2015年6月25日木曜日

Nature誌サイエンティフィック・リポーツ「今後の詳細な調査が求められるフクシマ放出プルトニウム」


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SCIENTIFIC REPORTS | ARTICLE  OPEN

今後の詳細な調査が求められるフクシマの放出プルトニウム
·          
Scientific Reports 3, Article number: 2988 doi:10.1038/srep02988
2013812日受付 2013102日受理 20131018日公開

福島事故後の日本における汚染は、主として揮発性核分裂生成物に関して調査されてきたが、プルトニウムなどのアクチニド類に関してはほとんど研究されていない。福島におけるアクチニド類の放出は少量にすぎなかったと推測されている。かつての大気圏核兵器実験に由来するプルトニウムはいまでも環境に遍在している。われわれは日本各地で採取した土壌・植物試料を検査して、240Pu/239Puの同位体比率を手がかりに反応炉で生成したプルトニウムを探した。われわれは加速器質量分析によって、福島第一原子力発電所からのプルトニウムの放出を実証した。ほとんどの試料に核実験フォールアウトの特徴を示す放射性核種のみが認められたが、プルトニウム(239+240Pu放射能濃度=0.49 Bq/kg)の出処が核反応炉であることの証拠になる同位体比率(0.381±0.046)が認められる植物試料が少なくとも1検体あった。たとえば、土壌とその上に育つ植物といったように、試料採取地点が非常に近接している場合でも、プルトニウム含有量と同位体比率がかなり違っていた。この強度の局在性によって、プルトニウムが粒子として放出されたことが示唆されており、これを体内摂取すると、放射線学的リスクが高い。


序論

2011年の福島第一原子力発電所における事故は、主として揮発性の核分裂生成物による大規模な汚染を日本国土の地表面と太平洋にもたらした。ベント操作のさいに大量の放射性核種が反応炉圧力容器から放出された。1号炉、2号炉、3号炉で勃発した大規模な水素爆発によって、この放出量が増大した。事故が進行するにつれ、日本の広大な地域が、ヨウ素131、テルル132、セシウム134、セシウム137、その他の揮発性の放射性核種によって汚染された1, 2, 3, 4。数多くの研究によって、これらの空中浮遊放射性核種が北半球の全域で見つかった。ストロンチウム5, 6, 7、バリウム、ランタニド類など、難溶性元素の同位体が検出されることは稀だった8。もっとも重要なものであるプルトニウム238(半減期24,110年)、プルトニウム240(半減期6,561年)など、アクチニド類は半減期が長いアルファ放出体であるにもかかわらず、最も深刻にも研究が足りない元素グループである。Schwantesらはプルトニウム総量(1号炉と3号炉のなかに>5.6 kg90.002%(±0.0003%)だけが環境中に放出されたと見積もっている。Zhengらの最近の研究によれば、プルトニウムの放出量はもっと少なく、炉心内総量の0.00002%だけであると示唆されている10。(海水と河川水を含む)環境媒体に含まれるアクチニド類(もっとも重要なのがプルトニウム)の検査に的を絞った研究はほんの数例だけである7, 11, 12, 13, 14, 15。福島第一原発からのプルトニウムの大気中放出の最も顕著な証拠は、Zhengらの研究に提示されている11.

20世紀の大気圏内核実験のころから、プルトニウムは環境に遍在している元素になった。しかしながら、元素比率240Pu/239Puを同位体識別子として使えば、核兵器フォールアウト(240Pu/239Pu=約0.1816と核反応炉から放出されたプルトニウム(240Pu/239Pu0.40.6)を判別することが可能になる。それぞれの核種のアルファ粒子エネルギーが非常に近似しているので、プルトニウム239とプルトニウム240の同位体比率を判別するのに、通常の場合、放射分析法は使えない。その代わり、低電離質量分析法17,18、あるいは加速器質量分析(AMS)が強力な代替手段として確立された。AMSは目下、環境プルトニウムの同位体組成を決定するための最も敏感な方法であるとみなされている。

福島からのアクチニド類放出の前駆兆候、とりわけネプツニウム239(プルトニウム239の親核種)の環境存在量は、Shozugawaらによって提示された19。その研究において、ネプツニウム239はガンマ線スペクトロメトリーを用いて検出された。しかしながら、ネプツニウム239スペクトルの最大ピークがテルル129mと重なっているので、本研究では、選定されたホット・スポットの土壌・植物試料をAMSを用いて検査し、そのスポットにおけるプルトニウム同位体兆候を探す必要があった。

結果

2011年における日本のホット・スポット数か所で採取した土壌・植物試料は(1および1)、人為的なアクチニド、特にプルトニウムに的を絞って検査された。

図1.福島第一原子力発電所および1のコードを用いた本研究の試料採取地の位置。

1.試料説明と採取地点
種別
コード
地点
地理座標
距離(km
採取日
土壌
A-S
福島第一原発正門
37°25′02″N 141°01′29″E
0.88
2011-12-21

B-S
原発から1.5 km
37°25′04″N 141°01′01″E
1.5
2011-12-21

C-S
原発から1.9 km
37°25′03″N 141°00′44″E
1.89
2011-12-21

D-S
原発から4.3 km
37°23′19″N 141°00′30″E
4.25
2011-12-21

E-S
知命寺
37°29′45″N 141°00′05″E
8.7
2011-12-21

F-S
福島第二原発
37°20′31″N 141°00′51″E
11.96
2011-12-21

G-S1
南相馬市小高区
37°33′57″N 141°59′31″E
16.42
2011-12-21

G-S2
南相馬市小高区
37°33′57″N 141°59′31″E
16.42
2011-12-21

H-S1
南相馬市
37°38′N 140°57′E
30
2011-10-31

H-S2
南相馬市
37°38′N 140°57′E
30
2011-10-31

I-S
千葉県柏市
35°52′48″N 139°59′09″E
195
2011-10-26

J-S1
横浜市
35°32′07″N 139°38′03″E
244
2011-07-25

J-S2
横浜市
35°32′07″N 139°38′03″E
244
2011-07-25
植物
A-V
福島第一原発正門
37°25′02″N 141°01′29″E
0.88
2011-12-21

B-V
原発から1.5 km
37°25′04″N 141°01′01″E
1.5
2011-12-21

C-V
原発から1.9 km
37°25′03″N 141°00′44″E
1.89
2011-12-21

D-V
原発から4.3 km
37°23′19″N 141°00′30″E
4.25
2011-12-21

E-V
知命寺
37°29′45″N 141°00′05″E
8.7
2011-12-21

F-V
福島第二原発
37°20′31″N 141°00′51″E
11.96
2011-12-21

G-V
南相馬市小高区
37°33′57″N 141°59′31″E
16.42
2011-12-21

土壌・植物試料の元素比率240Pu/239Puおよびプルトニウム239とプルトニウム240の検出しうる放射能濃度のアルファ分光分析およびAMSの結果を2に示す。アルファ分光分析を用いた場合、プルトニウムが検出できた試料は限られていた。AMSを用いた場合でも、たいがいの試料でプルトニウムを検出できなかった。(ISO 11929にもとづく)20決定閾値未満の信号に関して、240Pu/239Pu比率の上限値だけが示されている。プルトニウム239が決定閾値を超えており、プルトニウム240が超えていない場合、元素比率の上限値を示している。どちらの同位体もAMSで検出されない場合、“n.d”(不検出)と記載する。得られた結果が少量の数値なので、試料の分割ができず、それ故、アルファ分光分析に求められる高いアルファ放射能値とAMS測定に望ましい低いアルファ放射能値のあいだの妥協を測るためにプルトニウム242の濃度頂点値を加えた。したがって、本研究で提示するAMS結果は非常に高いバックグラウンド計測割合の影響をこうむっている。

2.アルファ分光分析およびAMSの結果。植物試料に関して、プルトニウム240とプルトニウム239の数値化は施されていない。240Pu/239PuAMS比率240Pu/242Puおよび239Pu/242Puからの計算値であり、242Puは頂点値として加えた。星印(*)を付した数値は、(ISO 11929にもとづく決定閾値の)上限値(本文を参照のこと)。


アルファ分光分析
AMS同位体比率


239+240Pu
240Pu/239Pu
240Pu/242Pu
239Pu/242Pu
試料
ETHラベル
Bq/kg
比率
比率
比率
A-S
TP0178
< 2.211
n.d.
< 0.000055*
< 0.000068*
B-S
TP0179
< 0.474*
< 0.300
< 0.000055*
<0.000185
C-S
TP0180
< 0.686*
< 0.172
< 0.000055*
0.000322
D-S
TP0181
< 0.500*
n.d.
< 0.000055*
< 0.000068*
E-S
TP0182
< 0.298*
< 0.285
< 0.000055*
<0.000195
F-S
TP0183
< 0.397*
< 0.220
< 0.000055*
<0.000252
G-S1
TP0184
< 0.370*
n.d.
< 0.000055*
< 0.000068*
G-S2
TP0185
< 0.152*
< 0.246
< 0.000055*
0.000226
H-S1
TP0172
< 0.155
< 0.173
< 0.000055*
<0.000312
H-S2
TP0171
< 0.161
0.205 ± 0.039
0.000367
0.00179
I-S
TP0188
< 0.532*
< 0.615
<0.000150
0.000244
J-S1
TP0186
< 0.405*
< 0.103
< 0.000055*
0.000539
J-S2
TP0187
< 0.426*
< 0.322
< 0.000144
0.000447
A-V
TP0272
N/A
0.381 ± 0.046a)
0.00146
0.00384
B-V
TP0273
N/A
n.d.
< 0.000111*
< 0.000184*
C-V
TP0274
N/A
n.d.
< 0.000111*
< 0.000184*
D-V
TP0275
N/A
< 0.242
< 0.000111*
< 0.000458
E-V
TP0276
N/A
< 0.973
< 0.000612
< 0.000629
F-V
TP0277
N/A
n.d.
< 0.000111*
< 0.000184*
G-V
TP0278
N/A
0.64 ± 0.37b)
0.000557
0.000867
a)プルトニウム放射能濃度:0.286 ± 0.028 Bq/kg 240Pu; 0.204 ± 0.015 Bq/kg 239Pu.
b)プルトニウム放射能濃度:0.116 ± 0.045 Bq/kg 240Pu; 0.049 ± 0.021 Bq/kg 239Pu.
n.d. = 不検出
N/A = 適用不可.

土壌試料H-S2には、地球規模のフォールアウトの特徴である 240Pu/239比率とAMS信号強度が現れている。それ故、この試料は定量化を施さなかった。しかしながら、植物試料A-Vは有意に高い240Pu/239Pu元素比率(0.381±0.046)を示している。試料G-Vは分析上の不確実性がもっと大きいものの、やはり核兵器実験による遍在的なフォールアウトより高い同位体の兆候(0.64±0.37)を帯びているのかもしれない。このように高い比率は、核反応炉プルトニウムの特徴であり、それ故、福島第一原子力発電所の損傷した反応炉から、少量ではあっても、検出可能な量のプルトニウムが放出された証拠になる。

考察

本研究で検査した20件の試料のうち、17件がプルトニウムの検出限界値を超えなかった。1件の土壌試料は、特色的な同位体比率が240Pu/239Pu0.2であり、地球規模不オールアウトのプルトニウムで汚染されているだけだった。しかしながら、植物試料の少なくとも1件(A-V)あるいは(不確実性が高いものの、G-Vを加えて)2件は、反応炉に由来する検出可能な量のプルトニウムの存在を示した(同位体比率240Pu/239Pu0.2)。Zheng11が浮き彫りにするように、遍在的なフォールアウトによるプルトニウムのバックグラウンドが土壌のなかの福島に由来するプルトニウムの極小寄与分を隠したと推測できる。しかし、プルトニウムの移動性と生体利用効率が低いことを考えるとフォールアウト・プルトニウムの植物体内取り入れは無視できると想定される。したがって、植物体表面におけるプルトニウムの乾燥性または湿性沈着はAMSのように感度の高い分析法によって容易に検出できるであろう。おそらくこのことから、植物が本研究における福島由来の空中浮遊プルトニウムの生物指標として適していることが証明される。

プルトニウムのような難溶性の元素の発見を想定するうえで、距離だけが十分な要因でないと銘記しておくことが肝要である。反応炉から最も近い(0.6 km)地点で採取した植物試料に検出可能な量の反応炉プルトニウムが認められたものの、反応炉に近い(1.51.9 km、…)地点に試料では認められなかった。ところが、北北西方向に16 km離れた地点の試料(G-V)では、福島由来のプルトニウムが含まれていることが疑われた。この知見が確定すれば、最もありうることとして、粒子形態のプルトニウムの分布が非常に不均一であることが示唆される。このようなプルトニウムに富んだ粒子を吸引すれば、肺組織に高レベルの局所線量が届けられる結果になるかもしれないので、このことには、健康物理学的な意味合いがある。

福島核事故の過程で放出されたアクチニド類はごく少量だったという共通認識が科学界にある。Schwantes9は、1号炉と3号炉の平均放射能総量を計算し、240Pu/239Pu元素比率を0.441と割り出した。Kirchner21が公表した放射能総量データからも同じような数値が割り出され、それを0.393と特定した。Sakaguchi12は、比率が0.4を超えると見積もった。推測したり、計算したり、見積もったりしたこれらすべての数値は、試料A-Vで認められた比率(0.381±0.046)と良好に一致しており、またG-V0.64±0.37)に認められた解析不確実性の範囲内に収まっている。Zheng11は、いくらか低い土壌と草木類の元素比率値(0.300.33)を得て、地球規模のフォールアウト・プルトニウムと混じりあっているので低い値になったと結論した。しかしながら、じっさいの粒子構成はまた、核反応炉の「稼働履歴」によって、反応炉全体の平均的な核種構成とは違うこともありうる21。またウラニウム燃料装填の1号炉とMOX燃料装填の3号炉とでなんらかの違いを予測しうる。Sakaguchiらは、阿武隈川の河川水で240Pu/239Pu同位体比率が0.308±0.176に上昇していることを認めたが、解析の不確実性が比較的に大きいので、さらなる分析が求められる。

いずれにしても、Zhengらが使った扇形磁場 ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)が、本研究で使ったAMSの結果と完全に比較しうる同位体比率の解析結果を出すことが判明した。プルトニウム239とプルトニウム249の合算放射能濃度もまた、先行して公表されたデータ1113と比較可能であり、ただわずかに高い。しかしながら、これらの数値はやはり福島核事故以前のプルトニウム汚染の範囲内(0.154.31 mBq/g)に収まっている1122。それ故、プルトニウム239とプルトニウム249の合算放射能濃度だけでは、福島第一原子力発電所からのプルトニウム放出の明確な証拠にならない。

この意味で、土壌試料でなく、植物試料にだけ反応炉に由来するプルトニウムの検出しうる痕跡量が認められるのは興味深い。福島核事故によって、環境プルトニウム総量は有意に増加しなかったので、地球規模プルトニウム・バックグラウンドが同位体比率を薄め、新たに沈着した、大幅に少ない量のプルトニウム粒子に特色ある同位体の兆候を見えなくさせたと想定することができる。プルトニウムの環境移動性と生物学的利用率が低いことを考えると、植物は、「旧来の」プルトニウムの摂取によるバックグラウンドが無視できるほどであり、その表面に空中浮遊粒子を集めているのである。2011年以来、アクチニド類の大気中放出が止まっているからだけでなく、雨が植物の表面から粒子を洗い落とし、あるいは植物生育サイクルによって、露出した葉の表面が更新されるので、将来における植物試料のプルトニウム検出はますます考えられなくなる。いずれにしても、2011年遅くに採取した植物試料(草、葉)に検出されたプルトニウム放射能は(すでに?)非常に少なかったので、それらを農業植物であるとすると、プルトニウム放射能濃度は食品中のアルファ線放出核種(アクチニド類)に対する初期の規制値を超えなかったであろう23

本研究の結果は、福島反応炉からの難溶性元素の放出量が非常に少なかったことを確定した。Zheng11が見つけ、報告したプルトニウム濃度は、1986年以後にチェルノブイリ現地周辺で採取された環境資料で得られた数値より部分的に3桁以上も低い24。半揮発性の放射性核種、ストロンチウム90の場合でも同じように、フクシマ事故後に時たま検出されるだけであり、日本の環境試料中の放射能濃度がかなり低いことがわかっている。先行研究6で叙述されているように、地点G2に記載されているように、反応炉プルトニウムにも汚染されていると疑われる地点)の植物試料もまたストロンチウム90汚染値が比較的に高いが、放射性セシウムの放射能濃度はむしろ低かった(放射能比率 90Sr/137Cs=約0.1)。このセシウム137に対するストロンチウム90の比率は、先行研究6で検査した他の資料の全てよりも低かった。地点Gは反応炉から北西方向に延びる主要な「汚染帯」の外に位置しており、反応炉プルトニウムの存在はさらに予測されない。地点Gで反応炉プルトニウムの存在が確定すれば、この異常な(難溶性の放射性核種の濃度が高く、揮発性の放射性核種の濃度が低い)放射性核種構成比の理由についていぶかることであろう。ひとつのありうる説明として、その地点が、反応炉から放出される前、またはそのあいだに、放射性セシウム成分の大多数が蒸発するほどの高温にさらされた燃料粒子によって汚染されたということが考えられる。しかしながら、この仮説はさらなる検証が必要である。いずれにしても、放射性セシウム(および他の揮発性放射性核種)のレベルと環境中のプルトニウムの存在とには必ずしも相関関係がないようである。この所見により、揮発性放射性核種が初期のベント操作中の数日間にわたり圧力容器から放出された一方で、プルトニウムの放出はもっと特異な事象であった可能性がある。

要約すれば、本研究は損壊した福島第一原子力発電所からのプルトニウムの放出をその同位体識別特徴によって証明した。2点の植物試料にそれぞれ0.381±0.046 および 0.64±0.37 240Pu/239Pu同位体比率が認められ、その両者ともに地球規模フォールアウトのバックグラウンドより高い。しかしながら、放出されたプルトニウム238とプルトニウム240の放射能濃度は比較的に低く(それぞれ0.490.17 Bq/kg−1)、福島からのプルトニウム放出量は少ないという初期の予測を追認している。2点の試料の他には反応炉プルトニウムが検出されなかった(2点のうち1点は疑問視されている)という事実は、福島第一原子力発電所からのプルトニウムの放出と沈着が、プルトニウム微粒子による不均等な汚染という形で起こったことを示唆している。今後の研究は、大量の試料のプルトニウム含有燃料粒子の包括的な検査、そして可能であれば、単一粒子分析技術による詳細な検査をめざすことになるだろう。検出限界値および決定閾値は、純度の高い頂点指標を用いれば、低くなるだろう。さらに、アルファ放射線測定をおこなわない場合、同じ試料に対してプルトニウム244頂点指標を用いることができる。そうすれば、このような環境試料に対するAMS検査を改善することができる。

プルトニウムに富んだホット・パーティクルが確認されれば、吸引または摂取による潜在的な健康不安が生じる。本研究の知見は、公衆に対する潜在的な放射線学的影響を評価するためには、プルトニウムの分布と同位体構成に対するさらに詳細な研究が必要であることを実証した。いずれにしても、本研究は、福島核事故のあと、日本における環境プルトニウム総量が有意に増加していないと示唆する先行知見を支持している。

方法

試料採取

試料は201110月から12月にかけて東日本の沿岸のいくつかの地点で採取された(1)。規制区域内で試料を採取するさい、大熊町の町長の許可を得た。試料採取地点の一部は、以前にも半減期の短いガンマ放射線核種19およびストロンチウム906の関連で調査されていた。大多数の地点において、表層土および植物(葉、草、針葉など)の2種類の試料が採取された。試料採取地点には、福島第一原子力発電所正門など、非常に高度に汚染されている地点、福島第二原子力発電所など、原発の近隣地点が含まれているが、横浜市や柏市(福島第一原子力発電所から約200 km)といった遠距離の地点も含まれていた。正確な位置と試料採取日を1に示す。

試料の準備と測定

すべての資料を105℃の熱で乾燥した。所与の特定放射能量と質量はそれぞれの試料の乾燥質量に対応している。

土壌は1 gから2 gの範囲内の比較的に少量しか得られなかったが、例外として、試料H-S1およびH-S2はもっと大量に得られた。したがって、試料ロスを回避するために、鉱物粒子除去を手控えた。試料を103時間かけて緩慢に最大450℃に達するまで加熱して灰化した。灰に約30 mBqのプルトニウム242頂点指標を加え、高濃度硝酸と高濃度フッ化水素酸を用いて分解した。次いで、乾燥残渣を1モルの硝酸アルミニウムと3モルの硝酸の溶剤に漬け、それを濾過した。プルトニウムの化学分離はEichrom® TEVA樹脂を用いた抽出クロマトグラフィーによっておこなった25。分離後の試料を電着によってステンレス・スティール製のプレートに移した2526。電着には、950 mAの定電流を用いて2時間かけた。アルファ分光分析をおこなったあと、AMS測定に移るために、アルファ・プレートを熱い硝酸(3モル)に浸して、ふたたび溶解した。ウラニウムからの分離を最適化するために、第2段階の分離を適用した。次いで、プルトニウムを水酸化第二鉄とともに凝結させ、800℃まで熱して、酸化鉄に転換した25。最後に試料を11の割合でアルミニウムの粉末と混合し、AMS標的ホルダーに押しこめた。

植物試料に対して、多少の修正はあるものの、基本的に同じ手順を施した。20時間以上かけて600℃まで熱する加熱プログラムを用いて、灰化処理を施した。灰化試料の質量が非常に小さくて26ないし230 mgである場合、アルファ分光分析測定を実施することができなかった(2の該当欄に“N/A” 適用不可)と表示)。同じ理由により、わずか5 mBqに減らしたプルトニウム242を頂点指標として加えた。さらにまた、蒸解手順を、210°Cの高濃度硝石(8 mL)、塩化水素(5 mL)、フッ化水素酸(2 mL)を用いたマイクロウェーブ加圧蒸解法に変えた。最近の試験によって、ウラニウムとプルトニウムの試料がニオビウム基質のなかで分散すると、計数率が高くなることが判明したので、アルミニウム粉末に替えて、ニオビウムを用いた。

加速器質量分析(AMS

AMS測定は、スイス、チューリッヒのチューリッヒ工科大学・電離ビーム物理研究所において、コンパクトであり、0.6 MVと低エネルギーであるAMS装置“Tandy”で実施した27Tandyシステムはここ数年間、高エネルギー側に磁石を追加し、改良型のイオン源を装着する改良が施されている28Tandy2011年から、すべての測定の剥離ガスとしてヘリウムを使っている29。ウラニウムとトリウムの透過率が最大40%であり29、感度が最大10−12と高く、フェルトグラム(10-15グラム)以下の検出限界はプルトニウム同位体に対応可能であり30、チューリッヒ工科大学・電離ビーム物理研究所のコンパクト(研究室サイズ)なTandy AMSシステムは超微量の粒子の検出に適している。

プルトニウム測定の準備手順の概要は参照文献30に記されている。簡単に説明すれば、電荷が負の一酸化プルトニウム・イオンが低エネルギー側のイオンから抽出され、約300 kVのターミナル電圧で加速される。ターミナルでヘリウム剥離を用いて邪魔な分子イオンがすべて破壊され、高エネルギー側の電磁フィルターによってPu3+が選別される。プルトニウムは最後に低ノイズの専用ガス電離検出器で検出される31。一般的に異なったプルトニウム同位体が連続して注入され、測定される。それぞれの測定時間は試料の計数率予測にもとづいて、実施前に調整できる。

本研究では、プルトニウム239とプルトニウム240の測定時間はそれぞれ10秒間と20秒間であり、プルトニウム242追跡子の測定時間は8秒間だった。さらに、(ウラニウム238の「名残り」を原因とする)原子質量単位(amu239のバックグラウンド計数率は、高エネルギー側をamu 239に調整し、加速器に238U16Oを注入することによって、各試料に対する5分間の計測をおこなった。次の資料を測定する前に、この手順を5回繰り返した(これで1件の測定)。この測定手順全体を試料1件ごとに9回ないし14回(測定件数)繰り返した。最終的なプルトニウム同位体比率は1件の測定ごとにエラー補正法を用いて計算された。各試料の測定時間は、合計で35分ないし60分間だった。

すべてのプルトニウム同位体比率測定値はチューリッヒ工科大学内部プルトニウム基準“CNA 32に合わせて標準化された。原子質量単位(amu239に対するウラニウム238誘導バックグラウンド補正は1%以下であり、したがって無視できた。240Pu/239Pu比率測定値の(1シグマ)不確実性は、すべての土壌試料でおおむね5%、植物試料で約10%だった。しかしながら、3件の植物試料について、頂点指標の計数率が(おそらく化学的回復率が低かったために)比較的に低く、これらの資料に関する不確実性は高くなった(1020%)。

本研究で用いたプルトニウム242頂点指標材料は残念なことに、有意な量のプルトニウム239とプルトニウム240をも含んでおり、頂点指標支持プルトニウム同位体に対する補正が必要だった。この補正の不確実性を最小化するために、土壌試料および植物試料と一緒に、それぞれ3件と5件の頂点指標試料を測定した。239/242および240/242の頂点指標比率の平均値を、対応する試料の同位体比率に対する測定実施後の補正に用いた。最終的な240/239比率(2に記載)は、239/242240/242の頂点指標比率から計算された。いくつかの頂点指標試料は平均化されたが、それでも240/239比率(2に記載)の最終的な(1シグマ)不確実性は、頂点指標補正に影響された不確実性に圧倒されている。この理由により、2240/239比率の大多数について、上限値だけを報告することができた。今後の研究のさい、もっと大量の試料が入手可能であれば、遊離になることがこのことからもうかがえる。代案として、また240/239の比率だけに的を絞るなら、頂点指標材料を加えることなく、試料を準備し、測定することができる。

上記の方法はIAEA参照資料(IAEA-375IAEA-Soil-6IAEA-384)を用いて正当性を確認した。

アルファ分光分析

アルファ分光分析は、キャンベラ7200型アルファ分析統合アルファ分光計を用いて実施した。有効視野450 mm2の不動態化処理平面状シリコン(PIPS)検出器(キャンベラA450-18AM型)を使った。試料を7日間にわたって測定し、得られたスペクトルをキャンベラ社のソフト、Genie 2000, Alpha Acquisition & Analysis, V 2.0, Mar2, 2001を使って評価した。方法はIAEA参照資料(IAEA-375IAEA-Soil-6IAEA-384)を用いて正当性を確認した。

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謝辞

本論文はCDC NIOSHマウンテン&プレーンズ教育研究センター(MAP ERC)のT42OH009229-07号助成金を授かっている。本論文の内容は著者らの責任によるものであり、CDC NIOSHおよびMAP ERCの公式見解を代表するものではない。GSNRC-HQ-12-G-38-0044号助成につき米国原子力規制委員会に感謝を表明する。電離ビーム物理研究所は資金の一部を、コンソーシアムを構成するEAWAGEMPAPSIから得ている。

著者情報

所属

1.      ライプニッツ大学放射線生態学・放射線防護学部、ドイツ、ハノーバー
Stephanie Schneider, Clemens Walther & Stefan Bister

2.      ウィーン工科大学原子力研究所、オーストリア、ウィーン
Viktoria Schauer

3.      チューリッヒ工科大学電離ビーム物理研究所、スイス、チューリッヒ
Marcus Christl & Hans-Arno Synal

4.      東京大学大学院総合文化研究科
小豆川 勝見

5.      コロラド州立大学環境・放射線保健学部、米国コロラド州フォートコリンズ
Georg Steinhauser

役割分担

K.S.は材料を準備、S.S., C.W., S.B., V.S., M.C., H.A.S., G.S.は実験を実施、全著者がデータと結果を考察。S.S.およびG.S.が執筆、図1を作成。全著者が草稿を査読。

利益相反

著者らは利益相反の不存在を宣言する。

連絡先著者

Correspondence to: Georg Steinhauser

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