2016年5月1日日曜日

R.ジェイコブス【米国民への警告】#ハンフォード☢タンク群、#フクシマ☢よりも重大な脅威



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2016年4月29

北米西岸住民にとって、フクシマどころか、ハンフォードが最大の放射能汚染の脅威

ロバート・ジェイコブズ ROBERT JACOBS


米国の西海岸に、数百万人のアメリカ国民の健康にリスクをもたらす危険な放射性物質の脅威が存在する。その脅威には、世界で最も毒性が強いものなど、半減期の長い放射性核種が、国民の健康におよぼす危険、食料供給におよぼす危険、未来の世代におよぼす危険などがある。脅威をもたらしているのは、フクシマどころか、ハンフォード(Hanford)なのだ。フクシマ核メルトダウンによる放射能が日本から海をわたって運ばれ、西海岸に到達しているにしても、ハンフォードからの放射能はすでに70年間もそこに存在しており、日本におけるフクシマの影響すらも小さく見せるかもしれないほどの破局的事態をもたらしかねない重大な脅威になっている。

ハンフォードはワシントン州東部のコロンビア川沿いに位置しており、米国が冷戦時代に核兵器のプルトニウムの大半を生産した現場である。その何万発も製造されたアメリカの核兵器は、ハンフォードにおけるプルトニウムの高水準生産の最終製品だったのだ。ハンフォードで世界初の核反応炉3基が建造され、最終的に合計9基の核発電装置がそこに建造された。核発電所がじっさいに発電をする前に、この世で10年間にわたり、核発電装置が動いていたのである。核発電装置にとって、電力生産は2次的な目的であり、それは元来、プルトニウム生産装置として建造されたのである。

ハンフォードは、プルトニウム生産施設が稼働した最初の現場だった。原子力時代初期の40年間における(核兵器の炸裂を除外して)最悪の放射能災害は、英国とソ連のプルトニウム生産現場の事故であり、両方とも1957年に勃発した。軍用プルトニウム生産施設は、今でも地球上屈指に汚染された現場のままである。ハンフォードの稼働期間中に、67トンあまりのプルトニウムが生産された。ハンフォードは、米国で保管されている高レベル放射性廃棄物総量の(体積にして)60%分の出所である。エネルギー省の目録に記載されている使用済み核燃料棒の80%近くが、コロンビア川の河畔からほんの400ヤード[366メートル]の場所で保管されている。(統計値の出処は、Physicians for Social Responsibility[社会的責任を果たす医師団]サイト記事“Hanford Facts

ここで、ハンフォードの現場における最悪の影響と危険性をいくつか、ごく簡単に検討してみよう。

グリーン・ラン

米国は194912月、悪名高いグリーン・ラン(GreenRun)のさい、ハンフォード現地の人里に膨大な量の放射能を意図的に放出した。これは、米国がみずから実施した最大規模の計画的放射能放出だった。ネヴァダの核実験も大勢の人びとを大量の放射能に被曝させたが、これは兵器を試してみたいという欲求の副産物だった。グリーン・ランのさいには、ハンフォード地域に対する放射能放出そのものが、特に意図された目的だった。グリーン・ランは、その数か月前にカザフスタンで実施されたソ連最初の核実験を受けて実行された。その核実験から数日たって、ハンフォードの検知器が放射能を検出したことが、ソ連が成功裏に核実験をおこなったことに気づく最初の兆候になった。ソ連の核兵器開発状況に対する解析能力を改善するために、検出装置を開発し、それに磨きをかけたいので、ソ連の核実験に「相等」する放射能放出を決定したのである。

第二次世界大戦が終結したあと、核燃料棒からプルトニウムを抽出する米国の処理法は、燃料棒の「熟成」工程、つまり半減期の短い同位体(ヨウ素131など)が崩壊するのを待つ100日間ほどの余裕期間を置く方法を取り入れた。ケイト・ブラウンは彼女の極めて重要な著作『プルートピア』(Plutopia)において、最終的にハンフォードでこの熟成期間を延長することになる決定について、詳しく論じている。米国は、ソ連ができるだけ早急に核兵器を製造するために、マヤーク複合施設におけるプルトニウム製造に「短期冷却法」を採用して、これら半減期の短い放射性核種が崩壊する前にプルトニウム抽出処理を施していると想定した。グリーン・ランは、この方法を再現し、100日間の冷却期間をおかずに、数週間しか冷却せず、したがって「青く未熟」(green)なままにプルトニウムを取り出す計画だった。地域に設置されていた放射線検知装置と、実験に参加した航空機に搭載されていた装置の検出能力を高めるために、グリーン・ラン実施中の12時間、プルトニウム処理工場のヨウ素131を専門に除去するフィルターは止められていた。

風下方向の人里に向けられた意図的な放射能放出と同様に遺憾なことに、ものごとは計画どおりに進まなかった(RELEASES: The Green Run)。じっさいのヨウ素131放出量は当初の予想量の2倍に達し、意図された放出量が小さく見えるほどである。科学者たちは、施設からプルームが流れていくとき、われわれはまとまりのある雲塊を追跡していると考えていたが、放射能がワシントン州と南方のオレゴン州の広大な地域一帯に拡散する結果になった。放射能は不規則に運ばれ、渓谷地や低地に蓄積しているのが見つかった。体内摂取されたヨウ素131は甲状腺癌の直接原因になる。

高線量地域と到達範囲を示す環境保護庁作成のヨウ素131分布地図

廃液保管タンク群

廃液保管タンク群(Tank Farms)ほど、ハンフォードで住民の健康にリスクをもたらすものはほとんどない。廃液保管タンク群とは、ハンフォード複合施設の2か所に設置された計177基の単層または二層の外殻を備えた廃液保管タンクの群である。ハンフォード操業の初期のころ、核兵器用のプルトニウムが使用済み核燃料から分離されていたとき、処理作業の残りものであるウラニウムはこのタンクで保管されていた。種々多様な高レベル放射性・化学廃液がこれらのタンクに捨てられた。ワシントン州の資料(Q&A: Leaking underground tanks at Hanford)によれば、177基のタンクで、米国内で最高レベルの放射性廃液が5300万ガロン(20万立方メートル)保管されているという。この高レベル放射性廃液の100万ガロン(3,785立法メートル)が単層外殻タンク67基から漏出し、土壌と地下水系を経由して、コロムビア川に流れこんだ。エネルギー省は2011年になって、漏れのある単層外殻タンクの中身を二層外殻タンクに移したが、二層外殻タンクの設計に欠陥があることが判明し、さらなる漏出につながる結果になった。

ハンフォード廃液保管タンク施設の一区画。写真出処:エネルギー省

5300万ガロンの高レベル放射性廃棄物の処理作業は、数十億ドルの経費がかかる事業であり、2050年までに、つまり生み出された当初からざっと100年後までに処分する計画になっている。現在のところ、廃液をガラスで固めることを意図した「ガラス固化施設」(Vitrification Plant)の設計契約金を支払い、建設をはじめたものの、ほとんどなにも完成しておらず、目標達成にはほど遠い。近年になって、ハンフォード従業員のなかから、夥しい数の内部告発者が前面に出て、ガラス固化施設の設計欠陥と保安手順の不備を申し立てている。たいがいの内部告発者は、ハンフォード浄化事業請負企業に解雇された。その一人、ガラス固化施設の研究・技術部長、ウォルター・タマサイティス(Walter Tamosaitis)が正当性を認められ、不当解雇訴訟の解決金430万ドルを勝ち取っている(Hanford whistleblower wins)ものの、その勝訴以来、他の内部告発者たちは持ち場から外されてしまった。タンクから液状廃棄物は抜き取られたが、タンク内に残った高レベル放射性廃棄物は、おおむね未処理のままである。

廃液保管タンク群の維持管理作業を担当しているハンフォード従業員は、近年になって深刻で説明のつかない健康問題にみまわれている。毎年、夥しい数の労働者が、「蒸気」にさらされ、病気になったり、意識を失ったりして、入院を余儀なくされている。このような被曝の結果、慢性的な健康問題を抱える労働者は数多い。2014年には、3月後半の2週間で26人の労働者が病院に収容された(Sick Hanford workers)のを含め、そのような被曝で苦しんだ労働者は40人になった。ポートランド[オレゴンの州都]の放送局、KGWのニュースによれば、太平洋北西部国立研究所が1997年に実施した研究が、特定のタンクから出た蒸気にさらされた労働者の、癌、その他の深刻な疾患のリスクが有意に増大していると警告したが、この報道の結論は「研究結果は公開されず、ハンフォードの労働者や連邦政府に信認されたハンフォード諮問委員会の委員たちにも明かされなかった」という(Buried study warned about Hanford vapors)。

旧ソ連のマヤーク・プルトニウム生産施設で1957929日、ハンフォードのタンク群のものと同類の廃棄物を収納しているタンクが爆発し、この事件はウラル核惨事(キシュテム災害:Kyshtym Disaster)として知られることになった。マヤークのタンク群の1基の冷却装置が故障し、タンク内温度が上昇したため、やがて化学爆発を起こし、放射能の雲が流れて、風下350キロに達し、施設近隣の地域一帯を破滅的レベルのセシウム137とストロンチウム90で高レベルに汚染した。この事故は、その3か月後に英国カンブリア行政区にあるウィンズケール施設(Windscale:現在の呼称は、セラフィールド)の反応炉の内部で発生した火災と並んで、当時で史上最悪の放射能惨事だったし、チェルノブイリでメルトダウン・爆発事故が起こった1986年までそうだった。旧ソ連の調査が(疾病は言わないでおいても)8,000人の死亡者を出したと結論した事態を招いたウラル核惨事は、タンク1基の内部で起こった爆発によるものだった。ハンフォードでは現在、177基のそのようなタンクが存在し、そのひとつひとつが同じように破滅的な事態を招く可能性を抱えており、しかも互いに近接して並んでいる。

汚染と危険

環境保護庁は、毒性または放射性の化学物質が投棄されたハンフォードの地点1,200ないし1,500か所を特定した(ニューヨーク・タイムズ紙記事)。このような数値の曖昧さが、こうした問題に対処するのに必要な記録保持と役立つデータの不備を雄弁に語っている。ハンフォード施設にあるタンク群の廃棄物の問題を改善する計画が狙いどおりに実行されるとしても、敷地の地下の土壌と地下水が大規模に汚染されている問題は残り、汚染物質がコロンビア川と周辺の農耕地帯に浸出する。これは、ものごとがうまくいく場合の話である。もっと悪い事態になる場合もある。ウラル核惨事は、ハンフォード施設の177基のタンクで保管されているもののような廃棄物を保管しているタンク1基が爆発した場合の危険性を示した。複数のタンクが厄介な事態に陥るような事故が勃発した場合、その破局的惨事は想像を絶するだろう。さらにまた、現在の脅威に面と向かうために、タンク群を封じ込めたり、安全を図ったりする有効な方法はない。世界の国ぐには核発電所の上空に飛んでくる飛行機やドローン、あるいはそのような施設の電源に対するサイバー攻撃を心配しているが、そういう施設が抱えている有毒物質には、少なくとも一定の効果がある封じ込め措置が施されている。タンク群は野外で吹きさらしになっており、遮蔽されていない。そのタンク群に収納されている死の放射性物質の量は、いかなる米国内の核施設で保管されているものより遥かに膨大である。

ハンフォードはこちら側、フクシマはあちら側

福島第一核発電所の三重メルトダウンは、大量の放射能を環境中に放出した恐ろしい災害だった。溶融核燃料(コリウム[または東電のいうデブリ])がくすぶっている施設の地下を大量の水が流れており、今後数十年間にわたり、放射能を海に放出しつづけるだろう。この惨事による健康被害、とりわけ日本北部の子どもたちがこうむる健康被害は、ゾッとするほどである。すでに地域の若年者の甲状腺癌発症率は、予測値よりずっと高くなっている。これは最初の癌発症例であり、地域住民の健康に対する打撃の氷山の一角にすぎない。放射性粒子は生命圏を循環するので、セシウム137、ウラニウムなど、半減期の長い放射性核種が生態系に放出されると、世界中の人間に危険がおよぶ。だが、フクシマによる最大で最も悲劇的な影響の火の粉は、日本の人びとに振りかかるであろう。20113月に相次いだ爆発のプルームは、施設の数百キロ圏内に大量の放射性降下物を堆積させた。恒常的な汚染水の海洋放出、そしてコリウムに接して流れる地下水のため、放射性粒子が太平洋に絶えまなく運ばれ、1940年代と1950年代の大気中核実験で堆積した放射性降下物と同じように、食物連鎖を頂点に向かって移動する。その放射能の一部は米国西岸に到達しており、災害の現場が海に汚染水を垂れ流すかぎり、この事態は継続するだろうし、今後数十年間は収まらないように思われる。この災害を軽視するべきではない。だが同時に、核惨事の影響の最悪部分に直面しているのは、日本の人びと、とりわけプルームの放射性降下物が堆積した地域で暮らす日本の子どもたちであることも忘れてはならない。

いまフクシマからの放射能が西海岸に到達したことが大いに意識されている。太平洋産の魚は食べないとか、日本産の食品は食べないという人は多い。同時に、コロンビア川で獲れたサーモンを食したり、コロンビア渓谷で醸造されたワインを嗜んだり、ハンフォード周辺の風下地域のいたるところにある果樹園で育った果物を食べたりすることについては、議論されていない。ハンフォード地域の放射能の量を考えると、米国の西海岸に到達する放射能の量が唖然とするほどに小さく見える。フクシマから届く放射能は、反応炉3基の炉心メルトダウンの産物であり、海を渡っている。ハンフォードで保管され、コロンビアに浸出しているものは、米国内総量の23にも達する高レベル放射性廃棄物であり、フクシマが建造されるよりも数十年前に始められた工業生産の産物なのだ。これは、今日届いたとか、今年届いたというような汚染物質ではなく、70年あまりにわたり北西部の地下水と生態系に滲みだしてきた汚染物質なのだ。

さらに言えば、ハンフォードの影響は浮上するかもしれないだけでなく、すでに浮上している。ハンフォードの風下住民(Hanforddownwinders)は、ワシントン州東部だけに限定されない広大な地域一帯で、世代を超えて、癌、その他の疾患で苦しんできた。ハンフォード風下住民の幾世代かに受け継がれている死と病気の遺産が存在し、疾患の病原物質はコロンビア川沿いに配置されたタンク群と廃棄物保管場から滲みだして、周辺の生態系に奥深く拡散している。フクシマの放射能は徐々に広大な太平洋を渡って浸透するかもしれないが、わが国はハンフォードで、フクシマから放出され、日本に蓄積したものよりも大量の放射能が、いついかなる時でも放出され、西海岸と西部山地の一帯に拡散しうる、放射性物質の爆発やテロ行為のリスクを抱えている。

われわれは、フクシマの最も哀切な犠牲者が現場の近くで暮らす子どもたちであることを銘記しながらも、もちろんのこと、注意怠りなく、米国西岸に到達するフクシマ放射能のレベルを監視すべきである。だが、われわれの注意と懸念を、毎日のように放射能をアメリカとカナダの西部の生態系に滲みだしており、フクシマが日本国内そのものにもたらした最悪の影響すら小さく見えるような放射能災害で、その生態系を脅かしている放射能の傷に振り向けるべきである。ハンフォードの内部告発者たち(Hanford whistleblowers)のために決起しようではないか。ハンフォードの廃棄物管理業務や計画の透明性を要求しようではないか。職場で危険な蒸気にさらされているハンフォードの労働者たちのために起ち上がろうではないか。そして、米国一の放射能まみれの施設のために、健康と福利を損なわれた風下の家族と労働者たちに対する支援と倍賞を要求しようではないか。


Robert Jacobs 
ロバート・ジェイコブズは、広島市立大学・ヒロシマ平和研究所で核関連技術史と放射能関連技術政策を研究する歴史学者。ツイッターID@bojacobs

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【クレジット】

CounterPunch.org, “Hanford, Not Fukushima, is the Big Radiological Threat to the West Coast,” by Robert Jacobs, posted on APRIL 29, 2016 at;

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