2016年7月29日金曜日

SPACE.com【新論文紹介】アポロ宇宙飛行士の深宇宙放射線被曝による心臓疾患死




アポロ宇宙飛行士研究によって
深宇宙飛行士の心臓疾患リスク増大が判明


サラ・ルーウィン記者 Sarah Lewin, Staff Writer
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新たな研究によって、低高度地球周回軌道の外側に遠征した唯一の宇宙飛行士グループ、アポロ飛行士らの心臓疾患による死亡率は、宇宙飛行の経験のない宇宙飛行士、あるいは地球に近い軌道に留まった宇宙飛行士の4倍ないし5倍に達することが示された。Credit: NASA
アポロ月面探査計画任務に従事し、1960年代から1970年代にかけて宇宙飛行したNASA宇宙飛行士たちは、地磁気シールドによる防御圏を超えた彼方に飛行した唯一の人間集団である――そして、新たな研究によって、深宇宙放射線が宇宙飛行士の心臓の健康を損ねたことが示された。

この研究はアポロ飛行士グループの運命を、飛行任務につかなかった――つまり宇宙飛行を経験しなかった――宇宙飛行士グループ、および低高度地球周回軌道に留まったグループのそれと比較し、深宇宙で冒険したグループの心血管系疾患による死亡率が上昇していたことを明らかにした。研究グループはまた、ネズミを使った動物実験を実施し、放射線被曝による長期的影響をも解明した。

新研究論文の筆頭著者であるフロリダ州立大学の研究者、マイケル・デルプは、国際宇宙ステーションは2024年に退役する予定になっており、諸国(そして、スペースXなどの私企業)は眼を月と火星に向けていると語った。それとともに深宇宙放射線被曝の問題が浮上するが、これについてほとんどわかっていない。(The Human Body in Space: 6 Weird Facts

「新宇宙放射線について言えば、実に、月に行った24名のアポロ宇宙飛行士だけが現実としてこれに被曝した飛行士であり、というのも、他の全員――ソ連と米国の飛行士――は低高度地球周回軌道に滞在していただけなのです」と、デルプは本誌Space.comに語った。

月に行ったアポロ宇宙飛行士に関する研究によって、彼らが心血管系疾患によって死亡する頻度が深宇宙に挑んだことのない宇宙飛行士に比べて高かったことが判明した。Credit: Shutterstock

デルプによれば、宇宙飛行士の死亡原因を検討した先行研究がいくつかあるが、今回の研究は――コントロール[対照区]集団に、アポロ、ジェミニ、スペースシャトル飛行任務に指名されながら、結局、キャンセルされた宇宙飛行士、その他を含んでおり――アポロ飛行士の事例を一般人集団ではなく他の宇宙飛行士集団と比較したものとしては最初の例であるという。宇宙飛行士に選別されながら、宇宙飛行を実現しなかった集団は、宇宙行きを果たした集団と同等の基礎的健康度を有しているはずである。(デルプによれば、研究者らは、アポロ飛行士とほぼ同時期に選別されながら、宇宙飛行をしなかった飛行士を対照区に選んだといい、低高度地球周回軌道に留まった飛行士は少し遅れて選別されたものの、考察対象になった宇宙飛行士の全員の死亡時年齢は比較可能だった)

「この研究は、新宇宙への飛行が、健康に対して、特に心血管系に対して、なんらかの影響をおよぼすことを実に初めて示しました」と、デルプはいった。

デルプら研究チームは、アポロ飛行士7名、後に低高度地球周回軌道に達した宇宙飛行士35名、飛行経験のなかった飛行士35名の事例を考察し、無飛行の飛行士と低高度地球周回軌道滞在の飛行士の場合、心臓疾患による死亡率は差がなかったものの、アポロ飛行士の場合の死亡率は、一般の場合に比べて4倍ないし5倍は高かったことを明らかにした。(7名のうち、3名が心血管系疾患で死亡)

研究者らはまた、ネズミを地上で模擬無重力状態に置くとともに、同等の放射線に被爆させる試験を実施した。放射線か無重力状態のどちらかに晒したネズミの場合、全頭が静脈および動脈に損傷が生じ、それが心臓発作および心筋梗塞に発展しかねないことが認められ、放射線と無重力状態に両方に晒したネズミの場合、さらに思い損傷が認められた。デルプによると人間の20年に相等する6か月ないし7か月後になると、放射線に被曝させたネズミだけに、血管の損傷の持続が認められた。

ウォータールー老化研究所のシュレーゲル大学に在籍する心血管系生理学者、リチャード・ヒューソンは研究に参加していなかったが、「これは実に興味深い仮説だと思います。デルプと彼の研究チームはこのデータを引き出し、仮説を立て、ネズミ実験モデルで検証し、内皮(血管細胞)の機能に対するいくつかの興味深い長期的影響を示しました」と本誌Space.comに語った。

ヒューソン、その他は、宇宙飛行が心臓および血管におよぼす影響を研究し、低高度地球周回軌道滞在が影響をおよぼしたメカニズムは飛行後にたいがい正常な機能を回復することを明らかにした――それに対して、放射線の影響は長引くようだった。人体における影響を直接的に検証するために、今後の宇宙飛行士たちが月面滞在を経た彼ら自身の血管を検査することが重要であるとヒューソンは述べた。

デルプは今後の課題として、研究者らは有害な影響をもたらす最小放射線量を調べ、その背後にあるメカニズムを検証して、放射線の影響を緩和する対策――ひとつの選択肢として遮蔽、だが他にも、人体を守るために考えられるあらゆる措置――を探求する必要があると語った。デルプはまた、ジョンソン宇宙センターと共同で、アポロ飛行士の病歴をさらに深く研究する計画を立てている。

デルプは、「有害な影響が現れるまで、何年も宇宙放射線に被曝していなければならないとたいがいの科学者たちは感じていましたが、この研究の成果は、約2週間の被曝でさえ、有害な影響をもたらしかねないことを示したことです。放射線が原因であると証明したわけではありませんが、おそらく、さらに研究を続けて、これまで以上に注意深く調べる必要があることを示唆しています」と述べた。

「これは、深宇宙が人間の健康におよぼす影響の様相に踏み入る実質的な最初の一歩、あるいはその最初の一瞥なのです」と、デルプは言い添えた。

本日(728日)サイエンティフィック・リポーツ誌オンラインで公開された新研究論文は次のとおり――


Email Sarah Lewin at slewin@space.com or follow her @SarahExplains. Follow us @SpacedotcomFacebook and Google+. Original article on Space.com.

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【クレジット】

Space.com, “Apollo Astronaut Study Reveals Greater Heart Risk for Deep-Space Travelers,” by Sarah Lewin, posted on July 28, 2016 at;

【付録】

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