2011年12月10日土曜日

「ふくしま集団疎開裁判」報告 ~12/11脱原発アクション in にいがた

(当日の裁判報告者は都合により安藤雅樹弁護士に変更になりました)

あの3月11日から9か月目、12月11日、新潟市で『脱原発アクション in にいがた』というイベントが挙行されます。13時から新潟駅近くの石宮公園からの「脱原発デモ行進」がおこなわれたあと、14時から礎町の本願寺・木揚場教会で講演会『TVに映らない福島のいま~お日さまと遊ぶ子どもたち、放射能と暮らす子どもたち』が開かれ、郡山市在住・黒田節子さん(ハイロアクション福島)の講演「子どもの被曝への不安!」に続いて、ふくしま集団疎開裁判・弁護団による「郡山の子どもたちの集団疎開を求める裁判の現状報告」がおこなわれます。本稿は裁判報告資料として配布されるものです。(yuima21c)
ふくしま集団疎開裁判

20111211
ふくしま集団疎開裁判の会

1 2011311日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所における事故は、放射性物質が外部に継続的に漏出するという、「チェルノブイリ原発事故」ですら経験しなかった歴史上未曾有の深刻な人災となっています。そして、その収束の目処はたっていません。
その中、政府を初めとする行政の対応は遅く、福島県などの周辺住民は、日々継続的に被ばくするという異常事態となっております。特に子どもは放射性物質に対する感受性が高く、迅速な対応が必要ですが、私たちの宝である子どもたちを守ろうという行政の動きは鈍く、これ以上手をこまねいていることは許されません。

2 そのような気持ちから、平成23年624日、福島県郡山市内に居住する小中学生14の親の皆さんが、子の法定代理人として、郡山市を相手取り、福島地裁郡山支部に対し、仮処分を申し立てました。福島の他、全国の弁護士10名が代理人となっております。
  申立ての趣旨は、次のとおりです。

1 債務者は債権者らに対し、別紙環境放射線モニタリング一覧表で測定高さが50cmまたは1mのいずれかにおいて空間線量率測定値の平均値が0.2マイクロシーベルト/h以上の地点の学校施設において教育活動を実施してはならない。
2 債務者は債権者らに対し、別紙環境放射線モニタリング一覧表で測定高さが50cmまたは1mのいずれかにおいて空間線量率測定値の平均値が0.2マイクロシーベルト/h以上の地点以外の学校施設において教育活動を実施しなければならない。
3 申立費用は債務者の負担とする。
との裁判を求める。

ここで債権者とは申立人のことであり、債務者とは郡山市のことです。
郡山市はその居住する子どもたちについて教育を提供する義務を負いますが、憲法26条1項は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と規定しており、この権利を全うするため、国及び地方自治体は、児童生徒の生命・身体・健康を守るために必要な措置をとる「安全配慮義務」を負っています。
本件において毎時0.2マイクロシーベルトを超える「危険区域」内においては、上記安全配慮義務を全うすることが出来ない、そうであるならば、学校教育を「危険区域」外で行うよう求める、というのが仮処分の申立の内容になります。
結局は、「危険区域」内の学校について、集団疎開をするよう求めるということになります。そのため、「ふくしま集団疎開裁判」と名付けました。

3 ここで、「危険区域」としている「毎時0.2マイクロシーベルト」というのがどこから出てきた基準なのか、説明が必要でしょう。
それは、現在福島県で行われている実測値に基づき、毎時0.2マイクロシーベルトを超える地点は、年間の積算線量の推計値が1ミリシーベルトを確実に超えるという計算から導き出したものです。
  被ばく限度に関する基準については様々な議論があります。
  国際放射線防護委員会(ICRP)は年間1ミリシーベルトを一般公衆の線量限度として定めており、我が国においても、原子炉等規制法、同法施行令、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則、同規則に基づく線量当量限度を定める告示等によって、原子力発電所が一般公衆に対し、年間1ミリシーベルト以上を超える被曝をさせないことを求めてきました。
  しかしながら、文科省は、419日、ICRPが定めた基準や、我が国における従来の基準すら大幅に上回り、子どもについて年間20ミリシーベルト、1時間あたり3.8マイクロシーベルトの被曝まで許容するという通知を発しました。その後、527日、文科省は学校での被曝量について年1ミリシーベルトを目指すと修正しましたが、20ミリシーベルトの基準を撤回したわけではありません。

4 年間1ミリシーベルトという基準自体正しいものであるかは議論の余地があります。
私たちは、ICRP自体が、もともと核を積極的に利用しることを目的として作られた組織であること、放射線リスク欧州委員会(ECRR)では、ICRPよりもはるかに厳しい基準(一般公衆では10倍厳しい)を設けていること等から、ICRPの基準に無批判に依拠することは相当でないと考えます。しかし、少なくとも、この基準は最低限守られるべきものであると考えます。
ところで、人は、呼吸及び飲食によって放射性物質を体内に取り込み、内部被曝にも晒されます。内部被ばくは重大な身体への影響を及ぼし、特に成長期にあって細胞分裂が活発な子どもは、大人よりもはるかに放射能に対する感受性が高いものであります。本来であれば上記基準を考える上では、内部被ばくにも目を向ける必要があります。
しかしながら、内部被ばくの測定が容易でないという実際問題と、裁判を求める上では、議論の深みにはまって無為に時間を浪費することのないよう、少なくとも、外部被曝だけでも年間1ミリシーベルトを超えるような環境に晒すことは断じてならないということから、裁判に当たっては外部被曝の1ミリシーベルトを基準としております。

5 郡山市をはじめとする福島県内の子どもたちの多くは、福島原発事故によって、すでに外部被曝だけでも1ミリシーベルトを超える被曝をしているか、あるいはこのままでは確実に1年に1ミリシーベルトを超える環境下で生活しています。
測定地点を「郡山合同庁舎」の1階で計算したところ、3月12日から8月31日までの地上1mの放射線量の積算値はなんと7.8mSvから17.2mSvに達しているのです。

6 福島県では、すでに、かなりの数の子どもたちが、自主避難して福島の地を離れました。しかし、依然、大多数の子どもたちと親とは、行政が実施している安全宣伝と危険性を伝える情報、先生や友だちと別れたくないという思い、自主避難する場合の経済的負担等で思い悩み、不安な日々を送っています。
  あるお母さんは、こう陳述書に記しています
  
 子どもたちが受けた被爆量に、今後も今の量や早さで蓄積されるのはとても心配です。最低でも一時避難は郡山市内全ての子どもたちに必要だと思うのです。郡山市は除染に努力するということは、危険だということです。家の大掃除をするとき子供たちを外に出しませんか、それと同じです。
 放射能を舞い散らせている今、子供たちを郡山市にいさせるべきではありません。ぜひ集団疎開をさせてください。なぜ集団疎開なのか。自主避難に踏み切れない大人や親の都合により、郡山市から避難できずにいる子どもたちが大勢いるからです。それは我が家もそうです。
自主避難出来ない理由は
① 長男が高校受験生で大事なとき
② 子どもたちの転校への反発と不安
③ 経済的な負担
等々です。
高い放射能を浴びて暮らす子供たちをどうか郡山市全体で守ってください。

また、あるお母さんは、こう書いています

 風の便りで、市長さんには中学生のお孫さんがいらっしゃると聞きました。そのお孫さんを放射能から守るために自主避難させているということを知りました。 
 私にも同じ中学生の息子がおります。しかし、主人の仕事のため自主避難はできずにいます。せめて、市長さんが、ご自分のお孫さんと同様に、郡山の子どもたちも放射能から守るために集団避難させることにしてくださり、子どもたちの命を守ってくださればどんなにいいだろう、と願わずにはいられません。

7 今回、郡山市内の子どもと親たちが提起した仮処分は、端的にいえば、郡山市を相手に、郡山市が子どもたちに対して負っている安全配慮義務の履行として、あるいは子どもたちの生命、身体、健康を守るために、学校ごと疎開する措置をとることを求めるものです。
  学校が疎開するとなれば、疎開先の選定、学校設備や宿泊先の確保、教員の労働条件の確保、そのための予算措置等、多くの困難な課題があることは承知しており、実質的には、国や他の地方自治体の強力な支援がなければ郡山市単独では、実現できないことかとは思います。
  しかし、郡山市内の子どもたちに対して直接に教育の義務を負担している郡山市が、まず、危険な地域の学校ごと疎開させるという決断をし、そのための支援を国や他の地方自治体に求め、費用は東京電力に負担させる等、叡智を働かせて子どもたちを守る決意と行動に出ることを祈ります。
私たちは郡山市を敵にしたいわけではありません。共に叡智を絞って、子どもたちのためにどういう方法をとるのが最善か、考えたいのです。

8 福島地方裁判所郡山支部で、仮処分の審理は始まりました
  75日午後430分から債権者面接の手続が行われ、清水裁判長を含む裁判官との面接が行われました。債権者(申立人)は、債権者親権者と、代理人弁護士4名が出席しました。
裁判官からは、請求の趣旨の具体的内容についてや、疎開するとした場合にどのような手続きがとられるか、疎開の終期はいつまでということを求める趣旨かなどが問われ、債権者側との間で問答がなされました。
 私たちからは準備書面(1)を提出し、また、債権者の方や市民の方の陳述書や、全国・全世界から僅か5日で集まった2400以上の署名を裁判所に提出しました。
 その結果、現時点で門前払いをするという判断がなされることはなく、次回に債務者(郡山市)も交えて審尋の手続が進められることになりました。

7月5日の第1回裁判のご報告



9 第1回の審尋期日719日午後430分から開かれました。 
 債権者(申立人)は、債権者親権者5名と代理人弁護士3名が出席し、相手方である郡山市側は代理人弁護士2名が出席しました。当方からは前回以降新たに集まった5000近くの署名を提出しました。
 郡山市から当方の申立書に対する答弁書が提出されました。その内容は、以下の理由などから、訴えの却下を求めるというものです。①申立書記載の「請求の趣旨」は、抽象的である。②請求の趣旨に記載された措置は公権力の行使そのものに該当する行為を求めており、民事保全法上の仮処分は認められない。③郡山市内において教育活動を実施すること自体に起因して、児童生徒の健康にどのような影響が生じるか明らかでなく、保全の必要性がない。④債務者は年間1ミリシーベルト以下を目指すため表土除去工事・校舎周辺の除染活動・屋外活動の時間制限などの放射線量軽減化措置をとっており、被曝線量が軽減化されているから、保全の必要性・緊急性が認められない。
 しかしながら、申立人の主張する請求の趣旨は十分具体的であり、また申立人らの提示する申立の趣旨はあくまで債権者個別の疎開措置であって、申立の趣旨自体で集団疎開を求めているわけではなく(認容決定を受けて、事実上郡山市が集団疎開を決断することを期待はしておりますが)、その点で相手方(郡山市) の主張は当を得ないものであります。ただ、この点についての誤解が生じないよう、申立の趣旨の一部の訂正をすることとしました。
 答弁書によって郡山市の姿勢は明らかになりました。それは、門前払いを狙うことと、既に郡山市の行っている措置は十分なものであり疎開させる必要性がないというものです。しかしながら、現実には郡山市における空間線量は年間1ミリシーベルトに達するレベルが継続しており、実際に健康被害も生じ始めているのですから、その主張は空虚なものといわざるを得ません。

7月19日第2回裁判〔第1回審尋期日〕のご報告



10 第2回の審尋期日は、8月26日午後4時30分より開かれました。当方からは債権者3名と代理人弁護士3名が出席しました。
 これに先だって債務者郡山市から当方の主張に対する反論の準備書面が提出されました。
 内容は郡山市としては十分な対応を行っている、現在の線量は徐々に少なくなっているため避難する緊急性必要性は認められない、また自主避難する自由はあってそれを妨げることはないのであるから申立を認める緊急性必要性はなく、また被保全権利も認められないなどというものです。
 まず、債務者郡山市からの申立の趣旨が明確でないという指摘については、裁判所からは現在の特定としては大きな問題はないのではないか、議論もかみ合っていないわけではないのではないかという見解が示されました。
 また、債務者郡山市は、本件は行政処分を求めるものであって民事仮処分での申立は認められないという主張を従前は行っていましたが、この主張については撤回するということになりました。
これにより、入り口論で却下される可能性は少なくなったものと判断されます。
 当方からは、債務者郡山市が今回提出した、文科省の指示に基づいて郡山市などの学校で行われた測定結果に関し、測定方法及び結果に関する疑義について債務者に問いました。また、上記測定結果があくまでも現時点のものであって、過去の累積についてのデータを何ら考慮していないことなどについて指摘しました。
 その結果、郡山市において、測定の方法および計算方法等について確認して資料を提出することとなりました。

8月26日第3回裁判〔第2回審尋期日〕のご報告



11 第3回の審尋期日は、9月9日午後4時40分より開かれました。当方からは債権者2名と代理人弁護士3名が出席しました。
 これに先だって相手方から前回の当方の釈明に対して回答する準備書面が提出され、当方から最終準備書面とその内容を裏付ける証拠を提出しました。
 当方の主張・証拠の内容の概要は次の通りです。
(1)相手方の準備書面1に対する反論(仮処分を認める「保全の必要性」があるかなど)
 (2)現在、一部に「被ばくの事態は基本的に収束した」という雰囲気があるが、それは現時点における外部被ばく(空中線量)の測定値が徐々に低下しているという点だけ見て導き出した誤った認識であり、「低線量被ばくの危険性」を真にリアルに正しく把握するためには、①現時点だけではなく、3.11以来今日までの被ばくの積算を考えること、②外部被ばくのみならず内部被ばくの危険性を考えることが不可欠である。
 (3)8月30日、文科省から各地のセシウムの土壌汚染の測定(6月6日~7月8日)の結果が公表され、これによりチェルノブイリ原発事故とのより具体的な対比が可能となりました。
①セシウムの土壌汚染が郡山市と同程度の地域(ウクライナのルギヌイ地区)に着目し、同地域で、子供にどのような健康障害(甲状腺疾病と甲状腺腫)が発生したかというデータを用いて、低線量被ばくにより今後、郡山市の子供たちの間で、どのような健康被害が、どの程度発生するのかを予測しました。
→ア)56年後から甲状腺疾病と甲状腺腫の双方が急増し、9年後の1995年には子ども10人に1人の割合で甲状腺疾病が現れた。
イ)がん等の発症率は甲状腺疾病の10%強の割合で発病、9年後には1000人中13人程度となった。
②チェルノブイリ原発事故では、セシウムの土壌汚染濃度に基づいて、4つの避難基準(特別規制地域・移住義務地域・移住権利地域・放射能管理強化地域)が設けられましたが、このチェルノブイリの避難基準を、郡山市の債権者ら通う学校周辺のセシウム土壌汚染濃度に当てはめた時、どのような結果が得られるかを明らかにしました。
→殆どの学校が、チェルノブイリの避難基準の、避難を義務づけられる「移住義務地域」か、避難を希望する場合には国がそれを保障する「移住権利地域」に該当する。
 (4)さらに、全国・全世界から集まった署名(22,068通)の署名を裁判所と郡山市に提出し、さらに皆さんの思いを記した陳述書も証拠として提出しました。
 これで、裁判所に赴いての審尋期日は終わりました。
 これ以降は、裁判所がいつ決定を出すかを睨みつつ、書面でのやり取りが続くことになります。

9月9日第4回裁判〔第3回審尋期日〕のご報告



12 10月9日に、郡山市から準備書面が提出されました。
郡山市は、私たちが指摘した「低線量被ばくの深刻な危険性」という問題に何ひとつ真正面から反論しようとせず、次のように言うだけでした。

①順調に学校での放射線量は下がってきた、
②申立人の子どもも親にも転校の自由があって、危険だと思えば転校すればよい、郡山市はそれを妨害していない、
③郡山市は子どもの学校滞在時間以外は、関知しない。それは、子どもたちの保護者によって自由に管理されるべきものだから。
④子どもたちの安全な環境で教育を受ける権利、これを侵害しているのは東電であって、自分たちではない、
⑤自分たちは学校で放射線量の低減化のため可能な限りの努力を尽くしている。だから、子どもたちの安全な環境で教育を受ける権利を侵害していない。
以上から、郡山市には子どもたちを安全な場所に避難させる義務は負わない、というものです。

しかし、このような異常な環境で、異常な健康被害を予見しながら、子供たちをこのまま被ばく環境に置くことは本来、絶対に許されないことではないでしょうか。「転校の自由」があるという主張には、怒りを禁じ得ません。誰もが転校できるような経済状態にあるわけではありません。
郡山市は行政の役割を放棄したものであり、断じて許すことはできません。

13 10月31日、私たちは準備書面(補充書2)を提出しました。
この書面で、私たちは、以下の点を主張しました。
(1)このまま子供たちを郡山市で教育を受けさせた場合に、子供たちに将来発生するであろう深刻な健康被害の具体的な内容を、医師の松井英介さんの意見書、ECRR科学事務局長クリス・バズビーさんの論文、名古屋大学名誉教授沢田昭二さんの意見書などを提出し、低線量被ばくの過去の事例(チェルノブイリ事故、広島・長崎の原爆投下)との対比の中で明らかにしました。
(2)10月初めにようやく公表されたストロンチウムとプルトニウムの検出結果に基づき、ストロンチウム、プルトニウムが子供たちの健康被害にどのような深刻な影響を及ぼすかを、琉球大学名誉教授矢ヶ崎克馬さんの意見書()により明らかにしました。
(3)疎開の必要性・有用性について、除染には限界があること、疎開すれば放射性物質の体内蓄積量が劇的に減少することなどを、菅谷昭松本市長の講演『チェルノブイリから学ぶこと』(抜粋)。神戸大学大学院山内知也教授の「放射能汚染レベル調査結果報告書 渡利地域における除染の限界」、疎開によりセシウムの体内蓄積量が劇的に減少することをグラフで明らかにした書面により明らかにしました。
(4)署名も、前回の9月9日以降9988人の署名が集まり、10月末日時点で全国・全世界から集まった32,056人の署名を裁判所に提出しました。

14 裁判所の判断を後押しするために、いくつかの裁判支援アクションが企画・実行されています。
  10月15日には、郡山駅西口広場で俳優の山本太郎さんたちも参加して集会を開き、郡山市役所までデモ行進をし、郡山市に申入書を渡しました。このアクションには500人の参加者がありました。

11月7日には、講談師の神田香織さん、俳優の山本太郎さんら各界の著名人11名の人たちによる、子供たちが安全な環境で教育を受けられるように裁判所の英断を求めるビデオメッセージを裁判所に提出しました。このメッセージの一部は裁判の公式ブログで見ることができます。
11月23日には、郡山で岐阜環境医学研究所所長松井英介さんの「子どもたちを内部被ばくから守るために」という講演会を開き、午後にはリレートークと野外ライブが開かれました。
12月10日は集団疎開の受入先として注目を浴びている新潟市で、琉球大学名誉教授矢ヶ崎克馬さんの「子どもたちを内部被ばくから守ろう」という講演が開かれました。(12.10 矢ヶ崎克馬さん講演会 @新潟市

15 裁判所の決定は、11月中には出されるものと考えておりましたが、出されることはありませんでした。裁判所が慎重に考えていることは、決して私たちにとって悪いことではありませんが、緊急の必要があることであり、裁判所の決断を後押しする必要があります。
  そこで、12月2日、私たちは矢ヶ崎克馬さんの「いま、申立人の子どもたちは全員、チェルノブイリ避難基準で、住民を強制的に避難させる移住義務地域で教育を受けている」ことを明らかにする意見書(3)補充の準備書面(補充書3)を提出しました。
  今回の事故においては、チェルノブイリ原発事故との比較が何より重要と考えますが、チェルノブイリでは4つの避難基準(特別規制地域・移住義務地域・移住権利地域・放射能管理強化地域)が設けられました。これを郡山市の債権者ら通う学校周辺のセシウム土壌汚染濃度に当てはめた時、どのような結果が得られるかを検討したところ、殆どの学校が、チェルノブイリの避難基準の、避難を義務づけられる「移住義務地域」か、避難を希望する場合には国がそれを保障する「移住権利地域」に該当すると主張してきました。
しかし、改めて、郡山市が測定した空間線量の値に基づいて、上記7つの学校の汚染状況をチュルノブイリの避難基準に当てはめたところ、申立人らが通う7つの学校全てが住民が強制的に避難させられる「移住義務地域」に該当することが明らかとなりました。
このショッキングな状況は、「福島県郡山市の放射能汚染状況」というマップで一目瞭然となります。



  以下に、矢ヶ崎さんの意見書のポイントを抜粋して記載します。

1 空間線量の値に基づいたチェルノブイリ周辺国の避難基準について
チェルノブイリ事故後の避難(移住)基準は、周辺国のロシア、ウクライナ、ベラルーシでは、年間被曝線量、あるいはセシウム等の汚染濃度に基づいていますが。これらの国の移住基準は基本的には人工放射線量が年間1mSv 以上となる汚染濃度とされています。これらの国の法律 では年間1mSv以上で移住権利、 5 mSv以上が強制移住となっています。

2 チェルノブイリ周辺国避難基準を1時間あたりの空間線量率で表示
 年間被曝線量は様々な形態の被曝のトータルの線量のことであって、空間線量だけではありませんが、今、議論を単純化して年間被曝線量を空間線量だけで考えることにします。
 すると、年間被曝線量と1時間あたりの空間線量率の関係は
年間1mSvは 0.114μS/h に、
年間5mSvは 0.571μS/h に相当します
 したがって、チェルノブイリ周辺諸国の法定汚染基準をこれに適用すれば、移住相当汚染は0.114μS/h以上であり、移住権利汚染ゾーン:0.114μS/h以上、移住義務汚染ゾーン:0.571μS/h以上となります。

3 チェルノブイリ周辺国避難基準への当てはめ
 これによると、上記の債権者らが通う7つの学校周辺の地域の空間線量の値は全て0.571μSv以上ですから、全てがチェルノブイリ周辺国避難基準の移住義務区域に該当することになります。すなわちこれらの国では住民の移住が義務付けられる汚染ゾーンにあるのです。

4 以上のことが意味すること
 チェルノブイリ周辺国で移住義務とされる汚染が、我が国の学童生徒に対して身体に危険が及ばない値で無いはずはありません。日本で、年間1mSv が公衆に対する被曝限度値であるとされますが、7つ全ての学校地点で年間被曝限度の5 をはるかに上回って、最高危険地は何と15 近くなっています。
 本件の債権者は大人の数倍は放射能に対する感受性が高いと言われる学童生徒です。さらに、緊急事態では、放射線に対する人間の抵抗力が増強されるということはいささかもありません。また、一企業体の事故の責任を児童が負わなければならない道理は金輪際ないのです。

5 結論
 主権在民を原理とする国においてならば、即刻学童の保護として避難を講じるべきです。

16 メディアでは、子どもたちの間に体調不安が広まっていると報道され、また、子どもたちの尿からセシウムが検出されたり、健康被害が報告されています。10月4日には、NPO法人日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)と信州大学が病院が福島県内の子ども130人を対象に夏休みに行った健康調査で、10人(全体の7・7%)の甲状腺機能に変化がみられ、経過観察が必要と診断されたことが報道されました。
ただ、もう遅い、と絶望してはダメです。これからでも放射性物質の影響がゼロに近い環境に子ども達を疎開させることで、放射性物質の経口や呼吸からの摂取を減少させることができ、それが放射線による障害を減少させることになります。

17 今、政府や福島県は、「除染」を大々的にアピールしています。
しかし、山林が7割を超える福島県全体の表土を全て削ることなど可能なのでしょうか。チェルノブイリでは30キロメートル圏内で20センチメートル表土を削っていますが、現在も住むことはできないのです。福島県内で「除染モデル事業実施区域」として優先的に除染が行われた通学路ですら、平均して7割程度しか下がっておらず、空間線量は1~2マイクロシーベルトに高止まりしています。
政府・福島県は、なぜ避難ではなく、除染を選択して喧伝しているのでしょうか。その答えは簡単です。「除染はお金になるけど、避難・疎開はお金にならない」からです。除染を新たな公共事業と捉えているのです。そこには子どもたちを初めとする市民の生命・身体・健康を守るという発想は全くといっていいほどありません。
  すでに1ミリシーベルトを超える被曝をしてしまった子どもたちを守るためには、校庭や通学路の除染だけではもはや不十分であって、今後の外部被曝及び内部被曝を抜本的に改善した新たな環境を子どもたちに提供するしか方法がありません。自主避難をしたくてもできない家庭も多く、避難するか否かを各家庭の判断に任せるべきではありません。
  子どもたちを粗末にするような国には未来はありません。いま、行政は、速やかに学校ごと疎開するという決断をすべきです。

18 今、まさに判決前夜です。
  この裁判を、全国、全世界の人が見守っています。裁判官を勇気づけるのは、私たちの熱い視線です。
裁判官が最後まで自己の良心と勇気を保って、子どもたちの命を守る判決を書けるように、皆さんの注目と応援を宜しくお願いいたします。

19 なお、裁判についての動き、この書面で触れた裁判所に提出した書類などは下記の公式ホームページに掲載しています。是非一度ご覧下さいますようお願いいたします。
http://fukusima-sokai.blogspot.com/ (「ふくしま集団疎開裁判」で検索)

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