2013年5月6日月曜日

【#TomDispatch】シェール・ガス、エネルギー革命の裏側

21世紀アメリカのエネルギー革命――シェール・ガス。福島原発事故後、発電燃料費の増大に悩むわが国でも、官民あげて救世主を崇めるような熱視線を送っています。ところが、ものごとには負の側面があるものです。メディアがまったく報道しない天然ガス低コスト生産の隠された裏側、フラッキング(シェール層の水圧破砕によるガス抽出)の実態をみてみましょう。
Yuima21c

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ネイション・インスティチュート(The Nation Institute)企画
トムディスパッチ 抗主流メディア常備薬

トムグラム
エレン・カンタロウ、大規模エネルギー開発による大規模汚染を語る
Tomgram: Ellen Cantarow, Big Energy Means Big Pollution
エレン・カンタロウ(Ellen Cantarow201352
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[サイト編集スタッフ、ニック・タースによるまえがき]
ゲイリー・ジャドソンは、彼らが手錠をかけたとき、自前のシャックルから外されたばかりだった。齢72歳のメソジスト教会牧師は、コンプレッサー施設――フラッキング(fracking=破砕採掘)の別称のほうが一般に通りがよい水圧破砕技術に随伴する必須基盤施設の一部――に張り巡らされたフェンスにわが身を鎖で縛っていた。ニューヨーク北部地方のセネカ湖から投じられた一石である。シェリフとその副官らは、不法侵入で逮捕するためだけの目的で彼の身を鎖から解き放ったのである。
「彼らには、これ――湖を危険に陥れること――をする権利がない。わたしたちはみな、彼らの乱暴狼藉の代価を支払って終わることになるでしょう」と、ジャドソンは彼の市民的不服従行為を目撃するために居合わせていた支持者の小集団に向かって説いた。彼が抵抗していた「これ」とは、オリオン誌の最新号でサンドラ・スタイングレイバーが物語っているが、湖岸の地下に放棄された岩塩鉱の空洞をペンシルヴェニアの破砕採掘ガス田からパイプライン輸送される天然ガスの貯蔵庫区域に転用する、ミズーリを本拠とするイナジー・ミッドストリーム社による計画である。「イナジーは、これまでの3年間のどの四半期をとっても、この施設において水質汚染防止法を侵犯してきました」と彼はいった。「1972年以来、ガス貯蔵施設で14件の破滅的な事故が起こっています。そのひとつひとつが、岩塩空洞で起こったものです」。セネカ湖で「事故」になれば、スタイングレイバーの記事によれば、その湖が10万の人びとの飲料水を供給しているので、とりわけ破滅的なものになるだろう。(先月、スタイングレイバーはイナジーに対する彼女自身の市民的不服従行為のために15日間 収監をこうむった)
ペンシルヴェニアでは、ガスがシェール岩のなかで何百万年もの眠りについていたが、近ごろ強制的に抽出され、その結果、トムディスパッチ常連投稿者、エレン・カンタロウが破砕採掘の最前線から投稿する記事シリーズの最新号で報告するように、「事故」はすでに日常茶飯事になっている。その昔、炭鉱夫、トンネル労働者、「 ラジウム少女(※) たちは、人里離れた場で、地底深くで、山奥で、あるいは工場の壁の背後に隠されて、危険な取引の恐怖に直面した。彼らは、見られることも聞かれることもなく、働き、死んでいった。(※1910~20年代、米国のラジウム社で腕時計の文字盤にラジウム夜光塗料を塗っていて、被曝した女工たち)
今日、産業安全問題が――文字通りに――再来した。毒性化学物質はスーパーファンド法適用現場の專用物ではまったくない。そういうものが、わたしたちの家に、わたしたちの水に、わたしたちの食品にますます入りこんでいる。肥料工場でなにか不具合があれば、もはや労働者が危険にさらされるだけでは済まず――テキサス州ウェストの町の事件のように―― 老人ホーム、学校、住宅団地、それに小さな町の住宅地5区画にまで危険がおよぶ。カンタロウが書いているように、ペンシルヴェニアの農耕社会は、北アメリカを21世紀のサウジアラビアに転換することにご執心のエネルギー企業によって、巨大な屋外実験場に変貌され、一般人はモルモットにされている。そして、そうした人びとは、謎の病気、死んだ動物、汚染された水、土地の価値喪失、生活様式の崩壊という高い代償を払っている。この新しい地獄のただなか、希望もある。ペンシルヴェニア州民は、ニューヨークのゲイリー・ジャドソンのように、声を出し、組織化し、長引く理不尽と過酷な時に直面しながら、できることをやっている。ニック・タース
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ペンシルヴェニア

風下住民
人間を死にいたらしめる
ペンシルヴェニアの破砕ガス採掘
――エレン・カンタロウ
The Downwinders 
Fracking Ourselves to Death in Pennsylvania 
By Ellen Cantarow
70年以上前、ワシントン州とネヴァダ州に対して化学攻撃が仕掛けられた。この攻撃は人間、動物をはじめ、成長し、呼吸し、水を摂取する生き物すべてに毒を注いだ。マーシャル諸島も攻撃された。この元は清純だった太平洋の環礁は、「世界一汚染された場所」の汚名をかぶせられた。原爆実験と核兵器開発の犠牲者らは、癌が進行するにつれ、風下住民の名が与えられた。彼らの悲劇に刻印されているものは、自分たちになされたことについて知らされないままに放置される暗闇だった。危害の立証責任は彼らに負わされ、責任主体のアメリカ政府当局は負わなかった。
今日、新興産業が夢の新技術――この場合、大規模水圧破砕法――を推進するにつれ、新世代の風下住民が病気になっている。症状は、テキサス、コロラド、あるいはペンシルヴェニアのどこに住んでいても、発疹、鼻血、激しい頭痛、呼吸困難、関節痛、腸の病気、記憶喪失、その他にもいっぱいあって、同じである。レンセラー科学技術専門学校のユリ・ゴルビーは、「私見ですが、いま明らかになりつつあることは深刻な健康危機であり、これは始まったばかりです」という。
「破砕」採掘の工程は、まず垂直方向に1マイルかそれ以上深く掘削し、ついで横方向に掘削して、かつて北米大陸の各地に侵入していた海の名残、5億年の歳月を経たシェール層に達する。そして化学物質と砂を混ぜた水が高圧で地中に送りこまれ、シェール(頁岩)を破砕して、それに含まれるメタンを分離する。ガスの放出とともに、何千ガロンもの汚染水が流出する。この「逆墳」流動体には、元の破砕化学物質にプラスして、シェール中に安全に埋蔵されていた重金属と放射性物質が含まれている。

この技術を用いる産業は、その生産物を「天然ガス」と呼んでいるが、メタンおよびその周辺物質を安全に貯蔵していた5億年に終止符を打つことには、自然なことはなにもない。それは、実のところ、人里離れたアメリカに異質の社会資本――パイプライン輸送のためにメタンを凝縮する圧縮施設、汚染逆噴水の溜池、ガス不純物を燃やす煙突、大量のディーゼル・トラック、数千マイルのパイプライン、その他もろもろ――をのさばらせる生態学的暴力であり、発癌物質と毒物を水系、大気、土壌に放出している。
出所:ペンシルヴェニア州政府日本代表事務所サイト
ペンシルヴェニアの60パーセントは、マーセラスと呼ばれる巨大なシェールの広がりの上に乗っかっていて、2008からこのかた破砕採掘業界の視野に入っていた。シェールを開発する業界各社は、手厚い連邦政府の特典、すなわちスーパーファンド法に加えて、有害物質の除去を求める清浄大気・清浄水系・清浄飲用水法規の規定免除の資格をえている。業界は、年間数兆ガロンにも達する廃棄物を「有害物質」と呼ばなくてもよい。「残滓廃棄物」といった遠回しな表現で済むのだ。おまけに破砕採掘企業は、用いる化学物質の多くを秘密にするのを許されている。
一方、ペンシルヴェニアは州自体の特恵を付け加える。天下りシステムが、議員、知事、州政府環境保護省(Department of Environmental Protection)の官僚をガス業界の椅子に送りこむ。いまDEPそのものが、虚偽記載の検査報告を提出し、シェール・ガス企業が水を汚染し、病気を引き起こしたとする住宅所有者らの告訴を退けるために用いたとして、部局が告発された訴訟の対象となっている。筆者が取材した人たちは、DEPを「保護は無理で省(Dont Expect Protection.)」と呼ぶ。
風下住民
ランディ・モイアーは、愉快な顔つきにあごひげを蓄えた49歳であり、母音伸ばしの訛りは、ペンシルヴェニアの貧しいホームタウン、ポーテージがアパラチアの一部であることを思い起こさせる。彼は、18年間――ガソリン価格があまりにも法外になるまで――自家所有のトラックを運転してニューヨークとニュージャージーの廃棄物を運搬する仕事をしていた。すると、たいしたものと思える機会に出くわした。ペンシルヴェニア北東部で水圧破砕請負業者のために仕事をすれば、1時間あたり25ドルになるのだ。
破砕液体、水、廃棄物を運搬するのに加えて、ランディは皮肉抜きで「環境」の仕事もやった。大きな容器の中に入り込んで破砕液体の残滓を拭き取るのである。トラックが行き来できるように地面を平にするために、掘削井の周りに敷き詰めた巨大なマットの清掃もした。
マットは、「掘削泥」、ドリルがシェールに貫通するのを容易にするための粘り気のある化学物質を含んだ流動物でベトベトになっていた。雇用主が彼に告げなかったのは、破砕採掘の廃水もそうだが、ドリル掘削泥が強い毒であるだけでなく、放射であることだった。
201111月、非常に寒い日の早朝の時間帯、掘削井現場の巨大な盆地の底に立ち、1000枚のマットを高圧ホースで洗浄していて、非常に頻繁に小休止をとっては、彼のトラックのなかで足を暖めていた。「靴を脱いでみると、ぼくの足がトマトのように赤かった」と、彼は筆者にいった。ヒーターからの暖気が足にあたると、彼は「すんでのところで天上を突き破るほどだった」
あるとき自宅で、ランディは自分の足をゴシゴシこすってみたが、耐えがたい痛みは和らがなかった。足をおおっていた「発疹」が拡がり、ほどなく胴に達した。1年半たって、肌の炎症はまだぶり返す。上唇がたびたび()れる二度ばかり、舌が大きく腫れて、息をするためにスプーンで押し下げなければならなかったほどである。「ぼくは13か月以上もこの代物でフライに揚げられているのです」と、彼は1月遅くに筆者に語った。「地獄がどんなものかはっきり想像できます。まさしく火の上にいる気分です」
家族や友人らは、少なくとも4度、ランディを救急処置室に運びこんだ。彼は40人以上の医者に診てもらった。発疹や頭痛、片頭痛、胸痛、不整脈、あるいは背中と両脚の激痛、視力障害、目眩(めまい)記憶喪失、持続的な耳鳴り、狭いアパートのそこら中に吸入器を置いておかねばならないほどの呼吸困難の原因を告知できる医者はいなかった。
かつて労働者の疾患は「産業医学」の領域に分類された。だが今日、アメリカの破砕採掘産業を見ると、カナリアは炭鉱專用ではない。ランディのような人たちは、もはや地中深く埋蔵されてはいない毒性環境で起こることの前兆であるようだ。明らかに彼に毒を盛ったガス田は、活況を呈する地域社会の近くにある。破砕採掘のおよぼす温室効果ガスによる巨大な影響を実証した画期的な研究論文の共著者、コーネル大学のアンソニー・イングラフィア(Anthony Ingraffea)は、「ペンキ製造、トースター工場、自動車生産など、思いつく限りの他産業をあげてみますと、こうした従来からの産業は、指定工業地域の屋内で操業し、農場から隔てられ、学校からも離されています」という。それに対して天然ガス企業は、「業界の産業空間のなかに住宅、病院、学校を置いておく必要性をわたしたちに押しつけています」と彼はいう。
リトル・ローズの死と生
リトル・ローズはエンジェル・スミスお気に入りの馬だった。獣医が蹄鉄を打ちつけたとき、一本の脚が終わるとすぐ、誇らしげに次の蹄を持ちあげたのよ、とエンジェルは筆者に話した。「ロージー、お腹すいた?」とエンジェルが声をかけると、ロージーは首を縦に振った。「ほんとうなの?」とエンジェルがじらすと、ロージーは前脚を上げ、歯を打ち鳴らした。ポーテジのすぐ南、クリアヴィルのパレードで、エンジェルはリトル・ローズに騎乗し、家族のアメリカ国旗を掲げた。
2002年のこと、「土地の人」がドアをノックして、エンジェルと夫のウェインに向かって、115エーカーある夫妻の農場のガス採掘権を、サンフランシスコを本拠とするエネルギー企業、パシフィック・ガス&エレクトリック社(PG&E)に貸与してくれないかと頼んだ。最初のうちこそ、丁寧な物腰だったが、「お隣さんたちは全員サインしているのです。サインしなければ、お宅の土地の下からガスを吸いあげるだけのことです」と脅しにかかった。おそらく倦怠感と情報不足(当時、業界外部者のほぼ全員が大量水圧破砕採掘についてなにも知らなかった)のせいだろうが、夫妻は同意した。掘削は2002年に隣人の土地ではじまり、2005年にスミス家の土地ではじまった。
2007130日、リトル・ローズがよろめき、転倒して、起きあがれなくなった。脚を発作的にバタバタさせていた。ウェインとエンジェルが引き起こして座らせても、ふたたび倒れるだけだった。「電話帳の獣医全部に電話しました。『射殺するのですね』とみないうのです」とエンジェルはいう。夫妻には無理だった。2日たって、隣人が射殺した。「わたしたちの決断でした」というエンジェルの声は、乱れていた。「彼女はわたしの親友でした」
まもなくスミス家の牛たちが同じような症状をみせはじめた。死ななかった牝牛たちは、流産したり死産したりした。ニワトリもすべて死んだ。納屋猫たちも死んだ。3頭の愛犬らも死んだが、みな老犬ではなく、以前は健康だった。ミッチェル・バムバーガーとコーネル大学薬学教授のロバート・オズワルドによる2012年の研究が、ガス田において動物に独特な症状が発現し、その後、飼い主に現れる疾病を早くから警告する前兆として役立つことを示唆している。
スミス夫妻は州環境保護省に水質検査を依頼した。当局は飲用にしても安全であると告げたが、ペンシルヴェニア州立大学の研究者らによるその後の検査では、高レベルのヒ素が検出されたとエンジェル・スミスはいう。
そうするうちに夫妻は、頭痛、鼻血、倦怠感、喉と眼の炎症、息切れに悩みはじめた。ウェインは重たくもないのに、腹部が奇妙に肥大した、とエンジェルがいう。彼の肺のエックス線画像で、瘢痕(はんこん)(腫瘍などのあと)とカルシウムの沈着が見つかった。血液分析で肝硬変になっていると判明した。結果が出たとき、医者がエンジェルを脇へ引っ張って、「酒をやめさせなさい」といった。「ウェインは呑みません」と彼女は応えた。エンジェルも呑まないが、現在42歳の彼女は肝臓病を患っている。
動物たちが死にはじめるまでには、隣人の土地に5本の大容量採掘井が掘削されていた。まもなく、夫妻の納屋の床下で水が泡立ちはじめ、池に油性の光沢とあぶくが現れた。2008年、半マイル向こうにコンプレッサー施設が建造された。これらの施設は、天然ガスをパイプライン輸送のために圧縮するものだが、ベンゼンやトルエンなど、既知の発癌性物質や毒物を排出する。
スミス夫妻は、クリアヴィル内の他の場所にいる知人たちも同様な健康問題を抱えているし、その動物たちもそうだという。一時期、自分たちの動物の災難は収まったと夫妻は考えたが、先だっての2月、数頭の牛が流産した。夫妻はよそに引っ越したいが、それもできない。土地の買い手がいないのだ。



破砕採掘の博物館
デヴィット、リンダ・ヘッドリー夫妻は、スミス夫妻と違って、土地を貸さなかった。2005年、スミスフィールドの農場を購入したとき、自分たちの土地の下のガス採掘権に金を使わないと決めたのだ。彼らの親たちが知っていた浅はかなガス採掘は過去の時代の代物であり、経費をかけて面倒なことになる値打ちがないように思えた。
丘や谷、土地を横切って流れる小川、水を供給する泉を備えたこの場所は、ハイキング、水泳、息子のグラントの生育に完璧であると思えた。厄介事がすべてはじまったあと、アダムが生まれた。
夫妻が購入を完了した丁度そのとき、ブルドーザーが入ってきた。前の所有者が、夫妻に告げずに、ガス採掘権を貸しだしていたのだ。後に夫妻が指摘するように、彼らは自分たちが企業不動産の単なる「管理人」であると悟った。
今日、ヘッドリーの地所は一種の破砕採掘博物館である。採掘井が5本あって、そのすべてに、ガスから液体を分離する付属タンク、逆流が貯蔵される塩性溶液タンクが備わっている。井戸のうちの4本は小容量垂直井であり、今日の大容量法に先立つ破砕採掘技術を用いている。ヘッドリー宅の表玄関から徒歩2分の場所に、大容量井が立っている。パイプラインは小川の地下に掘削された。
「事故」が常態だった。家屋に最も近い井戸が破砕採掘したとき、植生、ザリガニ、虫の天国だった泉が劣化した。環境保護省は、スミス夫妻の場合と同じくヘッドリー夫妻にも、水を飲んでも安全であると告げた。だが、「泉のなかの生き物すべてが死んで、白くなりました」とデヴィッドはいう。アダムが生まれたばかりだった。「まさか子どもたちをあれに被曝させるわけにはいきませんでした」。デヴィッドは2年間にわたり一族宅や友人宅から水を自宅に運び、次いで市の水道から給水を受けるようになった。
塩性溶液タンクのすべてから有毒廃棄物がヘッドリーの土地に漏出した。大容量タンクの周辺から除去された汚染土壌は、大型廃棄物容器や井戸のそばの無蓋の穴に貯蔵された。ヘッドリー夫妻は、その汚染土壌を運びだしてほしいと環境保護省に懇願した。まず廃棄物の放射能を検査しなけれならないだろうと当局の代表者が夫妻に告げたとデヴィッドはいう。最終的に、汚染土壌の一部は搬出され、残りはヘッドリーの土地の下に埋められた。放射能検査はまだ保留されているが、デヴィッドは自前のガイガーカウンターを所持していて、井戸の現場で高レベルを測定した。
独立環境団体、アースワークス(Earthworks)がガス生産施設の近隣の健康問題に関して実施した最近の調査で、ヘッドリー家は対象の55世帯に含まれていた。検査の結果、ヘッドリー宅の空気から、神経毒であるクロロメタン、既知の発癌性物質であるトリロロエチレンをふくむ高レベルの汚染物質が検出された。
おそらくもっと雄弁なのは、家族のだれもが病気であるという事実だろう。17か月児のグラントには、体のあちこち違った部位に周期的に現れる、ランディ・モイアーのもののような発疹がある。4歳児のアダムは胃の急激な痛みに苦しみ、叫び声をあげる。デヴィッドとリンダのふたりとも「ひどい関節痛があります。恐ろしい代物で、左の肘に出たり、右の臀部に出たり、3日間、気分がよかったりして、次に背中にきたりといった具合です」とデヴィッドはいう。リンダの家系には関節炎や喘息の前歴がなかったのに、42歳の彼女はその両方を診断された。みなに鼻血がある――馬も含めてである。
ペンシルヴェニアのこの地方におけるマーセラス・ガス田ラッシュに突入して5年、ランディ・モイアー、スミス夫妻、ヘッドリー家のもののような症状は、ますます一般的になった。子どもたちは、若年層がほとんど抱えることのない問題、関節痛や健忘症を経験している。動物の異常や死亡が蔓延している。アースワークの研究は、生活の場がガス田基盤施設に近いほど、皮膚発疹、呼吸困難、嘔吐を含む25種の共通症状の重大度を増すと示唆している。
環境保護は無理で省(Dont Expect Protection.
DEPの内部告発者らは、土地所有者への加害の証拠を減らすために、当局が意図的に化学検査を制限していると暴露 した。ペンシルヴェニア州ワシントン郡の住民は、自分を病気にしたと彼女のいう、掘削関連の大気および水系の汚染に対する調査を十全に実施しなかったとして、当局を 告訴している。訴訟に関連して、州民主党代表、ジェッシー・ホワイトは、州と連邦の機関がDPEの「不作為・詐欺疑惑」を捜査することを要求している。
州政府の誠実な保護が望めないなか、独立の科学者らが埋め合わせるしかなかった。だが、産業がすさまじい勢いで前進するので、さまざまな潜在的な原因による症状に対処するのは、絶え間なくつづくイタチごっこである。内分泌撹乱交換社(Endocrine Disruption Exchange)の創始者であり、全米科学環境会議(National Council for Science and Environment)の生涯功労賞を授与されたセオ・コルボーンによる2011年の研究が、皮膚、脳、呼吸器、胃腸、免疫系、心血管、内分泌(ホルモン生産)系を損傷しうる353種の産業化学物質を特定した。研究によって見つかった化学物質の25パーセントは、癌の原因になりうるものだった。
デヴィッド・ブラウン(David Brown)は老練の毒物学者であり、独立の環境健康団体、南西ペンシルヴェニア環境健康プロジェクト(Southwest Pennsylvania Environmental Health Project)の顧問を務める。ブラウンによれば、ガス田化学物質被曝には4つの経路があって、それらは水、空気、土壌、食品である。言い換えれば、わたしたちの身の回り、実質的にすべてのものだ。
水による被曝は飲むことによるが、シャワーを浴びたり、湯船に浸かったりすれば、肌に浸透したり、水蒸気を吸い込んだりして、水被曝になりうる。「空気被曝はさらにもっと込み入っています」とブラウンはいう。たとえば、激しい活動のあいだ、汚染空気の影響は大きくなる。「走り回る子どもたちは、年配の人たちよりも被曝しがちです」と彼はいう。新興学問である毒物学をもっと複雑にしているものは、化学物質が単一の作用物質としてふるまうのではなく、相乗的な効果をおよぼすことである。「ひとつの作用物質の存在が、別のものの毒性を幾倍も増大させます」とブラウンはいう。
ブラウンは、助けを求める住民の叫びに耳を貸さない政府の怠慢を遺憾に思っている。「だれも『どうしましたか? あなたの地域に病気になった人は他にもいますか?』と聞きません。わたしは倫理を教えます。わたしたちが全国民的に維持すべき道義的責任のレベルがあります。わたしたちは、とても切迫してエネルギーが必要だと決めてしまったようです…そこでわたしたちはほぼ受動的な感覚で、個人や地域を犠牲にすることにしてしまったのです」
信頼の輪
破砕採掘の影響を受けたペンシルヴェニア南西部の地域社会で筆者が取材した人たちのうち、だれももはや自前の水を飲んでいなかった。じっさい、1ケースのポーランド・スプリング(ネッスル社のボトル入り飲用水ブランド)のほうがどんなワインよりも土産にふさわしいと考えるようになった(この点、筆者ひとりではなかった)。空気を呼吸することは、別次元宇宙のリスクだった。清浄空気をボトル詰めすることはできないが、ひとりの匿名を希望する取材対象者がしてきたように、空気浄化機を寄贈することはできる。
彼女を、わたしの新しいペンシルヴェニアの友がいう「信頼の輪」の創造者と評価しよう。エネルギー産業は地域や家族を相争う敵対関係に分断する。そのような敵意は容易に見つかるが、筆者は破局のただなかに相互扶助を、それに繋がりたいという人間的な欲求の再興も見た。
ジョン・ディア重機のセールスマン、ロン・ガラは――彼の土地はペンシルヴェニアで破砕採掘の対象になった2番目の農場であったこともあり――土地を台無しにした企業に対する怒りに駆りたてられていたが、「農場はまさしく子育てのようなものです。世話をして、育んで、問題があれば気づくのです」というように、土地への深い思いにも駆りたてられていた。
ガラは、業界の活動の危険性を彼に教えてくれた、全米初の反破砕採掘団体、ペンシルヴェニアの「持続性をめざすダマスカス市民たち」(Damascus Citizens for Sustainability)の創始者、バーバラ・アリンデルを信じている。いま、彼はみずからドキュメンタリー作家となっている人びとのネットワークの中心人物だ。筆者が取材しただれもが、写真、ヴィデオ、新聞記事、みずから書いたできごとの記録といった証拠のファイルを持ち出し、見せてくれた。
「ものごとが起こるには理由があると信じなければなりません」とデヴィッド・ヘッドリーはいう。「それは以前には知らなかったとても大勢の人たちを引きあわせました。会合を開いて、共通の大義のために闘っていると、協力している人びとにとても親しく感じるようになります。あなたがた、記者も含めてです。それはわたしたちを大きな家族のようにしました。まったく独りぼっちだと思っていると、だれかがひょこり現れます。神さまは常に天使を遣わしてくださいます」
それでも、間違ってはならない。これは憂慮すべき、悪化しつつある公衆衛生緊急事態なのだ。「地域社会全体の移転、または破砕採掘の禁止がなければ、空気経由の被曝に終止符を打つことはできません」と、デヴィッド・ブラウンはニューヨーク州でおこなった最近の講演でいった。「ワシントン郡におけるわたしたちの唯一の選択肢は…住民が被曝量を減らすための方策を見つけようとすること、空気が呼吸するには格段に危険であるときに住民に警告することであってきたのです」
破砕採掘地帯に生きる人びとの保護を担わない州政府の怠慢が残した孤立状態にあって、ボランティア、ブラウンのような専門家、南西ペンシルヴェニア環境保護プロジェクトのような未熟な団体が住民の健康の新たな守護者になってきた。エンジェル、ウェイン・スミス夫妻を含め、ますます多くの破砕採掘の被害者たちがガス企業を告訴してもいる。「2000年に戻れるなら、あの人たちに行末の果てを見せて、『二度と来るな』といってやります」とエンジェルは筆者にいった。「でも、わたしたちは難局にいます。闘って、前進します」
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エレン・カンタロウは、1979年にイスラエルと西岸地帯から初めて書いてきた。トムディスパッチ常連投稿者であり。彼女の記事は、Village VoiceGrand StreetMother JonesAlternetCounterpunchZNetに掲載され、South End Pressの選集に収録されている。彼女はまた、口述歴史三部作、Moving the Mountain: Women Working for Social Change(仮題『山を動かす~社会変革のために働く女性たち』)の主導的な著者であり、監修者。
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Twitter @TomDispatchのフォロー、 FacebookまたはTumblrをよろしく。トムディスパッチ・ブック最新刊、ニック・タース著The Changing Face of Empire: Special Ops, Drones, Proxy Fighters, Secret Bases, and Cyberwarfare(仮題『帝国の変貌する顔~特殊作戦、無人航空機、スパイ、代理戦争仕掛け人、サイバー戦争』)。
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【原文】
Tomgram: Ellen Cantarow, Big Energy Means Big Pollution
Copyright ©2013 Ellen Cantarow




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