ICRP放射線防護システムに照らして
日本における原子力発電所事故に学ぶ
初期段階の教訓に関する第84作業部会の報告
2.低線量被曝による放射線効果が原因であるとすること
事故のあと、事故を原因とする将来の人的損失について仮定にもとづく推測がなされてきた。そうした推測は、相互査読された文献に見る数十例からメディア報道に見る50万例のあいだで揺れ動いている。このような人騒がせであり、事実無根で仮想的な計算が、日本国民に深刻な感情的苦痛を引き起こした。
放射線生物学および放射線疫学の科学的知識の認識論的限界、およびそうした限界の低線量被曝状況における健康効果寄与に対する影響は無視されることが多い。これらの限界を明解に説明することが、少数事例の概念的な個人線量を集約した集団実効線量を、健康効果の原因を放射線被曝状況のせいとするためには、過去遡及的にも未来予測的にも用いるべきでない理由を実証するのに不可欠である。
それにもかかわらず意志決定機関にとって、予想される被曝状況による名目放射線リスクを想定し、たとえ低線量域であっても放射線防護策を課することは、部分的には社会的責務、責任、公益、慎重さ、予防といった理由により必要であるかもしれない。
【ICRP第84作業部会勧告】
低線量被曝による放射線効果のせいであるとする疫学研究の限界が理解されること。
低線量被曝による放射線効果のせいであるとする疫学研究の限界が理解されること。
【用語検索】
集団線量は、集団をつくる住民あるいは放射線業務従事者一人一人が受けた放射線量をその集団全体について合計したものである。ある線源によって被ばくする個人数にその人々の平均放射線量を乗じた積で定義される。放射線量として何をとるかによって集団線量は種類が異なるが、もっともよく用いられるものは、臓器または組織の等価線量をとった集団等価線量または吸収線量をとった集団吸収線量、及び臓器または組織に組織荷重係数を乗じた集団実効線量である。
集団線量の単位としては、人・シーベルト(人・Sv)などが用いられる。
集団線量の単位としては、人・シーベルト(人・Sv)などが用いられる。
【訳者によるコメント】
この項では、あまり難しい専門用語は見当たらないようです。しかし、小生の翻訳がまずいせいかもしれませんが、直訳調のままでは、なんとも理解しがたい文であると読者諸賢はみなしておられるはずです。
簡単なことを、理解しがたく書く。これも、この国の学者の戦略のひとつですね。なにしろWG84の主戦力は、放射線の権威を自認する日本人学者たちですから。
それにしても、理解できないままでは、訳者としておもしろくありませんので、次におもいっきり意訳してみます。
【再度の試訳】
2.低線量被曝による放射線の影響を言い立てる
2. Attributing radiation effects from low dose
exposures
事故のあと、事故のため将来に発生すると思われる人的損害が仮定にもとづいて予測されてきた。そのような予測は、同分野の専門家による審査を受けた論文があげる数十人からメディア報道に見る50万人までばらついている。これら人騒がせなだけで根拠のない理論的な計算が、日本の一般社会に深刻な精神的苦痛を招いてきた。
Since
the accident, hypothetical estimates of future casualties due to the accident
have been made. They oscillated between some tens of cases in the peer reviewed
literature to half a million in reports by the media. These alarmist and
unfounded theoretical calculations have caused severe emotional distress in the
Japanese population.
放射線生物学と放射線疫学という科学には認識論的限界があり、低線量領域における被曝による健康に対する影響の解明には、その限界が支障となって無理があるということはしばしば無視されている。過去の結果を知るにしろ、将来を予測するにしろ、低線量域における被曝による健康に対する影響の見積りのためには、少数事例の概念的な個人線量を合算した集団実効線量を用いるべきでない理由をはっきり示すために、こうした限界の明確な説明が欠かせない。
The
epistemological limitations of the sciences of radio-biology and
radio-epidemiology, and their influence on the attribution of health effects to
low-dose exposure situations are often ignored. A clear explanation of these
limitations is essential for demonstrating the reasons why collective effective
doses aggregated from small notional individual doses should not be used to
attribute health effects to radiation exposure situations, neither retrospectively
nor prospectively.
とはいっても、意思決定を担う当局機関が被曝状況を予測し、それを原因とする名目放射線リスクを想定して、たとえ低線量であっても放射線防護対策を強制することは、ひとつには社会的責務、責任、公益、慎重さ、予防といった観点から必要であるかもしれない。
Notwithstanding, it may be necessary for decision-making
bodies to ascribe nominal radiation risks to prospective exposure situations
and impose radiological protection measures even at low doses, in part for
reasons of social duty, responsibility, utility, prudence and precaution.
【再度のコメント】
いかがでしょうか? 少しは読みやすくなったでしょうか?
では、訳者としてのコメントを列挙してみます――
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WG84は、原発被災地に住む人びとの苦痛の原因は、健康に対する被曝の影響があると聞かされることにあると指摘するだけで、直接原因であるはずの被曝そのものによる苦痛にはまったく触れていない。
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「認識論的限界」という中身の定かでないことばを持ちだして、低線量域における健康被害を否定するみずからの立場の言い訳をしている。
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民間による健康被害見積りを認めず、当局の行動のみを是認し、「知らしむべからず、よらしむべし」原則で一貫している。
読者諸賢にも、コメントをどうぞ…
【【リンク】
【資料】ICRP第84作業部会報告「福島原発事故の教訓」(全文)
【資料】ICRP第84作業部会報告「福島原発事故の教訓」(全文)
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