2016年2月2日火曜日

【世界の潮流】地球上最大の飲用水源、北アメリカの五大湖に☢放射性廃棄物処分場計画


五大湖と高レベル放射性核廃棄物処分は相容れない

ケヴィン・カンプス Kevin Kamps, Beyond Nuclear
2016128


ウィスコンシン州議会はいま、五大湖の悪夢がまだ足りないとでも言うかのように、33年間にわたる新規原子炉の建設禁止を解除する準備をしている。核発電所のモラトリアム解除の結果として考えられる最も確実な可能性は、法案の賛同者たちが言い立てているような、建設仕事の急増でもなければ、ハイテク成金のブームでもない。むしろ、ウィスコンシン資源保全評議会のアル・ゲディックス氏が警告しているように、法制はウィスコンシン北部の花崗岩地帯を米国エネルギー省の国家高レベル放射性廃棄物投棄処分場の候補地リストのトップに帰り咲かせる危険を招く。

     [看板「五大湖のそばに核廃棄物を埋めるって? ひどい考えだ」五大湖核処分場阻止.com

最後の氷河時代の氷河が溶けて形成され、14,000年の時を経た五大湖は、米国の8州、カナダの2州、米国・カナダの数多くの先住諸民族の4000万人に飲用水を供給する水源になっている。五大湖は、世界有数の二国間・生態地域経済になくてはならない生命の源なのだ。

そして、それがたった一度の放射能の破局的事故によって破滅し、永遠に失われてしまう。フェアーウィンズ・エネルギー教育の主任エンジニア、アーニー・ガンダーセンは最近のブログ記事“Downstream”[下流]で次のように表現している――

ヒューロン湖の稼働歴39年のブルース原子力発電所、あるいはミシガン湖の稼働歴44年のパリセーズ原子力発電所が、20113月のフクシマ第一のようなメルトダウンを起こすと想像してみよう。湖水の放射性廃棄物の濃度は、フクシマ第一メルトダウン後の太平洋に比べて、ざっと30,000倍は高くなるだろう。40,000,000の人びとが水の供給源を失い、セントローレンス川がモントリオールとケベック市を経由して流れるので、その水系の農産物が、何百年とまで言わなくても、数十年にわたって核廃棄物で汚染されるとした場合の果ての荒廃を考えてみよう。船体が汚染されるのを恐れて、外洋船舶が来なくなる場合、五大湖とセントローレンス川沿いの都市の商業活動への影響は、どのようなものになるのだろうか?

じっさい、2014年の数日間、オハイオ州トレド大都市圏で発令された毒性の藻類による水道水の飲用禁止、最近、全国紙のヘッドラインに踊った酷く危険なフリント市水道水の鉛による有毒化[東京新聞「水道汚染で非常事態宣言~米・フリント市で鉛検出」]といったミシガン州の飲用水供給の惨状(および明らかに数か月にわたった、その隠蔽)は、北米大陸の地表淡水の84パーセント、地球全体の21パーセントを占める五大湖の心臓部でさえ、飲用に適した水が、いかに貴重であるか――また、いかに逼迫しているか――を示している。

ガンダーセンは、40年あまりにわたる中性子線照射のために、反応炉圧力容器(RPV)の脆化が深刻であり、なお進行しているとして、パリセーズ核発電所の運転継続に意義を申し立てている環境保全団体連合側の鑑定人を務めている。熱せられたガラスに冷水をかける(しかも、1平方インチあたりの圧力が1トン以上の)場合のような、重圧下の熱衝撃がRPVを破砕しかねない。そうなれば、事態は、冷却材喪失事故、炉心メルトダウン、有害な放射能の破滅的放出へと次々と進行するだろう。

パリセーズは、米国原子力規制委員会(PDF文書5/15ページの第4点)によると、ウィスコンシン州のポイント・ビーチ2号炉につづいて、米国内で二番目に酷く脆化の進んだ圧力容器を抱えている――したがって、ミシガン湖は国内で最もリスクの高い経年劣化した2基の原子炉に挟まれていることになる。

産業界と政府に巣食う原子力ムラが五大湖の米国側湖岸地帯にいまだ稼働中の原子炉12基を配置し、カナダ側にはさらに18基が立地しているとは、なんと愚かなことだろう。現実として、相互連結した淡水域の単独で世界最大の集積地が最大限に不幸なことに、ウラニウム燃料チェーンのあらゆる段階の施設を受け入れているのである(概観するために、International Institute of Concern for Public Health[公衆衛生の懸念に応える国際研究所]、アンナ・ティルマン作成「五大湖地域:核のホットスポット」マップを参照のこと)。


ウラニウム・モンスターの前端部はすでに五大湖を破壊してきている。オンタリオ州エリオット・レイク市の鉱山と精錬所は、汚染にまみれた操業を半世紀にわたってつづけたあと、20年近く前に閉鎖されたが、いまだ五大湖に流れこむ有害なラジウムの排出源になっている。また、国内の反応炉燃料に使うにしても、米国や諸外国に輸出するにしても、カナダの「放射性ラブキャナル」[リンクは役者による]、トロントから東、オンタリオ湖畔の絵のように美しいが、ひどく汚染されたポート・ホープでは、サスカチュワン州北部の世界最大の産出量を誇る鉱山のものを含め、カナダで採掘されたウラニウムのすべての原子が処理されている(核の責任を求めるカナダ国民連合、ゴードン・エドワーズ、ロバート・デル=トレディチ作成「カナダマップ」を参照のこと)。
いま、ウラニウム燃料チェーンの恐ろしい「後端部」もまた、因果応報――五大湖畔そのものの放射性廃棄物投棄処理場計画――の姿を現そうとしている。

ミシガン州の「親指(Thumb)半島」岬から真東、ヒューロン湖畔のオンタリオ州キンカーディンにおいて、オンタリオ発電社(OPG)が、管区内の反応炉20基から集めた、いわゆる「低」および「中」レベルの放射性廃棄物を湖岸から1マイル足らずの処分場で投棄する作業を再開するのを許すか否かの決定を、カナダのキャサリン・マケナ新任環境大臣が31日までに下すことになっている。


狙われた現場は、地球上最大数の反応炉(総計9基、うち稼働可能炉8基)を抱えるブルース核発電ステーションである。米国とカナダの先住諸民族を糾合した草の根レジスタンス運動が15年以上にわたって、この狂気の策動に戦いを挑んできており、近年になって、ミシガン州議会議員と五大湖沿岸全域諸州選出の連邦議会議員らの超党派連合がこの戦いに参画している。Stop the Great Lakes Nuclear Dump[五大湖核廃棄物投棄阻止運動]は、92,300筆あまりの請願署名を集め、シカゴからトロントまで、総計2300万人あまりの市民を代表する地方自治体議会の投棄処分場反対決議180件あまりを成立させるために活躍した。OPGは同社の提案をDGP、つまりDeep Geologic Repository[深層地質保管場]の頭文字で呼んでいる。グリーンピース・カナダの故デイヴィッド・マーティンは、それをDeep Underground Dump[深層地下処分場]、または適切にも、短くDUD[詐欺、まがい物]と揶揄した!

五大湖畔の原子炉で数十年にわたり、交付金を受け、照射を受けた核燃料が山積みになっている。イリノイ、ミシガン、オンタリオ、ウィスコンシン各州の湖畔にある商業用反応炉のうち、6基が恒久的に閉鎖され、あるいは完全に解体されていても、高放射性燃料棒が他に移す所もなく、屋内の「湿式」プール、あるいは屋外の乾式キャスクやコンクリートおよび/または鋼鉄製のサイロに保管されたまま残されている。腐食と漏出の破局的なリスクがあり、その状況が常に悪化しつつあるにもかかわらず、おそらく人類の創造物のなかで最強の致死性物質は、現在の保管場所にそのまま置かれつづけることになるだろう。

ニール・ヤングの歌う“Rust never sleeps”“[錆は眠らない]は、原子炉の久遠の致死性副産物にピッタリ当てはまるかもしれない。ジェイムズ・レイモンドの作詞もまた、デイヴィド・クロスビーとグラハム・ナッシュの演奏する歌曲”Don’t Dig Here“[ここを掘るな]に、この放射能で「殺害する代物」がもたらす「大変な恐怖」とか「大変な危険」と歌っていて、――ユッカ・マウンテンのネヴァダ高レベル放射性廃棄物地層処分場計画に関して――この点を突いている。

エネルギー省は、ユッカ・マウンテン処分場計画に関する2002年最終環境影響評価報告書において、乾式キャスクが時間経過とともに劣化するに任せたまま、照射された核燃料を反応炉の敷地内に放置すれば、やがて放射能の破局的な環境内漏出を招くと警告した。

市民団体“Don’t Waste Michigan”[ミシガンを台無しにするな]の創立者、故メアリー・シンクレア博士が20年前に警告したように、五大湖など、わが国の飲用淡水の取水源の外れほど、結末が悪くなる場所は他にない。

DUD賛成派は、「ウィスコンシン州民核監視」のジョン・ラフォージに難問を突きつけられたさい、五大湖の希釈要因を考慮すれば、オンタリオ社の埋設放射性廃棄物の全量が漏れても、下流域の線量は「許容」範囲内にとどまると請け合った。「公衆衛生上の懸念に関する国際研究所」の故ロザリー・バーテル博士は発言と行動で、「希釈は放射能汚染の解決ではない!」ことをハッキリ示した。非核五大湖連合のマイケル・キーガンは、「希釈(dilution)が解消(solution)」という言い分は妄想(delusion)であると喝破した[訳注:韻を踏んだ語呂合わせ]。

(ところで、ラフォージはウィスコンシン州マディソン・キャップ紙に“Nuclear power might be safe or cheap, but never safe and cheap”[原子力は安全だったり安あがりだったりするかもしれないが、安全で安あがりにはならない]という気の利いたタイトルの論説を書いた。彼はそのなかで、ウィスコンシン資源保護協議会のゲディックスによる公聴会の証言を長々と引用しており、これは、反応炉建造停止の解除に満場一致の賛成票を投じた州議会議員らに全面的に無視された警告になっていた)

どちらがわたしたちをウィスコンシン州に連れ戻すのだろうか? 核産業のロビイストたちと州議会内の支援者らは2003年、2007年、2010年の三回、新規原子炉の禁止解除を目論んだ。1979年のスリーマイル・アイランドのメルトダウンを受けて成立したモラトリアムは、良識に則した予防策であり、ウィスコンシン州内に新規反応炉を建造する要件として、(1)ウィスコンシン州の照射済み核燃料を受け容れる余地のある連邦の高レベル放射性廃棄物保管場が存在すること、(2)新規に提案される、いかなる反応炉も、公共料金支払い人の金銭的負担になってはならないこと(つまり、他の電源に比べてコストの競争力があるべきこと)と定めている。

原子力産業は30年間あまりにわたって、上記2点の基本的な試験に落ちている。じっさい、ウィスコンシン州、ミシガン湖畔のキウォーニー原子炉は2013年、20年間の免許延長を認める原子力規制委員会のゴム印を押してもらったばかりだというのに、より安価な電源と競争にならず、恒久的な閉鎖を余儀なくされた。

核監視グループ、「社会的責任を果たすための医師団」ウィスコンシン支部など、環境・公益団体はこれまで三度にわたり、新規原子炉の禁止解除の企てを跳ね返すことができた。しかし、核推進ロビーがまたもや再来している。

オバマ大統領の「アメリカの核の将来に関するブルー・リボン(学識経験者)委員会」も、2012年1月の最終報告で次のように伝えている――

原子力の利用と、核燃料サイクル後端部における解決策との公的で法的な相互関係を確立する努力は、再処理能力、あるいは廃棄物投棄処分システムのどちらかを首尾よく完成する見通しがますます暗くなった1970年代中期にカリフォルニア州で開始された。

カリフォルニア州議会は当時、使用済み燃料および高レベル核廃棄物を処分するための実証済み技術を連邦政府が特定し、承認したことを、カリフォルニア州のエネルギー資源保全・開発委員会が認知することができたときに限り、州が新規原子力発電所の認可を与えることが許されると定める法律を採択した。このカリフォルニア州法は、連邦法が原子力を封印する州法に優先することを根拠として、不服を申し立てられたが、最高裁判所は、カリフォルニア州法が、核規制の妥当性ではなく、経済的な妥当性にもとづいて制定されているとして、その合憲性を認定した。

その後、8州――コネティカット、イリノイ、ケンタッキー、メイン、ニュージャージー、オレゴン、ウエスト・ヴァージニア各州――が、新規反応炉に対する認可を廃棄物処分問題の(最低限の)進展に合わせて縛る法制を採択した。近年になって、一部の州でこのような法律を廃止する企てが見受けられるものの、これまでに、どれひとつとして成功していない。

核ロビイストたちがまかり通る結果になれば、ウィスコンシン州の法律廃止法制、つまり下院法案(AB384とその関連法案である上院法案(SB288はドミノ現象を引き起こすかもしれない。両法案は昨年10月に提出された。起草提出者は共和党のケヴィン・ピーターセンであり、ウィスコンシン州議会下院の共和党議員32名が共同提出に加わっている。州議会上院では、共和党のラシーとワンガードが攻勢の先頭に立っている。

州議会のエネルギーと公共事業に関する下院委員会は1214日、賛成13対反対0の評決でAB384法案を採択した。5名の民主党委員を含め、満場一致だった。

ウィスコンシン州デモクラシー・キャンペーンは、「新規核施設の禁止は一般的に数十年にわたる民主党の党是であってきた」と指摘する。

だが、ウィスコンシン州デモクラシー・キャンペーンはその分析記事“The Money Behind Dem Support to Dump the Nuke Plant Moratorium”[核施設モラトリアム解除に対する民主党の支持の背後にお金]で、次のように伝える――

その方策は…公共事業者、労働組合、実業界、そして右翼イデオロギー集団であるAmericans for Prosperity[繁栄をめざすアメリカ国民]に後押しされている。法案は環境主義者たちと公共事業監視団体に反対されている。

わたしたちの感謝、激励、支援を受けるに値する反対派には、市民公共事業委員会、クリーン・ウィスコンシン、ウィスコンシン州女性有権者連盟、シエラ・クラブのジョン・ミューア支部、ウィスコンシン州保全有権者連盟などがある。

国際電気工組合のような核推進派労働組合とコーク家兄弟に加えて、連邦政府予算、すなわち納税者の金で出資されているウィスコンシン大学マディソン校・核工学部も名を挙げておくべきである。妄想の産物「小型モジュラー反応炉」(SMR)もまた巨額の公的助成金を求めており、核反応炉版の昨今流行りの鬼火であるようだ。

UWマディソン校・核工学部教授にして、原子力規制委員会の反応炉安全対策に関する大判ゴム印押し諮問委員会の委員でもあるマイケル・コッラディーニ博士は、久しい前から野心的で令名高い核産業支持者であってきた。だが、10年前のこと、ジョージ・W・ブッシュが彼を米国核廃棄物技術審査委員会の委員長に指名したとき、彼の書いた一連のユッカ・マウンテン処分場推進論説が偏っており、健全な科学とまるっきり関係がなく、すべて生臭い政治色で粉飾されていることが暴露されて、即刻、辞退を余儀なくされた)

鳴り物入りで、ウィスコンシン州の新規反応炉禁止に反対し、SMR賛成を宣伝しているウィスコンシン公共事業インヴェスターズは次のように謳っていると、ウォール・ストリート・ジャーナル記事に引用されている――

「最初の(SMR)数基は、多くが元来、2基ないし4基の認可を受けていながら、通例1基か2基しか建造されていない既存の核施設の隣接地に建造されることになりそうである。公共事業者は道路をたどって、既存の石炭火力施設を小型反応炉に置き換え、ある場合には送電網基盤が必要だが、送電線が既設されている施設の利点を活かすことができるだろう。これら小型反応炉は、いかなる他の発電所と同じように、たやすく電力網にプラグインできる」

エクセル・エネルギー、WECエネルギー・グループなど、ウィスコンシン公共事業インヴェスターズの背後にいる度しがたい現・元核電力事業者は、彼らが深く関与しているか、または関与していた、これらウィスコンシン州内の「既存核施設」のいくつか、ラクロスのデイリーランド電力ジェノア反応炉、ミシガン湖畔のキウォーニーなどは電力市場における競争力の欠如のために恒久的な閉鎖に追いこまれたことを言い忘れている。


エネルギー・環境研究所(IEER)、社会的責任を果たすための医師団(PSR)などの諸団体は5年あまりも前、原子力のコスト、安全性、廃棄物問題の面で、SMRが解決策ではなことを示している。

ウィスコンシン・デモクラシー・キャンペーンは、ウィスコンシン州議会のエネルギー・公共事業に関する下院委員会における民主党議員の賛成5票を次のように説明している――

民主党の現役議員に対する、電力業界、および労働組合が法案を支持している電気工事、木工、配管、その他の業界の献金は、20111月から20156月までの総額が510,000ドルに達しており、そのうちの31,000ドルが法案に賛成票を投じた下院委員会の民主党委員5名に渡っている。

その民主党委員と献金額は次の通り――

• モノナ選出、ロブ・カール議員:約11,000ドル。労働組合の6,200ドル近くと事業者の約5,700ドル。

• ミルウォーキー選出、ジョッシュ・ゼプニック議員:7,400ドル。労組の4,100ドルと事業者の3,300ドル。

• グリーン・ベイ選出、エリク・ゲンリック議員:5,550ドル。労組の4,750ドルと事業者の800ドル。

• マディソン選出、メリッサ・サージェント議員:3,200ドル。労組の2,450ドルと事業者の750ドル。

• アップルトン選出、アマンダ・スタック議員:3,000ドル。労組が全額。

調査ジャーナリストであり、長年にわたり原子力を監視してきたグレッグ・パラストのことば「最良の民主主義が金で買える」に、「すごい、こんな安値で売ったんだ!」と続けてもいいだろう。

原子力ロビーは、州レベルだけでなく、連邦レベルでも、巨大で不健全な影響力を振るっている。


ウィスコンシン州のメディア・デモクラシー・センターのSourceWatch[情報源監視]サイトが、核産業の偽装団体「クリーンで安全なエネルギー同盟」の正体を暴露しているように、無礼な骨折り仕事が業界のPRキャンペーンを暴く。米国内最大の草の根再生可能エネルギーの祭典、中西部再生可能エネルギー協会の年次展示会で反核情報討論会やワークショップを催すニュークウォッチ、ビヨンド・ニュークリア、核情報・資料サービス、核エネルギー情報サービスなどの同類によるものなど、この取組は数十年の昔に遡ることができる。

法案AB384号は113日、満席のウィスコンシン州議会下院で発声投票によって採択された。下院が6336の票差で共和党に支配されており、特定の民主党議員が大声で発言し、法案に反対したにもかかわらず、発声投票は録音されていなかった。したがって、個々の議員が投票した実態に関して、明確な記録は残っていない。この透明性と説明責任の欠如もまた、原子力産業ロビイストらによる、わが国のデモクラシーの抑圧の実例である。

舞台はいま、ウィスコンシン州議会上院に移っている。法案は115日、天然資源・エネルギー委員会に付託された。

しかし、たとえ採択され、州法が制定されても、ウィスコンシン州内の新規反応炉禁止の撤廃が――旧世代の反応炉の建造時のように、納税者と電気料金納付者の負担になる巨額の助成金が手当されないかぎり――新規反応炉建造プロジェクトに繋がらないだろう。憂慮する科学者同盟もまた、““Small Isn’t Always Beautiful”[『小は必ずしも美しくない』。タイトルは往年の世界的ベストセラー、F・アーンスト・シューマッハー著『スモール・イズ・ビューティフル』のもじり]ということ、またSMRであっても、安全性、警備、コストの面でやはり懸念があるということで、前出のIEERPSRと同意見である。

核産業のドル札で目がくらみ、AB384SB288法案に賛成するウィスコンシン州議会の議員たちは、安々としっぺ返しを喰らいかねないことを忘れているようだ。1980年代のこと、エネルギー省の国家高レベル放射性廃棄物処分場「東部候補地調査」リストの筆頭にウィスコンシン州北部の花崗岩地質地帯を挙げていた。ウォルフ川底盤、ピューリタン深成岩帯のような地層は、特に狙いをつけられていた。オバマ政権が危険なユッカ処分場計画を賢明にも撤廃したいま、エネルギー省の2008年報告でハッキリわかるように、処分場候補地を探している同省がウィスコンシン州のような場所に戻ってくることが予想できる(PDFカウンタ13ページのFig. 2、または16ページのFig. 3を参照のこと)。

エネルギー省は現に、花崗岩地質に狙いを定めて、高レベル放射性廃棄物の深部掘削孔処分の隠密実験を実施している。

五大湖盆地の花崗岩地質帯における放射性廃棄物処分提案を超えて常軌を逸したものは唯一、ヒューロン湖畔は水溶性の石灰岩地層帯で放射性廃棄物を処分させろというOPG[オンタリオ発電]の提案だけだろう。二国間環境保全団体連合は、カナダ連邦オンタリオ州両政府に対して、この正気の沙汰ではないリスクを孕んだ構想を阻止するように求めた。

はてさて、核の既存体制たるものは、実に風変わりなものを引っ提げてくるものだ。オバマ大統領のアメリカの核の将来に関する学識経験者委員会が20121月の最終報告で伝えているとおりだ(PDFカウンタ総ページ数180のうち、1920ページ、または4142ページ。文書内ページ付けは無視のこと)。全米科学アカデミー(NAS)は1957年、放射性廃棄物の処分問題に絞って概観した報告“The Disposal of Radioactive Waste on Land”[放射性廃棄物の陸地処分]を公表した。その報告は結論をいくつか出しているが、そのなかで、「放射性廃棄物を、さまざまな方法で、また米国内の多数の箇所で安全に処分することができる」し、塩類鉱床内の地層処分が「最も確実な処分方法」の代表格であるとしている。

59年前(オハイオ送電線に近いビーヴァー川沿い、ペンシルヴェニア州シッピングポートで――ハイマン・G・リッコーヴァー司令官の原子力海軍によって建造された――最初の「民生用」反応炉が起動したのと同じ年)に刊行された報告書のホコリをはらうと、議論の対象になっていた高レベル放射性廃棄物の形態が、固体の照射済み燃料棒ではなく、さらに封じ込め困難な再処理済みの液体(プルトニウムおよび/またはウラニウム抽出物、「リサイクル品」)だったことがわかる。しかも、五大湖の心臓部、デトロイトの地下の塩類層が考慮されていたのである。

Coalition for a Nuclear-Free Great Lakes[核のない五大湖をめざす連合]のキーガンは、デトロイト・エディソン社のCEO兼会長、ウォルター・J・マッカーシーが、なんと1980年代中ごろまで、デトロイト地下の高レベル放射性廃棄物処分を推していたことを確認している。これは、50年前に「デトロイトを失うところだった」フェルミ1メルトダウン事故、それに加えて、いまなお継続中のフェルミ2(福島第一1号炉と2号炉を合わせたのと同じ大きさ、超大型のゼネラル・エレクトリック製マークⅠ型沸騰水反応炉)の失策をしでかした会社の話である。

NAS[全米科学アカデミー]とマッカーシーが明かさなかった、いい話がある。IEER[エネルギー・環境研究所]の所長、アルジュン・マキジャニ博士が、商業用の照射済み核燃料の発熱が塩類地層内処分を不適切にしていることを近ごろNRC[原子力規制委員会]が認めている事実を掘り起こした。熱が、処分用の人工地下空洞が崩壊する原因にさえなりかねないのである。2014年のヴァレンタイン・デー[214日]にニュー・メキシコ州の廃棄物隔離試験施設で起こったことだが、埋蔵用ドラム缶が破裂したため、超ウラン元素汚染物質が大気中に放出されており、この事故はリスクの深刻さを明らかにしている。

モースレーベン岩塩ドームは、ドイツの「低レベル」放射性廃棄物の処分用に使われているものの、崩壊のリスクにさらされている。アッセⅡ研究鉱山は腐食性の鹹水(かんすい=塩を多量に含んでいる水)で余りにも水浸しになっており、ただちに放射性廃棄物を運びださなくてはならないが、リスクと経費が途方もなく高くつくが、さまなくば核のゴミが環境中に逃げ出してしまう。

あなたになにができるだろう?

五大湖に突きつけられた放射能のリスクに対して、行動を起こしてほしい。カナダ政府首相<Justin.Trudeau@parl.gc.ca>と環境大臣<Catherine.McKenna@parl.gc.ca>にEメールを送って、オンタリオ社DUD計画の却下を請願してほしい。あなたの選挙区の上下両院議員に接触して、超党派・両院提出「五大湖近辺核廃棄物阻止法案」に賛成するように請願してほしい。オバマ大統領に連絡して、米・カナダ国際共同委員会を復活し、DGR(深層地下処分場)計画の包括的検証を実施させるように請願してほしい。

また、ウィスコンシン州内の知人に誰彼なく連絡して、彼/彼女の選挙区の州上院議員に接触し、最悪の構想の芽を摘むため、SB288AB384法案に反対するように頼んでもらってほしい。

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【クレジット】

EcoWatch.com, “The Great Lakes and a High-Level Radioactive Nuke Waste Dump Don’t Mix,” by Kevin Kamps, Beyond Nuclear, posted on January 28, 2016 at;

【筆者】


ケヴィン・カンプス Kevin Kamps: 放射性廃棄物監視担当
ケヴィン・キャムプスの専門分野は、高レベル廃棄物の管理と輸送、新規と既存の原子炉、解体、議会ウォッチ、気候変動、連邦助成金。詳しいプロフィールをお望みなら、英語の姓名をクリック。ケヴィン・キャンプスが反核行動シーンに登場した1990年「母なる地球へ向かうアメリカ横断徒歩マーチ」のポスター"Winter Count Poster"記録文書もご覧ください。さらに詳細なプロフィールは、このリンクにあります。
kevin@beyondnuclear.org. 301.270.2209 x 1
(出処:About Beyond Nuclear

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