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アジア太平洋ジャーナル/ジャパン・フォーカス
アジア太平洋…そして世界を形作る諸力の批判的深層分析
日本の危険な核廃棄物が俎上に?
――再生可能エネルギーの未来に向かって
アジア太平洋ジャーナル Vol. 13,
Issue. 44, No. 2, 2015年11月9日
アンドリュー・デウィット Andrew DeWit
日本の安倍晋三政権が原子力の虜になっているというのが定評になっているのは、2012年12月に政権に就いたとき、原発ムラが推進する原発の再稼働やその他の政策の実施に熱心だったからだけではない。それでも、これまでの3年間でものごとが大きく様変わりしている。いくつかの反応炉が再稼働されたものの、安倍政権のエネルギー構成の見直しによって、原発ムラ支持から離れ、エネルギー効率と再生可能エネルギーへのますます印象的になる肩入れに向かおうとする動きに拍車がかかっているのは明らかである。その証拠には目覚ましいものがある。われわれが10月に検証した1エネルギー効率および再生可能エネルギーに対する2016年度予算の大幅な増額に加えて、内閣は異論の多い核関連支出の数十億円に照準を絞って行政事業レビューを実施しようとしている。
具体的にいえば、2016年度予算として提案されている102兆円余りのうち、13兆6000億円相当の支出要求額に対する行政事業レビューが2015年11月11日から13日にかけて実施されることになっている。この「秋のレビュー」は、これまでの行政事業レビューの場合と同じように公開されることになっており、オンライン中継される2。だが、今年の取り組みに数多くある異例の側面のひとつとして、今回のレビューは、自民党内閣(2015年10月7日発足)の確信的な反原発派閣僚、河野太郎に指揮される。また、河野の外部者顧問団に、公益財団法人自然エネルギー財団(JREF)の大林ミカ事業局長3、JREF特任研究員と富士通総研研究員を務める都留文科大学の高橋洋(ひろし)教授4といった、生粋の反原発派専門家が含まれている。河野と自民党内の仲間たちは、レビューに先立って、その焦点となる核関連支出に注目を惹きつけようと熱心に働きかけており、その結果、メディア報道が著しく着実に増えていった。河野はそれに加えて、レビューの手続きとそれが核関連支出に焦点を絞ることを解説する1時間のビデオを作成するという明らかに前例のない挙に出て、11月9日に公開した。彼はレビュー内容の詳しい解説をはじめる前に(ビデオ経過時間5:50)、レビューの内実について安倍首相の了解を得ているだけでなく、その激励も受けているとはっきり言い切っている5。
行政事業レビュー
この「秋のレビュー」手続きは、日本民主党政権下の2010年に始められた。(2015年度予算を対象にした)2014年秋のレビューの結果、3600億円余りの予算と公的資金の返済が削減されたという事実からも明らかなように、この手続きには実効性がある6。その前年の削減額はさらに大幅であり、支出の削減幅が約5000億円に達していた7。
今年のレビューの対象として、日本の中央省庁の5000余りの支出予定項目のうち、55項目が選ばれている。項目数で見ると些細なように思えるが、前述したように、これらの計画項目の合計額は13兆6000億円余りになり、2016年度分として提案されている歳出予算総額102兆円の10%を優に超えている。GDPの226%に達する日本の公的債務がOECD史上で前例のないものであることを考えると8、支出削減を求める圧力は前年度より強くなると思われる。特に重要なのは、レビューの対象に予定されている項目がエネルギー関連のものに著しく偏重しているという事実である。実に、55項目のうち、なんと24項目がエネルギー――および環境――関連のものであり、そのうちの圧倒的多数のものが、核施設関連、ならびに増殖炉を活用した核廃棄物リサイクルの完成に関連する方策に割り当てられている9。
核燃料運搬船「開栄丸」 |
俎上にあげられる機が熟した標的のひとつが核燃料運搬船の開栄丸であり、これは2006年に建造されて以来、4度使用され、茨城県の東海村施設10に合計16トンの使用済み燃料を運搬した。この船舶は、2009年の航海を最後に一度も燃料を輸送していないことから、河野はこれをレビュー対象に加えた。同船の維持費は2010年から2014年までに58億円かかっており、2031年までの予想経費がさらに181億円加わると見積もられている。同船について、11月9日付けTBSニュースなど、最近のテレビで報道されたし、ウォールストリート・ジャーナル日本版11、東京新聞12など、全国紙や地方紙も取り上げている。
河野のレビューの俎上にあげられた、もうひとつの核関連施設が「リサイクル機器試験施設(RETF)」である。これもまた、日本で非常に異論の多い使用済み核燃料再処理に向けたインフラと事業計画の積み上げのうち、金がかかり、リスクの大きな構成要素である。RETFの建造は1995年に着工されており、これまで一度も使われていないのに、数百億円相当の投資を注ぎ込まれている。グリーンピース・ドイツの主任核問題運動員、ショーン・バーニーはきっかり20年前、RETFの真の重要性とそれが投げかける大きなリスクとは、「その施設とそれに続く施設によって、日本が兵器級品質さえよりも高純度のプルトニウムを確保できるようになることである。その理由は、FBR(「高速増殖炉」)のウラニウム被覆内部で生成され、事業者によって再処理されるプルトニウムは、スーパー級品質といわれる製品になるからである。日本でFBRおよび反応炉を維持するための再処理工場を大規模に整備すれば、大量の兵器級品質の材料が非平和目的使用のために入手可能になる」と警告した13。
リサイクル機器試験施設(RETF) |
サーディア・M・ピッカネン(ワシントン大学教授)とポール・カレンダー=ウメズ(慶応大学博士課程)は、2010年刊行の書籍“In Defence of
Japan: From the Market to the Military and Space Policy”[『日本防衛の内幕~市場から軍事・宇宙政策へ』]でバーニーのことばを引用し、彼の懸念がいまだにまったく現実的な意味を帯びていることを示した。彼らはまさしく、「スーパー級品質プルトニウムの要点とは、核弾頭の製造に要する量が非常に少なくて(たぶん800ないし900グラムで)済むということである」と強調して、警告の意味合いを強くした。したがって、これは、多弾頭型の大陸間弾道ミサイルのように、核弾頭を最小化できる14。
上記の例はとりわけ特筆すべきものだが、今回の行政事業レビューの考査対象に挙げられている核関連事業のうちの2項目であるにすぎない。その他にも、海外事業によるウラニウム確保、ウラニウム備蓄、核施設の立地・建設に使われる補助金、それに日本の公論の場で核エネルギーを支持するためのPR資金などが対象になっている15。
核に焦点を絞ることと同じほど印象的なことは、効率化と再生可能エネルギー関連事業向けの支出項目が標的対象から完全に欠落していることである。これらの項目に向けた日本の2016年度予算配分は、これまでの数年間にわたり劇的な増加を示している。だから、再生可能エネルギー関連事業の2項目が俎上にあげられていても、おそらく憤慨している核関連業界をなだめるためであると知れば、驚くこともないだろう。だが、随一、非核エネルギー事業であるとはっきりわかるレビュー対象に、二酸化炭素回収・貯留(CCS)事業関連のものがある。CCSを俎上に載せることが、日本が脱石炭に向かうことを意味するとすれば、これもまた拍手する理由になる。
最後に河野太郎ご本人について書いておこう。彼は1996年に初めて議員に選出されており、自由民主党の大物である。彼は自民党員の多くの例とたがわず、政治家家族から出ている。だが、彼は自民党のたいがいの政治家と違って、確信的な反原発派であり、強固な国際主義者である。河野太郎公式サイトには、英語版のほか、中国語版と朝鮮語版も開設されている。
2011年3月11日(3・11)の自然災害、そして福島第一原発を曝心地とする核惨事のあと、河野は、日本国内の原発ムラの確信的な敵対者、そして日本の核エネルギー依存率を2030年までに50%以上に高めたり、増殖炉による核廃棄物リサイクルを推進したりする原発ムラの目論見に強固に反対する論者として、国際的な観測筋によく知られるようになった。
彼は足繁く公共の場に姿を見せたり、本を著したり、インタビューに応じたりして、原発ムラやそれが牛耳っている日本の電力業界の実態に対する批判論を展開してきたのに加えて、ブログを維持し、フクシマ事故とその後遺症を批判する記事を定期的に投稿している。彼はまた、核反応炉の再稼働を推進する安倍政権の企てを批判した。
しかし、安倍が2015年10月7日に内閣改造を行ったとき、大方の向きが驚いたことに、河野は、行政改革に加えて、公務員制度改革、消費者および食品安全、規制改革、防災を担当する国務大臣として入閣した(後者の3担当項目は、内閣府特命担当大臣としての職務)16。
入閣に際して、河野のブログ記事は閲覧できなくなった。少なからぬ観測筋は、河野の入閣に連動した痛烈な反原発ブログの一時閉鎖が、核の放棄とプルトニウム本位の核エネルギー経済を構築する日本の危険で高くつく企ての断念の主唱者として実質的に沈黙したことを意味すると受け止めた。
だが、このような解釈は、外部から働きかけるよりも、閣内で働くほうが効果的に目的を達成できるという河野の立論を無視するものである。
諺でいうように、論より証拠である。河野は今週、饗宴を開くようだ。それは、日本の財政安定、パリ気候会議を目前にした日本のエネルギー政策、日本のプルトニウム問題、自民党で進行する変化に関心を持つ向きの注目に値するようである。
【筆者】
アンドリュー・デウィット(Andrew DeWit)は、立教大学経済学部経済政策学科教授、アジア太平洋ジャーナル編集員。彼の最近の出版物に、Paul Bacon、Christopher Hobson(共編)Human
Security and Japan’s Triple Disaster (Routledge)[『人間の安全保障と日本の三重災害』]所収、“Climate Change and the Military Role in Humanitarian Assistance and
Disaster Response”[「気候変動と人道援助と災害対応における軍の役割」]、Jeff Kingston(編)Critical
Issues in Contemporary Japan (Routledge 2013)[『現代日本の重大課題』]所収、"Japan’s renewable power prospects"[「日本の再生可能エネルギー見通し」]、Jeff Kingston(編)Natural
Disaster and Nuclear Crisis in Japan: Response and Recovery after Japan's 3/11 (Routledge, 2012)[『日本の自然災害と核危機~3・11後の対応と復旧』]所収、(金子勝、飯田哲也と共著)“Fukushima and the Political Economy of Power Policy in Japan”[「フクシマと日本における電力政策の政治経済学」]など。彼は、固定価格買取制度の政治経済学に関する日本政府出資による5年間(2010年~2015年)研究事業の筆頭研究員である。
【クレジット】
Andrew DeWit, "Japan’s Dangerous
Nuclear Waste on the Cutting Board? Towards a Renewables Future", The Asia-Pacific Journal, Vol. 13,
Issue 44, No. 2, November 9, 2015.
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of environmental laws
• Nadine Ribault and Thierry
Ribault, The 'Bright Future' of Japan's Nuclear Industry
• Andrew DeWit and Sven Saaler, Political
and Policy Repercussions of Japan's Nuclear and Natural Disasters in Germany
• Eric Johnston, Kyoto forum’s leaders warm up to renewables.
【脚注】
1 On the budget increases and other green measures, see Andrew
DeWit, "Japan’s Bid to Become a World Leader in Renewable
Energy", The Asia-Pacific Journal, Vol. 13, Issue 39, No. 2,
October 5, 2015.
3 Ohbayashi’s JREF profile is here.
7 関西学院大学経済学部の植村敏之教授(財政学)が、2014年1月30日付けYahoo!ニュース「2014年度予算は約0.5兆円の歳出抑制へ:国の歳出改革『行政事業レビュー』の現状」において、2013年のレビュー実施状況とその結果を詳細に解説してくれている。
8 See p. 4 OECD Economic Surveys, Japan, April 2015.
OECD.
10 この施設については、日本原子力研究開発機構「再処理技術開発センター」サイトを参照のこと(日付なし)。On the facility, see Japan Atomic Energy
Agency, “Nuclear Fuel Cycle Engineering Laboratories,” (no
date).
13 See p. 38 in Shaun Burnie, “50 Years after Nagasaki: Japan as
Plutonium Superpower,” in (ed by Douglas Holdstock and Frank Barnaby) Hiroshima
and Nagasaki: retrospect and prospect. Frank Cass: London, 1995.
14 See their footnote 27 on p. 357. Saadia M. Pekkanen and Paul
Kallender-Umezu, In Defence of Japan: From the Market to the Military
and Space Policy. Stanford University Press: 2010.
15 レビュー対象全項目のリストは、2015年10月30日付け内閣府・行政改革推進会議「平成27年秋の年次公開検証(『秋のレビュー』)の実施について」添付別紙「『秋の年次公開検証』の対象となる事業(案)」を参照のこと。
【デウィット記事】
2013年8月7日
2014年4月9日
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