命と健康をかけた子どもたちの闘い
昨年3月11日の東北沖大地震を発端とした東京電力福島第1原子力発電所の事故により、福島県をはじめとする広大な国土が放射能で汚染された。のみならず、いち早く福島県に送りこまれた長崎大学の「放射線医療の専門家」を自認し、莫大な医療利権を帯びた山下俊一氏らの強引な放射線安全キャンペーンが福島県の社会全体を覆いつくしてしまった。
原発事故の10日後の21日、国際放射線防護委員会(ICRP)が日本政府宛てに声明を出し、事故緊急時の年間被曝基準20~100ミリシーベルト、事故収束後の現存被曝基準1~20ミリシーベルトを医科学的根拠も示さずに勧告した。文部科学省はこれを国際スタンダードと称し、学校生徒らの屋外活動制限基準を20ミリシーベルトとする旨を福島県に通知した。かくして、県内の子どもたちに対する毎時3.8マイクロシーベルトという途方もなく違法な高線量被曝が容認されることになったのである。
このように命と健康にかかわるリスクがないがしろにされる政治・社会状況のなか、郡山市の小中学生ら14名が「年間1ミリシーベルト以下の安全な場所での教育の実施」を求めて福島地裁郡山支部に提訴した。この通称「ふくしま集団疎開裁判」は、緊急避難的な仮処分を求める申立事件である。だが、なぜか審理はだらだらと長引いた。
裁判所の申立却下判断がくだったのが、提訴半年後の昨年12月16日。野田佳彦首相が福島第一原発「冷温停止」と事故「収束」を宣言したのと同日である。
読者のみなさんは、内閣官房「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキング・グループ(WG)」をご存知だろうか。このWG会合は昨年11月から12月にかけて開かれ、11月28日の第5回会合では、ICRP科学事務局長クリストファー・クレメント、ICRP第4委員会委員長ジャック・ロシャール両氏が「緊急時から現存被曝状況への移行」と「ベラルーシにおけるエートス・プロジェクト」に関するプレゼンテーションをしている。
第8回となる最終会合が開かれたのは、12月15日のことであり、「福島県県民健康管理調査『基本調査(外部被ばく線量の推計)、甲状腺検査』の概要について」と標題する文書が配布されている。政府の事故収束宣言と地裁の決定がその翌16日であるのは偶然の産物でないと考えても、あながち間違ってはいないはずだ。
さて、その地裁決定だが、その理由として、①除染作業が続けられ、線量が落ち着いている、②小中学生らには転校・移転の自由がある、③原発事故の責任は郡山市にない、などと郡山市の主張のみを追認。なかでも不当きわまりないのが、「年間100ミリシーベルト以下の低線量被ばくによる健康への影響は実証的に確認されていない」という御用学者の弁舌をオウム返ししたような理由付けである。
目下、抗告審が仙台高裁で係争中であるが、この審理も異常に長引いている。10月1日に審尋期日(法廷審理)が設けられたが、抗告人(原告)弁護団によれば、判事らのポーカーフェイスに遮られて、これからの裁判の見通し予測はむつかしいようだ。
このところ、福島県健康管理調査をめぐる状況が急展開しつつある…
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9月11日、子どもの甲状腺検査について3回目の結果発表。のう胞や結節という異常を示すAⅡ・B判定の割合が前回発表分の36%から今回の44%と急拡大。小児甲状腺がん発症1例の報告。福島県立医大はこれを「放射線とは無関係」と断言。
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10月5日、続報「検討会議事進行表(シナリオ)を県が作成」
AⅡ判定者の再検査が2年後でよい、小児甲状腺がんは事故と無関係など、あらゆる結論は県が作成したシナリオに沿ったものであることが、これで暴露されてしまった。裁判官でなくても良識人であれば、いまや福島県や御用学者らによる放射線安全キャンペーンが隠蔽・虚偽による世論誤導にほかならないことは天下に明白である。
だがそれでも悲しいことに、国際原子力ロビーや国家意思による締め付けは強大であり、裁判の行方は予断をまったく許さない。
命と健康を守るための子どもたちの闘いを全うさせることができるのは、こころある人びとの良識、そして支持と支援だけである。
わたしたち「ふくしま集団疎開裁判」の会は、東京、郡山、仙台など各地で街頭アクションを展開するとともに、「世界市民法廷」をネット上に開設し、市民がみずから陪審員となって、自主的な評決を行うように世界市民に呼びかけている。また同時に仙台高裁に提出する要請書について署名活動を推進している。
「ふくしま集団疎開裁判」の会
代表 井上利男
代表 井上利男
2012.10.05記
(注:紙面では編集の都合上から文を簡略化しています)
(注:紙面では編集の都合上から文を簡略化しています)
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