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フクシマについて、知っておくべきこと
2013年11月15日
2012年12月29日、損壊したフクシマ原発の施設を訪問した 安倍晋三首相(AP Photo/Itsuo Inouye) |
福島第1原子力発電所で重要な浄化作業が今月中にはじまることになり、史上最大の核惨事のひとつがもたらす脅威に対処する事業者の能力が試される最大級に重大な機会になることから世界の目が注がれている。これまでの2年間、壊滅した原発で進行中の一連の危機を封じこめるために、原発事業者と日本政府は苦闘してきた。知っておかねばならないことを、ここにまとめる。
課題
フクシマ原発の事業会社は、津波のあとに損壊し、機能を失った原発の浄化作業について、核エネルギー専門家たちの厳しい批判の的になってきた。
原発を運営する東京電力株式会社は、はなはだしく無能、欺瞞体質であり、メルトダウンによる健康への影響により有罪であるというものは多い。
東京電力の広瀬直己社長は、原発の炉心を冷却に用いられた放射能汚染水が海に漏出していることを最初は否定しながら、後に認めたことから、同社の危機処理能力に対する信頼の回復に失敗した。東京電力は、汚染水が漏れているかもしれないと2013年6月中旬には推測していたが、この問題を7月22日まで公表せずに伏せていた。夏の間ずっと漏出が相次ぎ、ある時など、タンクから300トンの汚染水が漏れた。8月19日に漏出が判明するまで、1か月近くも漏れ続けていたのである。
「われわれの見てきたところでは、なんらかの隠蔽というより、わたしであれば無能のせいであるといいたい」と、米国原子力規制委員会の元委員長であり、東電が顧問に迎えたデイル・クラインはいう。今週、AP通信とジャパン・ツディは、汚染水を貯蔵しているタンクが漏れたり不合格になったりするのは、それらが――自分の仕事の質に懸念を示す自動車整備工など――経験のない作業員らによって大急ぎで組み立てられたからであると報じた。
研究者たちは、海洋生物とそれを食べる人たちに対する放射能汚染水の効果を心配している。科学者らは昨年、日本沿岸海域からカリフォルニア南部沖に回遊してきたホンマグロからフクシマ原発由来の放射性セシウム同位元素が検出されたと報告した。
さらにまた、フクシマ原発の立地点の近くには14本の活断層線が走っているので、この原発が2度目の地震に対して弱いのではという恐れがある。カナダの環境論者、デイヴィッド・スズキは先月、フクシマ原発のさらなる被災が破局的惨事を招きかねないと懸念を表明した。「4基のうち3基は、地震と津波で破壊されました。4基目は、マグニチュード7か、それ以上の地震が新たに発生すれば、建屋が崩壊する恐れがあり、そうなれば地獄の蓋が開いてしまいます」
東京大学の地震研究所は今年はじめ、フクシマに近い東京で2016年までにマグニチュード7.0またはそれ以上の地震が発生する確率が70パーセントであると発表した。スズキは、4号炉建屋が崩壊すれば、「バイバイ、日本」になるといい、「北アメリカ西岸の全員が避難ということになります。これが恐ろしくないとすれば、なにが恐ろしいのでしょうか」と付け加える。
浄化
東京電力は今月後半に、2011年3月の爆発でひどく損壊した建屋に貯蔵されている1500体以上の使用済み核燃料集合体を取り除くという細心の慎重さが求められる作業を開始するとされている。この使用済み燃料には、アメリカが広島に投下した原爆より1万4000倍も多いレベルの放射能を発生させる可能性がある。これは、これまでにこれほどの規模で試みられたことのない非常に危険な作業であり、しかも、5兆円の経費と40年の歳月を要しかねない原発解体の重要な工程である。
核燃料棒の除去作業の完了までに13か月かかると予測されているが、放射性の燃料棒を安全な貯蔵所に移すのは容易な仕事にならないだろうと専門家たちは警告する。長さ4.5メートル、重さ300kgの核燃料集合体のひとつでも壊れたり空気にさらされたりすれば、膨大な量の放射性気体が放出されかねない。スズキが警告するような地震などの新たな自然災害が発生すれば、これら燃料棒は発局的な連鎖反応を起こし、そうなれば、原発がすでに起こしたメルトダウンよりもさらに危険な事態となるだろう。
東京電力は作業が支障なく進むだろうと確信しているといったが、それでも、同社が放射能汚染水の封じ込めに四苦八苦し、施設内でネズミが電源ケーブルをかじって電源喪失を起こし、電源ケーブルのネズミ害防止作業にあたった作業員の失策によって、2度目の電源喪失にいたるなどにより、同社が職務に不適格でないのかと心配する専門家らがいる。
元核エンジニア、マイケル・フリードランダーは、東電が作業の危険性を見くびっているのではという。アメリカの原子力発電所の操作に13年間従事したフリードランダーは、「東電が4号炉の核燃料を搬出する準備を終えたと考えると、夜もおちおち寝ていられません」という。「うまくいかなければ、非常に、非常に深刻な事故になる可能性があります」と、彼はブルームバーグ通信に語った。
政治
東京電力と日本政府の両者とも、惨事対応をめぐって、批判にさらされてきた。「政府は東京電力と全面的に癒着しています。どちらも、舌先三寸の嘘をいっています」とスズキはいった。
スズキは、汚染水漏出を封じこめる企てについて、「彼らには、なにをすべきかがわかっていません。いま必要なのは、みずからの提案を実施する完全な自由を保証された国際的な専門家グループに介入させることです。だが、日本政府が現時点でそれを認めるには、プライドが高すぎます」という。
デイヴィッド・P・ボールはVice(ヴァイス=悪徳)サイトで語ったスズキの真贋を確かめるために、ブリティッシュ・コロンビア大学の物理学者、マルチェロ・パヴァーヌに連絡をとった。パヴァーヌは、東電はほんとうに「舌先三寸の嘘をいっているのか?」と質問されて、こういった――「わたしの見るかぎり、それは断然ほんとうです。東京電力は進行中の事態の影響を最小限に見くびってきました。しかし、この場合でも、事故における日本政府の役割についても、わたしたちは業界専門家としての懸念を大いに抱いています。これでニュースになりますか?」と語った。
日本政府は今年夏の汚染水漏れを受けて、政府として浄化作業に直接的な役割をこれまで以上に担っていくと表明した。惨事からこのかた、日本の原発50基のすべてが検査のために停止している。元自由民主党総裁、小泉純一郎は今週はじめ、安全と宣言される原発を再稼働する計画に反対であると発言した。「いま原発をゼロにすべきだとわたしは思う」と小泉はいった。「原子炉を再稼働すれば、核廃棄物が増える結果になるだけだ」
人びと
フクシマの破局的惨事は――最初は天災が招いたものだが、その後、人災により悪化したのであり――幾十万の日本人に熾烈な影響をおよぼしたし、北アメリカ住民にも悪影響を与えるかもしれない。
英紙ガーディアンは先日、フクシマ周辺地域に居住していた16万人の避難民が決して帰還できないだろうと報じた。また、原発からの放射能汚染水の漏出のため、フクシマ一帯の地場漁業は壊滅に追い込まれた。
オーストラリアのニュー・サウスウェールズ大学が実施した研究によれば、2014年はじめのある時点に、放射能汚染水がアメリカに到達するという。また、カナダ放送協会は今月はじめ、すでにフクシマ由来の放射能汚染水がアラスカに到達していると報道した。
その一方、浄化作業のために下請け企業に雇われた5万人の作業員の多くは、低賃金とピンはねに向かい合いながら、危険なレベルの放射線に被曝しているとロイター通信は伝える。声をあげる一部の作業員にとって、その代償は解雇である。
ジョン・ライト(John Light)は、ブログ記事を執筆し、モイヤーズ&カンパニーのマルチメディア事業に従事している。モイヤーズに参画する前は、公共放送ラジオのプロデューサーを務めていた。ニュージャージー州の出身であり、オバーリン・カレッジで歴史と映画を学び、コロンビア大学のジャーナリズム修士号を保持する。
カリン・カンプ(Karin Kamp)は、マルチメディア・ジャーナリスト兼プロデューサーである。billmoyers.comに参画する前に、女性の起業を応援するサイト、ストーリー・エクスチェンジの発足に協力していた。彼女は以前、PBS(全米公共放送網)およびWNYC(ニューヨーク公共ラジオ)の番組“NOW”をプロデュースし、スイス・ラジオ・インターナショナルの記者を務めていた。
モイヤーズ&カンパニーは、ビル・モイヤーズ(Bill Moyers)が主宰し、米国公共TV放送網を通して配信される論評・インタビュー番組である。毎週の番組は、今日のアメリカ国民に影響を与える最近の問題を取り上げ、ゲストと時事問題を掘り下げる対話を売り物とする。この番組は、2012年1月の週末13日~15日に発足した。
【原文】 記事中のリンク先を参照する便のために、エンベッドしておきます――
What You Need to Know About Fukushima (via Moyers & Company)
All eyes are on the Fukushima Daiichi nuclear power plant as major cleanup efforts are set to begin later this month, in the most significant test of the operator’s ability to manage the threats resulting from one of the biggest nuclear disasters…
【付録:番組サンプル】
ビル・モイヤーズは、ジル・スタイン、マーガレット・フラワーズ両博士と対談し、彼女らの歩いてきた道程、わが国の政治体制について学んだこと、そして善戦をつづけている方法と理由を語っていただきます。ビルはまたこの番組で、無人航空機攻撃と政府による監視に関する当番組のニュースに対する視聴者の反応をお伝えし、新しい映画“Following the Ninth”を試写します。
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