アジア太平洋ジャーナル:ジャパン・フォーカス
アジア太平洋…そして世界を形成する諸勢力の批判的深層分析
2013年9月30日The Asia-Pacific Journal, Vol. 11, Issue 39, No. 1.
ミッション・インポシブル 福島に未来はあるか?
人は、日本政府が福島県を除染すると二枚舌を使い、鳴り物入りで無益なキャンペーンを繰り出していると批判する。
【福島発】
デイヴィッド・マックニール David McNeill
ミゲル・クンタナ Miguel Quintana
デイヴィッド・マックニール David McNeill
ミゲル・クンタナ Miguel Quintana
福島の緑豊かに起伏する田園地帯のあちこち多くの場所で、ウイルスにまつわりつく抗体のように宅地に取り付いた男たちは、ローテク器具を振りかざし、優れて現代的な敵、放射能に立ち向かっている。31か月近く前、空から降り注いだ毒性物質をこそぎ落とすのに、高圧洗浄機、スコップ、パワーシャベルが用いられる。仕事は疲れるし、金もかかるし、おまけに無駄に終わるという人たちもいる。
手術用マスクとオーバーオールを着用して、汗ばんだ男たち4人組が、サイトウ・ヒロシさん(71)、テルエさん(68)夫妻の居宅の浄化作業をしている。目標はこの家屋の平均放射線量を1時間あたり1.5マイクロシーベルトまで引き下げることであり、それでも事故前の状態の数倍になるが、サイトウ家の孫たちが訪ねてきても、たぶん、じゅうぶん安全だろう。「末の孫はここに来たことがないのです」とサイトウはいう。2011年以来、家族は20キロほど離れた相馬で会っている。
2011年3月の数日間、およそ25キロ南の第1原発で爆発が相次いだあと、この地域一帯に放射能混じりの雨や雪が降り注ぎ、数千エーカーの肥沃な農地や森林を汚染した。原発の近くに住む16万を超える人たちが避難を命じられた。サイトウ家は20キロ圏内の強制避難区域から何マイルか外れていたけれど、他の数千の人たちと同じく、自主的に逃れた。2週間後、戻ってみると、趣のある二階建ての田舎家は傷んでいないように見えたが、目に見えず、ピーピー鳴るガイガーカウンタで検知できるだけである毒物に覆われていたのである。
放射能がどれほど危険なものか、確かなことはだれにもわからない。2011年12月、日本政府は政策を練り上げ、避難区域を「積算線量レベルが年間20ミリシーベルに達しうる地域」と定義したが、これは原発エンジニアの世界的に典型的な年間被曝限度レベルである。最悪の放射能は20キロ圏内非居住区域に限られているとされているが、不均等に散らばっているのだ。第1原発の北5キロ以内で、わたしたちのガイガーカウンタは年間5ミリシーベルト未満を示す。北西に40キロ、飯舘村のあちこちでは、120ミリシーベルを優に超える。
彼ら16万の人びとは、その凍えるように冷える2011年3月の夜に大多数が身ひとつで離れ、戻るあてもなく日本中に散らばり、ヨーロッパや北アメリカに行った人たちもいる。核の離散民は、数千の自主避難民を加えて増える。県や市町村は彼らに帰還を促すために巨額の金を使って、最大に毒された地域を担当する政府と除染を分担している。
ロードアイランド(米北東部の州、2000平方キロメートル)のおよそ半分の広さがあり、山や森が極めて多い地域の除染に付いた値札が、政府の目を回らせる。この8月、産業技術総合研究所の専門家らは除染費用を5兆円と算出した。有識者の多くは、この数値は低すぎると信じている。浄化の業務は皮肉なことに、第1原発の建設をその設計ミスもひっくるめて担当した核産業・建設業大手、東芝と日立、大成と鹿島に渡った。
サイトウさんの家は、惨事からまったく立ち直っていない街、南相馬の市域内に収まっている。人口7万1000人のほとんどは20キロ南で起こった第1原発事故のさいに自主的に逃げた。その3分の1が、いつまでも消えない放射能に脅え、いまだ安定しない原発の新たな災害をおそれて、まだ戻っていない。「わたしたちはわが街をふたたび住めるようにするために一所懸命がんばりました」と、桜井勝延市長はいう。「しかし、原発の問題が片付かなければ、なにをやっても、なんにもなりません」
放射能との戦いは、南相馬の数少ない成長産業のひとつである。市は除染の調整を担当する常設の部局を開設し、今年度だけで230億円の予算を付けた。昨年9月以来、男たち650名の一隊が、市道や田園地帯で作業して回り、学校、住宅、農地を浄化してきた。2013年末までに、この事業は1000人近く――街に残った壮健労働人口のかなり大きな部分――の雇用をまかなうことになる。
政府の見積もりによれば、放射線レベルが福島のほとんどの地域で、惨事がはじまってから40パーセント内外は落ちているが、この数値は広範な人たちに信用されていない。当局のモニタリング・ポストは、ほとんど例外なしに、手持ちのガイガーカウンタより低い検出値を示しており、これは意図的な偽情報戦略の結果である、と批判者らはいう。
「連中はポスト下の地べたを剥ぎ取り、きれいな砂をいくらか入れ、コンクリートを打ち、おまけに金属板を敷いて、その上にモニタリング・ポストを設置しています」と、ひどく汚染された飯舘村にあえて踏みとどまり、作物、動物の生態――そして、自分自身――に対する放射線の影響を記録している農民、伊藤延由さん(@nobuitou8869)はいう。「結局、装置は地面から1.5メートルの高さになります」
伊藤さんはモニターをモニターし、観察結果をオンライン記録することによって、広く知られるようになった。彼は、地方自治体が政府のモニタリング・ポストとは別に約40か所で放射線量を調べていて、平均20パーセント高い数値を得ているという。検査値は全国紙に掲載されている。「これはもちろん、データ、放射線量計算、その他に大きく影響します」と彼はいう。「わたしは、どうして政府に抗議しないのか?と村長にいうのですが、村はこの状況を是正するようなことをなにもしていません」
わたしたちの限られた調査が伊藤さんの観察を支持している。わたしたちが訪問した2013年8月29日、飯舘村役場の外のモニタリング・ポストは、0.47マイクロシーベルト/時を表示していた。わたしたちの機器は、ポストの位置で1.07の放射線値を得たので、これはほぼ倍だった。数メートル離れると、また倍になった。
ほんとうの放射線レベルと一致しないようでは、学術からほど遠い。市町村は避難民の帰還を切望しており、放射線被曝の観点から、避難命令が解除されるのを根拠として決めなければならない。市町村がその地域が安全になったと最終的に宣言すれば、避難民は、帰宅するか、廃墟になった第1複合施設の事業会社、東京電力株式会社から支給される、不可欠な月払い賠償金を打ち切られるか、どちらかを選択することを強制されることもありうる。
避難民にとって心配な先例が、最も汚染された地域の外側に位置する伊達市であった。2012年12月、市当局が、129世帯にホットスポットの存在を理由に課していた「特別避難」命令を、放射線量が20ミリシーベルト/年未満に低下したと主張して、解除した。3か月後、住民たちは東電が月10万円を支払っていた「精神的ストレス」賠償金を受け取れなくなった。
それでも、地域の指導者たちは除染に効果があると信じているという。「実地試験が、年あたり20ミリシーベルまでレベルを下げられることを実証しており、これがわたしたちの目標であります」と菅野典雄・飯舘村長は言い張る。村長は、「一部」の住民がさらに被曝量が下がるまで帰還を拒否するであろうことは認めている――国際放射線防護委員会が勧告する限度は1ミリシーベルト/年である。だが、再定住プランがどうなろうと、だれにも例外を認めないと村長は断言する。「われわれの優先順位をどうするか、すべてバランスの問題なのです。最終的に、村としてのコンセンサスに達する必要があります」
なにをもって「許容」放射線量とするか、この違いは否応なく避難民帰還をめぐる方針をややこしくする。菅野氏や桜井氏のような地域指導者たちは、政府の要請よりも低い限度を設定する。「政府は、放射線量を年1ミリシーベルトまで下げる必要がないといいますが、わたしたちの見方は違います」と桜井氏はいう。しかし、政府は独自の限度基準に固執してやまない。
「基本的、20ミリシーベルトの閾値は有効なままです」と、内閣府・原子力被災者生活支援チームのマツモト・シンタロウ氏はいう。「しかし、避難命令の解除は、放射線量だけにもとづいて、決定されるわけではありません。市町村ごとの生活基盤の状態、地域社会が機能しうるかどうか、そして住民の理解にもよります。政府は、2013年末までに具体的な施策を決定する計画でいます」
だが、福島の浄化は、たぶん克服不可能なもうひとつの課題、汚染された土、枝葉、汚泥を保管する用地の確保に直面している。土地所有者の多くは、政府が中間貯蔵施設を建造するまでの――原則として、3年間の――「仮」貯蔵施設の受け入れをためらっている。日本中の地方自治体が毒性廃棄物の受け入れを拒否したので、おそらく永久に福島に残されることになるだろう。県全域にわたり多くの場所で、廃棄物が青い防水シートで覆われて保管されており、時にはそれが学校や住宅のすぐ近くにある。
南相馬市の除染課を率いるマキタ・クニヒコ氏は、貯蔵が同課の直面する最大の難題であると認める。「わたしたちの見積もりによれば、19か所の用地が必要ですが、7か所しか確保できていません」。市と地主の契約は最短の3年期限で調印されるのが普通だが、伊藤は、その期限はまったく信用できたものでないという。「一時貯蔵が3年だけで済むとは、だれも信じていません」
浪江町で畜牛場を営む吉沢正巳さんは、除染作業に対する批判がさらに手厳しい。吉沢さんは、強制避難命令のあと、あえて踏みとどまり、その結果、彼の牛――そして、彼自身――をモルモットにすることになった。「だれかここに戻ってきて、この放射線レベルで住むと思いますか?」と彼はいう。「店も、学校も、生活基盤もないのに? ジョークですよ」
サイトウさん宅では、除染チームが、屋根の高圧ホース洗浄、排水溝掘り下げ、敷地表土の5センチ厚除去といった10日間の工程を完了していた。浄化によって、放射線量はほぼ半減したが、彼の家屋の背後にある林では、数値が2.1ミリシーベルトあった。「あの林をどうにかしなければ、あんたの仕事はすべて無駄だ」と、彼は市役所から来た役人に文句をいった。
これを縮図とすれば、重苦しく、森林に覆われた県土のいたるところに同じ問題がある。南相馬を取り巻きさらに西の福島市に伸びている丘陵地や山並みは、格別に汚染されている。これらの丘から放射能がふたたび流れ落ちて、毒抜きを済ませた土地にはいり、またすっかり汚染してしまう。唯一、明らかな解決策――森林伐採と焼却――は、生態学的な悪夢になるだろう。
おそらくいつか、除染チームはサイトウさん宅に戻ってこなければならなくなるだろうと、彼は推測する。「なにがあっても、以前のようにはならないでしょう。わたしの孫たちがここに来ることがないのは、明らかです」
【筆者】
デイヴィッド・マックニール(David
McNeill)は、インディペンデン(The Independent)、それにアイリッシュ・タイムズ(The Irish Times)、エコノミスト(The Economist)、高等教育クロニクル(The Chronicle of Higher Education)などのメディアに執筆。アジア太平洋ジャーナルの世話人。“Strong
in the Rain: Surviving Japan’s Tsunami, Earthquake and Fukushima Nuclear
Disaster”(Palgrave Macmillan, 2012)(『雨ニモ負ケズ――日本の津波、地震、フクシマ核惨事を生き抜く』)共著者。
ミゲル・クンタナ(Miguel
Quintana)は、東京在住のフリーランス・ジャーナリスト、翻訳家。ワシントンDCの週刊核情報(Nuclear Intelligence
Weekly)とベルギーのフランス語紙ル・ソワール(Le Soir)に定期投稿。アジア太平洋ジャーナルの協賛人。
【推奨クレジット】
#原子力発電_原爆の子「ミッション・インポシブル フクシマの未来は?」via @yuima21c
David McNeill and Miguel Quintana,"Mission Impossible. What FutureFukushima?," The Asia-Pacific Journal, Vol. 11, Issue 39, No. 1. September 30, 2013.
David McNeill and Miguel Quintana,"Mission Impossible. What FutureFukushima?," The Asia-Pacific Journal, Vol. 11, Issue 39, No. 1. September 30, 2013.
【D・マックニール過去記事】
See our complete coverage of the Fukushima disaster and its
aftermath;
http://japanfocus.org/Japans-3.11-Earthquake-Tsunami-Atomic-Meltdown
http://japanfocus.org/Japans-3.11-Earthquake-Tsunami-Atomic-Meltdown
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【コメント】
スーザン・ストピット Susan
Stopit
☢ いま日本は世界規模の支援が必要!☢ ☢ フクシマ請願の署名とシェアを! ☢ http://tinyurl.com/FixFuku フェアウィンズのアーニー・ガンダーセンはじめ、世界の科学者たちと有識者たち17人が潘基文国連事務総長に国際行動を要請する「フクシマ危機」に関する書簡(an open letter to UN Secretary General Ban Ki-Moon urging international action on the Fukushima Daiichi crisis)を公開 ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢ ☢
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