――ついに正義は成就するのか?
クリス・バズビー Chris Busby
2016年5月6日
英国の核実験参加退役軍人たちは放射線による深刻な遺伝子損傷に苦しんできたが、高等法院で本日、彼らの賠償請求訴訟が審理されると、クリス・バズビーは書く。訴訟の鍵となる証拠が、チェルノブイリ核惨事による放射能で被曝した胎児が負わされた同様な被害であり、放射能が健康におよぼす恐ろしい影響が将来の世代に受け継がれてゆく様相である。
『旧ソ連邦とヨーロッパの隅ずみであまねく、さらにはもっと遠く離れていても、疫学者や小児科医が調べた場所で、出生児や堕胎児の先天性疾患が統計的に有意な大幅に増えた』
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チェルノブイリの核惨事が地球の生命におよぼす影響を世界が評価するのに、これまで30年の時間があった。これは、筆者がこの惑星上の放射性汚染物質の作用を研究してきた期間とほぼ同じである。
奇妙な『不思議の国のアリス』物語めいた科学のこの分野に筆者を誘ったものは、1986年当時、筆者が住んでいた北ウェールズの山々に降った放射能を帯びた雨であり、そこでは大人や子どもたちが死んでいるというのに、物理学者らに入れ知恵された世界の権威あるお歴々が、学校生徒たちにとって明白なはずの事実を否定している。
チェルノブイリは、ヨハネの黙示録に記された天から地上に落ちた星であると言われた。みなさんは笑うかもしれないし、偶然の一致かもしれないが、この事件の衝撃は聖書の世界のエピソードに比べても確かにおかしくない。
放射能は生命の遺伝子基盤を破壊するので、これは、唯一のものではなくても、最も重大な不正行為、人間に関する真実を数学で組み立てた還元主義者版科学によるペテンの物語である。これは、ウソ、秘密、権力、暗殺、お金――真実がカムアウトすれば、雲散霧消してしまう巨万の富――の物語である。
ドイツ緑の党の指導者であり反核活動家、ペトラ・ケリーは1992年に殺害されたが、その直後に故・アーネスト・スターングラス教授(放射線科学者・活動家の先駆者)は筆者に話したことだが、ケリーはドイツのテレビ局を相手に、放射線の即時作用の本当の恐ろしさを実証するシリーズ番組を制作する契約を結んだばかりだったそうだ。
地球規模のおぞましい隠蔽工作が始動
スターングラス教授はこういった――真実が露呈していれば、ウラニウムおよびウラニウム関連株の数十億ドル規模の富が砂上の楼閣のように崩れていただろう。だから、隠蔽のようなものが必要であり、1950年代と1960年代の核兵器実験にともなって始まった騙しの手練手管と情報操作を受け継いで、隠蔽工作が始動したのだった。
大気圏内核実験が遺伝子におよぼす作用が明らかになった1959年のこと、放射線と健康に関して判断する権限が世界保健機関(WHO)から剥奪され、国際原子力機関(IAEA)に移管された。
それ以来、WHOは放射線による健康作用に関する調査をまったく実施しておらず、そのため、ジュネーブの本部ビルは「インディペンデントWHO」グループによる連日のヴィジル(沈黙の見張り番)抗議行動に見舞われる事態になっている。
チェルノブイリが健康におよぼす影響についての論議は、たいがい癌を中心におこなわれている。本稿では、癌については多く語らない。放射線と癌の研究には、癌の診断と発癌原因になった当の放射線被曝のあいだに時間差が20年ということもありうるので、その間に多くの事態が起こって、因果関係を否定する側に攻撃材料(と機会)を与え、データがしばしば疑われるなど、複雑な事情がどっさり生じる。
チェルノブイリ汚染による癌死亡例の世界総数の予測は、100万人(ヨーロッパ放射線リスク委員会[ECRR]、ロザリー・バーテル、ジョン・ゴフマン、そして筆者)、60万人(アレクセイ・ヤブロコフ)、数千人未満(放射能放出に対するヨーロッパの現行法規制の根拠になっているリスク・モデルの提唱団体、国際放射線防護委員会[ICRP])など、さまざまにばらついている。
癌――放射線による遺伝子損傷の発現の単なる一例
癌は遺伝子損傷によって発症するが、しばらく時間がかかる。もっと容易に研究できるものが、先天性疾患、出生異常、異常胎児の出生率として実証される即時的で直接的な遺伝子損傷であり、特定するのがもっと簡単なデータが得られる。突発的な放射能汚染レベルの上昇の効果は、これらの指標の急激な増大によって、もっとたやすく見て取れる。
20年間も待つ必要はない。9か月で生まれるし、あるいは流産した胎児の場合、心臓と中枢神経系の異常、手足の欠損、巨大な脳水腫、裏返しになった組織、口蓋裂、単眼症、その他、ありとあらゆる恐ろしい、また致命的であるのが普通の疾患として現れる。これは議論もされておらず、この問題は、物理学者ではなく、医師たちの手に握られている。ICRPの物理学者たちは、ネズミを使った実験を遺伝的影響リスクの根拠にしている。
筆者は、2000年にキエフで開催されたチェルノブイリに関するWHO会議の場にいた。壇上で茶番劇を演じていたのは、IAEA幹部のアベル・ゴンザレス、それに原子放射線の影響に関する国連科学委員会の座長、カナダ人のノーマン・ジェントナーだった。「影響は認められません」とアベル・ゴンザレス。「内部放射線は外部放射線と同じです」とノーマン・ジェントナー。幸いなことに、スイスの撮影チームがこの喜劇を録画してくれたので、読者諸氏にご覧になっていただきたい(次の埋め込みビデオ)。
そこで――今すぐにでも、現行のICRP放射線リスク・モデルの体系に鉄槌をお見舞いしてみよう。インゲ・シュミッツ・フュアーヘイク教授、セバスチャン・フルバイル博士、そして筆者は2016年1月、放射線による遺伝的影響に関する重要な総説論文“Genetic Radiation Risks-A Neglected Topic in the LowDose Dabate”[遺伝的放射線リスク――低線量論争の無視された論点]を韓国の一流の査読論文誌“Journal of Environmental Health and Toxicology”[環境衛生・毒物学誌]で公表した。
調査の結果、判明したのは、旧ソ連邦とヨーロッパの隅ずみであまねく、さらにはもっと遠く離れていても、疫学者や小児科医が調べた場所で、出生児や堕胎児の先天性疾患が統計的に有意なほど大幅に増えたことだった。
幾世代にわたり受け継がれてゆく遺伝的リスク
上記の新論文では、ドイツ、トルコ、ギリシャ、クロアチア、エジプト、ベラルーシ、ウクライナ、ロシア、ハンガリー、イタリア、イングランド、スコットランド、ウェールズと、だれかが調べた国の実にすべてからの報告にもとづいて、放射線による遺伝的リスクを再検討している。
チェルノブイリの汚染が到達すると、速やかに出生異常の突発的で線量に応じた急増が認められた。だが、それも、被曝線量レベルがあまりにも高かった場合、胎児が子宮内で死亡したり、流産したりしたので、そのための限界点までの上昇が認められただけだった。それ故、被曝線量レベルと影響度の関連は、被曝線量に応じて出生異常症例数が増大するといった単純なものではなかった。被曝線量の臨界レベルを超えると、上昇率が横ばいになり、あるいは下向く場合さえあった。
それにまた、30年ばかりたった今もまだ汚染が残留しているので、女性たちが遺伝子に損傷を受けた子どもを出産している。このように多くの医師、疫学者、研究者らがさまざまな論文誌で発表した結果は、ICRPによって発案された放射線被曝量のあの尺度、「線量」で言えば、自然バックグラウンド線量よりも低い場合も頻繁にある非常に低い汚染レベルで影響が現れていることを示している。
状況はさらに悪い。核実験の現場に居合わせた退役軍人の孫たちを対象にした調査(それにまた前述の研究論文における再検証)によって、こうした影響が未来の世代まで継承されつづけ、それが解消されるのは、子孫が係累を残さずに死に絶え、人類のゲノム系統から離脱する場合のみであることが明らかにされている。そして、多くの子どもたちが死に絶えるだろうし、あるいはすでに死に絶えた。新生児の遺伝的先天性異常を引き起こすものは、高線量の場合、胎児期の死亡と不妊の原因になるからである。
これらの事実が英国の核実験参加退役軍人たちの訴訟の根拠を形成しており、筆者は本日、その訴訟の代理人として高等法院で証言する。英国政府は彼らに対し無謀にも、核爆弾の突発的なガンマ線照射による強烈な放射線の二重炸裂やその後のフォールアウトで被曝させたのであり、それ以来、汚れた手を洗って、問題の痕跡を水に流してしまったのだ。
退役軍人たちの要求は、彼らと家族がこうむった犠牲が認定され、公正な賠償金の支払いを受けることである。国防省は正当な手段と禁じ手を織り交ぜて、彼らの主張に抵抗したが、最終的に証拠が整理されて、彼らの訴訟は受理されることになった。本日の審理はおおむね手続きに関するものであり、実質的な審理は6月に2週間ほどかけて行われる予定になっている。
科学的な欺瞞が審理の俎上に
1950年代に地球規模の放射能汚染がはじまって以来、人間の不妊症例の増加が認められていることに気づきそこねる人はありえない。米国原子力委員会の元科学研究員、ジョン・ゴフマンが1081年に書いているが、「核産業は人類に対する戦争を遂行している」。
そこで、法体系がそれに正しく対応していないなんてことが、どうしてありえたのだろうか? その答えもまた、われわれの論文に書かれている。「線量」という概念は計算が簡単なので、物理学者には都合がよいだろうが、線量をともなう物質は体内に存在しているのであり、これらあらゆる遺伝的影響の標的として認められているDNAと化学的に結合していることが多い。
人間のゲノムは(そして、もちろん、あらゆる生物のゲノムは)、ストロンチウム90、プルトニウム239、ウラニウム、そしてとりわけこれら第4反応炉が吹き飛んだときに生成された放射性元素を含有するナノ粒子による、そのような内部被曝がもたらす放射線損傷に繊細にも冒されやすい。
われわれの論文は、ヒロシマ原爆の被爆者を対象にした研究が、それを根拠として現行の危険な放射線法制の施行の根拠になっており、真の対照区集団、すなわち原爆投下時に広島市にいなかった人びとが本物の影響があると見受けられはじめたときに切り捨てられたのであり、欠陥がある。これは笑止千万だったのか? これはトリックだったのか? だれか監獄送りになったのか?
アレクセイ・ヤブロコフ教授、アレックス・ローゼン博士、そして筆者はランセット誌の編集者宛てに、世界の注目を真実に集めて、物理学者たちが創作した虚偽と危険な構造を引っくり返すために、その影響力のある論文誌に紙幅を用意していただけるように要請する書簡を認め、その手紙はジュネーブのインディペンデントWHOによって配達記録郵便物として投函された。
惨事から最終的に善意が生まれるように――チェルノブイリの真の遺産が健康に対する放射能汚染の真の危険性を理解することになるように――わたしたち全員が希望しようではないか。
そして、あの英国の核兵器実験にさらされた退役軍人とその家族が、彼らに存分に値する司法判断で最終的に報われるように願おうではないか。
Chris Busby
クリス・バズビーは電離放射線が健康にもたらす影響の専門家。ロンドン大学とケント大学で化学物理学の学位を取得し、ウェルカム財団で生体細胞の分子物理化学の研究に従事。バズビー教授は、ブリュッセルに本拠を置くヨーロッパ放射線リスク委員会の科学書記を務めており、1998年の創設以来、その出版物の多くを編集している。ウルスター大学保健学部の客員教授など、いくつかの大学で名誉職に就いてきた。バズビーは現在、ラトヴィア共和国のリガに在住。
Study: 'GeneticRadiation Risks - A Neglected Topic in the Low Dose Dabate' by Busby C,
Schmitz-Feuerhake I, Pflugbeil S is published in Environmental Health
and Toxicology.
Latest book: Christopher Busby (2015) 'What is
Life? On the origin and mechanism of living systems'. QTP Publications.
Illustrated by Saoirse Morgan. ISBN 978-0-9565132-1-2, 130pp. Order from Amazon UK (£10.00)
or QTP publications 10 Bratwell Rd, Coleraine, BT51 4LB.
注記: ECRRは、放射線によるリスクを確定するための主要なデータ情報源として、チェルノブイリに焦点を絞ってきた。同委員会は、現行のICRPモデルが間違っており、本当はリスクが300倍も高くなり、あるタイプの内部被曝の場合、1000倍も高くなると結論づけた。これは、放射能汚染の全期を通じて、放射能放出の結果、6000万人以上の人びとが癌で死亡したことを意味している。このリスク・モデルは、ウェブサイト“euradcom.eu”で入手できる。
【クリス・バズビー記事】
2016年3月22日火曜日
2016年3月16日水曜日
【WHO/IAEA関連記事】
2012年12月27日木曜日
2012年11月21日水曜日
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