2014年8月15日金曜日

アメリカ遺伝学会【概論】動植物に対するフクシマ放射能の生物学的影響~ティモシー・ムソー博士「鳥類、サル、蝶類、その他の昆虫の研究による経験則的な成果が大きく蓄積されており、フクシマ核惨事による放射能漏れのため、いくつかの生物種が顕著な影響をこうむっていることが示されている」


アメリカ遺伝学会
American Genetic Association
2014814
日本のごくありふれた蝶の一種、ヤマトシジミ。最近の研究によって、
福島第
1原子力発電所の放射能漏洩がこの蝶類にもたらした重大な影響
が明らかになった。【画像クレジット:琉球大学、大瀧丈二】
1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故のあと、生物学試料の採取が大幅な遅きに失し、この歴史的な惨事の衝撃に関する情報は限られたものになってしまった。科学者たちはチェルノブイリ研究の失策を繰り返してはならないと意を決し、2011年の福島第1原発メルトダウン惨事のほんの数か月後には、生物学的な情報の収集に着手した。こうした研究の結果、植物、鳥類、鳥類といった広範な生物種に対するフクシマ由来の放射能の深刻な生物学的作用が明らかにされはじめている。
遺伝ジャーナル(Journal of Heredity)は逐次、これらの研究の論文要約を公表している。これらの掲載論文には、生息数の減少、放射能被曝に生物体が対応するのに有益な修復メカニズム反応の遺伝学的な損傷といった広範におよぶ影響が記述されている。
「鳥類、サル、蝶類、その他の昆虫の研究による経験則的な成果が大きく蓄積されており、フクシマ核惨事による放射能漏れのため、いくつかの生物種が顕著な影響をこうむっていることが示されている」と、論文の主筆のひとり、サウス・キャロライナ大学のティモシー・ムソー博士は述べた。
これらの研究は最も重要なことに、環境に対する電離放射線被曝の作用に関する将来の研究の基礎になる。
公表論文の共通点として、長期(低線量)被曝が遺伝子の損傷の原因になり、生殖細胞および非生殖細胞の変異率を上昇させるという仮説が挙げられる。
論文のひとつ(Hayashi et al. 2014)は、福島県の汚染現場でコメの健全な苗を低レベルのガンマ放射線に被曝させた結果、放射線効果を実証した。3日後、DNAの複製、細胞死によるストレス反応の修復など、自己防衛に関わる遺伝子活性に対する効果といった、いくつかの影響が観察された。
「この研究で採用された実験手法は、現地の条件で電離放射線によるコメの遺伝子反応の総体を検証するための新たな道を拓くでしょう」と、論文著者のひとり、筑波大学のランディープ・ラクワル博士は説いた。
もうひとつの研究チーム(Taira et al. 2014)は、日本でごくありふれた蝶、ヤマトシジミのフクシマ現地における放射線被曝による反応を検証した。その結果、フクシマ現地の蝶および汚染現場で採集された蝶を親として研究室で育った蝶の両方で、体長の矮小化、成長の遅れ、死亡率および形態異常率の上昇が認められた。
この蝶の研究には複数の被曝源が関わっていた。「汚染されていない幼虫でも、原発の近くで採取した汚染宿主植物の葉で育てられると、高い異常率と死亡率が認められました」と、琉球大学の大瀧丈二博士は説明した。彼らの研究結果の一部はまた、フクシマの蝶における放射線耐性進化の可能性をも示唆していた。
チェルノブイリとフクシマの両所で他の多様な生物種を対象とした遺伝学・環境学研究の通覧論文(Mousseau 2014)があり、放射線の顕著な影響を明らかにしている。フクシマにおける鳥類、蝶類、セミ類の生息数調査の結果、放射線被曝(radiation exposure)を原因とする大幅な減少が示された。ツバメの翼の異常など、形態学的な影響も観察された。論文著者らは、長期にわたるチェルノブイリにおける研究が、将来のフクシマ現地における同様な影響を予告しているという。
これらの研究はすべて、事故による放射能(radiation)放出の現場におけるモニタリングに早くから着手し、継続することの必要性を浮き彫りにしている。「自然界の個体群に対する遺伝研究を詳しく分析すれば、フクシマにおいても、また将来の核事故の現地においても、野生生物界の回復時期を予測するのに必要な情報を得ることができる」とムソーはいう。「フクシマの野生動植物に関する基礎科学研究に対する投資を緊急に増やす必要がある」。

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