2018年9月14日金曜日

バレンツ・オブザーヴァー【バレンツ海☢浄化】ノルウェイ=ロシア二国間協力の不透明な動向

バレンツ・オブザーヴァー The Barents Observer


アンドリーヴァ湾。Photo: gov-murman.ru

ロシア最大の使用済み核燃料廃棄処分場の現状はどうなっているのか

アンドリーヴァ湾の浄化に関する協力について、近隣のノルウェイで募る懸念

アットレ・ストールスン Atle Staalesen
201896

今週の核の安全性に関するロシア=ノルウェイ合同委員会の席で、原子力発電会社、ロスアトムの代表団が、船舶3隻分の積載量の使用済み核燃料が年内に施設から送り出され、浄化作業の全体が2024年に完了すると発言した。

アンドリーヴァ湾の浄化は目下、ノルウェイとロシアが継続中の最大規模の二国間協力事業のひとつであり、その数十億クローネ*に達する事業経費は長年にわたりノルウェイの納税者が負担している。
*[訳注]98日現在の為替レート:1クローネ=13.14

核廃棄物保管施設は、その境界がノルウェイからほんの55キロの場所に位置しており、22,000本の使用済み核燃料集合体を抱えていて、かねてより環境時限爆弾と考えられてきた。

マヤークへの搬送

2017年6月末のこと、使用済み核燃料集合体470束がアンドリーヴァ湾から搬出されて、現地協力は最初の一歩を踏み出した。当時のノルウェイ外相、バルゲ・ブランデをはじめ、多士済々の要人が見送った。命取りの物資をマヤーク再処理工場に届けるために、特別列車に積み替えられるムルマンスクに針路を向ける特殊用途船舶『ロシタ』に全員が手を振っていた。

ブランデは、「本日は、ロシア=ノルウェイ二国間協力にとって、フィンマルク県[ノルウェイ北部]とコラ半島の住民にとって、バレンツ海に関心を寄せる人びとにとって、記念すべき日です」と出港式後の記者会見でバレンツ・オブザーヴァーに語った。

ロスアトムのアレクセイ・リチャハフ最高経営責任者、ムルマンスク州のマリナ・コフタン知事、ノルウェイのバルゲ・ブランデ前外相が、使用済み核燃料の最初の積荷を積載してアンドリーヴァ湾から出航する『ロシタ』号に別れの手を振る。Photo: Gov-murman.ru

しかしながら、込み入っており、機密性の高い核廃棄物にまつわる協力は、何もかも円滑で容易な状態から程遠い。独立した立場の権限者の現場立ち入りは厳しく制限され、情報もわずかである。公式訪問団の一員として招待されたノルウェイ人ジャーナリストはカメラの持ち込みを許されなかった。

募る懸念

原子力の保安を担当するノルウェイの幹部職員2名がロシア国境で入国を拒まれた今週になって、状況は今までになくこじれてしまった可能性がある。

2名のうちのひとりは、フィンマルク県知事執務室の長年にわたる特別顧問、ペーライナー・フィスケビッチであり、20年間、アンドリーヴァ湾事業に身を入れて携わってきた。

ノルウェイ外務省は、この事案を《深刻》と表現し、状況に関する懸念を確認した。

外務省のコメントに、「かようなことがなければ、核の保安に関する協力は、北方におけるノルウェイ=ロシア両国間関係の成功例として推移してきたであろうが、これがさらなる前進を阻害するようであるなら気がかりなことである」と記されている。

鍵を握る交渉当事者

フィスケビッチがロシア再入国を許されるかどうか、不透明なままである。彼はムルマンスクにおける今週の環境委員会の会合に出席しなかった。それに彼は、つづいてアンドリーヴァ湾訪問を果たすことになるノルウェイ代表団にも加わっていなかった。

ノルウェイ放射線規制局のパー・ストランド局長は、ムルマンスク会合にフィンマルク県知事室の代表は出席していなかったとバレンツ・オブザーヴァーに認めた

ストランドはご本人が会合に出席しており、フィスケビッチはアンドリーヴァ湾におけるノルウェイの関与のまさしく中心人物であってきたと強調するとともに、ノルウェイ側とロシア側を高く評価した。

ストランドはまた、フィンマルク県知事室は地方行政府であっても、ノルウェイの今後数年間にわたる継続的な事業関与において重要な役割を担いつづけるだろうと言明した。

バレンツ・オブザーヴァーはペーライナー・フィスケビッチ本人に取材を試みたものの、状況に関してコメントをまだ得られていない。

フリチョフ・ナンセン研究財団の主任研究フェロー、ラーズ・ロウは、核問題に関するロシア=ノルウェイ二国間協力でフィスケビッチが担ってきた役割を詳しく知っている。

ロウは、「彼は、核安全性協力における最大級に実践的な部門を代表し、彼の働きは長期間にわたり、非常に具体的で粘り強いものでした」といい、こう続ける――

「彼がもはやロシアに赴くことがかなわなければ、この協力は肝要な推進力の担い手を失うことになります」

サイダ湾を訪問中のペーライナー・フィスケビッチ。背後の海上に、解体された原子力潜水艦から取り出され、核反応炉が浮体容器に格納されて浮かんでいる。Photo: Thomas Nilsen

情報がもっと必要

ロスアトムによれば、今年になって2回の使用済み核燃料船積みがすでに実現し、秋には3度目が実施される。アトムフロート代表、ニコライ・マントラは、20176月に船積みが始まって以来、特殊用途船舶『ロシタ』が合計55基の使用済み核燃料容器をムルマンスクに搬送したと報道発表で述べる。

今年10月に実施されるロシア=ノルウェイ合同準備演習では、現地の治安情勢が主要課題になる。

ノルウェイ国務長官、オルムン・ハルヴォルセンは、「定期的な緊急事態準備演習は、アンドリーヴァ湾からの継続的な核燃料搬出に関連して特に重要である」とコメントした。

ハルヴォルセンは、マヤーク再処理工場における危険物質の扱いについて、懸念を表明する。

その工場ではこれまでに数件の事故があり、地域の活動家は海上搬送に資金を供与する「ノルウェイ無責任です」とバレンツ・オブザーヴァーに語った。

ハルヴォルセン国務長官は、「ノルウェイ当局は以前、工場の環境状況についてロシア当局と大いに協力していました」といい、対話の再開を願うと付言する――

「施設に向けて使用済み核燃料の海上搬送が増えている今、われわれが工場の状態をもっと知ることができるように、ロシアとの対話を再開することが重要になっています」

アンドリーヴァ湾訪問。Photo: Gov-murman.ru

ムルマンスク核領域

ノルウェイは他の数か国とともに1990年台の初頭以来、コラ半島の放射能除染に資金供与の貢献をしてきた。その後20年以上たった今、ロシアはこの地域にふたたび軍・民核生産能力を構築している。

ノルウェイ代表団がムルマンスクを訪問した今週、世界初の浮体式原子力発電施設『アカデミック・ロモノソフ』がほんの数キロ先のアトムフロート基地でドック入りし、核燃料を装填されていた。

ロスアトムによれば、この浮体式施設は20199月に北極圏東部の町、ペヴェクに係留され、その後20199月に定常的な電力生産を開始することになる。

ロスアトム代表、ヴィタリー・トルトネフは先週の会合で、われわれは今年末にも物性検査と試験運転を始める計画であると発言した。

他にも地域内の数件の船舶と施設が目下、当該の原子力発電会社の重要案件になっている。アトムフロート基地の最高責任者、ムスタファ・カシュカによれば、核駆動砕氷船『シビーリ』の廃船作業が首尾よく進められている。彼はまた、核駆動航海船『ヴォロダルスキー 』の処置が完了し、『レプス』の核廃棄物の初搬出が今年12月に始まると明言した。

カシュカはまた核駆動航海船『ロッタ』についても、使用済み核燃料の搬出が完了したあと、供用寿命が延長されるだろうと会合の場で述べた。

Sections Ecology

【クレジット】

The Barents Observer, “What is the situation at Russia’s biggest dump site for spent nuclear fuel?” by Atle Staalesen, posted on September 6, 2018 at https://thebarentsobserver.com/en/ecology/2018/09/what-situation-russias-biggest-dump-site-spent-nuclear-fuel.






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