2013年1月9日水曜日

『#チェルノブイリの長い影』 ⑧細胞遺伝学的影響および突然変異



【資料】
衆議院チェルノブイリ原子力発電所事故等調査議員団報告書
7.
        調査の概要
(1)ウクライナ
③チェルノブイリ博物館視察
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細胞遺伝学的影響および突然変異

現在では、直接的または間接的に放射能汚染の影響を受けた子供に及ぼされるおそれのある遺伝子突然変異やさまざまな細胞遺伝学的影響のリスクを明らかにする、きわめて多くの多様な科学的研究調査結果を利用する機会がある。事故後の全期間を通じて最も重要な課題とされているのは、放射能降下物に曝露した両親の子孫に起こり得る細胞遺伝学的影響または遺伝性突然変異を監視する必要性である。現在、チェルノブイリ事故後の第2世代(照射を受けた両親-事故処理作業者から生まれた子供)において、さまざまな身体的病変をもたらす生理学的機序がとらえられていることを示す十分な証拠がある。このことは、チェルノブイリの事故処理作業者から生まれた子供に、天然DNAおよび後天性DNA、サイログロブリンおよびミクロソーム抗原に対する自己抗体が出現しているという事実によって裏付けられている。ここに挙げた物質は、免疫異常を来している子供の大半において観察されている(後述)。しかし、これらの変化は、免疫異常のない子供の25%こも認められている。免疫のない子供のグループでは、特に呼吸器の機能障害が助長されるとともに、身体的病変が著しく急速に増大することが考えられ、自然発生的に、また環境要因(発癌物質、照射、ストレスなど)の影響を受けて、発癌リスクが高まることも考えられる(注4)。

フランスの科学者、ウクライナの研究者の協力によって実施された共同研究活動では、放射線の汚染濃度の高い地域に居住する子供に、染色体異常誘発因子レベルの増大が認められたことが明らかにされた。これらの要素は、有害な酸化過程の生物学的指標であり、この増大と、染色体異常の出現との間に何らかの関係があると考えられる(図11

11さまざまな観察地城の子供にみる染色体異常誘発因子(CF)の割合(S)

左から順に、
ナロジチ地区(バザール村)の子供
チェルニゴフ地区の子供
キエフの子供
チェルノブイリ原発事故の事故処理作業者の子供
体外で放射線曝露を受けた子供
Sumskoy
地区の「暫定的に」汚染の少ない区域の子供
イスラエルの子供
フランスの子供
この点においては、いまだ重要な課題となっているのが、特にチェルノブイリの事故処理作業者の子孫に、遺伝性の変異原性作用が現れていることである。夫がチェルノブイリ原発での緊急撤去活動を終えてから1ヵ月以内に妊娠した母親から生まれた子供において、遺伝子突然変異の発生レベルが、父親が核撤去作業を終えてから1ヵ月以上経過後に妊娠して生まれた子供の発生率のほぼ2倍であったことが明らかにされている。また、(国際放射線防護委員会によると、)第2世代では、確率的遺伝的影響が、電離放射線の曝露により出現し、これにより新生児の遺伝的構造が異常を来すこともわかった。これらの影響が生じる理由は、両親の生殖器の生命機能やDNA(調節DNA)を司るポリジーンの劣性突然変異である。この劣性突然変異が起きると、チェルノブイリ大惨事により放出された放射線に曝露した人の子孫(特に、19861988年に事故処理作業者から生まれた子供)において、胎児の生存能力や、マイナスの環境影響に対する生体の抵抗力が予測通りに低下する。この原因は、遺伝系の不安定化である。
イタリアの国立研究評議会の実験医学研究所から得られた結果もほぼ同じであった(注13)。電離放射線は、少量であっても、一方ではDNAの分解(片方または両方のらせん鎖の断片化および破壊)、もう一方では、このらせん鎖の再構成を誘発する。細胞の「計測」に応答する位置(遺伝子座)に、DNA構造の変化に対するこのような異常が現れることから、この過程は十分に有害である。
モルドバ共和国の予防医学国立科学実習センター(National Scientific-Practical Center of Preventive Medicine)の科学者らは、チェルノブイリ撤去活動に参加した事故処理作業者とその子供の細胞遺伝学的スクリーニングを実施した。その結果、事故処理作業者のみならず、彼らの子供の体細胞でも、染色体突然変異が増強されたことを裏付けるデータが得られた(注14)。
また、英国王立医学協会誌も、チェルノブイリの事故処理作業者から生まれた子供にみる染色体損傷を検討した、ウクライナおよびイスラエルの科学者らの査読済み共同研究を公表した。チェルノブイリ災害後に生まれた子供と、災害前に生まれた兄弟姉妹との染色体異常を比較する場合は、この科学者らが行った方法がきわめて有効である。この研究から、チェルノブイリ災害後に生まれた子供にみる染色体異常の増大率は、チェルノブイリ災害前に生まれた兄弟姉妹の7倍であったことがわかった。
このほか、チェルノブイリ事故の子孫にみられる健康障害を引き起こす染色体異常の出現も、ドニプロペトロウシク国立大学およびウクライナにある傷病の医療社会問題に関する科学研究所(Ukrainian Scientific Research Institute of medical-social problems of invalidity)が着手した科学研究によって裏付けられた(注15)。子供達(チェルノブイリの事故処理作業者の子孫)に複雑な臨床一臨床関連スクリーニングを実施する過程では、この子供達の健康状態は、放射線に曝露しなかった両親の子供の健康状態とは実質的に異なるものであることが明らかにされた。専門家は、チェルノブイリの事故処理作業者の家族から生まれた子供が、その両親からの染色体異常が遺伝により受け継がれていることを示す確かな証拠を得た。遺伝子突然変異は、ストレス制限因子およびストレス増強因子のシステムと、これによって誘発された自律神経、生化学、微量元素および免疫のホメオスタシスの機能不全の状況(不安定性)に反映されていたこのことにより、重大な適応障害が生じる。このような障害の臨床指標は、子供の身体発育および精神発達にみられる変化、甲状腺の過形成、機能性心臓障害(心臓病)の発生、胃腸管疾患、頻繁に起こる慢性疾患である。(慢性疾患には、よくみられる気管支感染症、風邪および肺炎などが挙げられるが、このような疾患を来した子供にはきわめて高い頻度で起こり、異常に長い間長引く傾向があるため、身体が激しく衰弱する)。このことから、この子供の集団は、長期間の健康問題のリスクが高いグループであると考える必要がある。ここに挙げた研究プロジェクトの著者らは、以上の研究結果が、この障害をなくすための積極的対策の実施への土台を作ることになることを確信しており、このような疾患を未然に防ぎ、回避するための予防策を講じることを勧告した。
ベラルーシ国立科学アカデミー遺伝学細胞学研究所での、専門家による実験的研究活動の実施によって、調査対象の継続的世代にみられる体細胞変異および胚性致死性(胚死亡)の漸進的増加が登録された。得られた結果で注目すべき側面は、突然変異の頻度が代々増加していることであった。この実験の結果と、放射能に曝露した第1世代の人と実験動物にみられる個々の変異原性反応および生理的反応の結果から、チェルノブイリ大惨事の遠因が今後の世代で明らかにされるであろうという結論を下すことが可能となる(注16)。
2001年から、ウクライナとアメリカの出生異常予防協会(Ukrainian-American Association for the Prevention of Birth Defects)が、南アラバマ大学(モービル)の遺伝医学学部長兼マーチオブダイムスにかかわる遺伝学の第一人者、Wolodymyr Wertelecki博士の監督下で、ウクライナ北西部のヴォルイーニ州およびリヴネ州の新生児にみる先天性奇形の発症率を調査した。この研究チームは、下顎がなく、他のいくつかの部分も欠損している状態で生まれたリヴネの乳幼児が発症し、世界で初めて撮像された症例、耳頭症などのきわめてまれな出生異常を多数記録した。 Werteleckiのチームはこのほかにも、二分脊椎の発症率が、通常の発症率の4倍を上回ったことも明らかにした。チェルノブイリに汚染されたリヴネ地区の産科医および新生児生理学者も、変形四肢、眼の異常、白内障をはじめとするまれな異常を来している乳幼児のさまざまな症例を報告し、記録した。米政府は、Werteleckiの研究の財政的支援を打ち切ったが、明らかにこのような憂慮すべき症例には、さらに多くの徹底的な検査を行っていくことが必要である。


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(資料)
『チェルノブイリの長い影~チェルノブイリ核事故の健康被害』<研究結果の要約:2006年最新版>

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