2012年7月25日水曜日

7.24【東京新聞】特報部:原子力規制委員長に内定、田中俊一氏


当ブログでは、このところエートス・プロジェクトにかかわる情報を追っていますが、いってみれば現在の野田佳彦・民主党政権そのものが、「人間性」「住民主体」などの美しい装いで被曝状況の不可視化を図り、もって原子力推進政策・勢力の温存を企てるエートスの精神を体現しているようです。
原発事故によって信用が失墜した原子力安全委員会と原子力安全・保安院を統合して新たに設置される「原子力規制委員会」の委員長に「放射線安全フオーラム」理事長・田中俊一氏を内定する人事も、そのエートス政策の一環であるようです。
ちなみに、細野晴臣・原発担当大臣が主宰する内閣官房「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ(WG」の第7回会合において田中氏は報告をおこない、この同じWGの第5回会合に、ICPR(国際放射線防護委員会)科学事務局長のクリストファー・クレメント氏とともに、エートス・プロジェクトの主唱者、ジャック・ロシャール氏が出席し、その理念と実践を報告しています。
田中俊一氏の人物像について、東京新聞特報部がすぐれた調査報道を記事にしていますので、東京新聞東京メディア事業部知的財産課によるご厚意により、ここにOCR復刻のうえ、掲載させていただきます
2012724日付け【東京新聞】
こちら特報部
規制委員長内定、田中氏の「素顔」
市民派というより「ムラ人」
政府は原子力規制委員会の初代委員長に、元日本原子力学会会長の田中俊一氏を内定した。国会の同意が必要で、近く諮られる。政府はこの人事に「透明性」「中立性」を求めた。人選はその理念にかなっているのか。田中氏を「市民派」「脱・原子カムラ」と評価する見方もあるが、本当にそうなのか。「こちら特報部」も身体検査を試みたが、どうにも納得がいかないのだ。   (小倉貞俊、中山洋子)
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被ぼく楽観、帰還後押し
疑間が多い飯舘村対策
田中氏が「市民派」「脱・原子カムラ」と見られるのは、福島原発事故直後に緊急提言をした十六人の原子力専門家の一人だったからだ。
総力を挙げて事故収拾にあたるべきだとする提言の冒頭で「原子力の平和利用を先頭に立って進めてきた者として、国民に深く陳謝いたします」と率直に謝罪した。
事故の当事者意識を欠く専門家らに失望が広がっていたが、少なくない人々がこの謝罪に「研究者の良心」を感じた。
田中氏は福島県出身。事故直後から同県内で除染活動に携わり、政府の縦割り行政を批判してきた。しかし、実際に政府の人選基準はクリアできているのだろうか。
福島県除染アドバイザーを務めるが、日中氏が策定に加わった同県飯舘村の復興計画について「避難より除染ありき」と疑間視する声は多い。
田中氏は事故直後、高線量の同村長泥地区で民家の除染実験を行い、「(飯舘村は)これだけ広いんだから」と、除染上の仮置き場を村が提供するよう説得。「何もしなければ帰ってこられないんですよ」と被災者を追い込む姿がテレビで放映され、物議を醸した。
同地区は今月十七日、「帰還困難区域」に再編されたが、飯舘村の酪農家で、現在は同県伊達市に避難する長谷川健一さんは「除染はまったく進んでいない」と断じる。
「田中さんは『線量を下げることはできる』と言ってこられた。だが、除染がどれだけ困難な作業かは、住民たちも分かっている。村から避難する選択肢を排除する中途半端な除染や、場当たり的な仮置き場の設置案には同意はできない」
被ぼく限度量に対しても、楽観的な発言がしばしば注目されてきた。
委員を務める政府の原子力損害賠償紛争審査会の議論では、自主避難者に賠償を認める方針に異を唱え、国が住民帰還の目安とする年二〇ミリシーベルトという基準への賛意を強調してきた。
昨年十二月六日の会合では「放射線被ばくの恐怖と不安は個人差も大きく(中略)、賠償という形で対応することが、克服する最も適切な方法であるとは考えていません」と発言している。
さらに二月八日の会合では、避難区域の見直しについて「それなりに放射線量のある場合でも、年二〇ミリシーベルトを切ると(避難の対象から)解除される」と懸念する能見善久会長に対し、「現実には半分以上、さらにもっと多くの人が住んでいる」などと、帰還を後押しする発言を繰り返した。
こうした主張が結果的に東京電力の賠償軽減につながることから、被災者たちの間では田中氏に対し、「東電を助けるために住民を切り捨てている」といった批判の声も上がっている。
【デスクメモ】
この人事は、首相官邸前行動や十七万人の脱原発集会に対する政府の回答なのだろう。再稼働のため、大飯原発以外にも、約二十基が安全評価(ストレステスト)の一次評価を終え、規制委の始動を待っている。国会がこの人事を通せば、結果は火を見るより明らかだ。原子カムラの再興は許されない。(牧)
【話題の発掘】
委員候補 つながり
田中氏「周囲が勝手にレッテル」
「中立」「透明」選考基準かけはなれ
田中氏の経歴をたどると、原子カムラを牽引してきた軌跡が見える。現在も、そこから距離を置いたとは思えない。
東北大原子核工学科を卒業後、旧日本原子力研究所(原研)に入所、副理事長を務めた。原研と「もんじゅ」を運営する核燃料サイクル開発機構が合併した独立行政法人・日本原子力研究開発機構〈原子力機構)では顧間に就任。原子力学会会長、内閣府原子力委員長代理なども歴任した。
現在、田中氏が関わる団体は二つ。ひとつは三月まで会長を務め、現在は顧間をしている財団法人「高度情報科学技術研究機構」(茨城県東海村など)で、一九九五年に同「原子カデータセンター」を改称した。
もう一つは副理事長を務めるNPO法人「放射線安全フオーラム」(東京都港区)。同団体主催のセミナーでは「プルサーマルの必要性と安全性」などのテーマで、同氏自身も講演してきた。
この団体の理事や顧間の顔ぶれを見てみると、田中氏の″ムラ人脈″の太さが浮かび上がる。例えば、取締役が同団体の理事に名を連ねる放射線管理商品販売会社「千代田テクノル」(文京区)。同社は二〇〇〇年、原研から放射線源の販売部門を移譲された“つながり”がある。
先のセミナーの会場も同社内で、現在は「フォーラム」と福島県の個人被ばく線量測定事業に取り組むなど、除染ビジネスで連携している。
テクノル社と取引のある社団法人「日本アイソトープ協会」(文哀区)の専務理事は「フオーラム」の顧間。同協会は医療用放射線源などの輸出入や製造販売を担う。
民間調査機関によると、同協会の主要な取引先である医薬品製造会社(江東区)は、米ゼネラル・エレクトリツク(GE) の関連会社と住友化学が共同出資。福島第一原発1号機の原子炉はGE製。住友化学は原発推進派の米倉弘昌経団連会長が会長を務めている。
こうした連関は果てしなく広がるが、ここまででも、今回の規制委委員候補五人のうち、田中氏と更田豊志氏(原子力機構副部門長)、中村佳代子氏(日本アイソトープ協会主査)の所属機関が何らかの糸でつながっている事実が浮かぶ。
当の田中氏は“ムラの住人″という指摘をどう受け止めているのか。
「こちら特報部」の取材に「周囲が勝手にレッテルを貼っている。ムラがどうだとか、わたしは考えていない。科学者、技術者としてやるべきことをやつてきた」ときっぱり。加えて「一方的な価値観を押しつけようとするメディァは、歴史に過ちを残すことになる」と憤りを隠さなかった。
ただ、こうした客観的な所属や人脈が、少なくとも規制委の掲げる中立性や透明性とかけ離れていることは明白だ。
奥平康弘・東大名誉教授(憲法)は、原子力推進に携わってきた田中氏の委員長登用は「避けるべきだ」と断じる。「原発事故を引き起こした制度の運用にかかわった人が、委員会の委員になることは避けがたいのかもしれない。しかし、強大な権限を持つ委員長にだけはしてはならない」
そして、人選についてこう注文を付けた。
「意見を取りまとめる委員長に知識があることは望ましいものの、実務経験はむしろいらない。中立、客観的であり、国民から信頼を得られる人であることが大前提だ。政府は任命前に国民の目線で考えるべきだ」


(当該記事テキストの無断転載を禁じます。
 転載にあたっては、東京新聞メディア事業部知的財産課の書面による許諾が必要です)
*** 以上、記事おわり ***
さて、前述WGのサイトに、田中俊一氏による発表の概要版が掲載されていますので、田中氏のお考えをじかに知るために、それを以下に紹介しておきます――
発表概要
児玉和紀 (財)放射線影響研究所主席研究員
酒井一夫 (独)放射線医学総合研究所放射線防護研究センター長
柴田義貞 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授
木村真三 獨協医科大学国際疫学研究室福島分室長・准教授
丹羽太貫 京都大学名誉教授
島田義也 (独)放射線医学総合研究所発達期被ばく影響研究グループリーダー
甲斐倫明 大分県立看護科学大学教授
中谷内一也 同志社大学心理学部教授
神谷研二 福島県立医科大学副学長
田中俊一 福島県除染アドバイザー、(財)高度情報科学技術研究機構会長
仁志田昇司 福島県伊達市長
福島県除染アドバイザー
(財)高度情報科学技術研究機構会長
田中俊一
① 先生のご意見の骨子を箇条書きにしてください(5 行以内)。
住民が抱いている放射線に対する不安と不信の原因は、これまで国や行政庁から提示されている放射線防護に関わる基準や考え方に一貫性と整合性がないこと、加えて現実の状況に適切に対応していないことにある。さらに、一部の科学者とメデアから発信される低線量被ばく、特に内部被ばくに関する科学的な根拠のない特異な情報が、住民の放射線被ばくに対する不安に拍車をかけている。
 もっとも大事なことは、放射線防護に関する国や行政の混乱を正し、低線量被ばくに関する科学的で断固たる指針を提示することである。
② 先生のご意見の根拠となった文献を10編列挙して下さい(10編以内)。
・「飲食物摂取制限に関する指標について」平成10 3 月6日、原子力委員会環境ワーキンググループ.
Accidental Radioactive Contamination of Human Food and Animal Foods: Recommendations for State and Local Agencies, U.S. Department of Health and Human Services, U.S. Dood and Drug Administration Docket. No. 2003D-0558, July 2004.
・「除染に関する緊急実施基本方針」及び「市町村による除染実施ガイドライン」に基づく除染作業における労働者の放射線障害防止措置について
(基安発0909 1 号、平成23 9 9 日、厚生労働省労働基準局通達)
・除染作業等に従事する労働者の放射線障害防止に関する専門家検討会報告書
(平成23 11 28 日、厚生労働省労働基準局)
③ 国民、特に福島県民の方々がご理解頂けるように、できるだけ平易な言葉で先生のご意見を400字程度でまとめて下さい。
福島の住民にとって重要なこと:
福島県民は、今後も相当長期間にわたって通常と比べて高い放射線・放射能環境下で生活することを余儀なくされる。こうした状況では、放射線の健康リスクについての知識を身につけて、不安やストレスを軽減する知恵を身につけることが極めて重要である
 国は、避難状況、現存被ばく状況に置かれている住民が抱いている様々な不安に真摯に向き合い、住民が自ら低線量被ばくのストレスを克服し、正常な生活を取り戻す力を身につけられるような施策を講じるべきである。そのためには、生活環境の放射線量を低減するための除染作業を、国、自治体それに住民が協力して速やかに進めること、安心して飲食物を摂取するために身近で手軽に放射能を測定できるシステムを整備すること、定期的な健康診断あるいは随時相談できる健康・医療相談のシステムを整備すること、個々人の被ばく線量を継続的にモニタリングし、モニタリング結果を踏まえた放射線リスクコミュニケーションを図る体制等、一人ひとりの不安やストレスにきめ細かく対応できる長期的で継続的な対策を早急に具体化すべきである。
この短い文章のなかに、「不安」とストレスそれぞれ3回と頻出します。田中氏にとって放射線リスクは健康障害ではなく、心理的抑圧であるようです。この特質は、エートス論者に共通のものなのでしょう。


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