2013年1月9日水曜日

『#チェルノブイリの長い影』 ⑥チェルノブイリ事故の医学的影響に関する研究調査の概要:免疫系



【資料】
衆議院チェルノブイリ原子力発電所事故等調査議員団報告書
7.
        調査の概要
(1)ウクライナ
③チェルノブイリ博物館視察
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4.チェルノブイリ事故の医学的影響に関する研究調査の概要

チェルノブイリ災害は科学界に、あいにく解決にはほど遠いきわめて複雑な問題が山ほど生じていることを示した。多くの課題が未だ解決に至っていない。現時点では、確信度に関係なく、結論に達するのはわずかひとつであると考えられる。チェルノブイリ事故の医学的影響は、すでに現れている予測された放射能の影響に関する数学的モデルを裏付けるものではないということである。科学界は、広島および長崎への原爆投下後に実施した健康に関する数少ない研究経験からだけで、今回の事故の影響を必ずしも予測、確認または予見することはできない。以前に起こったキシュテムやチェリャビンスクでの核災害からは、利用可能なデータは得られていない。以下の章では、人体の臓器と系とに分けて、チェルノブイリ災害の放射線学的影響に関して、諸国家の科学者が実施した科学研究調査の結果をいくつかまとめている。ここに引用した試験結果は、莫大な数の研究調査結果のごく一部であり、このなかには政治的または個人的な理由で機密となっていたか;隠ぺいされていたものもある。ここにまとめられたデータの信頼性は、科学者らの議論により徹底的に検討されてきたものであり、実際に疑う余地のないものであることが明らされている。

免疫系

チェルノブイリ事故以降、さまざまな段階で明確な特徴を示したある種の免疫疾患によって、子供に特異的な疾患の増加がもたらされた(文献参照)。放射性ヨウ素への子供の曝露や、被災地での撤去作業に参加した両親(事故処理作業者)から生まれたことによる甲状腺への照射によって起こる確率的腫瘍疾患(癌)と、非確率的に起こる免疫学的疾患の状態は、密接に入り混じったものとなっている。たいていの場合、科学者らは主に「T細胞」系や、頻度は少ないがマクロファージの糖鎖へのダメージなどの免疫状態の変化を観察してきた。この「キラーT細胞」系の状態には、Tリンパ球の絶対数および相対数が少ないという特徴と、主にTヘルパー細胞量が減少すると同時に、末梢循環における発育不全Tリンパ球が増加することによって生じる免疫調節細胞(Tヘルパー細胞およびTサプレッサー細胞)が不均衡であるという特徴がある(注7)。このため、チェルノブイリ事故が起きてから56年間、研究者らは、末梢血のT細胞濃度の大幅な減少により生じたT細胞連鎖の変化を見い出し、比較的「汚染の少ない」地域に居住する子供と比較した。事故が起きてから1012年間は、放射線管理下の地域に居住する子供の血液のT細胞濃度がさらに減少していることや、その減少度が、子供が居住していた地域のセシウム137による汚染強度に密接に相関しているか、強く依存していることを認めた。

このような免疫不全の発症をもたらす機序に関する試験をさらに綿密に行ったところ、予想外の結果が得られた。研究者が発見したのは、a)免疫細胞の受容器の遮断、b)機能活性の低下、c)脂質の酸化過程の途絶およびd)免疫コンビテント細胞の抗酸化活性と、生体膜のリン脂質含有量の変化であった。マクロファージ糖鎖に関する免疫研究者の指標においては、殺菌活性の変化に基づく白血球の食細胞活性の低下が観察された。ここに挙げた観察結果はいずれも、免疫系を高めるための積極的な対策を取らなければ、このグループの子供達は確実に、幼少期およびその後の生活において、癌や感染症の発症リスクがさらに高まることを示している。

核事故の生存者の第1世代および第2世代のいずれにも認められたのは、免疫グロブリンAの減少と、侵襲的感染に対する軟組織(呼吸器官、胃腸管および泌尿器系)の不浸透性および安定性に対応するアデノシンデアミナーゼIIIADAIII)、特にその分泌率の低下であった。

チェルノブイリ原発事故後の放射線線量が少ない状況で、疾患の突然変異がきわめて急速に起こると、この種の保護免疫系の機能低下が特に危険な状態となる。子宮内で放射線線量を受けた子供を、14年間にわたって臨床免疫学的に監視したところ、さまざまな発達段階での免疫状態および疾患の発症リスクが、受けた放射線線量に基づいており、この種の中枢器官の照射が、健康な免疫系の発達に関与していることを突き止めることができた。また、胎児の免疫発生を司る主要臓器が照射を受けることによって、食細胞の機能活性と、細菌の破壊に影響を及ぼす酸素依存性機序の抑制、T細胞免疫の抑制、免疫調節基質の不均衡、免疫グロプリンの機能不全が生じることが明らかにされた。これによって、3種類の免疫学的障害(有害物質の活性化、機能低下および非分化)が生じる。このような変化は、子供の身体的疾患の根本的な原因のひとつとなっている。また、妊娠初期に胎児が照射を受けることにより、きわめて有害な影響が発生することがわかった。研究者はこのほか、子宮内で急性照射を受けた910歳の子供には、免疫系の再適応システムの発達を示すきらいがあるという傾向を明らかにした。子宮内の照射の初期段階では、染色体構造の損傷の頻度が高まっていることも認められた(注8)。

関係研究者らの見解では、特有の免疫学的疾患が生じると、放射線による影響を受けた子供の生体に細菌やウイルスがいつまでも残存することによって起こる症状が、さらに急ピッチで増大するおそれがある。あいにく、この結論は、実地経験および経験的証拠によって全面的に検証されており、チェルノブイリの子供の健康状態に関する統計データは、放射線誘発性の免疫学的障害の影響を、完全に納得のいくかたちで裏付けるものとなっている。


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(資料)
『チェルノブイリの長い影~チェルノブイリ核事故の健康被害』<研究結果の要約:2006年最新版>

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