世界核産業動向年報2013年版
The World Nuclear Industry Status Report 2013
The World Nuclear Industry Status Report 2013
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凡例:(原注)〔訳注〕
2011年3月11日にフクシマ核惨事が進展しはじめてから2年経過して、その世界全体の核産業にもたらす衝撃がますます明らかになった。原子力発電所による世界発電量は、2011年の記録的な4パーセントの下落に加えて、2012年には、7パーセントの下落をこうむった。『世界核産業動向年報2013年版(WNISR)』は、原子力プログラムの歴史、現況、傾向について、世界的な見通しを提示する。
当報告は、稼働中および建設中の原子炉を通覧する。付録1は、各国ごとの詳細情報を40頁にわたって示す。潜在的な新規参入諸国の状況に対する評定に、特に1章を設ける。これで2度目になるが、当報告は、主要な核企業および電力会社のいくつかについて、信用格付け実績を通覧する。再生可能エネルギーと原子力とを対比した開発パターンについて、これまでより詳細に記した章も設けている。付録6は、世界核産業の国別重要データの一覧表を示す。
『世界核産業動向年報』2013年版はまた、核経済動向の最新情報のほかに、フクシマ核惨事が引き起こした諸課題について、災害現場の内外にまたがる動向をも概観する。しかしながら、当報告が最近のフクシマ核惨事後の動向を強調するとしても、重要な事実が見過ごしになるべきではない――過去の年報(see www.WorldNuclearReport.org)に詳述されているとおり、アメリカの核産業が1979年スリーマイル・アイランド核事故の以前から大幅に衰退していたのとまさしく同じように、世界の核産業はフクシマのずっと以前から圧倒的に困難な課題に直面していたのである。3/11まで世界の核ルネッサンスは花盛りだったという核推進論者たちの創作もやはりウソである――フクシマはすでに深刻だった問題をさらに深刻にしたにすぎず、発端は弱体化した経済だったのである。
核産業の2012年7月から2013年まで1年間の実績を次のように総括することができる――
稼働・建設データ(2013年7月1日現在)
稼働: 世界で原子力発電所を稼働している国は31か国ある。計427基の原子炉の合算発電容量は、364 GWe〔ギガ(10の9乗、10億)We=発電出力。Wt=熱出力と区別する〕である。これらの数値は、福島第1原発および第2の原子炉10基の最終閉鎖を前提としている。特筆すべきことに、2013年7月1日現在、日本の残存原子炉44基のうち、稼働しているのは2基(大飯2号炉および3号炉)のみであり、原発の将来はきわめて不確かになっている。じっさい、電力4社が再稼働要請を申告すると2013年7月時点で予想されているが、おおかたの観測筋は、日本で停止中の原発の大部分はおそらく再稼働しそうにないと信じている。
核産業は衰退傾向: 発電容量合計が2010年の375 Gweでピークに達し、その後、現在のレベルまで落ち込んでいる一方で、稼働中の原子炉427基は、10年も前、2002年のピーク時より17基減少している。年間原子力発電量は、2006年に2,660 TWh〔テラ(10の12乗、1兆)Wh=ワット時〕で最大値に達し、2012年には2,346 TWhまで下落した(2011年に比べて7パーセント減、2006年からは12パーセント減)。この下落分の約4分の3は日本の状況に起因するが、上位5原発事業体を含め、ほかの16か国でもやはり原子力発電量が減少している。
世界の発電量に占める原発のシェアは、歴史的な1993年ピーク時の17パーセントから2012年の約10パーセントまで着実に落ち込んでいる。世界の商用一次エネルギー生産量に占める原子力のシェアは、1984年レベルの4.5パーセントに初めて並ぶまで急落した。ただ1国、チェコ共和国だけが2012年の発電ミックスにおける歴史的な原子力の寄与分を達成した。
図1 世界の原子力発電
出所 : IAEA-PRIS, BP, MSC, 2013 |
経年化: 目立った新設計画が見当たらないので、世界の原子炉群に炉ごとの負荷となる経年数の平均値が上昇しつづけており、2013年半ば時点で28年になっている。190基を超える原子炉(総数の45パーセント)が30年も稼働しており、そのうち44基は40年またはそれ以上である。
建設: 現在、14か国が原子力発電所を建設中であり、そのうち1基は、アラブ首長国連邦(UAE)がバラカで1年以上前に着工したものである。UAEは、商用原子力発電所の建設をはじめる過去27年間で最初の新規参入国である。
2013年7月時点で、原子炉66基が建設中(2012年7月時点より7基増加)であり、その発電容量合計は63 GWになる。建造中の原子炉の平均建設期間は、2012年末時点で8年である。しかしながら…
原子炉9基が20年以上も「建設中」欄にリストアップされており、さらにもう4基が10年またはそれ以上もそのように記載されてきた。
55件のプロジェクトは、国際原子力機関(IAEA)データベースに公式計画着工日データが記載されていない。
少なくとも23基は建設遅延に見舞われており、その大多数は複数年におよんでいる。残りの原子炉43基については、過去5年以内に着工したか、計画着工日にたどり着いていないかのどちらかであり、スケジュールに乗るか否かを見極めるのが困難または不可能になっている。
建設中の原子炉の3分の2(44基)は、中国、インド、ロシアの3か国に位置している。
世界で2003年から2013年7月までに着工した34基の平均建設期間は9.4年だった。
原子炉動向と核計画
稼働開始および閉鎖 2012年に原子炉3基のみが稼働を開始した一方、6基が閉鎖され、7月1日までの2013年には、ただ1基だけが稼働を始めた一方、2013年上半期に4基――すべてアメリカの原子炉――の閉鎖が決定された。これら4基のうち3基は、高額資金のかかる補修を要していたが、ウイスコンシン州キウォーニーの1基は操業成績が良好で、ほんの2年前に合計期間60年まで操業する免許更新を授与されたばかりだった。とても不経済な操業に終わった。2013年7月時点で、日本で原子炉2基のみが稼働している、ほかにどれほど多くの原子炉が再稼働認可をえられるのか、またどれほどの稼働期間が認められるのか、きわめて不確実である。
新規参入国の計画遅延 バングラデシュ、ベラルーシ、ヨルダン、リトアニア、ポーランド、サウジアラビア、ヴェトナムなど、潜在的な新規参入諸国の大多数において、新規核計画の遂行が遅れている。
建設および新設問題
建設中止 ロシアで2012年に着工した原子炉1基(バルチック1号炉)が2013年5月に放棄された。
新規着工 2012年に6基、そして2013年の現時点までに3基の原子炉の建設がはじまり、そのうち2基はアメリカ国内のものであり、これは35年間で初めてのことである。これら2基の建設には、80億ドルを超える連邦政府融資保証とその他の助成金が供され、その合計額は建設費に匹敵し、しかも特例法によって、財務リスクは納税者と消費者に転嫁された。
認可遅滞 新規原子炉設計の認可の遅れがつづいており、アメリカでは仏独共同設計の欧州加圧水型軽水炉(EPR)の認可が再度、この度は2015年まで先送りされた。アメリカでは、ウェスチングハウスのAP1000型のみが完全に包括的な設計認可を受けている。
着工の遅延 いくつかの国で堅実に計画された建設の着工が遅れており、なかでも最も顕著なのが中国であり、2010年10月から2012年11月までほぼ2年間、原子炉建屋サイトがどれひとつとして開設されていない。さらに2013年上半期、着工にいたった建設現場はひとつもない。
経済と財務
資本コストの上昇 建設費は、最終原子力発電コストを左右する根幹的な決定要因であり、多くのプロジェクトが著しく予算超過になっている。コスト見積りは、過去10年間で発電容量kWあたり1,000ドルから7,000ドルに上昇した。アメリカのヴォーグル原発プロジェクトは、目下、正式に建設中であり、同じサイトで同じ企業によって先に建設された2基の原子炉の予算がもともと6億6000万ドルだったのが、後には9億ドルかかると見積もられた。
国家支援 英国モデルの差金決済取引(CFD)とは、原発新設計画に対する助成の仕組みの提供をねらった一種の固定価格買い取り制度であり、おおかたの観測筋の見方では、現行のEU競争ルールに違反する。
運転コストの上昇 いくつかの国では、とりわけケワニー原発の事例で浮き彫りになっているアメリカでは、歴史的にインフレ調整されて――特に大規模な補修の場合――低く抑えられている運転コストであるが、あまりに急速に上昇し、平均的な原子炉の運転コストが電力卸売価格の通常の変動幅以内にようやく収まっているありさまである。
フクシマ核惨事後のコスト フクシマ核危機の教訓を踏まえた改善・更新対策によって発生する追加的なコストは表面化しはじめたばかりである。こうした措置は、運転コストだけでなく、投資にも相当な影響を与えそうである。
収益および負債 14大電気事業体を評定して、そのうち9事業体は収益減少の憂き目にあい、一方、13事業体の負債は負債レベルが恒常的に上昇している。
信用格付け 過去5年間に15原発事業体が、信用格付け企業、スタンダード&プアーズの評定を受け、そのうち10事業体が格下げになり、4社は格が動かず、その一方、同じ期間に1社だけが格上げされた。格付け会社は、原発投資をリスク要因と見ており、原発計画の放棄を明白な「信用にプラス」と考えている。
株価 世界最大の原発運営企業、フランス国営電気事業体EDF〔フランス電力公社〕の株価は、過去5年間で85パーセント下落し、その一方、世界最大の核施設建設業者、フランス国営アレヴァ社の株価の下落幅は88パーセントに達した。
フクシマ現況報告
この評価では、3/11核惨事によって生起したサイト内およびサイト外の課題の分析をおこなう。核惨事がどの程度まで地震に、あるいは津波に起因するか、または両者が合わさって起因しているのか、まだ結論にいたるまでは解明されていない。
画像1 自民党、「原発ゼロ」にNo!という唯一の政党
出所: 英字紙Asahi Shimbun, 2013年6月30日号 |
サイト内の課題 1号炉~3号炉の原子炉建屋内の放射線計測値は、5 mSv/hから73 mSv/hの範囲内でばらつき、そのために人間の介入はほとんど不可能になっている。1日あたり約360トンという大量の水が、頻繁に漏れる間に合わせのビニール・チューブ経由で、破壊された原子炉に注入されている。この水は、同程度量の余分な地下水といっしょに原子炉建屋の地下に浸入し、その一部はある程度まで浄化されて、再注入に回される。再利用できない水の量は恒常的に増えて、不安定な状態で貯蔵されているものが38万トンに達し、そのうち9万トンが地下にある。最初の3週間で空中の放出された量の27倍におよぶ、あるいはチェルノブイリ事故で放出された総量の2.5倍以上の量のセシウム137がこの水に含まれていると見積もられている
サイト外の課題 15万人以上の人びとが、避難を強制されたままである。13万件の賠償請求が申し立てられている。8県にまたがる合計101の市町村が「計画的汚染調査区域」に指定され、そこでは年間線量が1ないし20 mSvになると予測され、地方自治体が除染作業の責任を担っている。それに加えて、福島県内の総面積235 km2におよぶ11市町村で年間線量が20 mSvを上回り、そこでは政府が除染作業を担当する。なんらかの除染作業が実施された地表は、総面積の5パーセントに満たない。
日本の原子力委員会の委員長が2011年3月の危機のさなか、4号炉の使用済燃料プールが崩壊し、その結果、核燃料火災にいたるとする最悪事態のシナリオを描いたが、これは解消されておらず、これが現実になれば、フクシマから半径250 kmの圏内に居住する1,000万人に達する人びとが避難を要することになる可能性があり、これには東京の相当部分も含まれる。
核エネルギーvs.再生可能エネルギー
再生可能エネルギーの開発は、2012年の世界投資額こそ、わずかに下落したものの、設備価格の急落も一因となって、設備容量と発電量の両面で急速に拡大をつづけている。世界の4経済大国のうち、中国、ドイツ、日本の3か国、それに加えてインドでは、いまでは再生可能エネルギーによる発電量が核エネルギーによるものより大きくなっている。
投資 再生可能エネルギーの世界投資は2012年に総額2,680億ドルとなり、前年の3,000億ドルから下落しているものの、それでも2004年総額の5倍になっている。中国では、支出額が20パーセント拡大して650億ドルとなり、同国は抜群の最大投資国であった。投資大国の一部(アメリカ、ドイツ、イタリア)で支出額がかなり減少した一方で、小粒な参入国が何か国か、投資を拡大して、トップ10入りを果たし、そのうち南アフリカでは、支出が200パーセントも急拡大し、55億ドルに達し、また日本では、75パーセント追加して、160億ドルになった。
設備容量 2000年以降、陸上風力発電の年間成長率の平均値は27パーセントであり、太陽光発電のそれは42パーセントである。その結果、2012年の風力の設備容量は45 GW、太陽光のそれは32 GWになり、それに比べて、原子力の純増設備容量は1.2 GWである。中国では、稼働中の風力発電の容量が総計75 GWとなっており、過去5年間、年々ほぼ倍増している。
発電量 2000年に比べて、2012年に風力発電量は500 TWh近く、太陽光発電量は約100 TWh増えており、その一方、原子力発電量は100 TWh減っている。中国とインドでは2012年に初めて、風力発電量が原発のそれよりも大きくなり、同年に中国で太陽光発電が1年間で400パーセント成長した。
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書評から…
「この年報は20年にわたり進化し、最も信頼性があり、独創性が顕著で包括的、透徹した世界核産業評定になっている」
インド、デリー『フィナンシャル・クロニクル』 プラフル・ビドワイ
“This annual publication has over 20 years evolved into the most
reliable, strikingly original, comprehensive and penetrating assessment of the
global nuclear industry.”
Praful Bidwai
Financial Chronicle
Delhi, India
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Project-Syndicate
(Czech Republic/US): Nuclear Power’s Renaissance in Reverse12
September 2013, by Antony Froggatt, Mycle Schneider
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