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世界で最も放射能汚染がひどいのは…
双葉町? スコットランドのアバディーン? カスピ海沿岸のイランの街、ラームサル? ニューメキシコ州トゥラローサ? ウィットウォーターズランド盆地? スラヴィティチ? 富岡町?
— inoue toshio 子どもを守れ! (@yuima21c) 2015, 5月 19
Winner of
the Pulitzer prize 2014
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極限の町――
われわれにとって電離放射線はありきたりの事実であっても、一部の市町村の住民にとっては、日ごろの心配の種であることを思い出させる――そして、それはチェルノブイリの近くの町だけではない
ジェサ・ギャンブル Jessa Gamble
2015年5月15日金曜日
今年2月、双葉町は厄介な決断を迫られた。2011年の(そして、太平洋に毒性廃液を漏らしつづけている)フクシマ核放射能漏れのあとに設定された立ち入り禁止区域に位置する、この無人の町は、何年も地域周辺の田畑に居座っている放射性表土とガレキ類の袋のための放射性物質貯蔵所を受け入れるように求められた。町外に逃れている町役場は――いつの日か放射性物質が一掃され、ふたたび住めるようになるとして、町の命運を封印して――同意した。
[訳注]地図の埋め込みはすべて訳者による。
放射性物質は30年以内に持ち去られると約束されてはいるが、「暫定」が「恒久」に溶けこむのが世の習いである。その一方、120,000人の福島県民が避難したままであり――われわれにとって電離放射線はありきたりの事実であっても、一部の市町村の住民にとっては、日ごろの心配の種であることを思い出させる。
しかし、自分の市町村の放射能がどれほどのものか――あるいは、少なくともどれほど危険になっているのか――知るのは常に容易であるわけではない。環境に存在する放射性物質の量だけが唯一の要素ではないのだ。生物活性的な作用の多くは放射線から直接的に派生するのではなく、呼吸する空気、あるいは食べる植物に潜んだ放射性物質を摂取することから生じるのである。
損壊した福島第一原子力発電所の周囲20キロ圏・立入禁止区域内の双葉町。Photograph:
Issei Kato/Reuters/Corbis
ラドンガスは肺癌の第2の誘因であり、その効果は最大原因である喫煙によって強化される。カスピ海沿岸のイランの街、ラームサルは自然バックグラウンド放射線レベルがとても高く、科学者たちが住民32,000人の移住を勧告したほどである。その近郊の町、タルシュ・マハレは、自然放射線レベルが居住地としては世界最高であり、長期間にわたる研究の対象になっている。
ラームサルの住宅にも問題がある。ウラニウムに富む火成岩が地下水に溶けこみ、それが9か所の温泉になって地表に出てくる(そして、入浴に使われる)。そこで、ラジウムが石灰岩に入りこみ、地元の家屋はたいがいそれを建材にしている。それはまた飲用水に紛れこみ、農作物に蓄積する。
それで、危険なのだろうか? 人口規模が小さいので、統計学的に有意であるかどうかは保証の限りではないが、ラームサルの肺癌発症率が平均より高いというわけではない。わたしたちの生涯癌発症率が40%であることを考えれば、小さな町の「癌集団」の病原を地域要因に名指すのは、悪運というのにも増して無理がある。
統計的な曖昧さは、ネヴァダ*のトリニティ核兵器実験場から56キロ、ニューメキシコ州トゥラローサにも付きまとっている。米国軍が1945年7月16日――ヒロシマ原爆投下のほんの数週間前――に核爆発の予行演習を実施し、トゥラローサの家いえの裏庭を灰で覆ったのは、この実験場だった。住民たちはフォールアウトの悪影響を証明しようと苦闘し、その後、何年にもわたり法廷闘争を貫徹した。米国議会はついに1990年、トゥラローサ被災者の立証責任を免除し、明白な癌を患った風下住民全員に50,000ドルの賠償金を提供した。
*[訳注]原文のNevadaは、Alamogordo(アラモゴード)の取り違えと思われる。
農場から逃げだし、フクシマ周辺の立入禁止区域に取り残された車のそばを闊歩するダチョウ。Photograph:
Issei Kato/Reuters
電離放射線の厄介な点のひとつが、その深刻度を測る方法が1ダースもあることだ。国際単位が2つあり、グレイ(Gy)はじっさいに受ける線量、シーベルト(Sv)は線量当量、キログラムあたりのエネルギー量のジュールを表す。たとえば、タルシュ・マハレの住民は平均して年間10
mGy――国際放射線防護委員会が勧告する人工線源放射線の限度の10倍――を受けている。1軒の家は年間131
mSvを記録しており、これは世界平均の80倍以上に相当する。理論上、1シーベルトは癌になる可能性を5.5%高める。影響は、胎児と子どもたちに対して深刻度が高く、年配者に低い――もっとも、1シーベルトが非常に短い時間内に照射される場合、だれであっても、放射線の毒作用が数日間以内の死を招く。
失われた要因が、人間活動である。たとえば、南アフリカのウィットウォーターズランド盆地の金鉱――ヨハネスブルグ経済の基盤――は、鉱山120か所に相当する黄鉄鉱の選鉱くずを残し、それに450,000トンのウラニウムが含まれている。おそらく気候変動のためだろうが、激しい降雨が選鉱くずの溜池と地下保管場を冠水させ、放射性核種を地下水系に押し流した。ヨハネスブルグの住民が地元の水を飲んでいたなら、これは明らかに問題になっていただろう――が市当局は水道供給水をランド・ウォーター社から購入しており、同社は80キロ彼方のヴァール川から取水している。
空気、水、食物に含まれている放射性物質から数多くの生物活性作用が生じる。Photograph:
Majid/Getty
放射線関連の疾患と甲状腺異常はスラヴィティチでありふれている(もっとも、危険を相対的に見ることは重要であり、スラヴィティチの若者たちの自殺リスクは甲状腺癌に比べて20倍高い)。人が被曝する放射線量は、地場産食品を食べる程度によって決まる。チェルノブイリ地域では、地表レベルの放射能被曝は時の経過とともに深刻度が低くなってきたものの、放射性セシウムが土壌に深く浸透している。特にキノコ類は組織内で重金属を濃縮するので、ひどく汚染されている。それでも、否認がはびこり、(多くの人が、ウォッカが体内の放射能を洗い流すと信じるなど)ガセ情報がのさばり、住民の多くが軽はずみな自信をもって、地場産品を食している。
町を見て、ほんの4年前には、どこでも人が住んでいたとは思えない。野生イノシシが家畜のブタと異種交配し、人間に対する遭遇体験――あるいは、恐れ――もなく、町を荒らしまわってきた。建物は崩れ、ネズミがはびこっている。心配な同位体を挙げれば、甲状腺に蓄積し、被曝後に数週間もその臓器に放射線を浴びせつづけていた(しかし、いまは富岡町では減衰している)ものとして、ヨウ素131があり、富岡の表土層に5センチ以上も深く浸透したセシウム137がある。だから、双葉町で保管するために――特に校庭の――表層土を袋詰めする作業がおこなわれている。
富岡町の放射能は、どれほどのものだろうか? いつものことながら、確実なことを言うのはむつかしい。ここで、2013年に富岡を訪れた作家、ウィリアム・T・ヴォールマンのことばを引用してみよう――「パチンコ店のすぐそばで、シンチレーション検出器の表示が1時間あたり4.2マイクロシーベルト――久之浜の中程度に危険な雨樋のレベルの約10倍――を示した。危険を知らせる黄色テープを張り巡らせた近くの家では、雨樋受けで1時間あたり22.1マイクロシーベルトを記録した。1日あたり線量は530.4マイクロシーベルト、年間線量は193.6ミリシーベルトになる。少しばかりヤバイと言わねばならない。草地は1時間あたり軽く7.5マイクロシーベルト――年間65.7ミリシーベルト――であり、除染トラックがホコリを舞い上げつづけている幹線道路は1時間あたりほんの3.72マイクロシーベルトだったが、それでも勧告されている年間線量の32倍になる」。
驚くこともないが、町の近くの農民たちは事故初年の農産物を廃棄し、2年目は価格を下げた。漁業は壊滅である。地上の放射線レベルが安定しても、セシウムが地下水まで達する緩慢な旅路の途上で地中深く浸透し、富岡町と福島県全土が相続した遺産は末永いお荷物になるだろう。人の住む町としては怪しげな栄誉ではあるが、富岡は世界で最も放射能で汚染された町である。
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