国家権力による弾圧に対しては、 犠牲者の思想的信条、 政治的見解の如何を問わず、 これを救援する。
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郡山通信
浪江町「十万山」森林火災
――フクシマ被曝地戒厳令
フクシマ核惨事グラウンドゼロから西北西、わずかに一〇キロあまり、浪江町・十万山の山頂北側の山林で四月二九日、火災が発生した。
現場は放射性粒子プルームがまともに通過した帰宅困難区域とあって、一般人である消防団員は入れず、林道も崩れて消防車が進入不能であり、消火の主力は陸上自衛隊ヘリに任せ、陸上では消防隊員が水タンクを担ぎ上げて散水を試みるなど、折からの強風もあって、消火活動は困難を極め、翌月一〇日になって、ようやく鎮火したと発表された。焼失面積は、南に隣接する双葉町内の延焼部分を含め、東京ドーム一六個分、七五ヘクタールに達したという。
チェルノブイリ立入禁止区域における森林火災の前例があり、樹木、枯れ枝や落葉などに蓄積した放射性物質が煙や灰の微粒子に乗って再拡散すると恐れるのは当然のことである。だが、TVや新聞の報道によれば、五月八日、山火事現場近隣の集落三か所で大気中を浮遊する塵の放射性セシウム濃度が約三~九倍に跳ね上がったものの、一時的な現象であり、各地の放射線量測定値にも目立った変化が認められないという。林野庁や福島県、浪江町・双葉町合同対策本部の発表に頼っていては、ドツボにはまる没調査報道の情けなさ。
なかでも特筆すべきことに、人口二〇〇万足らずの福島県で発行部数二五万を誇る地元紙、福島民報は五月一三日付け論説で「【浪江山林火災風評】正確な情報で払拭を」と宣い、のっけから次のように記す――
「浪江町井手の十万山の山林火災は本県に対する風評の厳しさを改めて突き付ける結果となった。インターネット上に広がる『フェイクニュース』(真実ではない情報・虚報)を払拭するには、分かりやすく正確な情報を発信し続けるしかない」
いくつか筆者のブログから拾うだけでも、ニューヨーク・タイムズ紙「チェルノブイリ立入禁止区域内の森林火災で放射性物質再拡散の恐れ」、米国を代表する博物館が発行するスミソニアン誌「チェルノブイリ周辺で森林腐食に異変が…」、世界的な自然環境誌、ナチュラル・ニュース「フクシマ核惨事後の山火事~浮遊放射能をめぐる懸念の再来」、あるいはグリーンピース・ロシア篤志消防団員のブログ「チェルノブイリ森林火災は『時限爆弾』」、放射線データを地道に収集している民間団体SAFECASTのブログ記事「浪江町・十万山の森林火災」…これらすべて、近ごろ流行りの一言「フェイクニュース」で片付けていいものだろうか。
論説はさらに「関係機関には正しい情報発信へ一層の努力を望みたい」とつづける。国や県・市町村の担当部署、あるいは「由緒正しい」研究機関だけが「信頼すべき情報発信源」と宣言しているに等しいではないか。福島民報を「大本営」広報紙と名指しても言い過ぎではないはずだ。
筆者が「フクシマ被曝地戒厳令は警察・軍事力の形では(放射能と同じく)目に見えない」とオートツイートしている由縁である。もっとも「共謀罪」が施行された暁には、公安警察の形で可視化するかもしれないが。
毎日新聞福島版は山林火災鎮火後の五月一八日付け記事「浪江・十万山の山林火災~林野庁が現地調査」(リンク切れ)で、林野庁は一七日、県や専門家と連携し、放射性物質の動きを調べるための現地調査を始めたと報じた。この記事は末尾にわざわざ、原発事故直後から森林や農地で放射能調査をしている東大農学部の田野井慶太朗准教授(放射線植物生理学)は「森林の放射性セシウムのほとんどは現在、樹木や腐葉土でなく土壌に吸着しているとされる。火事があっても多くは山林の外に流出しないだろう」と話すと付け加える。放射性物質の環境循環を全否定してみせる東大の先生も豪傑だが、リベラル良識派と目される大手紙でさえ、地域版であっても真贋チェックなしに、ご高説垂れ流しの体たらく。
余談ながら、十万山火災に関しても、全国ニュースは調査報道なしのスカスカだが、わが国の全般的なジャーナリズム状況については、在日フリージャーナリスト、デイヴィッド・マクニール氏の評論「偽りの夜明け~日本における番犬ジャーナリズムの衰退」を参照していただきたい。
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