2014年5月29日木曜日

【論文】バンダジェフスキー『放射性セシウムと心臓』序論:環境要因の結果としての心血管病理



◇◇◆目次◆◇◇
まえがき・序論
環境要因の結果としての心血管病理
放射能汚染地に生きる子どもたちの心血管系の病変
検死解剖に診るゴメリ州住民の心筋構造の病変
137Csに内部被曝した実験動物の体内の構造・代謝病変
放射性セシウムが心臓におよぼす作用の病態生理特性
結論・略語リスト・原書目次・参照文献
出処:International solidarity CHERNOBYL
原文:Radioactive Cesium and the Heart: Pathophysiological AspectsPDF   http://chernobyl-today.org/images/stories/radiocesi_i_serdce_march_6__2013.pdf
放射性セシウムと心臓:
病理生理学的側面
医学博士、ユーリ・I・バンダジェスキー教授
by Professor Yuri I. Bandazhevsky, M.D.
論文原本出版:ミンスク、2001
ロシア語⇒英語・新訳:2013
Bandazhevsky Y. Radioactive cesium and the Heart: Pathophysiological Aspects.
"The Belrad Institute" 2001. - 64 pp. ISBN 985-434-080-5

本書は、放射性元素の人体に対する影響に関する著者による一連の出版物の一巻である。著者は、心臓機能に対する放射性セシウム(主として137Cs)の作用に関する研究を臨床実験室で実施し、その結果を分析している。本書は、種々の放射性核種が合併した場合の人体に対する影響に関心のある広範な読者、医師、科学者を対象に執筆されている。
論文原本査読者(2001年):
ミシェル・フェルネックス;バーゼル大学(スイス)医学部名誉教授
ワシリー・B・ネステレンコ;工学博士、教授、ベラルーシ国立科学アカデミー通信会員、「ベルラド」研究所・所長
英訳論文査読者(2012年~2013年):
ロシア語からの英語新訳は、ワレリー・ユリニチおよびセルゲイ・ベルシャコフが担当した。平沼百合医師には、特に第4章について、医学用語と解釈に関して多大なご教示をいただいた。新訳の編集全般にわたり、スティーヴン・スターが担当した。「地球規模の生存をめざす医師たち」(カナダ)には、寛大な資金援助を賜り、よって翻訳が可能になった。
編者まえがき
ベラルーシの子どもたちと人びとに対する放射性セシウムの影響に関するバンダジェフスキー博士の画期的な研究は、米国ではあまり知られていない。これは多分に、ベラルーシの政府が博士を迫害し、放射性セシウムにひどく汚染された土地に人びとを再び住まわせる政府の計画を混乱させる博士の研究を弾圧しているせいである。バンダジェフスキーはこの研究論文を、多年にわたる禁錮と責め苦を待ちながら、自宅監禁のさなかに執筆することを強いられていた。政府の工作員らはすでに、博士がベラルーシのゴメリ医学大学学長を務めていた9年間かけて、博士、その同僚たち、学生たちが収集し、保管していた試料、画像スライド、試料を破棄していた。バンダジェフスキーはそれでも、みずから獲得した統計データを4冊の著作――『放射性核種による内部被曝の人体に対する作用の臨床的および実験的諸側面』(ロシア語と英語)ゴメリ1995年、『放射能内部被曝の病理生理学』ゴメリ1997年、『体内に取り込まれた放射性核種の生態構造および機能への影響』ゴメリ1997年、『放射能内部被曝の病理』ミンスク1999年――また、ゴメリ医科大学・科学研究コレクションの大量の論文にして出版していた。ものごとをわかりやすくするために、わたしは表1の下にコラムを設け、バンダジェフスキー博士がホール・ボディ・カウント(全身計測)およびセシウム137の特定の具体的な作用を把握するのに用いた方法を詳しく解説した。この方法論を説いたコラムは週刊スイス医療誌2003年;133:488-490に掲載の「小児の器官内における慢性的なセシウム137結合」から引用した。バンダジェフスキー博士が著者ではあったが、掲載当時にご本人が獄中にあったことから、2003年の研究論文は、博士のヨーロッパ人同輩たちが1997年から1999年の期間中にゴメリ医科大学を訪問して得た博士のデータを用いて編集したものであることにご注意いただきたい。バンダジェフスキー博士は最近、2003年の研究論文に記述されている方法論は、この研究論文に記録されている博士の9年間にわたる研究に用いられた方法論を事実として記述していることをわたしに確認した。
スティーヴン・スター 20133




序論
環境要因の結果としての心血管病理
心血管系は体内で枢要な役割を担い、しかもさまざまな環境要因の作用に対して極めて敏感に反応する。その適応能力が高いので、極めて不都合な条件のもとでも機能しつづけることができる。そのような場合、複雑な病理学的作用が形成され、それが全身の構造に影響をおよぼす。そのような過程の全貌を特定するのは困難であるので、多くの病理の真の原因を特定することができない。そのような事情のため、治療手段は、病理の根本原因を除去するというより、むしろ病気の経過を緩和することに関わることになる。多くの心臓病の病原に多重因子が関与しているという性質があることは、疑いなく明白である。しかしながら、症状を手当するだけでは、病気の根本原因を見抜くのができなくなることが多い。したがって、定番の治療法は病理原因に迫るものではなく、病因のいくつかの関連または側面をなぞっているにすぎない。
心臓の働きの疾患に関する病理生理学は、統合的なシステム、すなわち神経系および内分泌系の乱れの結果として形成される病理過程の全体的なメカニズムの確立に基礎をおいて可能になる。ネルヴィズムの概念(編者注:ネルヴィズム仮説とは、身体のあらゆる機能は神経系に制御されているというもの)は、多様な環境要因が所与の影響力に関与し、心血管の働きの崩壊にいたるストレス状態の原因になるという着想の基礎になる。数多くの要因が合併した影響によって、心臓の不整脈、動脈の高血圧をともなう小動脈発作、全身の血液循環の崩壊、虚血、あるいは細胞や組織の低酸素症といった同じ、またはほとんど同じ作用をおよぼすことがある。
心臓の合併症を予防する基本的な原則は、心血管系、そして他のシステムの悪条件に対する適応反応を改善することを中心とする。この場合、各人の適応能力は個人ごとに独特であり、多くの要因によって決まる。このような特質は無制限ではなく、多くの場合、死を防止できない。しかしながら、単に対症療法だけでは、心臓病学の成功につながらない。有害物質の特異性に関する知識がなければ、心血管疾患を予防することは不可能である。効果的に予防するには、有害物質による影響を排除しなければならない。そのためには、少なくとも広く蔓延した心臓・血管疾患に関する原因病理論に通じている必要がある。悲しいことに、現代医学にすべての答えがあるのではない。
また製薬産業および心臓外科の急速な発展にもかかわらず、多くの国ぐにで心血管の疾病による死者の数は年ごとに着実に増えつづけている。しかしながら、別種の例はある。とりわけスウェーデンでは、心臓疾患の罹患率が他の国ぐによりも有意に低く、癌もまた同様である7, 18, 37。なぜか? ひとつの基本的な理由は、スウェーデン国民を取り巻く環境のおかげである。この場合、国民を人工放射能の影響から守るために、あらゆる可能な対策が取られてきた。
そのような人間環境のなかに存在する放射性物質のなかで、最も広範に拡散していて、寿命の長い元素は、137Cs(セシウム137)、90Sr(ストロンチウム90)、239Pu(プルトニウム239)、241Am(アメリシウム241)である。これは核兵器の実験および原子力発電所で起こった破局的な事故の両者のせいであり、後者の最大のものは(編者注:本論文執筆中の2001年時点で)1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故である33。この件に関して、われわれはヨーロッパおよび旧ソ連の諸国民のこれら放射性核種による被曝を銘記すべきであり、とりわけセシウム137に関しては、関連文献26が証明しているように40年間近くは特に強く注意するべきである。これらの物質による被曝は外部的なものにとどまらず、これらの放射性核種は人体の内部に、また個別の器官の内部に入り込むので、内部的にも起こる(それ故、内部被曝のほうが外部被曝よりも危険になる)。
ここで設問は当然ながら、これはどのように人間の健康に影響するのか?(ベラルーシ)保健省の公式統計は、住民の健康状態の一般的な劣化の証拠を示している。心臓疾患と癌の罹患率の着実な上昇が即座に目を引き、これらの病気は若い人びとの主な死亡原因になっている18, 37。しかしながら、体内に取り込まれた放射性核種の影響は、公式データで吟味されていない。
一方では、そのような配慮の行き届かない点は、理由はともあれ、そのような調査を実施する意思や能力の欠如のせいである。これは他方では、そのような考察を可能にする適切な系統的手法に欠いている結果である。おそらく両方相まって、このような状況になったのだろう。さらにまた、取り込まれた放射性核種、とりわけセシウム137は人体の無害であると著者らが説得する出版物もある26
放射線生物学と放射線医学の分野における研究の大多数は、人間と動物に対する外部放射線の影響に専心したものである。われわれは以前の出版物でこのことに言及している5, 6。同時にまた、年代別に放射性核種のさまざまな取り込み程度における人体および個別の臓器系の状態を分析した科学論文はない。
放射性核種を継続的に取り込んでいる条件における人の健康に関する長期(多くの場合、生涯)研究、おびただしく多数の動物実験、放射性物質で汚染された領域に生きていた人の遺体解剖試料による病理形態学研究、これらすべての観察によって、われわれは問題に適用できる次のような一連の系統的手法を開発できるようになった――
(1)    体内に取り込まれたセシウム137の量を考慮した医学的・生物学的作用の評価。
(2)    動物実験による、セシウム137に誘発された臨床的病理過程の研究およびモデル化(臨床的および実験的手法)。
(3)    全身、いくつかの臓器および臓器系において進展する構造、機能、生理の変化における同時進行的な研究。
(4)    体内における統合過程の混乱によって確認する病的な状態の深刻さ、程度、性質の評価。これによって、さまざまな臓器で起こる病理学的な変化を関連づけることができるようになる。

これらの手法を用いることによって、全身、一連の死活的に重要な臓器および臓器系について、それらが放射性核種を取り込んだ結果として起こる状態を予測することができるようになる。このことは、最も驚異的に生命維持に欠かせないシステムである心血管系の場合、また生命圏に最も広範に拡散し、寿命の長い放射性核種であるセシウム137の場合、とりわけ真実である。このことを念頭に置いて、われわれは心臓の状態と働きに対する取り込まれたセシウム137の影響を研究するために、動物実験に加え、さまざまな年代集団の子どもたちに対する臨床および検体検査を実施した。


◇◇◆目次◆◇◇
まえがき・序論
環境要因の結果としての心血管病理
放射能汚染地に生きる子どもたちの心血管系の病変
検死解剖に診るゴメリ州住民の心筋構造の病変
137Csに内部被曝した実験動物の体内の構造・代謝病変
放射性セシウムが心臓におよぼす作用の病態生理特性
結論・略語リスト・原書目次・参照文献
出処:International solidarity CHERNOBYL
原文:Radioactive Cesium and the Heart: Pathophysiological AspectsPDF       http://chernobyl-today.org/images/stories/radiocesi_i_serdce_march_6__2013.pdf

【付録】
著者近影に代えて、バンダジェフスキー博士記者会見


OPTVstaff
2012/03/19 に公開
チェルノブイリ原発事故後、ベラルーシ住民の健康被害を研究してきたユーリー・バンダ­ジェフスキー元ゴメリ医科大学長が19日、東京都内で会見し、福島第一原発事故の影響­で高い線量が計測されている汚染地域では、全住民を対象に内部被ばく調査を徹底するよ­う訴えた。……

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