2016年1月24日日曜日

社会的誠実性センター【海外論調】インドの核物質防護対策は欠陥だらけ



米国の当局者や有識者ら警鐘
インドの核爆発性物質の盗難防止策はお粗末
だが、米国政府は対インド取引が拡大しており、警備強化要求を控えるほうを選んだ。

アダリアン・レヴィ ADRIANLEVY,
R・ジェフリー・スミス R. JEFFREY SMITH
20151217

20151130日、パリ郊外、ル・ブールジェで開催されたCOP21、国連気候変動会議のさい、インドのマレンドラ・モディ首相と面会するバラク・オバマ米国大統領(右)。Evan Vucci/AP

【インド共和国タミル・ナードゥ州カルパカム】敷地清掃員が後になって思い出したことだが、「雨季が明けそうだった」2014108日、ヴィジャイ・シン警備長は夜明け前に起床し、マドラス原子力発電ステーションの警備隊宿営施設の外の黄土礫岩〔れきがん〕地を小走りに横切った。シンは、施設の核に関連する建屋と資材の警備を担う国の中央産業警備隊(CentralIndustrial Security Force; CISF)の警備員620名の一員だったが、その朝、いつもの業務は念頭になかった。

この44歳の隊員は午前440分、武器庫に到着し、署名のうえ、9mmサブマシン・ガンと弾倉2本、弾丸60発分を受領した。シンは1本をガンに装填し、1本をポケットに入れて、クリームと赤に塗り分けられた三階建て居住棟の玄関に入った。彼は階段を駆けあがって、上司のモハン・シンがまどろんでいた部屋に入り、いきなり彼に発泡したが、その銃撃は訓練の通り、縦断を節約するために統制が取れていた。

彼は一階に駆け下り、さらに2人を射殺し、もう2人に重傷を負わせた。装着した弾倉に10発、ポケットに未使用の30発弾倉が残っており、警報も鳴らず、彼は妨げられることなく悠々と瓦礫地を横切った。目撃者が後に語った証言によれば、傍観者が彼に向かって叫び声を上げると、彼は唐突に立ち止まって両膝を落としたという。彼はついに包囲され、虚ろな表情で連行されたが、目撃者は「この上なくこざっぱりし、きちんとしており、髪の毛は完璧に分けられていた」という。

このエピソードは、米国、そしてインド以外の国ぐにの当局者らが、世界屈指の備蓄量を誇る核分裂性物質と核爆発物の防御を担う国家の核警備部隊の深刻な弱点とみなす事態の新たな例だった。

独立系シンクタンクのストックホルム平和研究所の記事とインドの当局者らによれば、90ないし110発と推測されるインドの核爆弾が、CISF警備隊員がパトロールする6か所程度の政府運営施設に保管されている。既存の核発電所が4か所あり、そこで使用済み核燃料を化学物質で溶かし、新たな燃料を製造したり、核爆弾に使ったりするためにプルトニウムを分離しているのに加えて、今後20年以内に、57基に達する反応炉が部隊の警備のもとで稼働することになる。

一部は建設途上にあるが、施設は、北方の石だらけのヒマラヤ山系丘陵地帯から南方熱帯の赤色土地帯まで膨大な距離を挟んで散在している。相互間数百マイルの運輸は、民間と軍部の反応炉で使ったり、核爆発の点火に用いたりする――プルトニウムと濃縮ウラニウムを含む――爆発・核分裂性物質を積載したトラック隊が軽防備の車列を組んで、時おり行き来しておこなわれる。

カルパッカム銃撃事件は、この国が――不安定な近隣諸国に囲まれ、国内でも暴動の歴史を経ており――脆弱な施設を防衛し、不満や邪心を抱えていたり、最悪の場合、テロリストに通じていたりする部内者らによる窃盗から核爆弾の製造部材を守るための適切な予防措置を講じているか否かについて疑問を抱いているインドと欧米の当局者らに警鐘を鳴らした。

有識者らはこの問題が緊急事項であるといっているが、米国政府はインドに対して早急な改革を迫っていない。何人かの米国政府の幹部当局者らはインタビューで、それどころか、オバマ政権はインド政府に対する米国製兵器の売却拡大方針の妨げになりかねない議論をすべて避けようとしていると語った。

有識者らの懸念の一部は、銃撃事件に加えて、過去20年間の記録に残された一連の核警備関連の不祥事に根ざしている――
  • インド北東部メーガーラヤ州の国営鉱山で1994年のこと、当局者らのいうウラニウム半処理品がパキスタンとの関連が疑われる犯罪集団に盗まれた。西ベンガル州の国境の近くで4年後、インドのジャドゥゴダ採鉱コンビナート産のウラニウム100キロを携行していた連邦レベルの政治家が、同犯罪集団と提携するパキスタン同調グループに売却することを企図していた嫌疑で逮捕された。社会的誠実性センター(Center for Public Integrity; CPIウィキペディア])が閲覧した警察の事件記録には、その2年後になって、密輸事件に連座していた、さらに10人の容疑者が逮捕され、この際の作戦で、盗まれたウラニウムのうち57ポンド[26キロ]が回収された。
  • インド北東部メーガーラヤ州の国営鉱山で1994年のこと、当局者らのいうウラニウム半処理品がパキスタンとの関連が疑われる犯罪集団に盗まれた。西ベンガル州の国境の近くで4年後、インドのジャドゥゴダ採鉱コンビナート産のウラニウム100キロを携行していた連邦レベルの政治家が、同犯罪集団と提携するパキスタン同調グループに売却することを企図していた嫌疑で逮捕された。社会的誠実性センター(Center for Public Integrity; CPIウィキペディア])が閲覧した警察の事件記録には、その2年後になって、密輸事件に連座していた、さらに10人の容疑者が逮捕され、この際の作戦で、盗まれたウラニウムのうち57ポンド[26キロ]が回収された。
  • バングラデシュの聖戦主義集団、ジャマート・ウル・ムジャヒディーンの構成員らが2003年、バングラデシュ国境で――採掘従業員が密売した疑いのある――破砕粉体ウラニウム225グラムを携帯していて逮捕され、爆薬をそれで包みこむつもりだったと白状した。インド当局者らは当初、ウラニウムがカザフスタン産だといっていたが、後にインド東部ジャールカンド州の採鉱コンビナート産の可能性が最も高いと結論づけた。

  • 2008年になって、上記とは別の犯罪集団がネパールとの国境に接する地帯のインド国営鉱山から、原始的な放射能散布装置や「汚い爆弾」に使うことのできる低品位ウラニウムを密輸することを企図して逮捕された事件があった。同じ年にまた別の集団がウラニウムの違法在庫品をバングラデシュに持ち出そうとして逮捕される事件もあり、この集団は、ウラニウム採掘と処理の監督官庁、インド原子力鉱物局の職員の息子に手助けされていた。
  • CPIが閲覧したインド政府の内部文書によれば、インド南西部にある核反応炉の従業員が2009年、施設保安体制に数多くある抜け穴を悪用して、数十人の同僚に放射性アイソトープの毒を意図的に盛った事件があった。
  • また2013年のこと、インド北東部の左翼ゲリラが政府経営の精錬コンビナートからウラニウム鉱石を入手し、事件に関わった警部補によれば、警察に逮捕される前にそれを榴弾に固定して、粗雑な爆弾を造ったという。
準軍事的なCISF警備隊は、軍人統制というより、文官統制下に要員総計95,000名と予算78500万ドルを擁しており、インドの施設から核物質が漏出するのを防いでいるとされている。だが、CPIが閲覧したCISFの将来像に関する内務省報告の201311月付け機密草案によれば、人員が不足、装備が貧弱、訓練が不適切である。

報告によれば、警備隊の運用に関わる当局者らの要望に比べて、「武器補給数が40パーセント不足、訓練機材が45パーセント以上も不足している」という。警備隊の規模は20パーセント拡大されるべきであると報告はつづけていた。「警戒レベルは高いままであるが、士気は低い…装備のレベルの面、また力量の面で、警備隊がおくれを取るおそれがある」。

CISFと並んで、内務省管轄下の大規模なインド警察部隊を率いていた、インド警察庁の元将官クラス職員はインタビューで、部隊の訓練、武器、技術機材が世界の治安部隊の趨勢に比較して、とても追いついていないと語った。

「微光で見えないパッシブ(受光型)暗視ゴーグル、遠距離で機能しない時代遅れの通信装置、まるでメクラにオシ同然です」と、元将官はいった。「2年前、徹底的な改善のために、お金の手当てが約束されました…あらかた実現しませんでした」と、彼は愚痴をいった。

オバマ政権の現任または前任の幹部職員3名によれば、この批判的な論評は、米国インテリジェンス・コミュニティ[国家情報長官が統括する情報機関ネットワーク]が、放射性物質が添加されている爆発物や汚い爆弾に用いることができる資材の防護対策に関する詳細な評価にもとづく世界核物質安全保障リスクの年次機密格付けで言及している内容と一致しているという。

インドの警備実績はこれらのアセスメントにおいて、欧米諸国の懸念を招いてきた欠陥を抱える2か国、パキスタンとロシアの実績より格下に評価されているという。ランキング作成にあたる米国の諜報専門家らの関心事のあらゆる範疇――保安担当要人の審査と監視、爆発物の量と所在の追跡、主要施設の出入り口における感度のよい核物質検出装置の設置など――において、インド人は「問題を抱えている」と、幹部職員が外交的配慮により匿名を条件に語った。

幹部職員は、インドが核に関して秘密主義の強迫観念にかられているので、おそらく米国政府はインドが施設を防護してきたことのすべてを知っているわけではないだろうと前置きし、「人びとのやっていることを見るかぎり…彼らはもっと多くのことをやっているはずです」と述べた。彼は、独自の治安上の課題に対処する能力にまつわるインド人の自信のせいで、ロシア人と同様に、彼らは外国からの忠告に対して――彼らが直面する脅威の重要性についてだけでなく、対処する方法についても――聞く耳を持たない態度を繰り返してきたと付け加えた。

Eleanor Bell/Center for Public Integrity

内部の脅威に対するお粗末な防護手段

ムンバイに所在し、インドが核兵器用のプルトニウムを製造している複合施設であり、立ち入りが規制されているバーバー原子力研究センター(Bhabha Atomic Research Centre; BARC)に米国の当局者らが初めて訪問したときに保安業務を視察したところ、安心できるものではなかった。「施設の警備は緩かった」と、ウィキリークスが漏らした200811月付けスティーヴン・ホワイト代理大使承認電信に書かれていたと、ワシントンの当局者らが告げた。

正門の身元確認は「迅速だが徹底していない」し、来訪者の名札に顔写真がなく、コピーしたり、使い回したりするのが容易だった。電信の指摘によれば、センター正門の警備隊は散弾銃や半自動式のロシア型ライフルで武装しているようだったが、米国の代表団が、核爆発物質が現に製造されているドゥルヴァ反応炉の方に移動してみると、「それとわかる外付けの保安装置」はなかった。

ホワイトの電信は、工学装置を保管する補助建屋も「保安対策がほとんどなかった」と指摘する。放射性廃水を処理する核廃棄物固定化施設に立番ポストがあったが、警備員が不在であり、来訪者のバッグは検査されなかった。内部に監視カメラは見当たらなかったとホワイトは付言した。

訪問団の一員だった米国の核保安担当官は、いまもこの分野で現役であり、議論を許されていないが、CPI(社会的誠実性センター)のインタビューに応じ、「作業員たちが複合施設をぶらぶら出入りしており、そのだれひとりとして、IDカードを着けていなかった」と語った。彼は「カメラの感度を考えると、設定が著しく軟調だった」といい、ある位置にいる警備員たちが別の位置のカメラ映像を見ることができなかったと説明した。当時から状況が大きく変わった証拠はほとんどないと、当局者らは口を揃える。BARCは、施設の保安体制についてコメントを拒んだ。

米国とインドの当局者たちは個人的にも、インドの敏感な核物質と核兵器の移動にまつわる保安体制に不安を表明した。たとえば、国内と海外の戦略問題に関して、日ごろから現職の首相に私的な助言をしている実業家は、インドの道路と鉄道の連絡がお粗末なため、「わが国の核部門は特に無防備です。どこに、いつ到着するか、確信をもって言えないとすれば、なんであれ、どうすれば安全に輸送することができるでしょうか」とインタビューで語った。

その結果、インドの核分裂性物質は、明確な武装護衛もなく、標識もなく、「牛乳運搬トレーラーのように見える」トラックで動き回っていると、この首相の顧問は述べた。彼はこれを「都会風カモフラージュ」と呼び、インド中南部、ハイデラーバードの核燃料製造工場からヴィシャーカパトナム沿岸のインド海軍原子力潜水艦の試験センターに向かう車列のように、警備隊付き車列が交通渋滞中の道路を運行しようと企てるなら、勃発はずの騒動を避けるためであるといった。その400マイルの距離を完走するのに、14時間かかるかもしれないと彼はいう。

専門家らは、車両は特別な装置と通信で追跡されているといっている。だが、BARCを退職したばかりの二人の科学者は、顧問のインタビューと同じ見解を述べた。そのうちの一人は「民間運輸業者を使うのは、最悪の条件下で最善の策です。交通環境を統制できない場合、核物質の運搬を気づかれないに越したことはありません」と述べた。欧米諸国の当局者らは、パキスタンが核物質の運搬のために、目に見える警備がなく、標識のない同じような車両隊を使っているといった。

銃器を帯びた10名のパキスタン人が夜間に小艇で上陸し、ムンバイ市街に包囲攻撃をかけた2008年の強襲事件の公式機密尋問調書によれば、ユダヤ人センター、鉄道駅、2か所の5つ星ホテルに立てこもる前に、市街に近接する核施設を攻撃目標として偵察していたという。

だが、全米科学アカデミーが2012年にバンガロールで開催した核防護に関するワークショップにおけるインドの専門家たちのプレゼンテーションによれば、今までのところ、インドの核施設における不幸なできごとのあらかたは、内部者が関与しており、道に外れた従業員の存在が最も具体的な脅威であり、政府が対策を集中する焦点になっているという。その専門家たちは、インドの核物質の防護にあたるCISF警備隊は特別訓練を受けており、買収を防ぐために警備現場を定期的に移動すると述べた。BARC核物質防護システム部門のラナジット・クマール本部長はワークショップで、機密プロジェクトに新規採用される者は、全員が改めて身上調査を受けると述べた。

しかし、内務省の職員らが起草したカルカッパム銃撃事件に関する政府の201412月付け内部報告によれば、加害者、ヴィジャイ・シンにたくさん見受けられていた怪しい前兆が見過ごされていたという。シンは、カッとなりやすい気性の持ち主であり、ストレスと倦怠感で苦しんでいると医者に告げていた――彼に武器携帯任務からの離脱を余儀なくさせた問題――にもかかわらず、人手不足のために、精神鑑定や問題行動記録の見直しもなんら受けることなく、警備長の地位に取り立てられ、別の核施設からマドラス原子力発電ステーションに移されていた。

後にシンの同僚たちが捜査官らに証言したところによると、彼の具合が不調であると考えていたのに、新ポストに昇進したとたん、半自動式銃器取り扱い資格が与えられたという。彼は別の警備長にいじめられていると訴えており、10月のディーワーリー祭りが近づいたとき、里帰り休暇を申請していた。申請は却下され、それどころか、アル・カイダの指導者が、インドの敏感な要地を攻撃して、南アジア全域に「ジハードの旗を掲げよ」と声明したために残業を言い渡された。CPIが閲覧した目撃証人調書によると、CISF警備長の最終休暇申請が却下されたとき、「奴は爆竹のように砕け散るさ」と同僚にいったと、その同僚は警察に証言したという。その翌日、彼は実行した。

その7年前にもカイガ原子力発電所で同様な不祥事が起こっており、一従業員が意図的に7名の従業員に毒を盛り、胸部レントゲン検査150回分の放射線量の被曝をさせた。CPIが閲覧した施設事業体による200912月付け報告完成版によれば、技術的監視の不備、ならびに事業体によって「見当違いに設定されたのではなくとも、実効性のない人間信頼性調査計画」が指摘されたという。監視カメラが施設内の重要区域に設置されておらず、一部は可動式でなく、暗闇で機能する性能がなかった。報告によれば、汚染は「意図的な破壊行為」の結果であり、警備体制のはなはだしい不備のため、犯人は発覚と捕縛を免れたという。

インドの原子力委員会はこうした問題についてCPIに質問されると、核関連の微妙な問題について、問い合わせを謝絶する習癖どおりに回答を辞退した。インド原子力規制委員会は、当初こそ回答を約束していたが、結局、辞退し、CISFを管轄する内務省も同じだった。

20151210日、大西洋、ヴァージニア州沖合の米空母アイゼンハワーの格納甲板で、ジェット・エンジンを検分する米国のアッシュ・カーター国防長官(左)とインドのマノハール・パリカル国防相。Mark Wilson/Pool Photo via AP

米国の支援申し出を拒絶

アル・カイダが核物質や兵器の完成品を入手しようとしている風説について、CIAが捜査に着手した20011130日以来、米国政府は、相当量の爆発物を備蓄しているインド、その他の諸国における警備の強化を求め――時に実効性もなく――世界的に精力的なキャンペーンを実施してきた。独立NPO、核分裂性物質に関する国際パネル(International Panel on Fissile Materials)によれば、約2.4トンに達するインドの高濃縮(兵器級)ウラニウム備蓄量は、世界第4位にあたり、分離された(兵器品質)プルトニウムの約0.54トンは第9位にランクされる。だが、警備実績がお粗末なため、欧米の懸念からすれば、リストのもっと上位にランク付けされるだろう。

たとえば、ワシントンDCNPO、核脅威イニシャティヴ(Nuclear Threat Initiative; NTI)は昨年、インドの核防護実績が、少なくとも爆弾製造が可能な核分裂性物質を保有する25か国のうち、第23位にランクされると報告した。その分析はイランと北朝鮮だけをインドより下位にランク付けし、インドの備蓄量が増大しており、同国の核規制当局が政治介入からの独立と権威を付与されていないと指摘した。

NTIによれば、リスクは、腐敗が蔓延したインド文化、それに全般的な政情不安に根ざしているという。同グループの報告によれば、「運輸警備体制、資材管理、会計の諸分野、それに身元調査および不審行動に関する報告義務など、内部者による脅威に対する防護策で特に弱点が顕著である」。

だが、インドは、度重なる米国の支援提供を謝絶してきた。2009年から2013年までオバマ大統領の軍縮・大量破壊兵器に関する調整担当だったゲイリー・サモア(Gary Samore)は、2010年と2012年の核安全保障サミットの準備会合で「われわれは、ありとあらゆる種類の支援からなる(インドとの)共同安全保障プロジェクトを提案しつづけていました。そして毎度、彼らはわたしの面に向かって、これはすばらしい考えだ、この機会をつかむべきだと言っていました。その後、彼らがインドに帰国すると、われわれがそれについて耳にすることは、二度とありませんでした」と語った。

インドはまた、他の調査対象24か国中の17か国と違って、NTIプロジェクトに行動に関する情報の共有や確認の面で協力することを拒否した。プロジェクトに関係があり、それについて話すことを認められていない調査員によれば、彼らはその結論に険悪な対応をしたという。インド原子力委員会の当局者らは、執筆記事やインドの記者会見で、NTIの創設者、テッド・ターナーとサム・ナンを攻撃したと調査員はいう。

直接的な米国の忠告に耳を傾けたり、自国の計画を査察に開示したりすることに抵抗するインドのような国ぐにで、オバマ政権は、ある当局者のいう「次善策」――世界各地で、欧米の専門家たちが国際原子力機関(IAEA)と協力して、警備体制の改善を促す訓練センターの創設――を試行した。そのようなセンターが今までに23か所、地元の参画を期待して、意図的に「核安全保障・卓越研究開発センター」(Nuclear Security Centers of Excellence)と命名され、資金の一部を米国が拠出して創設されている。

ある米国エネルギー省高官は、インドにそのようなセンターを設立する背景にあるコンセプトを説明して、インド人は「批判的でない核安全保障に関する対話の場を得て、喜んでいます」と語った。

だが、数年前の米国政府の内部電信は、インドが当初こそアイデアを歓迎していたものの、やがて反発するようになったと断言しており、ワシントンDCの関係筋を驚かせた。後にウィキリークスに暴露された2010222日付け電信によれば、当時のティモシー・レーマー米国大使は、インドが核安全保障に注力するどころか、最終的に「(核反応炉)技術の世界的な展開をめざす研究開発センター」の設立を決定したと伝えており、これは同国が好むところだが、ワシントンDCの有識者らは、核爆発性物質の利用と拡散を招きかねないという理由で危険だと考えている。

そのセンターは「第一の関心事が研究開発である(原子力省)職員が出向するインドの政府機関になるだろう」と、レーマーは書いていた。この方針は「米国の構想と合致しなかった」と彼は付言した。インドはその後、施設の名称を「核エネルギー・パートナーシップ世界センター」(Global Centre for Nuclear Energy Partnership)と改め、本年[2015年]、「繁栄のための核分裂」とか「進歩のための原子力」と表題される核弁護セミナーと並んで予定されている核物質および核施設の物理的防護に関する非公開ワークショップの開催をもって、限定的な事業を開始した。

オバマ大統領が[昨年]1月にデリーを訪問したさい、米国・インド間の緊密な絆が祝福されたが、あるホワイトハウス高官は最近のインタビューで匿名を条件にしたうえで、核安全保障問題に関する二国間の「深い技術協力関係はまだない。わが国としては、この状況がゆっくりとでも変わることを願うのみである」と打ち明けた。

インドは現時点で、3つの側面で米国政府による優遇措置を求めている。同国は、規制されているの入手が可能になるようにミサイル技術管理レジーム(Missile Technology Control Regime; MTCR[大量破壊兵器の運搬手段であるミサイル及び関連汎用品・技術の輸出管理体制:外務省サイト])によって規制される宇宙空間発射ミサイル技術を他国から入手できるようになるようにこの枠組に参加することを望んでおり、米国の支援を求めている。同国はまた、核関連技術取引のさいに拡散防止ルールに同意している国ぐにで構成される核供給国グループ[外務省サイトでは、「原子力供給国グループ(NSG)」]に参加したいと願っている。こうした野望はふたつとも、世界大国の地位にふさわしくなりたいというインドの切望を反映していると米国の有識者らはいう。

インドはまた、同国内でペンタゴン請負大手企業と兵器システムを共同生産することによって、米国の国防技術を獲得したいと望んでいる――これは12月はじめの1週間にわたり、インドのマノハール・パリカル(Manohar Parrikar)国防相がワシントンDCを訪問したさい、アシュトン・カーター(Ashton Carter)国防長官と議論した問題である。

だが、米国政府高官によれば、オバマ政権はこれらの問題を核爆発物の安全保障対策の改善を迫るための梃子〔てこ〕として使わないと決断したのであり、それは、そのような方策はインドを遠ざけるだけであるという理由からであるという。

米国の元拡散防止担当高官は、これは間違いだったと発言した。この匿名を条件にした元高官によれば、米国政府は、新たな暖かい二国間関係の「路線を踏み外すのを恐れて、インドの機嫌を損ねるのを望まない立場を取った」のであり、不適切にも「インド人たちが話し合うのを望まない事柄を封じこめるのを許した」のであるという。

ある英国外務省職員はやはり匿名条件で、インド政府に対する要求の強化を控えることについて、もっと偏見に満ちた見解を表明した。

その英国の官吏は、現今のアメリカ人の考えかたを「有望なインド市場に対する投資の方途に、どのような邪魔が入るのも許されない」と言い表し、「たくさんの懸案事項について、とりわけ核安全保障の問題について、インドは初めて米国およびヨーロッパ諸国との意義のある取引に道を開いたことで、一息つく機会をえました」と述べた。金銭的な利得は「眼を見張るほど」だと彼はいった。

米国商務省によれば、対インド貿易2000年で190億ドルだったのが、2014年には1000億ドルあまりにまで伸びた。米国の輸出は――米国製兵器の相当な規模の新規出荷を含めて――380億ドルを上回り、181,000人の米国内雇用を支えている。米国におけるインド側の直接投資は合計78億ドルであり、米国側の対インド投資は280億ドルに達している。

英国政府当局者の説明によれば、米国政府としては、核安全保障が物議をかもすようなことがあると、多くの米国企業の利益になる、この金儲け仕事に水をさすことになりかねないので、議論を望んでいないという。

This is part four of a four-part series about india's civil and military nuclear program, co-published with the Huffington Post worldwide and Foreign Policy magazine in Washington, D.C. The other articles can be found here: https://www.publicintegrity.org/national-security/nuclear-waste

【記者】

R・ジェフリー・スミス(R. Jeffrey Smith)はワシントンDCとカリフォルニア州から報告した。アダリアン・レヴィ(Adrian Levy)は調査報道記者および映画製作者であり、彼の記事はガーディアン紙、オブザーヴァー紙、サンデー・タイムズ紙、その他の出版物に掲載。レヴィの最新刊書籍は、カシミールで1995年に起こったテロ集団による欧米人誘拐事件について書かれた“The Meadow”、2008年のムンバイに対するテロ攻撃を描いた“The Siege: The Attack on the Taj”。彼はインドと英国から報告した。

More stories about

【クレジット】

The Center for Public Integrity, “India’s nuclear explosive materials are vulnerable to theft, U.S. officials and experts say,” by Adrian Levy and R. Jeffrey Smith, posted on December 17, 2015 at; http://www.publicintegrity.org/2015/12/17/18922/india-s-nuclear-explosive-materials-are-vulnerable-theft-us-officials-and-experts.

【関連記事】

2016121日木曜日


 20151212日土曜日
 
201595日土曜日
20131025日金曜日

0 件のコメント:

コメントを投稿