2015年6月17日水曜日

グリーンピースが読み解くIAEAフクシマ報告【2.環境への影響】



福島第一原子力発電所事故に関するIAEA報告概要:

予備的な分析





*** 目次 ***



2.環境への影響


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2.環境への影響

環境汚染対策の不備

「田舎暮らしは、清水で喉をうるおし、野山の恵みをいただくことができるので魅力的なのです。それが制限されるなら、生きているのではなく、生存しているだけなのです」――浪江町議会議長、吉田数博。

福島第一原子力発電所事故は膨大な量の放射性核種を、大気中拡散と太平洋への排水の形で放出した。これまで当然ながら、事故による人的影響が大きく注目されてきたが、環境汚染――および人間とヒト以外の動植物にとって、それが意味するもの――もまた、これまで以上に深く考察し、関心を払う値打ちがある。

IAEAは環境防護を次のように定義している――

「…保護と保全:動物と植物を併せたヒト以外の生物種、環境資源・サービス。この用語はまた、食糧と飼料の生産、農業、林業、漁業、観光業で使う資源、精神的、文化的、保養的な活動で享受するアメニティ、たとえば土壌などの媒体、水と空気、および炭素、窒素、水の循環などの自然過程を含む」9
9 Fukushima Daiichi Accident, Summary Report by the Director General, Board of Governors. May 14 2015, IAEA 2015, pg. 157

定義の幅広さを考え、ヒト以外の環境だけでなく、人間が日々に使い、接触する――農産物、魚類、水、木製品などの――自然資源に対する潜在的な影響を慮るなら、フクシマ惨事の自然環境および動物種の分析において、注意深く、徹底的であるのが分別というものであろう。

IAEAフクシマ報告はこれに反して、福島第一原子力発電所の核惨事に起因する陸域放射能汚染の規模、範囲、複雑さを描き切っておらず、証拠もなしに、そのヒト以外の生物相に対する影響を見過ごしている10IAEAは分析要録において、こう結論づけている――「短期線量の推測値は概して急性的な悪影響が予期されるレベルをじゅうぶんに下回っており、事故後に線量率が比較的急速に低減しているので、長期的な影響もまた予想されない」11
10 IAEA 2015, pg. 156
11 IAEA pg. 157

下記に詳述するが、環境の放射能汚染による悪影響を示す実質的な証拠があり、これこそはIAEAがその存在を認識しないことを選んだものなのだ。

陸域の放射能堆積

潜在的な影響を理解するためには、惨事に起因する陸域汚染の規模に関して、なんらかの背景を知る必要がある。

IAEA独自の定義によれば、(ベータおよびガンマ放射体の)地表放射線レベルが40 kBq/m2を超えている土地が放射能汚染地であるとされる(2005, 2009)。IAEAはフクシマ報告において、空中放出量の大半が太平洋沖に搬出された――じっさい、そうだった――と繰り返し強調しているが、これは陸域汚染が取るに足りないことを意味していない。

IAEAフクシマ報告は、反応炉敷地から北西方向に極度に高レベルの放射性セシウムが堆積した。この地域の各所では、1,000 kBq/m2 から10,000 kBq/m2 の堆積濃度が記録されているという12IAEAがいう福島全県の平均セシウム137堆積濃度は100 kBq/m2である13。これは驚くべき数値であり、IAEA自体の汚染地指標値である40 kBq/m2をはるかに超えている。
12 IAEA Fukushima Report, pg. 131
13 IAEA Fukushima Report, pg. 131

この事実をさらに別の文脈に照らしてみると、チェルノブイリ周辺の最大限に汚染された、いくつかの地域では、40ないし1,480 kBq/m2の堆積濃度である14
14 N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72.

また、当初に議論されていた放射性同位体――セシウム134、セシウム137、ヨウ素131――は懸念されるものであるが、これだけが惨事で放出された危険な放射性元素ではない。事故はセシウムや放射性ヨウ素に加えて、(骨に生物蓄積する)ストロンチウム90など、他にも多種類の放射性核種を放出した。さらにまた、路傍の黒色粉塵、福島全県の土壌、それに反応炉敷地から25ないし45 kmも離れていながら、ひどく汚染された飯舘村の土壌に対する試料検査の結果、超ウラン元素汚染物質が検出され、それが核燃料炉心と同じ超ウラン元素組成であると確認されており、それ故、福島第一原子力発電所惨事の結果、炉心成分が環境中に存在していると確定された15
15 M. Yamamoto, et al. (2014). Isotopic Pu, Am and Cm signatures in environmental samples contaminated by the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident. Journal of Environmental Radioactivity. 132 (2014) 31- 46.

ほぼすべての試料で検出された元素は次のとおりである――プルトニウム238239240、アメリシウム241、キュリウム24224324416。これら危険な超ウラン元素の量こそ、ごく少量ではあるが、その半減期の長さと毒性を考えると、吸入すれば特に有害であり、摂取すれば潜在的に危険である。
16 M. Yamamoto, et al. (2014). Isotopic Pu, Am and Cm signatures in environmental samples contaminated by the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident. Journal of Environmental Radioactivity. 132 (2014) 31- 46.

これら環境中に存在する元素のヒト以外の生物相に対する影響は探究されていないし――これらの汚染地で暮らし、あるいは汚染地域の自然資源および/または農産物を消費する人間の潜在的な被曝経路となれば、なおさらのことである。

放射能、森林、火災

放出された放射能の大半が内陸方向でなく、卓越風に乗って、東方向の海に運ばれていなければ、フクシマ事故はさらに大きな影響を日本にもたらしていただろう。

しかしながら、東北地方は山が多く、うっそうと森林に覆われた、おおむね冷涼な気候の寒帯林地であって17、それ故、陸域に堆積した放射能が森林地を大きく汚染した。植生はこの点で、主として寒帯林であるチェルノブイリ惨事現地の近隣地域に似通っている18。だから、チェルノブイリは有益な比較対象になる。
17 J. Kolbek et al. (eds.), Forest Vegetation of Northeast Asia, 231-261. © 2003 Kluwer Academic Publishers.
18 N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72.

両方の惨事ともに、森林地の広大な区域が高レベルに汚染され、惨事後の管理にまつわる困難な課題を突きつけている。ある観察者が述べたように、「日本における現在の復興計画は、住民が自宅に帰還できるようにするために、環境から汚染を除去することを中心に実施されている。このなりゆきにおいて(チェルノブイリ立入禁止区域に比較すると)、汚染された森林が、緩衝地帯ではなく、公衆の健康に対する脅威になる」19
19 Bird, W.A and J.B. Little (2013). A Tale of Two Forests: Addressing Postnuclear Radiation at Chernobyl and Fukushima. Environmental Health Perspectives • volume 121 | number 3 | March 2013

IAEAは、環境汚染が急速に減少してこと、そして、このことに――放射能減衰に加えて――風化作用は大幅または部分的に寄与していることを前提にしている。これはある程度――とりわけ半減期がほんの8日にすぎない放射性ヨウ素に関連する場合――真実であるが、セシウム、ストロンチウム、超ウラン類など、半減期の長い放射性核種はいまだに環境中に多く存在しているのを理解しておくことが重要である。

さらにまたN・エヴァンジェリオら(2015)は、セシウム13720による生態系被害に関する最初の完全な論文「10年から、セシウム137の物理的半減期に等しい30年までの期間における地表土壌層の放射性セシウムの実効半減期計算値は地区によってばらついている」において、「セシウム137の実効半減期は、物理的崩壊に加えて、(垂直移動、大型貯水池への流出、土壌侵食など、あらゆる環境的除去過程を含む)生態的半減期が組み合わさったものである…」21と述べている。それ故、セシウム汚染が風化作用による放射性核種の半減期よりも迅速に低減するとは――測定で実証しないかぎり――考えられない。
20 Bergan, T. D. 2000. Ecological half-lives of radioactive elements in semi-natural systems. NKS(97)FR5, ISBN 87- 7893-025-1.
21 N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72

さらにまた、おおむね粘土質である地域内の土壌はセシウムを固定するし、風化作用に耐えもする22。日本政府は、キノコ類、野草、薪の採取、狩猟などを規制したものの、驚くべきことに汚染地域で伐採した木材の使用を制限しなかった23。これが意味することについて、また汚染木材が反応炉敷地から遠く離れた場所まで拡散した可能性について、IAEAも、日本政府も問題にしていない。
22, 23 Bird, W.A and J.B. Little (2013). A Tale of Two Forests: Addressing Postnuclear Radiation at Chernobyl and Fukushima. Environmental Health Perspectives • volume 121 | number 3 | March 2013

放射能汚染された森林の火災リスク

放射能汚染は活動的で相互連関した生態系に影響をおよぼすが、IAEAはその影響を検証したり説明したりしていない結果、リスクを著しく過小評価することになった。

チェルノブイリにおける研究によって、セシウムとスロンチウムの両方ともに、当初堆積時から長期にわたって土壌最上層に残留していることが実証された。これは植物(木々、草、菌類)の自然生命作用の結果である。植物が蒸発のために水分を奪われると、根系を通して補給分の水を吸い上げる。セシウムとスロンチウムはカリウムとカルシウムの化学的類似物である。これらの放射性で水溶性の塩類は、そうした必須栄養素を求める部位に取り込まれる24。そして、葉を含む、樹体に蓄積する。それが落葉すると、葉に含まれているセシウムとスロンチウムが土壌に還る。
24 N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72

自然界の分解者に対する放射線の影響を考察すれば、このことは格別に問題になる。チェルノブイリとフクシマの周辺の核災害汚染森林は、食品長期保存策として一部の野菜類や果物類が放射線照射処理を施されるのと同じように、巨大な規模の照射を受けている。

放射線は自然分解者の多くを殺してしまう。分解者がいなくなれば、通常なら年とともに分解するはずだった落ち葉、枝、枯れ草が、そうならずに積み上げられていく。チェルノブイリでは、これが「燃料の梯子(はしご)」*と言い習わされ――火災の頻度を著しく増大させるとともに、急速に拡大しやすくする膨大な量の発火物を用意するのに加えて――森林火災が樹冠に達し、大規模な樹冠火災になるリスクを増大させる25
* 【訳注】fuel ladders。火が林床から樹冠から燃え上がるのを可能にする、枯れたり生きたりする植物体の総称を表す消防用語。
米国政府刊『森林火災の挙動入門』(S-190)イラスト
25 N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/thumb/a/a9/Ladderfuels.png/760px-Ladderfuels.png

汚染された森林が炎上すると、ストロンチウム、セシウム、プルトニウムが放出され、これが微細な粒子になっているので、吸引されることがありうる26。樹冠火災は、森林に含まれる放射性核種の最大40%を大気中に放出することがあるので――また、放出放射能が上層大気に達し、遠距離を運ばれることがあるので――とりわけ問題になる27。おまけに、セシウムは沸点が低いので、たとえ土壌中に固定されていても、野火で部分的に蒸発し、煙とともに運ばれる28
26 Hao, W. M., O. O. Bondarenko, S. Zibtsev, and D. Hutton. 2009. Vegetation fires, smoke emissions, and dispersio of radionuclides in the Chernobyl Exclusion Zone. Pages 265– 275 in A. Bytnerowicz, M. J. Arbaugh, A. R. Riebau, and C. Andersen, editors. Developments in environmental science. Volume 8. Elsevier, Amsterdam, The Netherlands.
27, 28 N. Evangeliou et al. (2015). Fire evolution in the radioactive forests of Ukraine and Belarus: future risks for the population and the environment. Ecological Monographs, 85(1), 2015, pp. 49–72.

したがって、以前は汚染森林に隔離されていた放射性核種が、火災によって再び移動し――時には元の場所からはるか彼方まで――再び運ばれることがあるし、森林のなかに放射能が存在すること自体が、野火の頻度、規模、勢いを増大させる形で生態系の破壊要因になる。

チェルノブイリの立入禁止区域と汚染地域で増えている火災が、反応炉と暫定廃棄処分場の安全を脅かすだけでなく、大気中に放射能を放出しているので、近年になって、この憂慮すべき悪循環は国際的な注目の的になった。

それ故、放射能を帯びた森林を、緩衝地帯、あるいは同類の隔離メカニズムとみなすわけにはいかない。この森林汚染から持ち上がる問題は、風や水の風化作用による再拡散の可能性を遥かに超えて大きい。これはむしろ、潜在的に深刻な人間の健康に対する影響および/または農地の再汚染につながる放射能の再放出を引き起こす火種なのである。

ヒト以外の動物に対する影響

IAEAの報告概要は、健康への影響や急性効果が観察されるとは予想しないというばかりで、福島第一原子力発電所事故で放出された汚染物質のヒト以外の動物に対する影響に言及していない。チェルノブイリはこの分野でもまた、フクシマ周辺の生態系に予期されうる事態を知るための比較対象になる。

長期にわたる大規模な研究によって、チェルノブイリ周辺の動物集団における発育異常が明らかになっている。モラーらによれば、放射能レベルが高い環境は、動物の酸化ストレスを増大させる。大型の頭脳を維持するために、つまり脳が正常に機能するには、大量の酸素の継続的な供給が必要である――すなわち、大きな脳を持つことは、高度の酸化プロセスを抱えることである。重度に汚染されている地域のように、バックグラウンド酸化ストレスが高い場合、脳が大きい個体は、酸素要求量の少ない個体に比べて、体にかかるストレスが大きいので、生態学的な不利な立場に置かれている。このため、脳の小さな個体のほうが有利になり、汚染地域における長期的な傾向として、個体群の脳のサイズが縮小していくことになる。この脳に見る異常な現象――お好みなら、脳の退化――は。チェルノブイリの鳥類集団について記録されている29
29 Møller AP, Bonisoli-Alquati A, Rudolfsen G, Mousseau TA (2011) Chernobyl Birds Have Smaller Brains. PLoS ONE 6(2): e16862. doi:10.1371/ journal.pone.001686

チェルノブイリ周辺の鳥類は、脳の縮小に加えて、白内障30、腫瘍疾患31、色素欠乏症31の増加が認められる。
30 A.P. Møllera and T.A. Mousseau. Elevated Frequency of Cataracts in Birds from Chernobyl. Published: July 30, 2013 DOI: 10.1371/journal.pone.0066939.
31 A.P. Møllera, A. Bonisoli-Alquatib, T.A. Mousseau. High frequency of albinism and tumours in free-living birds around Chernobyl. Mutation Research/Genetic Toxicology and Environmental Mutagenesis. Volume 757, Issue 1, 18 September 2013, Pages 52–59.

フクシマ周辺における動物集団に対する有意の影響を認めるには、まだ時期尚早であるものの、フクシマ周辺における同様な研究によって、鳥類と虫類の生息数の減少が示された。フクシマの鳥類集団に関する最近の研究は次のように結論している――「バックグラウンド放射線レベルが高くなると、有意の種間変異が認められるが、鳥類の個体数が減少した。バックグラウンド放射線レベルが時間の経過とともに低減したにもかかわらず、個体数と放射線の関係は時間の経過とともに逆比例になっていった。栄養レベルが高い場合、個体数と放射線の逆比例関係は緩和された。これらの知見は、個体数と種の多様性に対する放射能の悪影響が時間の経過とともに蓄積するという仮説と一致している」32
32 Cumulative effects of radioactivity from Fukushima on the abundance and biodiversity of birds A. P. Møller1 • I. Nishiumi2 • T. A. Mousseau, March 3 2015, Journal of Ornithology DOI 10.1007/s10336-015-1197-2, http://cricket.biol.sc.edu/chernobyl/papers/Moller-et-al-JO-2015b.pdf, また、「われわれが評価した生物指標は雛の反応をなんら示さなかったが、われわれのツバメ生息数調査は福島地域における数種の鳥類の生息数減少に関する以前の知見を確認するものだった。さらにまた、放射線被曝レベルが高くなれば、幼鳥の比率が減少したことで実証されたように、生息数減少の原因が繁殖率の低下および/または巣立ち率の低下であることが示唆された」。 “Abundance and genetic damage of barn swallows from Fukushima”, A. Bonisoli-Alquati, K. Koyama, D. J. Tedeschi, W. Kitamura, H. Sukuzi, S. Ostermiller, E. Arai, A. P. Møller & T. A. Mousseau, Scientific Reports 5, Nature, Article number: 9432 doi:10.1038/srep09432, April 2 2015,
【日本語訳】Nature誌サイエンス・リポーツ【論文】T・ムソーら「福島のツバメの生息密度と遺伝子損傷

こうした影響をじっさいに検証している科学者たちは、IAEAフクシマ報告に見る、環境に対する放射線の影響の皮相的な否認とは対照的に、次のように結論した――「われわれは、広範な地域において長期にわたって実施した、綿密で再現性の高い観察にもとづいており、種の多様性とさまざまな鳥類種の個体数の豊富さが福島における高レベルのバックグラウンド放射線によって抑制されているという仮説と一致している実質的な証拠を示した」

この重要な研究は、ストレスを受けた生態系を示す初期の指標であると考えてよい33
33 A.P. Møllera, et al., Differences in effects of Radiation on abundance of Animal in Fukushima and Chernobyl. Ecological Indicators 24 (2013) 75–81

結論

IAEAフクシマ報告は、その結論が「事故直後の時期に実施された観察調査は限られてはいるが、放射線に起因する動植物に対する直接的な影響に関して報告されている観察(の不足)」にもとづいていると記す(太字強調は著者による)。そしてまた、「このアセスメントに用いられたモデルにともなう全般的な不確実性は大きく、環境の変遷に関する想定にかかわる場合、なおさらのことである。これらのアセスメントは単純な想定にもとづいており、通常の場合、不確実性を考えて、控えめな想定を採用している。蓄積線量を放射線効果に関連づける基準は、急性被曝より慢性被曝に関連づけられ、また個体群や「生態系」ではなく、限られた範囲の個体に関連づけられている。現在の手法は、生態系の構成要素の相互作用を考慮に入れていないし、あるいは放射線とその他の環境ストレス要因が組み合わさった影響もそうである」(太字強調は著者による)34
34 IAEA Fukushima Report, pg. 157

参照生物相は特定の動植物種に対する潜在的影響に関する当初の意味を付与するかもしれないが、これらの生物が、個体間で、あるいはみずからの環境と相互作用している――それ故、両者が環境汚染物質と接触し、それを移動させ、あるいは生物濃縮させている――様相をもまた完全に無視しながら、生物に対する将来の環境的影響を全面的にありえないとして否認していては、単純に信頼できない。理解が足りないだけでなく、結論の対象――この場合、フクシマに起因する甚大な放射能汚染によって将来に予期される環境的な影響――を理解したり解析したりする努力がまったく欠けていれば、結論を引き出すことはできない。

フクシマの放射能によるヒト以外の環境に対する影響は予想されないとするIAEAの分析には、信頼性が全面的に欠けている。よくいっても、環境問題に向かって、ぞんざいな一瞥をくれているにすぎない。最悪の場合、複雑なシステム分析を意図的に過剰単純化して、放射能汚染による環境とヒト以外の動物に対する現実の影響を指摘する既存の科学的証拠を無視している。

フクシマ報告が福島第一原子力発電所事故による環境放射能の影響に関する理解と論議を型にはめるIAEAの企てであることを考えると、その手法と結論に見る致命的な欠陥は、地域社会の人びとが環境資源を使い、農産物を食べており、ヒト以外の環境と相互作用しているので、公衆に不当なリスクを押し付けかねないものである。IAEAは非常にリアルな問題を否認することによって、レトリックと空虚な安請け合いをもてあそび、健全な科学的解析と公共の安全を提示していない。

*** 本稿の構成 ****



2.環境への影響

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