2014年6月11日水曜日

【海外論調】カール・グロスマン「核にまつわる否認~フクシマをめぐる途方もないウソ」

201433
核にまつわる否認
フクシマをめぐる途方もないウソ
Nuclear Denial
The Giant Lie About Fukushima
カール・グロスマン KARL GROSSMAN
福島第一原発の破局的な核惨事の勃発から3周年を来週に控えて、災害をめぐる意図的な途方もないウソ――情報の抑圧、歴史的次元の不誠実な企て――がつづいている。
登場するのは、国際的な機関、とりわけ国際原子力機関(IAEA)、現職の総理大臣が率いる政府機関、有力な核産業、科学者らの「核の権威筋」、その他もろもろの原子力に利権をもつ集団である。
策略は原子力推進の発足時から、それに組み込まれていた。じっさいの話し、わたしが核技術についての初めての本“Cover Up: What You Are Not Supposed to Know About Nuclear Power”(仮題『隠蔽~あなたが原子力について知ってはならないこと』)を開いたとき、こう書かれていた――「あなたは原子力に関する情報を与えられていない。説き聞かされていないのだ。それは目的あってのことである。原子力の推進派は、大衆を目隠ししておくことが成功のための必須条件であると考えた。政府、科学界、私企業の原子力を推進する連中は、国民が事実を知らされ、原子力の影響を知れば、支持しないだろうとわかっていた」。
1980年刊の同書を読んだことがきっかけになって、わたしは原子力に関する講演を数多くこなすようになり、その会場でわたしは何度も、破局的な事故が起こって初めて国民が原子力の致命的な破壊力をたっぷりと理解するだろうという感想を聞かされた。
はたして、巨大規模の核事故――1986年のチェルノブイリ災害、そして2011311日に勃発し、大量の放射性毒物を環境中に放出しながら継続中の破局的なフクシマ惨事――が起こった。
その一方、核推進派の姿勢は――フクシマ事故の影響は基本的にありもしないと言い張る――否認である。巨大規模の核事故が起こっても、連中はそんなものなかったと信じさせようとする。
「フクシマは、ヒロシマ・ナガサキの原爆投下ではじまった否認と論争の不気味な再演である」と昨年、エール大学のチャールズ・ペロウ名誉教授はBulletin of the Atomic Scientists(訳注:『原子力科学者会報』、終末時計で有名)にこう書いた――「これは、核実験、イングランド北部ウィンズケールとウラル山系チェリャビンスクのプルトニウム工場事故、米国スリーマイル・アイランドと現ウクライナ・チェルノブイリの原発事故を見舞ったのと同じ核にまつわる否認である」。
フクシマの違いは、惨事の規模にある。フクシマの場合、原子炉6基が立ち並ぶ原発敷地内の複数の炉心メルトダウンである。日本の主要部が汚染されつづけ、放射能が空中に放出され、風に乗って世界を回り、膨大な量の放射能が太平洋に流れ込み、潮流に乗って移動し、海洋生物に摂取されて運ばれている。
地球規模のフクシマ隠蔽を主導しているのが、1957年、国連によって設立され、「全世界における平和、保健及び繁栄に対する原子力の貢献を促進し、及び増大する」任務を付託された国際原子力機関(IAEA)である。
IAEA2011年、フクシマ災害の結果について「今日まで、今回の原子力事故による放射線被ばくの結果として人が健康上の影響を受けた事例は報告されていない」(IAEA調査団報告:暫定的要旨)と報告し、この主張を今にいたっても維持している。
IAEAと協力しているのが、世界保健機関(WHO)である。WHOは、放射能と原子力に関連する問題について、早くからIAEAに隷従することになっていた。やはり国連によって設立されたWHOIAEA1959年に締結された――そして、今日につづく――協定関係に入り、IAEAWHOは「相互に緊密な協力の下に行動し」、また「いずれかの機関が、他方の機関が重大な関心を持つか、持つ可能性のある計画または活動を企画するさいには、常に、前者は後者と協議し、相互合意にもとづく調整を図らなければならない」とされた。
IAEAWHO協定は「WHOは、IAEAによる事前の同意がなければ、いかなる調査も実施できず、いかなる情報も公表できず、いかなる人びとの支援にも乗り出せず…WHOは実質的・現実的に、国連家族内でIAEAの下僕になっている」ことを意味すると、18年間のWHO勤務経験があるアリソン・カッツが昨年、リビー・ハレヴィの「ニュークリア・ホットシート」ポッドキャストで説明した。
カッツは核の問題に関して、「諸国政府、国家機関、また残念なことに世界保健機関を巻き込んだ、非常にハイレベルの制度的・国際的な隠蔽があります」と、The WHO/IAEA—Unholy Alliance and Its Lies About Int’l Nuclear Health Stats(仮題「WHOIAEA~国際核健康被害統計に関する不浄な提携」)というタイトルの番組で語った。カッツはいまIndependentWHOIndependentWHO原子力と健康への影響)という団体に加わっており、彼女はそれを「核ロビーからの、とりわけその代弁者であるIAEAからのWHOからの完全な独立」を求めて活動しており、「WHOが放射線と健康の分野でその憲章に謳う管轄権をまっとうするように、わたしたちはWHOの独立を要求しています」と説明する。
カッツは「ニュークリア・ホットシート」で、「わたしたちは、すべての核に関連する活動による健康と環境への影響が社会に知られるようになれば、原子力をめぐる論争は明日にでも終結すると固く信じています。事実、社会はおそらく即座に原子力をエネルギー選択肢から排除するでしょう」と語った。
WHOは昨年、フクシマ核事故に関する報告(Global report on Fukushima nuclear accident details health risks)を公表し、「日本国内外の一般社会において、予測されるリスクは低く、基礎罹患率を超える癌罹患率の目に見える上昇は予想されない」と主張した。
さて、ここで日本国の安倍晋三・新総理大臣が登場し、昨年、オリンピック2020年夏季大会の東京(フクシマから290キロ)招致の成功を期して、国際オリンピック委員会を前にして、こう主張した――「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません」(訳注:原文から離れて安倍首相スピーチのテキストの該当箇所から引用)。日本に原子炉が54基あって、破局的なフクシマ核惨事の余波で停止しているが、安倍はその再稼働を強硬に後押ししている。
安倍の見解は、核惨事の勃発時の総理大臣、菅直人の見解と全面的に違っている。管は昨年、ニューヨークで開催された会議(The Nuclear Forum)において、かつて自分がどれほどの原子力の支持者であったかを話したが、福島事故のあと、「わたしは自分の考えを180度、完全に変えました」と語った。彼は、ある時点で「東京を含む地域」の住民5000万人を避難させなければならなくなるように思えたと断言した。「航空機の墜落などの事故がありますが」、核惨事を除いて、「5000万人に影響をおよぼす事故や災害はありません…他にそのような悲劇の原因になる事故はないのです」と管は発言した。管はさらに、「原子力発電所がなくても、わたしたちは需要を満たすエネルギーを間違いなく用意できます」といった。日本は事故後、太陽エネルギーの使用量を3倍に増やしたと彼は語り、ドイツは全原子力発電所の閉鎖を決定し、2050年までに「全エネルギー供給を再生可能エネルギーで賄う」と計画したことでポスト・フクシマ政策の模範になると指摘した。これは世界全体で可能である、と管はいった。「人類がほんとうに協力すれば…わたしたちはわたしたちのエネルギーのすべてを再生可能エネルギーで賄うことができます」。
安倍の姿勢の主要因は、日本が核産業の世界的な担い手になったことにある。ゼネラル・エレクトリック(GE、フクシマ原子炉のメーカー)とウェスティングハウスは、歴史的に世界の原発の80パーセントを建造したり設計したりして、世界の原発産業におけるコカコーラとペプシの関係にある。2006年、東芝はウェスティングハウスの核部門を買収し、日立はGEと核部門の提携関係を締結した。それ故、いまでは世界の2大原子力発電所メーカーは日本ブランドなのである。安倍は日本の沈滞した経済を浮揚させようとして、東芝=ウェスティングハウス製と日立=GE製の原発の売り込みのため、世界を忙しく飛び回っている。
核産業にいたっては、世界原子力協会がその声明文Safety of Nuclear Power Reactors…Updated April 2014(「発電用原子炉の安全性」20144月改訂版)で「フクシマ事故は死者を誰一人として出していない」と断言するする始末である。「世界の核を専門とする人びとと団体を代表する」この協会は、次のように付け加える――「フクシマ事故は、施設作業員の放射線被曝をいくらか招いたが、彼らの健康を害するほどのものではない」。
福島第一原発災害の影響は、どのようなものになるのだろうか?
現時点で知るのは不可能である。だが、これまでに排出された放射性毒物の量とこれからも放出されつづける分の膨大さを考えると、その影響は不可避的に巨大なものになるだろう。フクシマ惨事による影響が生命におよんでいないという主張と将来においても影響がないだろうという見通しは、言語道断のたわごとである。
なぜなら、放射能に「安全」なレベルがないことは、いまや周知の事実であるからである。いかなる量でも、人を殺す。放射能が多ければ多いほど、影響は大きくなる。全米放射能防護測定委員会が宣言するように、「放射線被曝量のいかなる増分も、癌リスクの増分を加える」(The Nuclear Forum)。
かつて、放射能に「閾値線量」があり、それ以下では害がないという概念があった。それは、核テクノロジーの草創期に人びとが放射能に被曝しはじめたころ、すぐに倒れて死ななかったからである。だが年月がたつにつれ、低線量の放射能が時間をかけて癌や他の疾患という結果を招くこと――5年ないし40年間の「潜伏」期があること――が理解されるようになった。
フクシマで放出された放射能による死亡者数は100万人を超えるだろうと予測しているのが、いくつかの大学で教授職を務めてきた欧州放射線リスク委員会(ECRR)の科学書記、クリス・バスビー博士である。博士は、「フクシマはいまだに沸き立ち、日本中に放射性核種をばら撒いています。チェルノブイリは一回限りの炎上でした。だから、フクシマのほうが始末に負えません」と語った。
じっさい、英国の団体「社会における科学の研究所」(Institute for Science in Society)の報告『フクシマ放射性降下物はチェルノブイリに匹敵』(Fukushima Fallout Rivals Chernobyl)は、次のように結論している――「入手しうるかぎり最も包括的なデータセットにもとづく最先端手法による分析の結果、フクシマ炉心メルトダウンに由来する放射性フォールアウトの量は少なくともチェルノブイリのそれに匹敵するほど膨大であり、到達距離でいえば、より世界的である」。
フィンランドとスウェーデンの原子力発電事業者が運営する北欧確率論的安全性評価グループ(the Nordic PSA Group)のために実施された研究によれば、死亡者数は60万人に達すると予測されている(ENENEWSCazzoli paper 2011-09-05)。
「社会的責任を果たす医師たち」創始者、ヘレン・カルディコット博士は、昨年、日本で開催されたシンポジウム「フクシマの医療における意味」(The Medical Implications of Fukushima)において、次のように語った――「この事故は医療における意味合いにおいて巨大です。人びとが放射性元素を吸引し、放射性の野菜、米、肉を食べ、放射性の牛乳やお茶を飲みますので、この事故は癌の蔓延を誘発するでしょう。海洋汚染に由来する放射能は生物濃縮しながら食物連鎖の上方へと移動します…日本の沿岸から何千マイルも遠く離れた海域で放射性の魚が漁獲されることになるでしょう。海産物が消費されると、汚染サイクルを回しつづけることになりますので、あなたがどこにお住まいであっても、すべての大事故があなたの地元のものであるとお分かりになることになります」。
カルディコット博士は、原子力に関する著書のなかの一冊“Nuclear Madness”(仮題『核の狂気』)でも、次のように述べている――「フクシマ惨事は終了していないし、決して終結しないだろう。数十万年にわたり有毒でありつづける放射性フォールアウトは、日本の広大な地帯を覆いつくし、決して『除染』されることはなく、文字通り永遠に食物、人間、動物を汚染しつづけるだろう」。
核事業会社の元上席副社長、アーニー・ガンダーセンは、こう語った――「日本人は数年間のうちに健康への影響を感じるようになるでしょうし、癌となれば、30年とか40年先のことです。これからの30年にわたり、100万症例に達する癌を見ることになるとわたしは信じています」。
フクシマで「われわれは、簡単に閉めることのできない地獄への扉を開いたのです」と、昨年、米国のグループ「核を超えて」(Beyond Nuclear)が主宰する原子炉監視プロジェクトの管理者、ポール・グンターはいった。
すでに過剰な症例数の甲状腺癌が日本で見つかり、これが放射能による打撃の早期徴候となっている。「放射能と公衆の健康」プロジェクト(the Radiation and Public Health Project)のジョセフ・マンガノとジャネット・シャーマン博士、そしてクリス・バズビー博士による昨年の研究(「フクシマ放射性降下物が原因で」)は、フクシマ由来の放射性ヨウ素フォールアウトがカリフォルニアの乳幼児の甲状腺を傷つけたと結論付けた。そして、太平洋におけるフクシマ由来の放射能の最大波は、これから数か月のうちに北米の西海岸に到達すると予定されている。
また一方、スタンフォード大学の研究でカリフォルニア沖合の海域で捕獲されたクロマグロのすべてが、フクシマから大規模に放出された放射性毒物、セシウム137で汚染されていることがわかった。マグロは日本近海からカリフォルニア沖合海域へと回遊する。研究を主導したダニエル・マディガンは次のようにコメントした――「マグロはそれ(放射能)を包み込んで、世界最大の海をわたって運びました。わたしたちはそれを見て、とんでもなく驚き、測定した個体のすべてがそうだとわかって、なおのことビックリしました」
もちろん、財産の損失も巨額である。「社会的責任を果たす医師たち」(PSR)の環境衛生研究所はその報告書『福島第一原発災害のコストと影響』の概要で、経済的損失が2500億ドルから5000億ドルに達するという推計を引用している。約800平方キロメートルの土地が「放棄された市街地、町、農地、家屋、財産」からなる「立入禁止」区域であり、そこから159128人の人びとが「立ち退き」させられたと、PSRの上席科学者、スティーヴン・スターは述べる。さらに、「災害勃発から約1か月後の2011419日、日本政府は公式『安全』被曝放射線量基準を年間1ミリシーベルトから20ミリシーベルト――米国の被曝限度の20倍――に引き上げると決定した。この決定によって、日本政府は放射性降下物の危険性を軽視し、ひどく汚染された多くの地域からの避難を回避できることになった」。
また昨年、日本政府は新たな特定秘密保全法を制定し、フクシマに関する報告を――刑期10年の罰則付きで――規制できるようになった。「これは、いま止めどなく拡大しつつある致死性の世界規模大災害に関する全情報の統制をめざす核体制の癌のような徴候である」と、“Killing Our Own”(仮題『われわれ自身の抹殺』)共著者、ハーヴィ・ワッサーマンは“Japan’s New ‘Fukushima Fascism’”(仮題「日本の新『フクシマ・ファシズム』」)と題された記事で書いた。
一方の米国に目を戻すと、国の原子力規制委員会(NRC)は過去3年間にわたり、フクシマから「学んだ教訓」を適用することを常に拒んできた。その委員長、グレゴリー・ヤツコ博士は、この問題の解消を強く求めようとし、ジョージア州の新規原発2基に対するNRCの「まるでフクシマ惨事がなかったかのような」免許交付に反対を表明したあと、核産業が主導した攻撃にさらされ、辞任に追い込まれた(Fukushima and the Nuclear Pushers)。
カトリック修道尼、ロザリー・バーテルは、数十年にわたる原子力の影響の抑圧とその背後にある理由について、著書“No Immediate Danger”(仮題『ただちに危険はない』)にこう書いた――「公衆が核汚染の真の健康コストに気づくなら、世界の隅々から叫び声があがり、人びとは自分自身の死と受動的に協力することを拒むようになるでしょう」。
このように、破局的なフクシマ核惨事、地球上の生命に影響を深く与える災害を否認しようとする――また、大いに迎合的な主流メディアが隠してきた――動きは、必死のものである。
【筆者】

カール・グロスマンは、ニューヨーク州立大学ニューヨーク校ジャーナリスト学科教授、The Wrong Stuff: The Space’s Program’s Nuclear Threat to Our Planet(仮題『悪性物質~宇宙開発による核物質の地球に対する脅威』)著者。メディア監視グループ、Fairness and Accuracy in Reporting (FAIR)(報道の公正さと正確さ)の提携会員。Hopeless: Barack Obama and the Politics of Illusion(出口なし~バラク・オバマと幻想の政治)に寄稿している。

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