2017年11月13日月曜日

シカゴ大学☢核の時代Ⅳシンポジウム「#フクシマ:生きものの記録」



核の時代Ⅳシンポジウム
福島 生きものの記録
Fukushima: A Record of Living things
20171028日 ● シカゴ大学

スケジュール

9:00 コーヒー
9:30 岩崎雅典監督による冒頭挨拶
10:00 福島:生きものの記録(エピソード2)異変
11:30 岩崎雅典、羽山伸一を交えた議論
12:00 ランチ(2階ティールーム)
13:00 福島:生きものの記録(エピソード5)追跡
14:35 証言:トリシャ・プリティキン「ハンフォードの風下住民」
メアリー・オルソン「ジェンダーと放射線」
14:45 休憩
15:00 パネル・ディスカッション
16:00 パネル質疑応答

アトミック・エイジⅣについて

核の時代IVが、122日の「制御され、自律継続する史上初の核連鎖反応」の75周年にまつわるシカゴ大学の3か月におよぶ行事に貢献できるのは幸運な偶然の一致です。(70周年の記念行事をおこなったのは、シカゴ大学ではなく、シカゴのインターナショナル・ハウスにて20121213日、「廃棄物の山、70年間の堆積」と銘打った会議を開催した卓越した活動家のみなさんでした。この会議の資料は、核エネルギー情報サービス・サイト<http://neis.org/2012-conference/>)

岩崎雅典の映画『福島:生きものの記録』の上映は、アトミック・エイジⅢ(核の時代Ⅲ)において、進化生物学者、ティモシー・ムソーがフクシマ核惨事以降の「ヒト以外の生物相」の状態に関して提示したプレゼンテーションが探求したテーマを感じさせます(じっさい、ムソー自身がエピソード2に登場します)。岩崎は環境・野生生物ドキュメンタリー分野において長年の卓越した経歴を積んでおり、2013年にフクシマ核惨事後の植物と動物の生態に関する最初の作品を完成し、その後つづけて各年に一本を公開し、その作品は現時点で5本を数えています。植物界と動物界における変化の年次記録は、核惨事に対して、著しく新鮮で無言のうちに惹きつける視点を与えてくれます。これらの映画に登場する調査員は、関心のある市民たちと専門家たちです。

日本獣医生命科学大学の羽山伸一教授は、いくつかのエピソードに登場する専門家です。彼が長年つづけたニホンザル研究、とりわけ人間の居住地に近接した生息域に関連した研究によって、この種族がこうむった放射線被曝の影響を研究する準備が思いがけなくも整っていました。岩崎監督がこの映画シリーズのタイトルを決めるにあたって、黒澤明の1955年作品『生きものの記録』に着想を得ており、この映画では、驚くほど若かった三船敏郎が、ヒロシマとナガサキの原爆投下のたかだか10年後のできごと、太平洋の核実験を恐れるあまり、嫌がる家族をブラジルに移住させようとする横暴な家長の役を演じていました。日本社会が東京2020年オリンピック大会に向けて突進するいま、この映画は65年の歳月を超えて、なにが狂気なのか、なにが正気なのか、問いかけているようです。

参加者

岩崎雅典は北日本の秋田県出身、1968年にフリーランサーとして映画製作業界にデヴュー、北斗映画社、岩波映画製作所、公共放送局NHKのためにドキュメンタリー映画とTV番組を製作。1981年、撮影カメラマンら同僚たちとともに群像舎を設立、野生生物と地球環境に関するドキュメンタリー製作に打ち込む。岩崎は、ニホンザル、イヌワシ、サシバやユキヒョウ、あるいは人間居住域におけるクマ出没の増加、かつては日本で二番目に大きかった湖、八郎潟における米作のための埋め立てにまつわる厄介な影響などの問題を主題とした映画で、日本内外の賞を獲得した。2013年に『福島:生きものの記録』シリーズを開始。

羽山伸一は日本獣医生命科学大学の教授、野生動物医学を専門とする。学生時代から日本原産の絶滅危惧種哺乳類・鳥類を調査してきた。また2011年の東日本大震災以降、災害派遣獣医療チーム(VMAT)の訓練に献身。スリーマイル・アイランドとチェルノブイリの両事故とも、近隣の野生地帯にヒト以外の霊長類は見つからなかったので、人間とニホンザルの関係に分け入る彼の長年にわたる研究はフクシマ核惨事後に新たな意義をもっている。羽山ら研究チームは“Concentration of radiocesium in the wild Japanese monkey (Macaca fuscata) over the first 15 months after the Fukushima Daiichi nuclear disaster”[福島第一核惨事後、最初の15か月間における野生ニホンザルの放射性セシウム蓄積](PLOS ONE, 2013)、“Low blood cell counts in wild Japanese monkeys after the Fukushima Daiichi nuclear disaster”野生ニホンザルにおける福島第一核惨事後の血球細胞計数値の低下](Scientific Reports, 2014)といった英語論文を公開しており、最近のものとしては“Small head size and delayed body weight growth in wild Japanese monkey fetuses after the Fukushima Daiichi nuclear disaster”[野生ニホンザル胎児における福島第一核惨事後の頭部サイズ縮小と体重増加の遅延](Scientific Reports, 2017)がある。

ロバート・ジェイコブスRobert (Bo) Jacobs)は核テクノロジーと放射線テクノ政治に関する歴史家、2005年から広島市立大学・広島平和研究所の教授。冷戦初期の米国文化に見る心象風景に関する彼の最初の仕事が、著書“The Dragon’s Tail: Americans Face the Atomic Age”(2010:日本語訳『ドラゴンテール : 核の安全神話とアメリカの大衆文化2013年)に結実した。最新作は、共編書“Reimagining Hiroshima and Nagasaki: NuclearHumanities in the Post-Cold War”[ヒロシマ・ナガサキのイメージを見直す――ポスト冷戦期の核ヒューマニティ](2017)。ジェイコブスは、核実験場、核関連生産施設、核惨事現場に近接する地域社会と住民世帯における放射線被曝の社会的および文化的な影響を追究してきた。彼は、世界中の放射線の影響をこうむった地域社会を繋ぐために活動するグローバル被爆・被曝者プロジェクトの事業リーダー。

マーサ・マクリントックMartha McClintock)は、シカゴ大学、精神・生物学研究所の創立者・所長、心理学のデイヴィッド・リー・シリンガー功労賞名誉教授。彼女はまたアメリカ芸術科学アカデミーのフェローであり、全米科学アカデミー医学研究所に所属。生涯にわたる一大関心事は、社会的・物理的環境が生物学的メカニズム、とりわけ疾患および生殖能力におよぼす影響のプロセスであり、彼女は動物種とヒトの両者における、このプロセスを追求してきた。

メアリー・オルソンMary Olson)は1991年から核情報資料サービス(Nuclear Information and Resource ServiceNIRS:教育目的の非政府組織)の上席放射性廃棄物専門研究員、Gender and Radiation Impact Project[ジェンダーと放射線の影響プロジェクト]の創立者。性差と放射線に関するオルソン独自の分析は、2011年以来、彼女の中核的な業績の基礎となってきた。彼女は国連をはじめ、米国の内外で、放射性廃棄物政策について、健康、安全性、人道の視点から教育、執筆、発言してきた。国連・核兵器禁止条約の前文は、「女性および女児に対する不均衡な影響」について言及しており、オルソンの業績の意義を反映している。オルソンは5週間にわたる日本ツアーで主役講演者を務め、そのさいに彼女自身が若い研究員として放射線物質で汚染される経験をしており、福島第一核惨事の被災者と共通の立場を得たことになる。

トリシャ・プリティキンTrisha Pritikin)は、19457月のトリニティ実験、そして194589日に長崎を破壊した原子爆弾で使われたプルトニウムを製造したハンフォード核兵器施設の陰に覆われるほど近いワシントン州リッチランドで生まれ育った。世論の圧力と情報公開法によって、1944年以降、数十年にわたり、ハンフォードの操業が風下および川下の無辜の民に被害をもたらしたことが情報公開されるようになった。プリティキンのご両親は放射線誘発性の癌で死亡し、彼女自身がハンフォードの放射能放出で被曝し、副甲状腺疾患、その他の健康不調をこうむっている。プリティキンは弁護士であり、元作業療法士として、これまで30年以上にわたりハンフォード風下住民を擁護するために働き、目下、世界の放射線被曝住民の弁護を担う非営利組織、放射線被曝影響(CORE)博物・文書館の館長を務めている。近刊予定の彼女の著作は“The Plaintiffs: Hanford Downwind”[原告――ハンフォードの風下]と標題されている。

さらに『核の時代』シリーズについて

ノーマ・フィールド(シカゴ大学)、宮本ゆき(デュポール大学)、ヤマグチ・トモミ(モンタナ州立大学)、マツモト・マサキ(シカゴ大学)が、MT・シルヴィア(M.T. Sylvia)の映画“Atomic Mom”[原子力母さん](2010年作品。主演:2名の母親、ネヴァダ核実験場の生物学者、ポウライン・シルヴィア[Pauline Sylvia]、そしてヒロシマの被爆者、岡田恵美子)および鎌仲ひとみ『ミツバチの羽音と地球の回転~Ashes to Honey~』(2010年作品。近隣地における原子力発電所の立地を阻止するための数十年にわたる祝島住民の闘い、そして維持可能なエネルギー生産モデルを開発するスウェーデン人の記録)の上映を通して、核兵器と核エネルギーに通底する問題を探るシンポジウムを計画しはじめたのは、2010年の秋のことでした。わたしたちは、シンポジウムが開催される20115月の3か月前、フクシマ核惨事が勃発するなどとは、もちろんのこと、予想していませんでした。あるいはまた、わたしたちが「核の時代」Ⅳを計画しはじめたころ、新たな核問題が――今回は、兵器の形で――切迫するなどと予想するなどできませんでした。第一回と今回のシンポジウムのあいだに、わたしたちは二回の「核の時代」シンポジウムを開催しました。「核の時代」Ⅱ(2012年)は、特別ゲストとして小出裕章(京都大学原子炉実験所の助教、その後に引退)と武藤類子(福島原発告訴団)をお招きしましたが、核兵器・核エネルギーの両問題にまたがる講演者たち、「社会的責任を果たすための医師団」の故ジェフリー・パターソン、平和と環境の正義を追求する活動家であり、サヴァンナ・リヴァー核再処理・保管施設を監視しているボビー・ポウル、原子力発電所の元運営担当者であり、エネルギー省局長のディーン・ウィルキー、それにオンライン・メディアの専門家であり、惨事における「技術的、環境的、人道的進化」の支援をめざすウェブサイト“SimplyInfo”のキーパーソン、ナンシー・フォウストも参加していました。「核の時代」Ⅲ(2016年)はデュポール大学で開催され、特筆すべきことに、同大学の学生らによるプレゼンテーション、ケルセイ・ハスラムによるイリノイ州内の核反応炉のスライドショー、ロバート・J・ジョンストンによる「核の時代における責任」、ジャスミン・デラ・ルナによる「人種主義のレンズを通した環境正義」プレゼンテーションが披露されました。基調講演は、サウスカロライナ大学生物学部、ティモシー・ムソーによる「ヒロシマからフクシマへ:わたしたちが非ヒト生物相に対する放射線の影響について学んだこと(そして、わたしたちがさらに詳しく知らないのは、なぜか?)」、ならびに“Honor Our Pueblo Existence”[われらプエブロの存在を尊重せよ](HOPE:ニューメキシコ州サンタ・クララ・プエブロ)族長、マリアン・ナランジョによる「核の時代:プエブロ女性の経験」でした。(シンポジウムの過去ログ情報、その他の資料、そして日英両言語による新情報ブログ・ニュース記事が「核の時代」ウェブサイトで見つかるでしょう)

「核の時代」シンポジウムの他にも、東アジア研究センター日本研究委員会の支援によって、『六ケ所村ラプソディ』(物議を醸した北日本の六ケ所村核再処理工場、ならびにセラフィールド核再処理工場とアイリッシュ海両岸におけるその影響を記録した2006年作品)の上映のために鎌仲ひとみを招き、彼女の最新作『小さき声のカノン――選択する人々:Little Voices from Fukushima』(フクシマに残った人びとと去った人びと、およびチェルノブイリの影響をこうむったベラルーシの人びとを記録した2015年作品)を上映するために再度の招聘をすることが可能になりました。2016年のフクシマ核惨事5周年には、わたしたちは『小さき声のカノン』と併せて、反原発派弁護士で今は映画監督、河合弘之の『日本と原発:私たちは原発で幸せですか?』(日本における原子力が招いた多角的な問題を描いた2014年作品)を上映し、ケネット・ベネディクト(原子力科学者会報)、ジュディ・ホフマン(シカゴ大学シネマ・メディア研究科)、ハガ・カズ(オークランド、イースト・ポイント平和アカデミー)、藤本典嗣(ノリツグ。福島大学・地域産業政策分野担当、東京大学に移籍)による議論を併催しました。わたしたちは201610月、広島市による公的支援を得て、他分野の研究機関と協調し、“Voices of Hiroshima”[ヒロシマの声]プログラムに参画し、ヒロシマ被爆者、寺本貴司の証言に耳を傾けました。

当文節で紹介した映画の大半は、その他の関連作品と併せて、東アジア研究センターの映像ライブラリーで貸出可能。

わたしたちは支援します――

この機会に、「311甲状腺がん子ども基金」を紹介します。このシンポジウムで上映したドキュメンタリー『福島:生きものの記録』シリーズのエピソード5で、初めて人間が研究対象として登場します。映画の主題は子どもたちであり、甲状腺癌です。同基金は、癌を診断された子どもたちとその家族の暮らし向きを支援する団体として、「チェルノブイリ核惨事につづく歳月のあいだ、子どもたちのあいだに甲状腺癌症例の急増が見受けられました。福島県による健康調査の結果、やはり大勢の子どもたちが甲状腺癌と診断され、手術を受けています。リンパ節転移、遠隔転移、再発といった深刻な症例が報告されています」(英語版「基金の目的」)と述べています。わたしたちは寄付金を募り、基金宛てに送金します。詳しい情報を得て、オンライン送金するために基金のサイト:http://www.311kikin.org/をご訪問ください。

当イベントはシカゴ大学・東アジア研究センター(CEAS)日本研究委員会による支援、ならびに米国教育省の国家情報センター助成金タイトルⅣによる公的支援を受けています。世話人はノーマ・フィールド(シカゴ大学、退職)と宮本ゆき(デュポール大学)、協力者は、ボーダッシュ聡子(コロンビア・カッレジ・シカゴ)、片桐葉子(シカゴ大学)、友松利英子(法政大学中等高等学校の元副校長、現在は地域社会メンバー)のみなさんです。フィールドは、イベント中の通訳補助をいただいた世話人仲間のみなさんに感謝を申しあげます。わたしたち一同は、疲れ知らずの支援をいただいたマイラ・スー、コニー・イップ、CEASのアビー・ニューマンに感謝を申しあげます。

【出処】


【関連記事】

2017112日木曜日
フォーブス誌【Tech

今年になって、福島県の避難住民は自宅に戻りはじめ、暮らしを再開しているが、そこにずっと生きてきた猿たちはその人たちに――医療記録の形の――警告を提示している。
2008年以来、ニホンザル個体群を調査してきた野生動物の獣医学専門家によれば、ニホンザル――とりわけ福島第一原子力発電所の20113月メルトダウン事故以降に誕生した若年個体――が放射線被爆に伴う影響を示している。




【関連論文】

2014731日木曜日
サイエンティフィック・リポーツ【環境】
福島市の森林地域に生息する野生のニホンザルの血球数が、青森県のサルと比べて少ないことを報告する論文が掲載される。この結果は、ニホンザルの血球数の変化の一因が、福島第一原子力発電所事故後の放射性物質の被曝であった可能性を示唆しているが、正確な原因は証明されていない。


7 件のコメント:

  1. こんにちは。
    シカゴ大学のシンポジウムでお手伝いをした者です。ノーマ・フィールドさんが知り合い(関西に避難している方)からこちらのブログのことを知らされたということで、私も読ませていただきました。シンポジウムのことも、羽山先生の研究についての Forbes の記事のことも、迅速に余すことなく翻訳して掲載していただいて、メンバー一同感謝の気持ちでいっぱいです。
    できましたら直接ご連絡を差し上げたいので、メールアドレスをいただけると大変助かります。

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  2. おはようございます。ご連絡、ありがとうございます。
    申しわけありませんが、当方のメールアドレスは公開していませんので、できれば、Twitter ID: @yuima21c宛てにダイレクト・メッセージをいただけないでしょうか。

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  3. こんにちは。ご連絡をありがとうございました。ツイッターのアカウントを持っていないのですが、イノウエさんは Facebook のアカウントはお持ちですか?

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  4. Facebookのアカウントは、本名のままの「井上利男」です。FBはあまり熱心に使わず、Twitterのタイムラインがそのまま流れているだけですが、メッセンジャーは便利で重宝しています。

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    1. 早速検索しましたが、井上利男さんが複数いらっしゃって、そこで止まってしまいました。メッセンジャーも友達でないと使えないようなので(私の設定がそうなっているだけかもしれませんが)、大変お手数ですが
      友松利英子(Rieko Tomomatsu)
      のアカウントにリクエストをいただけないでしょうか。
      どうぞよろしくお願いいたします。

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  5. 井上利男さま

    ていねいな翻訳を通して、私たちの活動を紹介していただけて感謝しております。また、たいへん充実したブログに出会えたことを喜んでおります。

    いつか、直接お話できたら、と思います。

    Norma Field

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    1. Norma Fieldさま
      おはようございます。嬉しいおことば、ありがとうございます。

      わたしのプライベートな連絡先をRiekoさまにお伝えしておきましたので、よろしくお願いします。

      井上利男

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