2013年4月24日
仙台高裁決定についての声明
2013.4.26
ふくしま集団疎開裁判弁護団
1. 平成25年(2013年)4月24日,仙台高裁第2民事部は,福島県郡山市立小,中学生14人が,郡山市に対し,年1ミリシーベルトを超える環境下の学校施設で教育活動を実施することの差止め,及び,年1ミリシーベルト以下の環境下の学校施設で教育活動を実施することを求めた民事仮処分事件(いわゆる「ふくしま集団疎開裁判」)の抗告審(なお,抗告した子どもの数は10名)において,その申立てを却下する旨の決定をした。
2. 決定理由の骨子は次のとおりである(分かりやすさのために,趣旨を変えない限度で言葉を足している)。
(1) チェルノブイリ原発事故によって生じた健康被害,福島県県民健康管理調査の結果,現在の郡山市における空間線量率等によれば,子どもたちは,低線量の放射線に間断なく晒されており,これによる,その生命・身体・健康に対する被害の発生が危惧され,由々しい事態の進行が懸念される。この被ばくの危険は,これまでの除染作業の効果等に鑑みても,郡山市から転居しない限り容易に解放されない状態にある。
(2) もっとも,中長期的には懸念が残るものの,現在直ちに不可逆的な悪影響を及ぼす恐れがあるとまでは証拠上認め難い。
(3) 子どもたちは,学校生活以外の日常生活において既に年1ミリシーベルトを超える被ばくをしており,引き続き郡山市に居住する限り,郡山市内の学校施設における教育活動を差し止めてみても,被ばく量を年1ミリシーベルト以下に抑えるという目的を達することができないから,子どもたちにこれを差し止める権利が発生する余地はない。
(4) 子どもたちに対して郡山市の学校施設で教育活動を継続することは,直ちにその生徒の生命身体の安全を侵害するほどの危険があるとまで認め得る証拠もないから,直ちに不当ではない。子どもたちの避難先での教育は地元の教育機関により行われるのが原則であり,避難元の公的教育機関がわざわざ地元の教育機関を差し置いてまで別の学校施設を開設する必要はない。子どもたちが自主避難した場合は,子どもたちは避難先の公的教育機関で教育を受けることで被ばく被害を回避する目的は達成される。言い換えれば,子どもたちは郡山市に対し避難先での学校教育を求めることはできず,また,郡山市は避難先で教育活動を実施すべき義務を負うものでない。
(5) 子どもたちに自主避難が困難とすべき事情は認められず,保全の必要性がない。
(1) チェルノブイリ原発事故によって生じた健康被害,福島県県民健康管理調査の結果,現在の郡山市における空間線量率等によれば,子どもたちは,低線量の放射線に間断なく晒されており,これによる,その生命・身体・健康に対する被害の発生が危惧され,由々しい事態の進行が懸念される。この被ばくの危険は,これまでの除染作業の効果等に鑑みても,郡山市から転居しない限り容易に解放されない状態にある。
(2) もっとも,中長期的には懸念が残るものの,現在直ちに不可逆的な悪影響を及ぼす恐れがあるとまでは証拠上認め難い。
(3) 子どもたちは,学校生活以外の日常生活において既に年1ミリシーベルトを超える被ばくをしており,引き続き郡山市に居住する限り,郡山市内の学校施設における教育活動を差し止めてみても,被ばく量を年1ミリシーベルト以下に抑えるという目的を達することができないから,子どもたちにこれを差し止める権利が発生する余地はない。
(4) 子どもたちに対して郡山市の学校施設で教育活動を継続することは,直ちにその生徒の生命身体の安全を侵害するほどの危険があるとまで認め得る証拠もないから,直ちに不当ではない。子どもたちの避難先での教育は地元の教育機関により行われるのが原則であり,避難元の公的教育機関がわざわざ地元の教育機関を差し置いてまで別の学校施設を開設する必要はない。子どもたちが自主避難した場合は,子どもたちは避難先の公的教育機関で教育を受けることで被ばく被害を回避する目的は達成される。言い換えれば,子どもたちは郡山市に対し避難先での学校教育を求めることはできず,また,郡山市は避難先で教育活動を実施すべき義務を負うものでない。
(5) 子どもたちに自主避難が困難とすべき事情は認められず,保全の必要性がない。
3. 本決定は,低線量被ばくが子どもたちの生命,身体,健康に与える影響について1の(1)において正しい認識を示しながら,同(2)においては,「中長期的には懸念が残るものの,現在直ちに不可逆的な悪影響を及ぼす恐れがあるとまでは証拠上認め難い」と述べた。しかし,本決定が引用する福島県健康管理調査によれば,これまで100万人に1人と言われていた小児甲状腺がんが,僅か3万8000人の余りの検査で既に3名確定診断され,7名が強く疑われている。もはや,危険は中長期的なものではなく,今現在,健康被害について不可逆的な悪影響を及ぼす恐れがある可能性が高いのである。その意味でこの部分は重大な事実の誤認であり,撤回すべきである。
4. 私たちは,子どもたちに対して教育を実施する憲法上の義務を負う郡山市は,子どもたちに対し,安全な環境下で教育を実施する義務がある,すなわち,子どもたちを避難させる義務を負うと主張していた。小中学校の設置場所については,「その区域内に設けるのが原則であるが,やむをえない理由がある場合は区域外に設けることもできる」(昭和34年4月23日文科省通達)のである。また,私たちは,経済的問題,子どもの気持ちの問題,行政による放射能安全宣伝の浸透等から,今の福島で自主避難を決断することがいかに困難であるかを力説してきた。しかし,本件決定は,子どもたちが自主避難すれば,郡山市としてやるべきことはなく,郡山に住み続けるのなら,郡山市が子どもの被ばくを1ミリシーベルト以下に押さえるすべはないという特異な理屈で,本件申立てを退け,私たちの上記主張には,全く答えることがなく,いわば「肩透かし」をした。
結局,裁判所は,チェルノブイリ報告書や福島県民健康管理調査の結果等から,子どもたちの生命身体への被害発生の危険性を正当に評価し,「由々しい事態の進行が懸念される」と強い調子で断定し,集団疎開は,「被ばく被害を回避する一つの抜本的方策として教育行政上考慮すべき選択肢である」とまで述べながら,子どもたちが郡山市に対して避難を求める権利を有することを認めず,匙を行政に投げ,司法としては,この現在進行中の深刻な人権侵害を手を拱いて見ているしかないと言ったのである。これは,「人権の最後の砦」としての司法が担うべき最も重要な職責を放棄するものにほかならず,強く抗議する。
結局,裁判所は,チェルノブイリ報告書や福島県民健康管理調査の結果等から,子どもたちの生命身体への被害発生の危険性を正当に評価し,「由々しい事態の進行が懸念される」と強い調子で断定し,集団疎開は,「被ばく被害を回避する一つの抜本的方策として教育行政上考慮すべき選択肢である」とまで述べながら,子どもたちが郡山市に対して避難を求める権利を有することを認めず,匙を行政に投げ,司法としては,この現在進行中の深刻な人権侵害を手を拱いて見ているしかないと言ったのである。これは,「人権の最後の砦」としての司法が担うべき最も重要な職責を放棄するものにほかならず,強く抗議する。
5. 郡山市を含む市町村,福島県,国は,せめて司法の上記1(1)の認識,憂慮を深刻に受け止め,速やかに子どもたちの被ばく回避のための抜本的な措置をとるべきである。
最後に,今後行政を動かしていくために,全国の,全世界の心ある市民の皆様に更なる支援をお願いしたい。弁護団としては,新たな提訴も選択肢の一つとして,一日も早い子どもたちの集団疎開の実現に向け,力を尽くす所存である。
最後に,今後行政を動かしていくために,全国の,全世界の心ある市民の皆様に更なる支援をお願いしたい。弁護団としては,新たな提訴も選択肢の一つとして,一日も早い子どもたちの集団疎開の実現に向け,力を尽くす所存である。
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