2015年7月21日火曜日

ニューヨーク・タイムズ紙【社説】平和主義に抗う日本政府(2015年7月20日付け)


International New York Times
The Opinion Pages 【社説】

平和主義に抗う日本政府

編集委員会 THE EDITORIAL BOARD 2015720

茨城県小美玉市、百里航空自衛隊基地にて、日本軍の行進。Credit: Franck Robichon / European Pressphoto Agency

先週、衆議院で(安保関連法案が)採択され、安倍晋三首相は国家安全保障の最も重要な目標――第二次世界大戦以降ではじめて、日本軍が限定的ながらも海外で戦うことを可能にする法律――に向けて一歩近づいた。安倍氏が勝利を掴みとるために用いた手法は、戦後に深く根づいた平和主義の誓約を尊重する意図が首相にあるのかについて、重大な懸念を招いている。

第二次世界大戦の終結から70年たったいま、世界第3の経済大国が――とりわけ、中国が独断的な姿勢を強めているアジアにおいて――重要な国際的役割を求めるのは、驚くべきことではない。問題なのは、その目標というより、安倍氏が目標を達成するために用いている方法である。

論争の核心に、米軍が1947年に押し付けた日本国憲法がある。憲法は、自衛隊という名の日本軍が自衛戦に従事することだけを許している。つまり、規模が大きく、先進的な技術を備えた軍隊が――攻撃されている友好国を支援する――「集団的自衛戦」に従事できないのであり、他の諸国の軍隊よりもずっと大きな抑制を課せられていた。

安倍氏はかねてから、憲法を改定し、日本を戦後の制約から開放し、「普通」の国を自認できるようにすることを主張してきた。彼は昨年、攻撃されている米国艦船の防護、米国に向けて発射された北朝鮮のミサイルの撃墜、国連平和維持活動における役割の拡大など、日本軍の任務を拡大する準備をすると発表した。彼はまた、中国と同国の南シナ海の大半部分に対する全面的な領有権主張に対する反撃において、全面的な参戦国になると約束した。

このような野心の障害になるのが、日本国民は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と謳う憲法第9条である。通常の環境であれば、この条文の変更は、憲法の改定を意味し、そのためには、国会両院における3分の2の承認が必要になり、そのうえで国民投票に付されることになる。

安倍氏は、憲法解釈の変更を閣議決定し、自民党主導の連立勢力が多数派を占める国会両院で法案を上程することで、この手続を迂回してきた。衆議院は715日、安保関連11法案を一括して採択した。参議院も同様に採択すると予期されている。正式な憲法改定と違って、通常の法制は多数票による採択で事足り、国民投票も必要でない。

安倍氏の戦術は新発明でなかった。過去の政権も憲法の単純な「解釈変更」を選んできた。だが今回の場合、提示された変更は、戦後日本の国是の核心そのものにかかわるものであり、障害回避策があまりにも重大な結果を招く。批判勢力に、日本の憲法学者の大多数が含まれていた。学者らやアーティスト、ノーベル受賞者など、10,000人近くの人びとが新法制に反対する請願に署名し、何万人もの人びとがデモに参加した。世論調査によれば、有権者らは21の割合で法制に反対している。

安倍氏は、日本の右翼国家主義者にアピールしているため、また日本政府と日本軍が犯した戦時の武力侵略と残虐行為を本心から認識し、後悔しているか、疑われているため、日本と近隣諸国の人びとに不信の目で見られている。目下の懸念は、彼が、長年にわたり平和主義を掲げてきた国を戦争に導くことである。

民主主義的な指導者たちは、重要な政策提案を支持するように有権者を説得し、変革が広く受け入れられることを可能にする手続きを踏んで、成功するものである。安倍氏は多くの日本人にとって、正しい手順を踏んでいる、あるいは未来に向けて進むための正しい道を選んでいるとは思えない。

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【クレジット】
本稿は、公益・教育目的の日本語翻訳稿。

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