2016年2月3日水曜日

山下俊一氏【臨床腫瘍学誌】福島原発事故後の包括的健康リスク管理(概要・序論)

Clinical Oncology 臨床腫瘍学誌

福島原発事故後の包括的健康リスク管理

福島県放射線医学県民健康管理センターを代表して、山下俊一 S. Yamashita

オープン・アクセス


出版歴
オンライン公開:2016123日 受理:201514日 受付:201514

ライセンス条件
クリエイティブ・コモンズ表示-非営利-改変禁止 4.0 (CC BY-NC-ND 4.0)

Article Outline
II.        Introduction
V.        Basic Survey
VI.        Four Detailed Surveys
      A.        Thyroid Ultrasound Examination
      B.        Health Check-up
      C.        Mental Health and Lifestyle Surveys
      D.        Survey of Expectant and Nursing Mothers
VII.        Discussion
VIII.        References

概要

2011311日の東日本大震災とそれに続いた福島原子力発電所[ママ]事故から5年が経過した。避難、避難所の提供、食品流通の統制など、緊急事態時における人間の保護を目的にした対策は、日本政府によって時宜に適った形で実施された。しかしながら、とりわけ核の安全性と防護の分野、それに事故時だけでなく、その後でさえも放射線による健康リスクに対処する管理において、改善の必要がある。放射能汚染地域で暮らすという決定のインフォームド・コンセントを得るためにも、避難区域の再入域が許された場合、そこへ帰還するためにも、福島の環境と食品の放射能レベルに対する継続的な監視と特性解析が不可欠である。測定にもとづいた放射線量の現実的な評価もまた、重要である。これまでに福島でさまざまなタイプの放射線健康リスク管理事業と研究が実行されており、なかでも福島健康管理調査が最大の健康監視事業である。この事業は、事故後、最初の4か月かんに受けた外部放射線量を見積もるための基本調査、および4件の詳細調査、すなわち甲状腺の超音波検査、包括的な健康診査、こころの健康度・生活習慣に関する調査、妊産婦に関する調査が盛り込まれており、長期にわたって福島県の全住民の健康を予防の見地から保護することを目的にしている。特に、福島原子力発電所事故の避難者たちの放射線リスクに対する不安が、精神的ストレスに伴っている。本論文において、継続中の健康リスク管理を振り返り、福島における災害後の回復と復活という困難な課題に注目する。

Key words:

……

序論

緊急時の放射線医療の重要性が、国際原子力機関(IAEA)事故・緊急事態センター、世界保健機関(WHO)放射線緊急時医療準備対応センターなど、放射線防護に関する世界の討論の場で真剣に議論されたものの、福島原子力発電所事故以前、われわれは残念なことに、弁解の余地なく、日本における原子力の安全神話に魅了されていた。WHOのチェルノブイリ事故の健康に対する影響に関する国際プロジェクトは、かねてからチェルノブイリ原発事故の結果としての健康問題を特定していた。リハビリテーションと福島の復興の見地に立った、福島原発事故後の包括的な健康リスク管理の検証と小児甲状腺癌の放射線リスクに関する有益な情報が報告されてきた。

チェルノブイリに学んだ最も重要な教訓のひとつが、核事故で放出される放射性ヨウ素による当初の被曝を回避し、放射線に関連する小児甲状腺癌のリスクを軽減または予防することである。したがって、甲状腺線量の遡及的な分析が福島で最大限に重要であり、これまでに得られた暫定的なデータは、今後、小児甲状腺癌のリスクが増大する可能性がないことを示唆している。しかしながら、心的外傷後ストレス障害など、心理的・精神的な健康への影響は、福島で解決しなければならない非常に重要な問題であり、チェルノブイリ後に認められた問題と似通っている。

低線量および低線量率による人の健康リスクに関する疫学の先行研究、ならびに原爆被爆者のコホート研究は、放射線健康管理プログラムを開発するための基盤になっている。しかしながら、数多くの交絡・変異因子が晩発性の悪性腫瘍が発現する機会に影響するので、いかなる放射線学的・核事故の場合でも、病因・疾患関係の特定は非常に困難である。ランセット誌発刊70周年記念号に掲載された広島と長崎の原爆投下による被爆者の治療に関する3編の最新論文が、放射線被曝に関連する健康への影響を検証しており、福島第一の事故によってありうる影響を知らせるのに使うことができる。チェルノブイリと福島の事故は、直接的な放射線被曝と無関係な健康問題など、放射線による公衆の健康に対する潜在的な影響の類似性を浮き彫りにしている。福島の住民のさまざまな範疇(避難者、児童、母親、高齢者)の健康を尊重しつつ、リスクを管理する困難な課題を克服するためには、長期的な対応が必要とされており、この対応は、人びとが直面している複雑な問題に対して効果的な手当てを達成するために提供されるべきである。

本論文において、福島健康管理調査事業の最近の進捗を概論し、考察して、川内村で使われた回復モデルなど、福島における適切でバランスのとれた放射線リスク管理の今後の方向性を見極める。

【クレジット】

Clinical Oncology, “Comprehensive Health Risk Management after the Fukushima Nuclear Power Plant Accident,” by S. Yamashita, published on January 23, 2016 at;

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