2014年5月30日金曜日

【論文】バンダジェフスキー「セシウムと心臓」第4章:放射性セシウムが心臓におよぼす作用の病態生理特性



◇◇◆目次◆◇◇
環境要因の結果としての心血管病理
放射能汚染地に生きる子どもたちの心血管系の病変
検死解剖に診るゴメリ州住民の心筋構造の病変
137Csに内部被曝した実験動物の体内の構造・代謝病変
4
放射性セシウムが心臓におよぼす作用の病態生理特性
結論・略語リスト・原書目次・参照文献

(訳注:米国在住の医師、平沼百合さん @YuriHiranuma による
4章および「結論日本語訳
pdf.

出処:International solidarity CHERNOBYL
原文:Radioactive Cesium and the Heart: Pathophysiological AspectsPDF

放射性セシウムと心臓:
病理生理学的側面
医学博士、ユーリ・I・バンダジェスキー教授
by Professor Yuri I. Bandazhevsky, M.D.
論文原本出版:ミンスク、2001
ロシア語⇒英語・新訳:2013
Bandazhevsky Y. Radioactive cesium and the Heart: Pathophysiological Aspects.
"The Belrad Institute" 2001. - 64 pp. ISBN 985-434-080-5

4
放射性セシウムが心臓におよぼす作用の病態生理特性
これまで、さまざまな年齢層、さまざまなホールボディ137Cs取り込みレベルの子どもたちに対するECG検査、チェルノブイリ災害の被災地に生きる人たちに対する顕微鏡検査、動物実験の結果を分析してきたが、その結果、セシウム137が心血管系に悪影響をおよぼすと結論することができるようになった。この作用は、一連のシステム、とりわけ神経系および内分泌系を介した間接的な影響と併せて、細胞構造に対する直接的な影響として発現した。
心臓に対するセシウム137の直接的な影響は、それが他の臓器や組織よりも、心筋細胞内に蓄積しやすい選択性に由来する(図910)。これはおそらく、ナトリウム=カリウム・ポンプ機能が調子よく働いているためだろう。セシウム137はカリウムと同じ原子グループに属し、たやすく心筋細胞に入り込めるからである。このプロセスには、細胞膜の構造が関与しており、この放射性核種と細胞膜構造の相互作用は活発である15。これに、細胞のエネルギー交換、すなわち高エネルギーのリン酸塩の蓄積、移動および利用に関わる重要な酵素、クレアチン・フォスフォキナーゼ(CPK)の働きの抑制が伴っている。CPKは可逆性のリン酸化反応に対して触媒作用をおよぼし、これには、ATP(アデノシン三リン酸)からクレアチンへ、フォスフォクレアチンからADP(無水リン酸アンモニウム)へといった、リン酸塩グループの転移が関わっている1
図9:実験群ラットの臓器および全身におけるセシウム137蓄積量
1
.心臓  2.肝臓  3.脾臓  4.腎臓  5.全身
(編者注:各臓器のBq/kg値がホールボディ計測値より何倍も高いことに注意!)
101日あたり180 Bqを連日投与された白変種ラットの体内器官の137Cs濃度
1
.ラット生体(編者注:ホールボディ計測) 
2
.肝臓 3.腎臓 4.心筋 5.脾臓 6.骨格筋 7.精巣 8.肺
(編者注:腎臓のBq/kg値、つまり137Cs濃度は、ホールボディBq/kg値より少なくとも13倍は高くなっている)
CPK(クレアチン・フォスフォキナーゼ)は、細胞質、ミトコンドリア、ミクロソーム、細胞核、筋小胞体、筋細線維といった、さまざまな細胞内構造に局在している。CPKは現在の考えかたによれば、ミトコンドリア基質の内部で酸化的リン酸化反応の結果として生成される、ATP(アデノシン三リン酸)からクレアチンリン酸への形成過程の触媒として働いている。合成されたクレアチンは、濃度勾配にもとづいて細胞質へと、または急速な伝播によって、ある種のCPKアイソザイム(同位酵素)へと移動するが、その特筆すべき振る舞いは次のとおり――
Ÿ   筋肉収縮を担う構造――筋細線維Mライン――と結びつく。
Ÿ   筋小胞体およびCa2+アデノシン3リン酸加水分解酵素と結びつく。
Ÿ   筋形質およびNa+ / K+アデノシン3リン酸加水分解酵素に関与する。
Ÿ   アセチルコリン受容体およびATPアーゼに富んだシナプス後膜と結びつく。
ミトコンドリアCPKは、ミトコンドリア膜の外皮と内皮を結合させる働きをし、その構造を生成する1Mライン領域におけるCPKの局在は、ATPが継続的に再生するための条件を生みだし、筋細線維の適正な収縮機能を確実に働かせる(図11)。その結果、生じたクレアチンはミトコンドリアに戻り、再びリン酸化反応の基材になる。
11:心筋の介在板(概念図)
1
.筋細胞の基底膜  2.原形質膜、筋細胞  3.ミトコンドリア 
4
.筋細線維   5.筋形質  6.細胞質ネットワーク  
7
.薄い前原線維(アクチン)  8.厚い前原線維(ミオシン)
9
.介在板  10.明色の介在板  11.暗色の介在板
12
.テロフラグマ  13M帯(メソフラグマ)  14.付着筋膜
14
.デスモソーム(接着斑)  15.強結合(ネクサス)
(原画:バーグマン、シュルツ。改訂)
11注:(2)は、心筋の筋細胞膜であるはず。(3)は、単一なので“mitochondrion”と表記するはず。(10)は、明色板(I帯)。(11)は、暗色板(A帯)。(12)は、体の断片。(13)は、M帯。(14)は、デスモソーム(斑状接着質)。(15)は、ネクサス(細隙結合)。
したがって、CPKの働きの減衰は、心筋細胞のエネルギー代謝における深刻な構造関連および代謝関連の欠陥を示唆する。このことは、ミトコンドリアの数とサイズの増大、層状結晶数の増大、そしてその結果としてのミトコンドリアの崩壊の形で、ミトコンドリア組織に観察された。また、ミトコンドリアの凝集、ミトコンドリア同士の接触回数の変化としても観察される(図12)。
12 45 Bq/kgの体内137Cs取り込み後のラットのミトコンドリアの凝集、数とサイズの増大。倍率:X 30,000
エネルギー代謝の阻害は、甲状腺ホルモンがミトコンドリアの組織に毒性作用をおよぼすことから、それも含めて、なんらかの代謝体の作用による影響と併せて、膜構造に付着したセシウム137による直接的影響に結びつけることもできる13。これに関連していえば、バセドウ病のように、あるいは実験的に発症させた甲状腺機能亢進症に見るように、CPKの働きが抑制されることがある1。セシウム137に被曝するさい、遊離サイロキシンの量が増え、それがCPK(クレアチン・フォスフォキナーゼ)に影響するので、ミトコンドリア細胞を損傷することもありうる。この見かたは、ECG変異の頻度とセシウム137 の体内濃度が37 Bq/kg以上の子どもたちの血中サイロキシンのレベルが正比例して増えることから立証された(図13)。したがって、サイロキシンが不整脈の発現になんらかの寄与をしていると考えることができる。   
13:対照群および実験群の子どもたちの血清中サイロキシン(甲状腺ホルモン)と放射性セシウムの体内取り込み量の相関関係
男性の場合、CPKの働きが女性の場合より大きい1。セシウム137の影響下にある心筋細胞のなかで、この酵素が影響を受けやすいことが、男性の突然死の主因である可能性は除外できない。
心筋組織におけるアルカリ・フォスファターゼの働きの低下が変性過程の発症を示唆していることに注目しなければならず、これは電離放射線被曝の特徴である36
セシウム137を取り込んだ実験動物、あるいはまたセシウム137で汚染された地域に生きる人たちに観察されるミトコンドリア内部の構造変異の性質は、筋小胞体膜のCa2+カルシウムイオンに対する浸透性の減損を示している。これは、セシウム137の崩壊に伴う放射線と併せて、セシウム137が細胞膜の構造に直接与える影響と結びついているのかもしれない8, 29, 41。その結果、リン脂質の脂肪酸連鎖から生成される過酸化物は、細胞膜の構造および、カルシウムイオンなど、さまざまなイオン類に対する浸透性に変異を誘発することになる。同時にまた当然ながら、これが膜に縛られた酵素の働きに変異をおよぼすことになる。遊離水酸基ラジカルの過剰生成、並びに脂質過酸化反応の増幅は、細胞膜の破壊に寄与することになる。
心筋小胞体のCa2+搬送システムは、Ca2+放出・蓄積を通して、筋細線維の収縮・弛緩プロセスに活発な関与をしている。セシウム137など、さまざまな物質によって、このシステムが損傷されると、心筋細胞の遊離Ca2+値が上昇し、筋細線維の弛緩が阻害される。
収縮組織の病変は、筋細線維の二重光線屈折法で観察される、分節および亜分節収縮の発現、細胞内溶融、筋細線維のプライマリ・クラスタ崩壊、細胞融解、最終的には凝集や融解壊死といった病変に反映されている(32)。
分節型および亜分節型の収縮変性は、筋細線維A帯の異方性を偏光で強調することで確定される。光学顕微鏡で観察すると、密度が大きく、好酸球が増えているので、目で確かめられる。
10日分を体内に取り込んだウィスター系統のラットのセシウム137(濃度60100 Bq/kg)もまた、このような病変を誘発した(図14)。筋細線維のプライマリ・クラスタ崩壊において、異方性物質のあいだに等方性空隙が観察された(図15)。これは、細胞死を意味する、心筋細胞の深刻で不可逆的な損傷とは対照的である。多くの場合、突発的な心不全にプライマリ・クラスタ崩壊が見つかることに注目すべきである30, 31
14飼料中の放射性セシウムを取り込んだラット(体内濃度100 Bq/kg)の心筋の組織薄片。心筋細胞の筋細線維に拘縮の拡散。筋変性の増大。リンパ組織球細胞による焦点浸潤。ヘマトキシリンとエオシンで着色。倍率x 125
15出産時に死亡した女性の心筋の組織薄片。心臓における136Cr濃度は105 Bq/k。筋細線維のプライマリ・クラスタ崩壊。筋線維の剥離、筋間水腫。ヘマトキシリンとエオシンで着色。倍率x 250
細胞融解、つまり心筋細胞の生体内自己融解もまた、不可逆性の状態である。これはセシウム137の影響下で拡大しやすい(図1617)。
上記の病変は、セシウム137被曝だけでなく、中毒症状、低酸素症、機能過負荷による機能障害によっても14, 24, 40、ストレス反応の進展に寄与する極端な環境要因の影響によっても27, 28, 31観察される。このような反応のさい、心筋細胞にCa2+(カルシウムイオン)集積の増大が観測されている28
16セシウム137を投与された実験動物の心筋の組織薄片(体内137Cs濃度は900 Bq/kg)。びまん性筋細胞溶解。顕著な組織間浮腫。ヘマトキシリンとエオシンで着色。倍率x 125
17 43歳で突然死したダブルシ住民の心筋の組織薄片。心臓の137Cs濃度は45 Bq/kg。びまん性筋細胞溶解。筋間浮腫。筋線維の断片化。ヘマトキシリンとエオシンで着色。倍率x 125
損傷のメカニズムに主導的な役割を担っているものは、心筋のβアドレナリン受容体に対するカテコールアミン類(ノルアドレナリンアドレナリン)の作用である。これは心臓の虚血性傷害とはまったく関係していない28
さまざま広範な要因による心臓に対する作用のメカニズム全体が、ストレス反応を通して影響される。カテコールアミン類の濃度が高くなると、電位依存性と受容体依存性を備えるカルシウム・チャンネルが開く回数とタイミングが増え、その結果、心筋細胞にカルシウムイオン(Ca2+)が集積する。刺激伝導系の細胞は、静止電位が低く、活動電位を司る入力イオン流は組成が基本的にカルシウムなので、より早期に、より甚大に損傷を受ける10。しかも、この系には、アドレナリン作用性神経支配が優勢である28
このプロセスの結果、細胞内Ca2+濃度が高い状態が形成される。心筋細胞からCa2+が不適切に放出されると、不整脈または脈動の乱れが起こりうる。われわれは、これが陽イオン性ポンプに直接関連していることを重視している。ポンプにエネルギーを供給する重要な役割を担っているのは、クレアチン・フォスフォキナーゼと糖分解システムである28。心筋の弛緩を引き起こし、細いアクチンと厚いミオシン筋細線維のあいだの架橋を壊すために、これらのシステムの働きを調整する必要がある。調整役のひとつが筋形質ATPアーゼであり、これはCa2+を運んで筋小胞体にある貯蔵槽に戻す。これは注目すべきことに、心臓の筋肉がそのエネルギー総消費量の15%を費やすエネルギー依存性のプロセスである25
汚染領域に生きる人びとが絶え間なくセシウム137に被曝し、その影響下にあって、大脳半球の細胞のノルアドレナリン生成を抑制されている23ことを考えるなら、カテコールアミン類が筋肉繊維の痙縮(訳注:筋緊張の亢進状態)を引き起こすのに主犯的な役割を担っていることは想像に難くない。これは、強いストレス反応を伴う場面で、まさしく起こり得たことである。セシウム137被曝の影響下にあっては現実に、細胞内のカルシウムイオン集積が、ミトコンドリア、筋小胞体構造など、細胞膜内のエネルギー供給システムの損傷に起因するエネルギー不足のために起こりうる。それこそ、細胞が適時な形でCa2+を放出できない理由である。カルシウムイオンは、遊離水酸基ラジカル類による細胞膜リン脂質の破壊のため、非常に集中して細胞内に入り込む。この状況では、重大な心筋の損傷は苦もなく引き起こされる。身体的激務、急性感染症状、アルコール中毒を原因とする長引くエネルギー不足によって、心筋の細胞死が起こることがある。
心臓は、体内137Cs濃度の上昇によって止まりうる。とりわけ、(5日間以内に濃度が1,000 Bq/kgに達するような)セシウム137の急激な大量投与は、ラットに心停止を引き起こした。この場合、放射性物質そのものが直接の死因になった。それほど大量でない場合、セシウム137の存在による心筋細線維の反復収縮の根本原因が、情動ストレスの原因になって、カテコールアミン類の放出を招いたとも考えられる。これは、長期にわたるセシウムの毒性作用のもとにあって、交感神経系の機能に進行性の抑制が働き、身体の適応余裕度を減衰させる17という事実にもとづいている。また同時に、セシウム137による影響下の心臓障害において、カテコールアミン類の役割を完全に除外するのはありえないことである。
このことは、慢性の胃腸病を患う子どもたちに対する臨床検査と検体検査の結果によって確認された。交感神経系過敏症状の頻度と体内137Cs量とのあいだに正比例関係があった。上記の知見にもとづき、137Cs取り込み期間に生じるカルシウム搬送系のエネルギー不足は、心臓の脈動中断、心筋細胞の収縮組織損傷、さらに最終的には心不全を誘発すると結論できる。
心血管系の傷害を、他の臓器と系、とりわけ腎臓と切り離して考えることはできない。セシウム137を体外に排泄する主要器官である16腎臓は、たとえ少量であっても、セシウム137によって重大な影響を受ける。腎臓はまた、心血管系が受けたものと同じような有害な作用を、他のなによりも糸球体組織に受ける6, 7。細動脈内の筋線維に、心筋で観察されたものと同一の病変が見つかる。筋細線維の痙縮は、長引く細動脈痙攣を誘発し、それ故、ネフロン(腎単位)構造に血行停止をもたらす。細胞構成要素の死は糸球体に特定の構造変異をもたらすが、これは「溶けるつらら」と呼ばれる現象である。栄養失調性および壊死性の病変は、糸球体の縮小および断片化を伴いながら段階的に発現する(図1819)。
18セシウム137のホールボディ濃度が900 Bq/kgである白変種ラットの腎臓の組織薄片。糸球体の空洞形成を伴う壊死および断片化。管状上皮組織の壊死および硝子質滴栄養失調。ヘマトキシリンとエオシンで着色。倍率x 250
19ゴメリの71歳、女性患者の腎臓組織薄片。腹腔の癒着、右肺上葉の硬化・繊維素化膿症状を伴う急性肺炎、両肺の水腫の複合により死亡。腎臓のセシウム137濃度300 Bq/kg。糸状体空洞に液体貯留。細管上皮組織に硝子質滴および水症性栄養失調。間質組織に浮腫。ヘマトキシリンとエオシンで着色。倍率x 250
顕著な細胞反応のない空洞の形成は、セシウム137が腎臓組織におよぼす影響に見られる特徴である。セシウム137は、細動脈の筋線維に異常収縮(過剰収縮)を起こさせる能力をもって、腎臓内部の血流の微小循環プロセスを損傷する。腎臓や他の臓器の損傷に即する適切な炎症反応が身体に備わっていないことは、強調されなければならない。われわれの見解では、これは専門化した細胞の炎症対応因子のような生物学的活性物質の合成が抑制されているためである。
損傷した糸状体は機能を停止する。セシウム137に被曝したときの腎臓の組織特性が、血栓性微小血管症のそれと同じなのは、偶然の一致ではない2。いずれの場合でも、腎単位の微小循環血流システムが細動脈のレベルで堰き止められ、壊死プロセスを招いているのである。
腎不全の進行が、体内に代謝老廃物や邪魔物が溜まるに溜まる理由である。セシウム137そのものの影響に加えて、老廃物や邪魔物は生命維持に必須の臓器と系に毒性の影響をもたらす。やはり特質的なものとして、漿膜(訳注:腹膜、胸膜、心膜など、内面や内臓器官の表面をおおう薄い半透明の膜)、とりわけ心膜(図20)と肋膜(図21)の炎症プロセスがある。
20体内137Cs濃度が900 Bq/kgである実験動物の心筋組織薄片。好中球およびリンパ球による心外膜および心膜の浸潤。筋変性が顕著である。ヘマトキシリンとエオシンで着色。倍率x 125
21体内137Cs濃度が900 Bq/kgである実験動物の肺組織薄片。血管破裂による肺胞内洞の鬱血。好中球、リンパ球、組織球による臓側胸膜浸潤。ヘマトキシリンとエオシンで着色。倍率x 125
腎臓脈管系の傷害が、子どもたちの血圧上昇、とりわけ拡張期血圧の上昇の主要な原因のひとつかもしれない。しかしながら、遅発性であるために隠されている道筋が、この病理プロセスに潜んでいると考えれば、目に見える結果が判明するのは、通常の治療法が匙を投げて、後の祭りになってからのことであるかもしれない。だからこそ、セシウム137で汚染された領域に生きる子どもたちの腎臓と心臓、両臓器の機能に対する継続的な評価を、最新式の研究室と科学技術的な診断法を駆使して実施しつづけるべきなのだ。
肝臓もまた、セシウム137の悪影響を受けている。ゴメリ州に生きていた人たちの肝臓に重大なレベルのセシウム137が見つかった6。たいがいの症例で、顕著な肝細胞の栄養失調性および壊死性の病変が組織検査によって判明した(図22)。
同様な病変は、セシウム137に被曝した実験動物にも見つかった。肝機能のなかでも、とりわけ合成および解毒(中和・無効化)機能に即発性の中絶が観察された。
22突然死した40歳のゴメリ州住民の肝臓組織薄片。肝臓内のセシウム137濃度:142 Bq/kg。幹細胞壊死を伴う脂質および蛋白の変性。ヘマトキシリンとエオシンで着色。倍率x 125
肝細胞の合成機能不全は、セシウム137の体内濃度の上昇にともなって、進行するL1グロブリンおよびL2グロブリン合成の減衰症状として発現する。これは疑いなく、心臓を含む他の臓器の代謝状態に影響をおよぼす。
ステロイド・ホルモン類、特に副腎皮質ホルモンの酸化が肝臓で起こる。副腎髄質のホルモンであるカテコールアミン類、ノルアドレナリン、アドレナリンの分解がメチル化反応を介して起こる。肝臓は尿素の合成にアンモニアを活用するので、その無毒化に非常に大きな働きをしている。肝臓の合成・無毒化機能の不全は、代謝機能障害を発現させ、心筋の状態に悪影響をもたらす。

それ故、セシウム137取り込みの結果、体内に発現する代謝機能障害は、心筋の構造および機能の障害に寄与しかねない。

23:放射性セシウムが心筋に影響をおよぼす経路
CPK:クレアチン・フォスフォキナーゼ ATP:アデノシン3リン酸塩)



◇◇◆目次◆◇◇
環境要因の結果としての心血管病理
放射能汚染地に生きる子どもたちの心血管系の病変
検死解剖に診るゴメリ州住民の心筋構造の病変
137Csに内部被曝した実験動物の体内の構造・代謝病変
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放射性セシウムが心臓におよぼす作用の病態生理特性
結論・略語リスト・原書目次・参照文献

出処:International solidarity CHERNOBYL
原文:Radioactive Cesium and the Heart: Pathophysiological AspectsPDF

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