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コロラド州の核兵器工場跡地に野生生物保護区が――暫定的に――供用開始
凡例:(原注)、[訳注]、〔ルビ〕。為替換算レートは9月28日時点。億円単位以下、四捨五入。
コロラド州ロッキーフラッツ発【ロイター】
かつて熱核兵器の起爆物質を製造していた施設の跡地から2マイル(3キロ)足らず、コロラドのロッキー山脈を背景にして、オスのエルクがメスたちのハーレムを守るために雄叫びをあげる。
合衆国魚類・野生生物局のコロラド州ゴールデン支局が2018年9月25日に提供した写真に見る、ロッキーフラッツ国定野生生物保護区のエルクの群れ。Ryan Moehring/USFWS/Handout via REUTERS
「今は発情期でして、これは番〔つがい〕行動です」と、合衆国魚類・野生生物局の職員であり、デンヴァーから北西12マイル(19キロ)に位置するロッキーフラッツ国定野生生物保護区の管理官を務めるデイヴィッド・ルーカスはいった。
ルーカスは、5,237エーカー(2,119ヘクタール[21.19 km2])の面積を擁するロッキーフラッツ国定野生生物保護区が9月15日に公開されて以来、最初の公式ツアーに参加したロイター記者に付き添っていた。
この比類のない大草原エコシステムは、エルク、ミュールジカから、アメリカグマ、ピューマ、おびただしい数の鳥類種、オオカバマダラ蝶まで網羅した239種の野生動物が生息する場になっております、とルーカスはいった。
この保護区がいつまで公開されたままでいるのか、定かではない。
環境運動と地域社会運動の活動家たちの5団体が、さらに検査が実施されるまでロッキーフラッツ保護区は閉鎖されたままであるべきと言い立て、政府を相手に提訴した。訴訟は受理されたものの、判事は先月、公開を延期すべきであるという原告らの要求を却下した。
訴訟はデンヴァー連邦裁判所で係争中である。
ロッキーフラッツ・プルトニウム工場が環境法令違反の咎で犯罪捜査を受けたさいに閉鎖された1989年までの37年間にわたる操業の歴史は度重なる火災や放射性物質漏出事故で彩られていた。
合衆国魚類・野生生物局のコロラド州ゴールデン支局が2018年9月25日に提供した写真に見る、ロッキーフラッツ国定野生生物保護区のオオカバマダラ。Ryan Moehring/USFWS/Handout via REUTERS
保護区になった今、10.2マイル(16.4キロ)にわたるトレイル[自然探訪路]が、ナチュラリスト、ハイカー、サイクリスト、乗馬愛好者の利用に供されている。プルトニウム製造工場跡地に直に接する約1,300エーカー(526ヘクタール[5.26 km2])の周辺地は恒久的に一般人の立入禁止になっている。
兵器生産は機密扱いの防衛活動でして、現地のいかなる開発も許されていませんでしたので、この地域は不法侵入する人間の手に触れられていませんから、無垢のまま残っています、とルーカスは話した。
合衆国魚類・野生生物局のコロラド州ゴールデン支局が2018年9月25日に提供した写真に見る、ロッキーフラッツ国定野生生物保護区のエルクの群れ。Ryan Moehring/USFWS/Handout via REUTERS
残存プルトニウム
保留区反対派は、連邦地方裁判所のフィリップ・ブリマ―判事のもとで係争中の訴訟で、77億ドル[8731億円]かけて実施し、環境保護庁が監督したスーパーファンド*除染事業には欠陥があり、新たな環境調査を実施すべきだと言い立てている。
*[「包括的環境対処・補償・責任法」の通称]
環境団体連合側の弁護士、ランドール・ウィナーは、「わたしどもの訴訟事件は、わが国の政府が、一般人による保留区訪問を無制限に許すことが環境および人間の健康におよぼすリスクの現代的なアセスメントを実施していないことを明確に見せつけることになるでしょう」とロイターに語った。
人間活動は残存プルトニウムを掻き乱しかねませんので、保留区訪問者や風下住民が吸引すれば、癌の原因になります、とウィナーはいう。
環境保護庁とコロラド州保健当局者らの両者ともに、現地は安全であり、バックグラウンド放射線量は許容限度以下であると判断した。
コロラド州公衆衛生環境省の環境保護専門家、リンゼイ・マスターズは、「これは地球上で一番詳しく調査された土地のひとつです」といって、土壌、水、大気に対する数件の研究の結果、現地は公衆衛生上の危険にならないことが判明したと指摘した。
ロッキーフラッツ工場の廃止は1986年、請負業者らが危険物質を違法投棄しているという内部告発者情報にもとづき、FBI捜査員らと環境保護庁査察員らが強制捜索したときに始まった。
当時の請負業者、ロックウエル・インターナショナル社は環境法違反による有罪を認め、罰金1億8500万ドル[209億円]を支払った。ロックウエル社および以前の工場請負業者だったダウ・ケミカル社はプルトニウム放出により工場から風下の住宅所有者らの不動産価値を毀損した責任を免れないと連邦裁判所陪審が判断したことから、両社は2015年、該当する12,000人に3億7500万ドル[423億円]を支払った。
ブリマ―判事が目下の訴訟を裁定するのはいつになるか、まだわからないが、判決で紛争が終わるのではないようだ。敗訴した側は上告できるし、近隣の町が保護区閉鎖を求めて提訴した事件の高等裁判所の審理は初期段階に入ったばかりである。
Reporting by Keith Coffman; editing by Bill
Tarrant and Sandra Maler
Our Standards:The Thomson Reuters Trust Principles.
【クレジット】
Reuters, “Colorado wildlife refuge at old nuclear plant
is open - for now,” by Keith Coffman, posted on September 25, 2018 at https://www.reuters.com/article/us-usa-nuclear-refuge/colorado-wildlife-refuge-at-old-nuclear-plant-is-open-for-now-idUSKCN1M5195?feedType=RSS&feedName=topNews&utm_medium=Social&utm_source=twitter.
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2018年9月2日日曜日
1957年9月11日、ロッキーフラッツ(コロラド州):この冷戦期の工場はデンヴァーから16マイルに位置し、核兵器のプルトニウム起爆物を製造していた。同工場は、米国史上で2番目に大規模な産業火災といわれることになる事態に陥り、人間が吸引可能なプルトニウム239およびプルトニウム240の粉体13.6ないし20キログラムに着火した。プルトニウム捕捉用の濾過装置が破壊され、プルトニウムが排気筒から放出され、デンヴァーの各所を汚染した。風下住民に対する警告・保護措置は、なんら実施されなかった。
2018年8月30日木曜日
全米で最も新しい国定野生生物保護区は、一面プレィリーグラス[訳注:イネ科の高草]で覆われ、エルクの一群が生息しており、来月、コロラド州の最大都市のすぐ外側で一般公開される予定になっている。だが、デンヴァー州首都圏の7校区がすでに、保護区で野外学習をするのを学校が公認することを禁止している。地元保健当局のトップは、自分がそこに行くようなことはおそらくないだろうという。それに町は、土壌含有物の成分を巡って提訴している。