資源を集中しているあいだ、ドル箱として操業していたので、ろくに保守管理されていなかったというもの。よって、フクシマに見る最近の無能ぶりは似たり寄ったりと了解してもよいだろう。柏崎刈羽の原子炉7基は世界最大の原子力発電所を構成しており、2007年の中越沖地震で操業を停止していた。地震は火災と放射能漏れを引き起こし、7基の原子炉に深刻な損傷を与えた。フクシマ事故前にも、東京電力は同原発の操業復帰に執心していたが、いまや、同社の採算性回復見通しは、全面的ではなくとも、少なくとも同原発の発電容量の一部を再起動することにかかっている。
じっさい、短命な民主党政権によって2012年7月になされた公共事業体の部分的国有化は、2013年3月に柏崎刈羽原発の一部を再起動することを前提としていた。運転再開の公算が銀行団による公共事業融資を働きかけるための経営健全性保証となっていた。
柏崎刈羽原発 |
別の角度から見ると、福島第1原発における東京電力のペテンはなおさらのこと途方もない。第一、柏崎刈羽原発の再稼働には泉田裕彦・新潟県知事が反対したままであり、この件に関し、東京電力は知事に政治力と信頼性をそっくり丸投げしてしまっている。
さらに、再稼働は地震帯の調査を含む安全検査を条件としている。日本の規制庁はスタッフが限られ、検査官3チームに約80名がいるだけである。規制庁は、電力4社が再稼働を申請した5原発10基の検査にこれまで以上の慎重姿勢で臨んでいるうえに、いま福島第1に乏しい資源を集中することを余儀なくされている。この検査は、1基あたり数か月かかると予想されている。東京電力(および他の電力)の抱える問題を悪化しているのが、2011年3月11日の東日本マグニチュード9.0大地震を中心とする一連の大規模な地震活動によって、日本の抱える地震のリスクが増大しているという事実である。
津波の再来?
フクシマの現状を考えると、東京電力とその同調者らがなにを企んでいるのか、想像するのは不可能だ。だが、前方に待ち受けているものは、新たな津波かもしれない。慶應大学の金子勝が8月3日に刊行された岩波ブックレット『原発は火力より高い』で指摘するように、独占公益事業はおそらく破産するだろう。彼は慎重な詳細さをもって検証したうえで、フクシマとその他の問題のコストをすべて合算し、電気料金に転嫁すれば、核エネルギー発電コストは1キロワット/時あたり、驚くべき23.5円となり、火力の8~9円を優に凌駕し、かつて2004年に計算された5~7円とは雲泥の差となることを示した。
金子の出版物は、それ自体が書評を献じるに値するが、この問題検証のための小論ではスペースの関係上、とりあえず割愛しなければならない。財政専門家である金子は、民主党の前政権において、核エネルギー、その他のコストを検証する委員会の委員だった。彼の著作は、残った原子炉のそれぞれについて、安全対策費、廃炉費用、その他の発電所運営費概算に関連する費用を含めて、条件を検証する。彼は、この原子炉ごとの分析をもっと大きな論評フレームワークに埋め込み、いかに独占事業体が1990年代の不良金融機関に等しいものになってしまったか、その実態を際立たせている。
金子が焦点をあてる中核となる問題は、駿河に2基、東海村にもう1基、3基の原子炉を所有する日本原子力発電のそれである。敦賀2号炉の命運は、2013年5月の調査が真下に活断層が存在すると結論づけるにおよんで、おそらく封印されたようである。規制庁はこの調査結果を了承してしまった。日本原燃は規制庁の見解に異議を唱えているが、日本の規制法規は、活断層の上に原発を建造することを禁じており、したがって、規制庁が裁定を維持する場合、原発の解体が要求される。
日本原燃の収支は、他の核依存事業体に深刻な影響をおよぼす。日本原電は収入全額が原子力頼りである。だが、たとえ保有する原子炉が停止したままでも、独占事業体5社と締結している(東京、東北電力は東海2号炉から、関西、中部、北陸電力は敦賀原発からの)電力供給契約によって、「基本料金」の支払いを受けるので、存続可能である。
日本原電が敦賀2号炉の廃炉を余儀なくされる事態になれば、同社はこの原発分の基本料金を受け取れなくなる。すると同社は、人件費、減価償却費、その他の関連固定費をすべて自前で賄わなければならなくなる。敦賀1号炉は建造後43年経過しており、築40年以上の原子炉に要求される、高額になる特別検査と安全対策の対象になることを念頭に置かなければならない。おまけに、同社の東海2号炉は築34年であり、その再稼働は地域住民の強硬な反対にあっている。日本原燃は保有原発のどれとして、再稼働申請をいまだ果たしえないでいる。
電力事業者は廃炉費用を積み立てているが、これだけでは経費を賄うのに全般的に不十分である。6月7日の自民党作業部会のために経済産業省・資源エネルギー庁が用意した報告によれば、潜在的に稼働可能な日本の原発50基のうち、3基が建造後40年以上を経過している。これら3基は、日本原電の敦賀2号炉および中部電力の浜岡1、2号炉である。中部電力・浜岡1号炉の廃炉費用は323億円と見積もられているが、中部電力の積立金は228億円にすぎず、94億円の不足分は放置されている。浜岡2号炉の不足分は67億円、敦賀1号炉のそれは38億円である。ところが、敦賀2号炉となれば、不足分は237億円の巨額になる(注1)。
金子の調査によれば、敦賀2号炉が廃炉を余儀なくされると、日本原電は維持費とその他の固定費のざっと700億円を節約できることになる。だが、同社の財務報告を見れば、その惨状は明白である。2013年3月時点で、同社の損失はざっと114兆8000億円となっており、資本金に165億円の巨額を食い込んでいる。同社は単純にいって、廃炉費用を吸収する資金をもたず、だからこそ、最終決定の機先を制しようと頑張っている。
金子は、単純にいって、このような企業には責任をもって核資産を管理する手段と意欲が欠けているという。じっさい、最近の報道がこの分析を裏付けている。規制庁が敦賀2号基敷地内のプールに貯蔵されている燃料棒の地震リスクを懸念して、日本原燃に調査を依頼した。地震による冷却材喪失という事態において、それぞれが複数の燃料棒を含んだ1700の燃料集合体が損傷しかねないと危惧したのである。だが、日本原燃はなんのリスクもないと否定し、燃料メルトダウン・シナリオは「燃料集合体のあいだを流れる空気が冷却材の役割を果たすので、回避できる」と主張した。日本原燃自体が、燃料被覆の温度が420℃まで上昇しうると認識しているという事実にもかかわらず、これである。日本原電は真っ赤な言い逃れを弄して、地震動が集合体の位置を動かし、風前の灯火のような安請け合いを打ち消す可能性を考えていなかった(注2)。
だが、深刻なトラブルに見舞われているのは日本原電だけではない。同社の財務は、同社と契約関係にある独占事業体5社と緊密に結びついている。東京電力は同社の筆頭株主である。おまけに、電力会社の債務残高として、投資や債務保証の100億円、それに目下、建設中(事業保留中)の敦賀3、4号炉のために注ぎ込んだ、ざっと130億円がある。金子は、電気事業連合会の八木誠会長が「廃炉などの費用の取り扱いは国と協議しながら検討していくべきだ」が表明して、いかに事態が絶望的であるかを明確にしたと指摘する(注3)。
金子の見解によれば、政府からの援助を求める、この露骨な申立ての意味するものは、日本のゾンビ企業の古典的な様態である。1980年代バブル経済の崩壊につづく1990年代から2000年代初期にかけての焦げ付きローンの長編物語において、あらゆる指標が国庫からの点滴注射頼みを示していたのとまったく同じである。じっさい(6月2日付け朝日新聞によれば)、経済産業省は、敦賀2号炉の廃炉経費を捻出するために、数年間にわたる電気料金上乗せ分を充当することを提案した(注4)。金子にとって、このような手法は、破産企業が寛容にも助成金をあてがわれ。その結果、損失がただ単に膨らみ、不必要にも――また高上りにも――金融危機を長引かせた1990年代の再来である。
他に道はないのか?
いかなる政治体制であっても、本能的な反応として、できるかぎり不可能になるまで、大掛かりな修正を避け、なんとか突き抜けようとする。だから、バブル後の日本は、なにをすべきかについて優柔不断なまま、たっぷり10年間を失ったのだ。これが、EUが窮地にあることの核心となる政治的な理由である。そしてこれが、フクシマ後の日本の電力供給体制が混乱したままであることの理由である。7月31日付けロイター記事は福島第1の混乱を概観しているが、ここに見たとおり、問題は全国規模のものであり、迅速で系統だった解決を必要としている。
息を詰めて、断固たる行動を待っているわけにはいかない。日本の高価な電気料金が再生可能エネルギーと省エネルギーの普及を促進させているという事実に目を向けよう。アメリカの下院・共和党議員たちは白熱電球擁護のために籠城している(注5)が、日本では、天上照明器具販売の90%はLEDであり、日本は世界LED需要の40%を占めている。急増するエネルギー供給企業による競争、トヨタなど大企業の発電ビジネス参入、ICT(情報通信技術)革命の加速、規制緩和の脅威、その他の要因にもよって、現状が再構成され、プレイヤーが交替しつつある。東京電力、その他の独占事業体でさえ、生産現場におけるエネルギー効率向上に関する分析と助言を企業に無料提供するまでに追い込まれている(注6)。だが、最善の希望は、核の遺産を国有化し、適法な管理を実施して、公共事業体の重荷を軽減し、わたしたちの側としてはリスクの幾分かを緩和してもらうことにある。
翻訳:井上利男 @yuima21c
(注)
1. 数値に関して、2013年6月8日付け産経新聞記事「廃炉費用が不足 経産省資料 40年超3基で199億円」を参照のこと。
2. On this, see “Tsuruga
plant operator says spent fuel in storage pool absolutely safe,” Asahi Shimbun, August 1, 2013.
5. On this, see Keith Dawson, “US
House Blocks Enforcement of Energy Standards, Again,” Allied Lighting, July 16, 2013.
(訳者注)
本稿原文中の疑問点を筆者に問合せ中。
【筆者】
アンドリュー・デウィットAndrew DeWit は、立教大学・社会学部政策研究領域の教授、ジャパン・フォーカス世話人。飯田哲也、金子勝とともに、Jeff Kingston 編“Natural
Disaster and Nuclear Crisis in Japan”所収の“Fukushima
and the Political Economy of Power Policy in Japan”を共著。
【推奨される引用・転載クレジット】
[原子力発電_原爆の子]アンドリュー・デウィット
「東京電力の闇のなかで――核エネルギーがこうむるフクシマの遺産」
Andrew DeWit, "In the Dark With Tepco: Fukushima’s Legacy for Nuclear Power," The Asia-Pacific Journal, Vol. 11, Issue 30, No. 3, August 5, 2013.
「東京電力の闇のなかで――核エネルギーがこうむるフクシマの遺産」
Andrew DeWit, "In the Dark With Tepco: Fukushima’s Legacy for Nuclear Power," The Asia-Pacific Journal, Vol. 11, Issue 30, No. 3, August 5, 2013.
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