2013年7月7日日曜日

#Japan_Focus【海外論調】アナンド・グローバー報告と恥ずかしい日本政府の反論

アジア太平洋ジャーナル:ジャパン・フォーカス
アジア太平洋…そして世界を形成する諸勢力の批判的深層分析

フクシマに関する国連特別報告者アナンド・グローバー氏:
2023610
ティエリー・リボー Thierry Ribault
フランス国立科学研究センター(CNRS)研究員

527日、国連人権理事会の特別報告者、アナンド・グローバー氏は、201211月の福島視察に関する報告を公表した。国連人権理事会は――人権保護の――役割をまっとう、または少なくともその意志を明確にしたことになる。本稿では、手厳しく批判的なグローバー報告(ヒューマンライツ・ナウによる仮訳)の主な結論を要約する。
グローバー氏は、大惨事の規模を次のように説明する―― 
「福島第1原発の事故による放射性セシウム(137C)の放出量は、広島原爆によるそれの168倍を超えると見積もられている。東京電力によれば、放射性ヨウ素とセシウムの放出量は900ペタ(1000兆)ベクレルである…原発事故由来の放射性物質として、他にもテルル(129mTe129Te)、銀(110mAg)、ランタン(140La)、バリウム(140Ba)などがある。
報告者はまた、チェルノブイリ事故後にソ連当局が用いたような、放射線被曝の厳しい現実を隠蔽する古いやり方は、もはや許されるべきでないと強い調子で主張している。チェルノブイリ事故以降、長年が経過して、染色体の異常、子どもおよび成人の疾病率の上昇、精神異常、白血病など、放射線被曝に起因する健康障害について、ますます多くのことが知られるようになった。グローバー氏によれば、長期にわたる低線量放射線被曝と癌発症との因果関係は、もはや「有意差なし」として退けることができない。
(チェルノブイリ研究に関する論争および健康に対する放射線の効果について、詳しくは、Matthew Penney and Mark Selden, What Price the Fukushima Meltdown? Comparing Chernobyl and Fukushimaを参照のこと)
 日本の事例について、グローバー氏は、住民に対する安定ヨウ素剤の効果的な配布が欠如していたと批判する。氏はまた、原発作業員の健康保護体制についても、医療検査が(法に反して)系統的に実施されていない、実施された検査の結果の当局に対する適切な伝達がなされていないと問題にしている。決定的なこととして、福島第1原発で働く人たちの大半を占める、下請け企業の作業員らはそのような検査を受診することすら保証されていない。
(福島第一原発の作業員らが直面する問題について、詳しくは、Gabrielle Hecht, Nuclear Janitors: Contract Workers at the Fukushima Reactors and Beyondを参照のこと) 

健康に対する権利が尊重されていない
原発周辺の区域指定システムについて、グローバー氏は、年間1ミリシーベルト以上の汚染地に住民が帰還、居住し、そこで働くことは許されないとする、チェルノブイリ容認不可基準に関する1991年の決定を思い起こさせる。福島の場合、この基準は年間20ミリシーベルトのレベルに設定された。放射線測定値が20ないし50ミリシーベルトである場合、日中であれば、住民の汚染地域出入りは自由である。 
報告者は、日本の当局が(ICRP勧告にもとづいて)用いる「費用・便益分析」について、健康に対する個々人の基本的人権を尊重していないと批判する。グロ-バー氏は、「集団の利害」が個人の人権、ましてや健康に生きる権利に決して優越するべきでないと論じる。グローバー氏は、したがって、個々人が汚染地域への帰還を許される被曝限度値を引き下げることを日本政府に要請し、年間1ミリシーベルトを超える地域では、移住を余儀なくされた人びとに保証金を支払うこと、無料の予防医療を施すことを勧告する。
 グローバー氏は、放射線教育の問題について、学校用の副読本に記載されているような、年間100ミリシーベルトより低い放射線被曝は人の健康に有害でないとする主張をすべて取りやめることを日本政府に要請する。
(教室における100ミリシーベルト安全論について、詳しくは、週刊金曜日サイト記事<100Sv以下発がん証拠なし」――副読に教員ら戸惑い>を参照のこと)
除染について、報告者は、当局が2013年以降の汚染レベルを1ミリシーベルト以下に引き下げる明確なスケジュールを設定していないと遺憾の意を表明する。学校の校庭を除染するだけでは不十分であり、グローバー氏は、平均20ミリシーベルト以下である地域に存在する複数の「ホットスポット」を考慮して、もっと広範囲の除染が必要であると主張する。これらの地帯の一部で、住民たちが自宅や地域に帰還するように求められているからである。氏は最後に、適切な装備や健康への影響に関する明確な情報を与えずに、住民を除染作業に参加させる政策を批判する。
曝心地から10km、特別な看板もなく、道路端に立ち並ぶ汚染土壌の袋
2012
11月、ティエリー・リボー撮影。出所:RUE89 website
 報告者はまた、2012年末に発表された、1100億ユーロまたは1450USドルに相当する額の政府資金、すなわち国民の税金を、東電に責任がある損害の補償にあてることを批判する。
(利益を受ける企業や株主ではなく、納税者が負担する原発の財務リスクについて、詳しくは、Asia-Pacific Journal Feature, The Costs of Fukushimaを参照のこと)

日本政府にとって、WHOUNSCEARの専門家の見解のほかに「真実」はない
 グローバー氏の報告が発表されたのと同じジュネーブの会議で、日本政府は527日付け反論書(ヒューマンライツ・ナウによる仮訳)を提出し、グローバー氏の結論を否定した。日本の当局によれば、グローバー氏の報告には「科学的根拠」が完全に欠如している。日本政府が信頼する「科学的根拠」とは、世界保健機関(WHO)、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際放射線防護委員会(ICRP)、国際原子力機関(IAEA)の專門からが提示する「根拠」なのだ。多くの科学者や核問題評論家らは、これらの機関の姿勢に異を唱えているし、ほかにも、これらの組織が提唱する結論が、核産業との結びつき、そして核の安全性評価と原子力使用の推進という二股の役割を担っているため、疑問であると主張する人たちがいる。
日本政府にとって、UNSCEARが差し出す事実は好都合なものである。福島のメルトダウン事故による影響の評価の任にあたる、この国連機関は、チェルノブイリ惨事後の放射線に起因する即時の死亡は50件に満たず、甲状腺癌の関連死は15件未満であると結論づけたのと同じ組織であり、すでに福島における短期および中期の死亡を「0件」と予想している。この「予想」は20123月から唱えられているものであり、同委員会の最近の報告で確認されている。
日本政府は、よりいっそう良好な住民保護を求めるグロ-バー氏の要請は、すでに実施されている対策の範囲を超えて、該当住民を保護する必要があるとは「科学的に」まったくなにも証明されていないので、完全に的外れであり、余計なお世話であると考えている――日本政府は、適切な支援が本当に必要な人々に提供されるよう、引き続き対策を講じていく」。
グローバー氏は、日本政府が「子どもたちの健康診断を甲状腺検査に限定しないで、尿や血液の検査など、ありうる健康効果すべてを想定した検査に拡大する」ことを勧告しているが、日本政府の返答は次のようなものであるが、今になって、この文節を削除するように要請している―― 
 「介入試験は科学的および倫理的に実施されるべきである。なぜ、血液検査や尿検査が必要とされるのか? どのような類いの障害の可能性のために、そのような検査が正当化されるのだろうか? 医学的に正当化されない検診を強要することによって、地元の住民に不必要な負担をかけるべきでないので、この提案は受けいれられない」

1ミリシーベルト限度値と健康への影響に関する「予断」 
特別報告者は、日本政府が「…移転、住宅、雇用、教育、そのほか、放射線量が1ミリシーベルト/年を超える、いかなる地域においても、避難、残留、または帰還を選ぶ人びとの必要とする基本的な支援のための資金を提供する」ことを勧告している。日本政府は次のように応じている――「上記の文章は、予断にもとづいているので、削除されるべきである。われわれが既述したように、健康に影響する放射線レベルについては、国際的な論争がおこなわれており、いまだにさまざまな観点から多大な考慮を要する」。
 汚染廃棄物について、グローバー報告はこう記す――「汚染廃棄物が住宅地域や運動広場地下に保管されており、その結果、住民に健康被害をおよぼしうるのであり、住宅地域から離れた場所に一時保管施設を設置することが緊急に求められている」。
日本の当局は、この批判に応じるさい、ためらうことなく公然たる虚偽をこう述べる――「土壌、その他を保管するさい、人間の健康への影響を防止するために、放射線遮蔽などの対策が施される。したがって、『住民に健康被害をおよぼしうる』というのは、この場合にあたらない」 
日本政府は、歴史を書き換えている。この歴史改変作業にさいして、66日から8日にかけて日本を公式訪問したフランスの大統領、有力閣僚7名、その他の国会議員ら、産業界代表らが日本政府を助けている。417日にラ・アーグを出港した船舶に積載された10トンの MOXの日本到着もまた、日本政府による原子力発電所の再稼働を後押しすることだろう。
ラ・アーグで船積みされるMOX燃料のキャスク。出所:アレバ社サイト
ティエリー・リボーは、Les Sanctuaires de l’abîme – Chronique du désastre de Fukushima – published by Les Éditions de l’Encyclopédie des Nuisances, Paris, 2012Nadine Ribault(ナディーヌ・リボー)と共著。また、Catastrophy and Humanism – An overview after the march 11 disaster 明石書店、2013年刊『震災とヒューマニズム     311の破局をめぐって』をChristine Lévy(クリスティヌ・レヴィ)とともに共同編集。

本稿は、英語版を日本語訳。オリジナルは、RUE89 website(フランス語)。

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