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フクシマ放射性降下物が原因で
カリフォルニアの乳幼児に甲状腺障害
カリフォルニアの乳幼児に甲状腺障害
クリス・バズビー Chris Busby
2013年11月19日
新たな研究によって、フクシマ由来の放射性ヨウ素が、太平洋を8000キロ離れたカリフォルニアで、幼児の甲状腺機能障害に有意の増加をもたらしていることが判明した。
フクシマ核惨事は、はるか遠くのカリフォルニアはいうまでもなく、日本でさえ、健康に影響をおよぼす潜在的原因としては軽視されている。
カリフォルニア生まれの乳幼児の健康に対するフクシマから飛来した微量の放射性降下物の作用に関する新たな研究は、太平洋を8000キロメートル移動した放射能汚染が甲状腺機能障害の有意な過剰発症の原因であることを明らかにしている。論文は来週、相互査読誌“Open Journal of Pediatrics”(『小児科公開ジャーナル』)に掲載される。
先天性の甲状腺機能障害は稀だが深刻な健康状態であり、通常、2000人の子どもに1人の割合で発症し、臨床的介入が必要である。発症した子どもが医療を受けない場合、成長に影響を受ける。甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血中濃度が高レベルであれば、甲状腺機能障害の徴候になるので、カリフォルニアの新生児はすべて出生時にその検査を受けている。
ニューヨーク、放射線・公衆衛生プロジェクトのジョー・マンガノ、ジャネット・シャーマン、そしてヤコブス大学ブレーメンのゲスト研究員、クリストファー・バズビーは、カリフォルニア州から得られたフクシマ連続爆発期間中のデータを用いて新生児の先天性甲状腺機能障害(CH)の発現率を調査した。
彼らの調査結果は論文「フクシマ原発炉心メルトダウン由来の環境降下物の作用によるカリフォルニアにおける先天性甲状腺機能障害の確定例および境界例の変化」(Changes in confirmed plus borderline cases of
congenital hypothyroidism in California as a function of environmental fallout
from the Fukushima nuclear meltdown)として公表された。研究者らは、放射性ヨウ素131に被曝し、2011年3月17日から12月31日までに生まれた新生児のデータを、2011年の被曝時期以前に生まれた新生児および2012年生まれの新生児のデータと比較した。
TSHレベルが29単位を超えるものと定義される甲状腺機能障害の確定例は、子宮内で過剰な放射性ヨウ素に被曝した新生児集団で21%増加した*。同一集団の子どもたちの「境界例」では27%の増加だった**。
多くの報告に反して、フクシマの原子炉と使用済み核燃料プールにおける爆発によって、チェルノブイリにおける1986年の放出量に匹敵するレベルの放射能汚染が引き起こされた。ノルウエー大気圏研究所による推計を用いると、250PBq(250×1015Bq)を超えるヨウ素131がフクシマで放出されたと推定できる。
このことはまた、セシウム137の放出推計量を、チェルノブイリで放出され、ベラルーシとウクライナ、それにロシアの一部で甲状腺癌の異常発症の原因になったヨウ素131の量を比較することによっても予測できる。
詳細は今後に述べる。フクシマでは概して、放射性ヨウ素および他の揮発性の放射性核種が風によって、海側、つまり太平洋方向に吹き流されることが多い。アメリカの西海岸に達するまでの移動に要する時間が長いので、拡散・希釈されることになる。それにもかかわらず、牛乳に少量のヨウ素131が検出され、懸念が広がった。
当局は、「線量」が非常に低い、自然背景放射線よりはるかに低いことを根拠にして、いかなるリスクも軽視した。カリフォルニア大学バークレー校は、2011年3月18日から含有レベルが落ちる前の28日まで、降雨に含まれるヨウ素131量を測定した。この期間中、母親が1日あたり1リッターの雨水を飲んだと仮定すれば(もちろん飲まなかったが)、国際放射線防護委員会(ICRP)の現行・放射線リスク・モデルにもとづくと、成人の甲状腺の吸収線量は23マイクロシーベルトと計算され、これは年間背景「線量」の1/100より少ない。胎児の感受性は(ICRPによれば、換算係数10倍程度)高いが、それでも、おそらく1/100より少ない。
したがって、この知見は、すべての国の政府が採用している、現行の放射線リスク・モデルが、体内放射性核種による被曝を予測したり、明確な観察結果を説明したりするには、極めて不適格であるという事実を明らかにする、さらにもうひとつの例である。
フクシマ核惨事は、はるか遠くのカリフォルニアはいうまでもなく、日本でさえ、健康に影響をおよぼす潜在的原因としては軽視されている。では、その根拠はなんだろうか? 「線量」が低すぎるからである。
これは、国際原子力機関(IAEA)、世界保健機関(WHO、おおむねIAEAと同類)、原子力放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が唱和するマントラ(呪文)である。それに、フクシマに舞い降りて国際会議を開き、懐柔と鎮静効果をねらったプレゼンテーションを披露した核科学者たち全員を忘れてはならない。
この唱和を聞かされたのは、チェルノブイリのあと、原発周辺地域で小児白血病が多発したあと、大気圏内核実験を経験した兵士たちの症例において、また他にも、偏らない科学的討論の場が、とうの昔、低レベル内部被曝が安全であるという信念を吹き飛ばしたような明確な状況のすべてにおいてだった。
だが、このフリーサイズお仕着せ「線量」概念は、核産業が頼る泥船である。これは、核分裂爆弾であれ劣化ウラン軍需品であれ、ウラニウム兵器を使用するため、ヒンクリーポイント(英国)のような原子力発電所を開発するため、イングランド中部の地下処分場に放射性廃棄物を埋設するため、セラフィールドからアイリッシュ海にプルトニウムを放出するため(そこでは、プルトニウムが海岸に漂着し、ウェールズとアイルランドで発癌が増加する原因になっているが、それを打ち消すため)、さらに最近では、英国政府が核実験に参加した兵士たちの過剰発癌を否定するため、なくてはならない口実になってきた。
この新たな研究は、体内の核分裂生成物に対する胎児に感受性に注意を引きつける最初の例ではない。筆者は2009年、英国政府の「体内放射体による放射線リスクに関する調査委員会」(CERRIE)に参画していたとき、ヨーロッパの5か国、イングランドおよびウェールズ、ドイツ、ギリシャ、ベラルーシにおける幼児白血病の発症率に関するメタ解析を実施するために、供与されたデータを用いた。
チェルノブイリ由来のセシウム137のレベルが(ホールボディ・カウンタで計測して)上昇した時期に子宮内にいた子どもたちの幼児白血病(0~1歳)が、意外で統計学的に有意な増加を示していた。この研究の利点は(TSH研究と同じく)、セラフィールド小児白血病とは違って、これに替わる説明の余地がないことだった。
白血病の原因は、低「線量」セシウム137だったのである。また、線量反応傾向は、直線ではなかった。非常に低い「線量」の作用は、非常に高い「線量」の作用よりも大きかったのだ。おそらく、高線量の場合、胎児は子宮内で死滅し、したがって白血病にかかることすらできなかったからであろう。筆者は、この結果を2009年の『環境と公衆衛生・国際ジャーナル』(the International Journal of Environment and Public Health)誌上で公表し、ICRPモデルの破綻に注目を集めることになった。
筆者は、リスク・モデルの破綻を示す、この幼児白血病の証拠に関する論文を2000年の『エネルギーと環境』(Energy and
Environment)誌上で公表し、また同年のWHOキエフ会議でプレゼンテーションをおこなった。IAEAとUNSCEARのボスたちが繰り広げる科学の逆立ちに、筆者が初めて対決する立場になったのは、その時のことである。この会議はウラディミール・チェルトコフ監督によって録画され、この優れたドキュメンタリー作品はスイスTVで“Atomic Lies”(『原子力の嘘』)のタイトルで放映され、2004年に“Nuclear Controversies” (YouTube『真実はどこに?―WHOとIAEA 放射能汚染を巡って』51分)として再公開された。
この人たちによってなされたことは、癌、その他どのような病気であっても、発症率上昇を示すいかなる証拠に対しても、「線量が低すぎる」と一声叫ぶことによる却下だった。このようにして、真実は吹き飛ばされるのである。この数値「線量」とは、なんだろう? これは、放射線エネルギーの吸収量を表す単純な物理学的な数値である。ガンマ放射線1シーベルトは、生体組織1キログラムあたり1ジュールに相当する。
外部被曝の場合、これは有効かもしれない。しかし、放射性元素による内部被曝の場合、平均「線量」が低くても、細胞DNAに対して甚大な影響をおよぼすので、有効ではない。これは、火のそばで体を暖めるのと、熱く燃えた石炭を食べるのとを比べるようなものである。あるいは、打撲傷と刺し傷の比較のようなものだ。同じ線量で、同じエネルギー。影響はまったく違う。
このような「線量」ペテンが、核兵器の開発と実験による被曝に対応するために案出された1952年からこのかた、現実の作用を打ち消すために用いられてきた。科学を深く掘り下げたいと願う読者諸氏は、筆者が執筆した書物“New Research Directions in DNS
Repair”(「DNS修復に関する新研究方法論」)を参照のこと。
放射線に対する胎児の感受性を示す最も恐ろしい例は、ドイツの生物静力学者であり、放射線リスク欧州委員会(European Committee on Radiation
Risk:ECRR)メンバー、ハーゲン・シャーブによる性差比率研究である。彼は同僚のクリスティーナ・フォークトとの共著で、さまざまな放射線被曝事象のあとに生まれた新生児の性差比率の唐突な変化を示す一連の論文を公表した。
性差比率、すなわち女児1000人に対する男児の数は、遺伝子損傷に関して、広く受け入れられた指標であり、(女児1000人に対する男児)1050人である正常比率からの逸脱は、父親(精子)と母親(卵子)の被曝量の差により男児になるか、あるいは女児になるか、放射線の被害を受けた個体の出生前の死亡に起因している。
筆者らは、劣化ウラン兵器による被曝状況下にあったイラクのファルージャにおける研究で、そのような(女児が多い)影響に関する知見を得た。だが、シャーブとフォークトは、世界中の多くの国ぐにから集めたデータを用いて、重大な惨事、チェルノブイリ、核兵器実験フォールアウト、核施設周辺における被曝による影響に関する知見を得ている。膨大なデータ量である。
シャーブとフォークトは、数百万単位の幼児が、これら微妙な体内放射線被曝によって殺されてきたと推測している。核武装計画は途方もなく多くの死をもたらしてきたのである。やがて将来、このことは人類史上最大の公衆衛生スキャンダルになると筆者は信じている。
放射性ヨウ素による被曝にはもちろん、子どもの甲状腺癌が付きものである。チェルノブイリのあと、ベラルーシ、ウクライナ、ロシア共和国で、甲状腺癌が大きく増加した。フクシマの状況は、当局者らが影響はないだろうと安心させているにもかかわらず、これを繰り返す定めにあるようだ。
筆者らの論文が、過去6か月で福島県の0歳から18歳までの子どもたちの甲状腺癌の確定例が44人になっていると報告している(その後、53人に増加:Fukushima
Voice version 2e)。筆者らは甲状腺機能低下に関する論文で、この44例を人口と比較して論じ、フクシマがヨウ素を放出する前の全国データにもとづき、これは80倍の過剰発症になると計算した。
このことは、昨年、フクシマの事故の場合、「線量が低すぎる」ので、甲状腺癌という結果にはならないと述べた、国連およびWHOのウォルフガング·ワイス博士にとって厳しい難問になる。彼は、この本来なら稀な条件で、80倍の増加をどのように説明するのだろうか?
あるいはむしろ、いつ彼は、自分の見解を支えている科学モデルの全体がペテンであると認めるのだろうか? また、核の放射線は、自分のでまかせにいっていることよりも――ざっといって――1000倍は、人間の健康にとって危険であると、いつ認めるのだろうか?
【筆者】
クリス・バズビーは、放射線リスク欧州委員会(European Committee on Radiation Risk)の科学主事。詳細と最近の履歴は、www.chrisbusbyexposed.org.を参照のこと。業績アカウントは、www.greeenaudit.org、www.llrc.org、www.nuclearjustice.org。
【統計データ】
* RR 1.21, 95%
CI 1.04-1.42; p = .013
** RR 1.27, 95% CI 1.2-1.35; p = .00000001
** RR 1.27, 95% CI 1.2-1.35; p = .00000001
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