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馬鹿に付ける薬はない…
大掛かりなフクシマ核惨事の隠蔽工作
リンダ・ペンツ・ギュンター Linda Pentz
Gunter
2016年2月20日
津波による被害状況を評価するために2011年5月27日、福島第一核発電所を訪問するIAEA事実究明視察団のマイク・ウェイトマン団長。Photo: Greg Webb / IAEA Imagebank
via Flickr (CC BY-SA).
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日本国民はフクシマ核惨事が勃発した当初から、高レベル放射能とそれが健康におよぼす危険について、情報を隠されていたとリンダ・ペンツ・ギュンターは書く。政府はフクシマ地域が「安全」であると宣伝するために、被曝限度を国際基準の20倍まで引き上げた。フクシマ難民の多くは間もなく、帰還を強いられ、有害なレベルの放射能に耐え忍ぶことになる。
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2011年に福島第一核発電所を視察した科学者たちは防護装備を着用しなければならなかったが、政府は周辺地域がもはや安全であると主張している。Photo:
IAEA Imagebank via Flickr (CC BY-SA 2.0)
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凡例:(原注)[訳注]〔ふりがな〕
飯田哲也博士は日本の環境エネルギー政策研究所(ISEP)の創設者であり、所長である。
だから、博士が最近、英国は庶民院の神聖な大広間でおこなったプレゼンテーションにおいて、今はおおむね停止している核発電所でかつて発電していた電力を再生可能エネルギーで代替する日本の潜在的可能性を主題にすると期待する向きもいたことだろう。
しかし、飯田氏が熱をこめた論点は、太陽の力ではなく、プロパガンダの力だった。2011年3月11日は、東日本大震災が勃発した日かもしれない。だが、それは同時に、日本の大掛かりな隠蔽工作がうごめきだした日でもあった。
飯田氏はISEPサイト上で、農業、産業、ITとつづいた革命を引き継ぐ「第4の革命」を讃えている。彼は、「この『第4の革命』は、エネルギー革命、緑の産業革命、そして地域分散ネットワーク革命という3つの要素からなり…」と書いている[日本語サイト]。
だが、飯田氏個人としては、あの運命の日に地震と津波の壊滅的な二重災害によって引き起こされた破壊的な福島第一核発電所の核惨事の以前、さなか、以後に、日本国民が嘘に乗せられていた程度を伝えることに最大の関心があった。
飯田氏は1月末、「安倍晋三首相は『すべてアンダー・コントロール』と言っています」と、非核宣言自治体協議会、グリーン・クロス、ニュークリア・コンサルティング・グループ[核問題助言グループ]が開催したイベントで述べた。このことばを、三重災害の勃発時に指揮をとっていた日本の元首相、菅直人氏が皮肉った。「そうです――メディアによるアンダー・コントロール!」。
戦後の東京裁判と同類の東京電力裁判
メディアは政府に協力的な召使の役割を引き受け、嘘で国民を安心させたかもしれないが、2012年7月になって、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会[国会事故調]が、今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」であったと結論づけた[報告簡易版]。調査委員らは、政府や規制当局と核事業者、つまりこの場合は東京電力との「慣れ合い」の結果、事故にいたったと述べている。
飯田氏は、第二次世界大戦後の戦争犯罪法廷で28人の日本人が裁かれ、その後、そのうちの8人が絞首刑を執行された例を引き合いに出し、「戦後の東京裁判のような東京電力裁判がおこなわれるべきです」といった。
そのような説明責任の追求を願うことは――絞首刑を推奨するわけではないが――よくいって、泡沫〔うたかた〕の夢である。筆者は2011年、ベルリンでハインリヒ・ベル財団が主催した会議で講演したさい、東京電力の役員たちはハーグの国際刑事裁判所(米国がいまだにご都合主義にも認知を拒んでいる司法機関)に引き立てられ、明らかに人道に対する犯罪に匹敵する行為を釈明するべきであると提言した。
この所信表明によって、会場はいささかざわめき、筆者は東京電力役員らを法廷に連れだす手順について真剣な質問を浴びせられた。言うまでもなく、このような類〔たぐい〕のことが実現したためしがなく、実現しそうにもない。
それどころか、安倍政権お好みの戦術は、まるで深刻な事態がなにも起こらなかったかのように、全力を挙げて反応炉を再稼働し、できるだけ早く避難民全員を元の自宅に送り届けることである。表土を少々こそぎとり、どこか他所へ持っていって、さあ、お立ち会い、チチンプイプイ! すっかりクリーン、元通りに安全です!
放射能の存在を常態化する政策を推進
放射能除染はもちろん、そんな生易しいものではない。あてにもならない。独立の核専門家、マイクル・シュナイダー氏が表現するように、「汚染物質をある場所から別の場所へと押しやること」といったほうが、ピッタシである。それにまた、放射能はおとなしく一箇所にじっとしていない。シュナイダー氏は、「大雑把にすらも除染できない山地と森林は、末永く新たな汚染の出処になり、一雨ごとに放射能が洗い出され、山地から平地へと流れ下るでしょう」と説明した。鳥類は飛びまわる。動物は放射能を帯びた植物を摂食し、排泄する。放射能は海へと押し流される。これは、終点のない循環なのだ。
それでも、とりわけ福島県で、被災地に再定住させる事業が進行中である。これが政策であって、いま実施されており、これを支える医学的または科学的な証拠がないのが明白であっても、万端にわたり正常であると国民に告知して、放射線基準を「正常化」するのである。そして、これが、フクシマ惨事の第一撃をみまわれ、数多くの方針を策定するために、ひとつひとつ判断しなければならなかった、あの2011年3月11日の当日でさえ既に、
堅実・制度的に実行に移されていた手法だったのである。
福島第一核発電所から45キロ離れている飯舘村の酪農家、長谷川健一氏は、「わたしたちは、避難のほうが放射能よりも大きなリスクをもたらすと聞かされていました」と振り返る。Vice制作のドキュメンタリー映像作品“AloneIn The Zone”[当ブログ関連記事:VICE:原発20キロ圏にひとり生きる男]に登場する長谷川氏は、ご本人のことばによれば、とんでもない大きなミスを犯したといって、飯舘村の村長を批判した。
「研究者や科学者が来て、飯舘は危ないといっても、村長はそれを排除した。県から、国から偉い学者を呼んできて、今度は安全説法をされたのだ。飯館のみなさん、大丈夫ですよ、安心してください、なんともありませんよ…ずう~っと言われつづけてきた。そうすると、村人はだんだん安心していったわけだ。だから、村長もよけいに、避難なんてしないよというわけ。線量はすごく高いんだよ。でも、そういうことで、避難をしなかった」
核事業者は国民に真実を告げなかった
避難をめぐる状況は混乱を極めており、環境調査・公衆衛生国際ジャーナル・オンライン版に2014年9月11日付けで公開されたZhabgらの論文で、「避難指示が不明瞭であったため、多数の住民が放射線レベルのかえって高い北西方面に逃げる結果になった」と指摘するありさまだった。
飯田氏は総括して、「核産業の人たちは国民に真実を告げず、わたしたちに情報を伝えなかったと力説しておかなければなりません」と述べた。
次なる「正常化」の手順は、許容放射線被曝基準を以前の年間2 mSvから20 mSvに引き上げる決定だった。世界的に受け入れられている放射線吸収限度は、年間1 mSvである。
つまり、子どもたちが、ヨーロッパで成人の核発電所労働者が被曝を許容されているのと同じレベルの放射線に被爆しても構わないということである。一部の当局者などは、線量率が年間100 mSvもあるほど高い地域でも「安全」とされるべきだと論じるありさまだった。汚染と闘うニューオリンズの弁護士、ステュアート・スミス氏はご自身のブログで、次のように苦々しい思いの見解を表明した――
「日本政府は、自国民を防護するための是正措置を講ずるのではなく、いとも簡単に国際的に認定されている被曝限度を引き上げた。優先されるべき仕事は――多くの国ぐにの多くの産業災害事例に見てきたように――長期的な視野に立って大衆の健康と福利を守ることではなく、むしろ産業を保護することであるようだ」
帰還の偉大な嘘
かくして、帰還の偉大な嘘[1941年公開・米映画タイトル“The Great Lie”(邦題『偉大な嘘』)のもじり]の完璧な舞台ができあがる。飯田氏は英国議会内の聴衆に向かって、「これは大掛かりな隠蔽です。人びとは、少しばかりの(放射線)被曝は安全だと言い聞かされているのです」と語った。
じっさい、最近の全国知事会で、とりわけ若い人たちがフクシマに帰還するように求められていた。福島県の内堀雅雄知事は、「みなさんにわたしたちとともに福島に住んでいただき、働いてくだされば、福島の震災復興が促進され、みなさんが意義ある人生を築くのに役に立つでしょう」と述べた。
しかしながら、日本の若い人たちは協力的でないようだ。避難民が帰還している土地であっても、大多数が年配の住民であり、そうした人たちは健康の観点から失うものが少なく、先祖代々の墳墓の地に対する伝来の結びつきが強い。
ご自身が避難者であり、いま他の人たちとともに活動しており、やはりロンドンの会議に出席していた青木よしこ氏は、「お年寄りは生まれた土地で死にたいと願っており、馴染みのない場所で死にたくないのです」と述べた。
この状況は、地域財源の24.3%を占め、県と市町村が徴収する住民税の歳入に打撃を与える。この税は個人と企業に賦課されているが、税収の大部分は個人の住民税によるものである。
退職した高齢者は所得税収に寄与しないので、地域内の公共サービスの財源を確保する必要があり、可能なかぎり多くの労働年齢期の住民が市町村に帰還するように誘わなければという重圧が知事や市町村長らの肩にかかっている。
放射能汚染地域が受けている最も苛酷な経済的痛手
驚くこともないが、最も苛酷な放射能汚染の打撃をこうむった地域は、経済的にも最悪の痛撃に見舞われた。放射能のフォールアウトが到達しなかった地域は、地震と津波の後、単に再建し、その後、経済的に復興しており、その一部は3.11以前のレベルよりもよくなったほどである。
朝日新聞の記事は、「目盛りのもう一方の端に位置しているのが福島県の浪江町であり、同町の2014年度税収入は最大幅――72.9パーセント――の落ち込みを記録した。損壊した原子力発電所の近くに位置する町の住民全員が避難したままである。除染事業、その他の公共事業のおかげで、企業の納税額が増えたものの、住民が納付する所得税と固定資産税は減少した」と伝えた。
帰還するか、しないかは時間の問題である…あるいは、安倍内閣が避難命令のおおかたを解除する期日と発表した2017年3月が、その時かもしれない。避難命令解除の時点で政府の賠償金支払いは打ち切られるだろうし、避難民に帰還を強いる経済的圧力が働くことになるだろう。さらなる混乱に突入するゴーサインである。
人びとは「一方が非常に危険といい、他方がまったく安全という両極端の見解」を目の前に突きつけられており、「どちらが真実なのか、決めるのが非常に難しく、個々人の判断に任されています」と、飯田氏は述べた。
「安全」と宣言されるかもしれない町のひとつが、かつて16,000人に迫る人びとの古里であり、いまは無人の町になった日本のプリピャチ、富岡町である。
ご本人が富岡町の元住民であり、ロンドン滞在中の青木氏は、「これではまるで人体実験であり、わたしたちはそのように感じています。福島県の知事は、安全なフクシマなどと口にします。わたしたちは安全になってほしいと思いますが、わたしたちの思いと現実とは一緒ではなく、同じではありません」と語った。
「放射線管理区域のなかに入ったら最後、水を飲むこともできないし、ものを食べることも本当はしてはいけないのです。そのような場所に普通のかたが…(絶句)…住んでいる…そこで生活しているというようなことは、わたしから見れば、想像を絶するほどのことです」[VICEビデオ『原発20キロ圏内に生きる男
-Alone in the Zone』]
【筆者】
リンダ・ペンツ・ギュンターは、メリーランド州タコマ・パークの環境保全グループ、ビヨンド・ニュークリアの国際核問題専門家。
Also on The Ecologist:
- 'Fukushima PM Naoto Kan: 'if you love your country, let nuclear go!' by Linda Pentz Gunter.
- 'Fukushima - the first cancers emerge' by
Oliver Tickell.
- 'Fukushima:
thousands have died, thousands more will die' by Dr Ian Fairlie
- 'Fukushima meltdown continues around the world' by
Paul Mobbs
- 'Nuclear special Fukushima: the social impact of a nuclear disaster' by Hiroki & Ngaire Takano.
- 'Citizens to fill the Fukushima information void' by
David Suzuki.
【クレジット】
Ecologist, “No bliss in this ignorance: the great
Fukushima nuclear cover-up,” by Linda Pentz Gunter, posted on 20th February
2016 at;
【付録】
VICE Japan『原発20キロ圏内に生きる男 - Alone in the Zone』
【フクシマ5周年シリーズ】
2016年2月21日日曜日
2016年2月21日日曜日
ヴォイス・オブ・アメリカ「問題山積のフクシマ」
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