2012年11月8日木曜日

山下俊一氏インタビュー「放射線と私たちの健康」


DAYS JAPAN 201210月号の特集「告発された医師 山下俊一教授 その発言記録」がずいぶん話題になったのに刺激され、昨年秋、わが家にも配布されて読んだ福島県広報誌『うつくしま~ゆめだより』掲載の山下俊一氏のインタビューがずいぶんひどい内容だと憤慨したことを思い出しました。福島県広報のアーカイブスを探してみるとありました。ここに一切の論評を抜きにしてテキストを再掲します。ただし、山下氏発言の是非判断の手助けにいくつかの参照図を末尾に付録しておきます。
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内部被ばくについて
私たちの生活につきまとう放射線への不安。中でも、呼吸や食べ物によって放射性物質を体内に取り込み、体内で放射纏を受ける「内部被ばく」についての問い合わせが多く寄せられています。今回はこの『内祁被ばく』について、県放射線健康リスク管理アドバイザーで、福島県立医科大学副学長の山下俊一氏に話を聞きました。(以下敬称略)
外部被ばくと内部被ばく
―― 体外から放・射線を受ける外部被ばくと体内で放射線を受ける内部被ばくでは内部被ばくの方がより危険というイメージがあるのですが。
山下 まずは、単位をきちんと理解することが大事。「ベクレル」と「シーベルト」という単位がありますが、放射能の強さを示すのが「ベクレル」という単位。そのベクレル数放射性物質ごとに決められている係数を掛けて計算し、人体への健康影響を示すのかシーベルトという単位。「シーベルト」は実測値というよりは健康への影響の尺度と考えた万がいいかもしれません。
この『シーベルト』の数値が同じであれば、外部被ばくであっても内部被ばくであっても人体への影響は同じものです。
「シーベルト」という単位ですが、まず1シーベルトというのは急性放射線障害の出るレベルでこれは怖い。その1000分の1の単位の「ミリシーベルト」では、懸念されるのは100ミリシーベルト以上。がんのリスクが上がる。それ以下ではがんのリスクを証明できるくらいの放射線量ではない。さらに1000分の1の単位「マイクロシーベルト」(1~999マイクロシーベルト)は、細胞に傷も付かないレベル。そういうふうに考えてよい単位です。そして、これはいずれも一度に放射線を受けた場合の影響です。
体内の放射性物質
―― 内部被ばくでは、自然には存在しない物質が体内に入るということでの不安があります。
山下 放射性物質というのは、私たちの体の中にも存在します。
例えばカリウム40。食品などに含まれる天然の放射性物質で。体重60kgの大人の体内約4000ベクレルあります。これによって私たちは年間約0.2ミリシーベルトの内部被ばくを受けています。これに比べて、人工の放射性物質である放射性セシウムなどは食品ごとに厳しく規制されており、私たちの体に入ってきたとしても、その量は微々たるものと考えられます。天然の放射性物質と人工の放射性物質が出す放射線はどちらも人体への影響は同じですので、あくまでもその量が問題ということです。
放射性物質の半減
―― この放射性物質は、少しずつ体に蓄積していくものですか?
山下 今回の事故で私たちが特に注意すべき放射性物質は、ヨウ素とセシウムです。ヨウ素は甲状腺に、セシウムは筋肉に取り込まれます。チェルノプイリの事故では.子どもの甲状腺がんが増えました。これは事故以後に放射性ヨウ素を含んだ牛乳などを摂取して内部岐ばくしたものと考えられています 小児甲状腺がんが増えたその内部被ばく量は1002000ミリシーベルトでした
放射性ヨウ素は、半減期(※)が8日と短く、初期対応が最も重要です。今回の事故では、放射性ヨウ素についてはうまく対応できたと思います。最初の段階から水道や牛乳などの摂取を制限したため、食べ物からの摂取は、ほとんどないと考えられます。放射性セシウムについても食品の暫定規制値によって厳しく規制されています。
また放射性物質は、体内に取り入れられても排泄などで体内から減少します。セシウム1375歳児で約30日、30歳までの成人で約70日で、その量が半分になります。いつまでも蓄積したままというわけではありません。
※ 半減期…最初にあった放射性物質の量が半分になる時間
食品の規制
―― 食品の規制についてですが、ひとつの食品は規制値内の数値でも、いろいろなものを食べると全体としては規制値を上回ってしまうのではないですか?
山下 3月に国から示された食品の暫定規制値として、放射性セシウムについては、1年間の被ばく量の上限を5ミリシーベルトとし、それを①飲料水②牛乳・乳製品③野菜類④穀類⑤肉・卵・魚・その他の5品目に分け、それぞれ1ミリシーベルトを上限として振り分けました。そして、それを365日で割って、食品の1日の平均摂取量などをもとに計算し、1キログラムあたりの食品の暫定規制値が示されました。子どもや大人では摂取量が違いますが、それも考慮して最も低い値に設定されています。        
【食品中の放射性セシウムの暫定規制値:当時
(現行の規制値)
飲料水
200ベクレル/kg
飲料水
10ベクレル/kg
牛乳・乳製品
200ベクレル/kg
牛乳
50ベクレル/kg
野菜類
500ベクレル/kg
一般食品
100ベクレル/kg
穀類
500ベクレル/kg
肉・卵・魚・その他
500ベクレル/kg
乳児用食品
50ベクレル/kg

ですから、仮に一度、暫定規制値を超えるものを食べてしまったとしても、健康への影響はなく、これに加えて、現在、生涯における追加(自然放射線や医療被ばくなど通常の生活で受ける放射線量を除いた分)の累積線量の安全基準地がつくられようとしています。
不安を取り除くために
―― いろいろな情報がある中で、何を信じたらいいか不安があります。
山下 放射線は見えないし、音も匂いもない。ですから不安です。それに原爆などのイメージもありますし。
チェルノブイリでは、放射線への不安からパニックが起きました。そしてわたしたちのような専門家が何度も行って説明をしたのです。私たちが丁寧に説明することで理解してもらうことができました。それでも5年かかりました。今回も時間はかかると思いますが、地道に取り組んでいこうと思います。

参 考
ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告を踏まえ、原子力安全委員会によって示された一般公衆に対する放射線防護の線量の基準に関する考え方
n         事故発生初期:大きな被爆を避けるための基準
 屋内退避  10ミリシーベルト
 避難    50ミリシーベルト
n         緊急時の状況(事故継続等)における基準
 20100ミリシーベルト/年
n         事故収束後の汚染による被ばくの基準
 120ミリシーベルト
n         長期的な目標
 1ミリシーベルト/年

山下 俊一 氏
医師 福島県立医科大学副学長
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授
福島県放射線健康リスク管理アドバイザー
1952年 長崎市生まれ
1978年 長崎大学医学部卒業`
1990年 長崎大学医学部教授
2004年~2006年WHO(世界保健機関)
放射線ブログラム専門科学官
【活動歴】
チ1ルノプイリ医療協力20
セミパラチンスク地域医療支援15年 など

【付録】

資料作成:矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授




最後にもう一度、山下俊一先生にご登場ねがいましょう…
質問:市政だよりなどに、マスクもしなくても大丈夫だと先生の話が書かれていて100ミリ先生の言葉を信じて、戻ってきている人もいる。20ミリが最大だ、その下は自己責任になりますところっと話が変わっている。今までが間違っていたのか、話して欲しい
山下:これがみなさんの混乱の一つの原因だと思います。私は、みなさんの基準を作る人間ではありません。みなさんへ基準を提示したのは国です。私は日本国民の一人として国の指針に従う義務があります。科学者としては、100ミリシーベルト以下では発ガンリスクは証明できないだかた、不安を持って将来を悲観するよりも、今、安心して、安全だと思って活動しなさいととずっと言い続けました。ですから、今でも、100ミリシーベルトの積算線量で、リスクがあるとは思っていません。これは日本の国が決めたことです。私たちは日本国民です。

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