2013年1月9日水曜日

『#チェルノブイリの長い影』 ⑫骨系



【資料】
衆議院チェルノブイリ原子力発電所事故等調査議員団報告書
7.
        調査の概要
(1)ウクライナ
③チェルノブイリ博物館視察
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骨系

汚染区域に居住している子供の骨系や筋系の疾患が、この疾患に関するウクライナの平均指数の3.3倍を上回っている。小児期の罹患率に関する健康報告では、骨系や筋系の疾患が、3番目に高い位置を占めており、汚染されている区域の子供の出現頻度が、表向き汚染の少ないとされる区域の子供の2倍であるとされている。放射線に曝露した就学前の子供の方が、汚染の少ない区域の子供より骨折率が高く、これによりこの集団(コホート)の子供の骨組織構造に質的変化が生じているのではないかという推測が生まれた(図13)。

13子供の骨系にみる臨床異常の頻度



1997年から2003年まで、ウクライナの小児科学、産科学、婦人科学会研究所の科学者ら(E. LukyanovaY. AntipkinL. Afabska)は、チェルノブイリ事故後に生まれ、今も放射線汚染区域に居住する子供213人と、汚染されていない地域の家族から生まれた子供240人を対象に調査を実施した。

前者のグループの子供は全員、妊娠中に胎盤にα放射線粒子を取り込んだ母親から生まれた)。この区域は、セシウム137汚染レベルが515 Ci/km2 185555 kBq/m2)であるか、ストロンチウム902.5 Ci/km2 37 kBq/m2)であったことがわかった。イギリスの専門家との共同研究では、過去3年間にわたって、母親が放射線汚染区域に居住していた死産の子供の骨組織にみるα放射線量が大幅に増大していたことが明らかとなった(顕微鏡写真23)。

顕微鏡写真2胚発生から2728週の胎児の管状骨の骨組織(胎盤のセシウム137の取り込み量、0.8 Bq/kg)。骨組織のビーム状構造と、軟骨構造が保存されている。

顕微鏡写真3胚発生から27週の胎児の管状骨の骨組織(胎盤のセシウム137の取り込み量、3.25 Bq/kg)。骨組織のビーム状構造の破壊。

現時点で重要なのは、骨指向性放射性核種が子供の生体に及ぼす影響について、十分な研究が行われていないことに注視することである。この研究の過程において、α放射線が観察下の子供の乳歯に取り込まれていたことがわかった(2.53.2 Bq/kg)。このことによって、自然な歯の発生パターン(タイムテーブル)が崩れ、新たな永久歯が通常より早く生えることとなり、そのために特に女児の歯周組織が悪化し、早くに虫歯ができてしまうことがある、このような異常はほかにも、歯の早期老化が生じ、胎児の体内にみる骨組織の健康的な成長が損なわれる可能性を明確にしている。観察下の子倶には、健康指数が低いという特徴があり、対照群にはそのような特徴は実際に認められなかった。
子供に身体的病変の多型が発症したことを示す証拠が増大している(4.2から4.4)。この指数は、比較的汚染の少ない区域の子供の類似指標の2倍を上回るものであった。汚染区域に居住していた57歳の女児では、何らかの変化を来している82.1%に、骨減少症(骨組織の密度の低下)または骨軟化症(骨組織の脆化)の形態の著明な変化が生じた。812歳の女児では、すでに79.7%が骨線維症を来しており、骨組織の弾性が低下し、厚みが増大していた。この地域の男児のほとんど(未就学児の63.8%および学齢児の70.8%)にみられる主な傾向は骨軟化症(骨組織の脆化)であった。平均的な身長の子供より、身長の高い子供の方が、異形成骨線維症の発症頻度が高かった。チェルノブイリの事故処理作業者の家族から生まれた女児の骨組織はいずれも、未就学児および学童児ともに、対照集団(コホート)より線維状となっており、なかでも、身長が平均の女児よりも、身長の高い女児の方の骨組織の方が線維状になっていた。このグループの男児では、未就学児に54.2%の割合で骨線維症が現れ、平均の身長であるか、平均より低い身長である男児には、63.9%の割合で現れた。チェルノブイリの事故処理作業者の子供では、12歳までに、骨量がきわめて低くなった。
このような問題を研究する過程において、科学者らは、子供の成長に年齢別および男女別の差があることを明らかにした。放射線リスクの高い子供にみられる典型的な2回目および3回目の急成長は、比較的汚染の少ない区域の子供より遅れて起こっていた。このグループでの成長が不均衡的または不調和である頻度は高く、外観が「伸びたり」「丸みを帯びたり」する期間にはっきりとした段階分けはなかった。事故処理作業者の家族の12歳になる息子らは、比較的汚染の少ない区域の12歳の男児より身長が高かった。12歳(特に事故処理作業者の息子)の不均衡な形態学的骨格形成は、骨格形成の不完全さのみならず、軟骨形成および内軟骨性成長の変化や、遺伝的成長要因システムの機能不全を裏付けるものとなっている。ホルモンの形態学的影響(生体の弾性)の有効性は、事故現場の撤去作業者(事故処理作業者)の子供のなかでも、12歳児が最も低かった。
注目すべきは、長期的に少量の放射線量に曝露した母親から生まれた子供には、幼少時に骨組織の構造機能状態が崩壊し、骨軟化症や骨減少症というかたちで現れ、さらに学童期になってくると、(特に平均身長より背が高い子供に、)異形成骨線維症というかたちで現れてくるという特徴があるということである。母親がチェルノブイリ原発の事故により急性放射線照射を受けた子供、特に女児においては、幼児期から骨線維症が発症する(平均より背が高い女児と、平均か、平均より背が低い男児に多く発症する)。リスクの高いグループの子供の大半が、微小循環の異常や、低酸素症(二酸化炭素の過飽和)を来しており、これが骨組織の破壊過程(細小血管障害、フリーラジカル酸化の活性化、細胞膜の構造機能的本質の変化、赤血球の超微形態化、浸透圧抵抗力および赤血球安定性の低下、23ジホスホグリセリド含有量の増大)の始まりとなるおそれがある。このような過程はすべて、血管の膨張、四肢の腫れ、ついには組織の壊死をもたらすなど、子供の健康を害する変化をもたらすことがある。
以上の研究調査結果から、このほかにも、特に平均かそれより背が高い子供において、骨組織の石灰化の過程が中断するとともに、カルシウム調節システムの機能の有効性の低下や、血清中のカルシウム、リン、マグネシウム、銅、鉄の含有量の変化、ビタミンD欠乏症を伴うことがわかった。放射線リスクの高い子供には、骨芽細胞の構造機能的特徴の変化、骨組織のリモデリング過程の活性化、発酵段階および石灰化の中断、骨組織の混合破壊、成体の異形成過程(骨線維腫、僧帽弁逸脱、全身性エナメル質低形成)の活性化などの、骨組織形成の変調を認めた。さらに、高度の放射線管理グループの子供については、性腺機能低下症に、二次性徴の発現異常や、思春期に入った時点での脂肪蓄積型の変化が伴う頻度が高かった。また、身体発育の異常を来して生まれた放射線監視地域の子供の人数が、比較的汚染の少ない地域の子供のグループの1.62.8倍であったこともわかった。このような子供は、内分泌腺の形態的成熟および機能的成熟に変化が起こり得るリスクの高いグループであると考える必要がある。
調査研究の過程において、ウクライナの小児科学、産科学、婦人科学会研究所の科学者らは、小児期または思春期前に、甲状腺に最大36.7センチグレイの比較的高線量の照射を受けた母親は、早い段階で骨線維症を来している女児を出産する可能性が高いという結論に基づくデータを得た。一方、生殖器がまだ完全に形成されていない性成熟の早い段階に放射線に曝露した母親では、幼少時から骨線維症を発症し、うち一部は骨軟化症も来すおそれのある男女いずれかの子供を出産する可能性が高かった。成熟後期に放射線に曝露した母親から生まれた男女いずれかの子供では、骨軟化症および骨減少症を発症する可能性が高かった。
得られた結果から、思春期前に甲状腺に比較的少量の放射線量(最大26.3センチグレイ)を受けた母親の場合、その子孫に若年期に骨軟化症を発症する傾向がみられた一方、思春期の早い段階で上のような低い線量を受けた母親では、その子孫に、骨線維症および骨軟化症の初期発生の兆候が認められたとの結論を下すことが可能となった。 14歳以降に放射線に曝露した母親の場合は、女性の子孫には骨軟化症が生じた一方、男性の子孫には骨軟化症のみならず、骨線維症も生じた。15歳までに高い放射線負荷を受けた母親の子孫は、これより少量の放射線線量を受けた母親から生まれた子孫よりも、高い頻度かつ早い年齢で骨線維症の形態変化を来す傾向にあった。
15歳以降に照射を受けた母親の放射線量の規模によっては、その子孫の骨組織形成に影響を及ぼすという特徴に、大きな差がみられるようには考えられなかった。このような子供達のなかで最も多くみられる骨組織形成の変化は、骨軟化症である傾向が強かった。
成長期では、身長が伸びる過程が活発化すると同時に、乳歯から、歯周組織の悪化と虫歯を来した永久歯への生え変わりが活発化する。高リスクの子供の集団(コホート)では、歯のエナメル質の体系的な低形成過程が現れた。さらに、乳歯に放射性核種が取り込まれているということは、子宮内での発育中にも、骨組織に放射性核種が蓄積していたという間接的な証拠を示すものであると考えられた(図14)。
14過去3年間の胎児の骨組織にみる放射性核種の含有量

同じ子供のそれぞれの歯にみる放射性核種の蓄積最が一様でないことから、α粒子も骨組織に不均一に蓄積して、「ホットスポット」を作っていることがわかる。この不均一な取り込みによって、骨組織の代謝に破壊的な異常がもたらされることがある。
このような研究の過程において、著者らはこのほかにも、特に微小循環の変化などの、器質的全身的レベルにおける重要な病的変化を認めた。眼球の網膜にある血管の状態が、生体の中心となる微小循環の状態を間接的に反映することはよく知られていることである。2歳以上の汚染区域の子供と、チェルノブイリの事故処理作業者の家族の子供(それぞれ69%および56.1%)には、動静脈係数の減少(細動脈の狭窄および静脈の拡張)というかたちで、網膜の中心部に細小血管障害が生じたことを示す証拠が認められた。このことは、観案下の子供の生体、特に骨系に微小循環の障害が起き、これが骨組織の劣化を示す証拠となっていることを間接的に示すものであると考えられた。
骨成長に影響を及ぼす全系統のホルモン含有量を詳細に検討したところ、内分泌腺系に機能不全が生じており、骨形成の加速と、さまざまな破壊的変化の発生に対する代償性適応反応を示していることがわかった(表4)。


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【目次】
序文 ②
2.        照射によって生じる病変 ④
結論 ⑯
提言・注記一覧 

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