カウンターパンチ
事実にもとづく実名報道 |
2016年2月26日
フクシマ5周年目の末期的な危機
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3月11日はフクシマ核惨事の5周年にあたっている。日本の放送局、NHKは最近、核発電に対する国民の意識を探る世論調査をおこなった。その結果によれば、70%あまりの回答者が核発電所の全面的または部分的な廃棄に賛成している。これは驚くべきことではないが、その反面、安倍政権は閉鎖された核発電所の再稼働を実に強硬に推進しており、じっさい、その一部はすでに核分裂を狂ったように強行している。
2016年3月1日付けサイエンティフィック・アメリカン記事が5周年におけるフクシマ/東京電力の前途について言及しているので、紹介しておこう――「今日、災害現場は非常事態のままである…さらに厄介な問題だが、施設における危険な核廃棄物の生成がいまだに収束していない」(マドゥシュリー・ムカージー「5年後のフクシマ核惨事現場はいまだに放射性物質を放出」)。
東京電力株式会社廃炉カンパニーのプレジデント、増田尚宏氏によれば、反応炉の内部から核燃料を除去する技術は現存していないという。すなわち、「技術者たちは問題を調査しておりますが、わたしたちは燃料を除去する方法はないと考えております。巨大なリスクが伴います。些細なミスを犯すだけでも、地元の人びとにとって、あるいは世界にとって、大問題になりかねません。その可能性を意識しておかなければなりません」(ポピュラー・サイエンス誌2016年3月/4月号、スティーヴ・フェザーストーン「5年後のフクシマ」)。
「巨大なリスクが伴います。些細なミスを犯すだけでも、地元の人びとにとって、あるいは世界にとって、大問題になりかねません」。これが、東京電力廃炉カンパニーのプレジデントの発言なのである。ここに問題がある。東京電力には「些細なミス」を犯す資格すらなく、それでいて、幾多のとんでもないミス、巨大で大規模、とてつもない、愚鈍なミスをしでかしてきたのだ。
核エネルギーにつきものの放射線リスクに関する論争の両陣営に対する公正を期すために、異なった見方を理解することが大切であり、たとえば、ジョージタウン大学医療センターの放射線専門家、ティモシー・J・ヨルゲンセン博士・公衆衛生学修士は、最新刊書“Strange Glow: The Story of Radiation”[奇妙な輝き~放射線の物語](プリンストン大学出版、2016年刊)において、放射線の影響を論じている。博士は放射線の危険性を割り引いてはいないが、たぶん控え目に表現しているのだろう。だが、彼の見解は、フクシマの放射能が人間におよぼす害は最小限であり、これからもそうであろうと明確に述べている。ヨルゲンセン博士は興味深いことに、「放射線量が低レベルであり、疾患原因にはならないので、施設労働者が放射線疾患にかかる症例はなかった」と主張している(ジョージタウン大学医療センター、2016年2月23日付けニュースワイズ「ジョージタウンの放射線専門家・著述家、フクシマ核メルトダウン5周年を検証する」)〈編集者注:それにしても、ヨルゲンセン博士が事実を追求するなら、「公式見解」から踏み出して調査すべきだろうし、後出の米海軍兵インタビューを読むべきだろう〉。
ヨルダンセン博士に謹んで申しあげるが、放射線疾患にかかるフクシマ労働者はいないという貴殿のご高説に無礼にも同意しない、理のある、情報に通じた人士たちが世の中におられるのですぞ。自由報道協会(日本)理事、おしどりマコ氏は、報告されていない数件の労働者死亡事例(その通り、死亡)を調査し、東京電力を退職した元看護師に対面取材した。彼女は次のようにいう――
「それでは、原発作業員についての話をしたいと思います。このかたは、東京電力の社員で、2012年に福島第一原発の医療室で看護師の仕事をしていたかたです。2013年に東京電力を辞めたときに、彼にインタビューをしました。原発の作業員が亡くなったとき、仕事中に亡くなった人だけ、東京電力は発表します。たとえば、週末に亡くなったり、寝ているあいだに亡くなったり…そして、3か月働いて、数週間の休みのときに亡くなったりする作業員は発表されません。……
「それだけではなく、彼らは作業員の死亡統計に含まれていません。たとえば、大量の放射線被曝をしたあと、仕事を辞める作業員がいます…そして、1か月たってから亡くなってしまうのですが、そのような死亡者のだれひとりとして発表されませんし、死亡者数に数えられていません。これが、原発作業員を取り巻いている現実です」
とどのつまり、核の放射線は扱いにくい厄介な主題であり、米国は日本を徹底的に叩きのめす爆弾として核を用いた。それは実績のある殺人手段であり、後ろ手に縛られたまま手渡され、苦もなく拡散してゆく。それでも、核賛成・反対論争の両陣営ともに、非常に有能で頭のよい一流人士がいるものだが、たいがいの人は中間でふらふらしているようであり、なんにつけても、テレビの風潮に引きずられている。「少量なら効き目がある」、つまり少しばかりの放射線量は体によいという理性的な人たちさえいる一方で、「いかなる量でも体の破滅」、つまり放射線量は体内に蓄積するので、「気をつけろ!」という人たちもいる。
秘められた放射線による犠牲者
研究者、ジャーナリスト、学者が放射線被曝にともなうリスクについての物語を紡ぐためには、事実を深く掘り下げる必要があるが、ここにこそ問題がある。放射線による現実の死亡例、あるいは肢体不自由の事例が報告されず、むしろ隠されるなら、その物語は、放射線は鬼のように恐ろしいというものにはならない。その反対に、放射線が大勢の人たちを傷つけ、不具にし、殺していると事実が明らかにするなら、核発電所は怖いものだという物語になるだろう。これが物事のなりゆきであり、物語が実生活に届く仕組みなのだ。
核発電に賛成か反対の両陣営のどちらを選ぶにしても、1986年のチェルノブイリ核事故(現実としては、ホロコースト)は、核発電による放射線被曝が、他に類を見ない奥深い闇のモンスター、巨大な鬼っ子、生物を永遠に傷つけ、捻じ曲げ、滅ぼす殺人鬼であることを示す、100パーセント現在進行形の決定的で反論不可能な証拠を突きつけている。
身の毛がよだつような放射線の致死作用は、ベラルーシ全域各地、田舎の奥深い未開墾地300か所で世間の目から隠された保護施設で見受けることができる。チェルノブイリから放出されたフォールアウトの70パーセントがベラルーシに漂着し、「チェルノブイリの子どもたち」に破壊的な影響を与えている。
チェルノブイリ同様の事故が起これば、それはアッと驚く事故ではあるが、そのような性格付けだけでは、事の本質を見誤ってしまう。それ自体としての事故は、核発電所に内在するリスクの特性を示しており、事故はさらに繰り返し起こるものなのだ。事故はリスクである。核発電所は災害なのだ。事故は起こり、それは再三再四のことであり、核発電に反対する強力な議論を巻き起こす。
不愉快な後遺症事例を紹介してみよう。アイルランド出身のクリオーナ・ラッセルさんは2年前、ベラルーシの児童保護施設でボランティアとして働いた。チェルノブイリ事故が勃発したのは、彼女が保護施設で接した子どもたちが生まれるより、ずっと前の1986年だったことを忘れないでもらいたい。子どもたちは今日、母親の胎内における放射線の影響、あるいは放射能が蓄積した環境の影響のどちらかによる奇形と出生異常の申し子になっている。
クリオーナ・ラッセルさんはこういう――
「子どもたちは、何時間もぶっ通しで体を前後に揺すっては、頭を壁にぶつけたり、歯ぎしりしたり、顔を掻きむしったり、喉に手を突っ込んだりしています…これが、わたしが(2014年2月に)ベラルーシのヴェスノヴァ児童精神科病院でボランティアをしたときに目撃した様子です」(2014年3月18日付け journal.ie「わたしがベラルーシの児童精神科病院に赴いて、アイルランド人であることに誇りをもつようになったわけ」)。
クリオーナ・ラッセルさんは、アイルランドの慈善団体「チェルノブイリ・チュールドレン・インターナショナル」がベラルーシ、ロシア西部、ウクライナの子どもたちを援助していることを1991年に知り、その理事長、アディ・ロシュ氏との関係をとおして、ボランティアに赴いた。同団体の事業は今日までに、放射線被曝の影響を受けた25,000人あまりの子どもたちをアイルランドに招き、必須医療とリハビリテーションを提供しており、末期症状の子どもたちの場合、キルデア州バレッツタウンのポール・ニューマン医療休養センターに送り込んでいる。ラッセルさんはこういう――
「わたしは今になって、アディ・ロシュさんが初めてヴェスノヴァを訪問し、頭を刈られ、拘束衣を着せられた子どもたちが驚くほど高い率で死んでいくのを目撃したときに直面したものについて考えています。アディさんによれば、『死亡総数があまりにも膨大で、数えるのをやめるか、そうしなければ、やっていく意欲を失ってしまうほど』といいます」
事故から30年たっても、「チェルノブイリの衝撃は、放射能で毒された環境で生きなければならない子どもたちにとって、いまだに非常に現実的であり、厳然として現存しています」(アディ・ロシュ氏)。
放射線疾患を原因とする、肢体異常、不具、奇形、無数の死は、涙を絞るしかない、こころを締め付ける物語であり、核発電所の弁明をする、ありとあらゆる連中の眼前で、ムカついて見せるにじゅうぶんである。
風力とソーラーは子どもたちと家族のこころと魂を破ることはないが、1件の核事故がそうしてしまう。ただそれだけ、ただの1件、それだけでじゅうぶんなのだ。
放射能に猛反発する米海軍兵たち
なんということ、米艦ロナルド・レーガンに乗り組んでいた200名の米海軍兵らが、白血病、潰瘍、胆嚢切除、脳の癌、脳腫瘍、睾丸の癌、機能不全性子宮出血、甲状腺疾患、胃腸障害、その他、これほど若い成人の場合、極めて異常な病状に既に陥っていると主張して、東京電力、その他に対する訴訟を係争中である。
申立人のなかに、任務中に妊娠していた水兵がいる。彼女の赤ちゃんは、複数の遺伝子変異を抱えて誕生した。
水兵たちは2011年3月11日フクシマ核惨事のあと、「オペレーション・トモダチ」に参加し、放射線レベルは大丈夫と保証されたうえで、人道救援活動に従事した。申立人弁護団によれば、核放射能の後遺的な作用の猛威が、やがて階級の差を超えて噴出するので、もっと大勢の海軍兵たちが訴訟に加わる手続きをしているという。
皮肉なことに、昨年9月の混乱した国会の場で採択され、日本の軍隊が「同盟国を防衛する」ことを許容する(命令する)日本の新立法にもとづき、日本政府が日本の軍隊の役割を拡大する新たな安保法制のもとで防衛力を強化しており、“核エネルギー推進”航空母艦である米艦ロナルド・レーガンは2015年10月、日本の横須賀軍港を母港に定め、ドック入りしている。シートベルトを締めろ!
アインシュタインは次のように予言した――「解き放たれた原子の力は、われわれの思考様式を除く、すべてを変革したのであり、かくして、われわれは比類のない破局に向かって漂流している」。
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articles by: ROBERT HUNZIKER
【クレジット】
Counter
Punch, “Fukushima’s 5th Year of Full-Blown Crisis,” by Robert Hunziker, posted
on February 26, 2016 at;
【ロバート・ハンジカー記事】
2015年12月25日金曜日
【フクシマ5周年シリーズ】
2016年2月27日土曜日
2016年2月24日水曜日
2016年2月21日日曜日
2016年2月21日日曜日