2012年5月30日水曜日

チェルノブイリからの警告~OurPlanetTVインタビュー:エフゲーニア・ステバーノヴナ教授

4月に来日し、ベラルーシ科学アカデミーのミハイル・V・マリコ博士とともに日本各地で連日のように精力的な講演をなさったウクライナ国立放射線医学研究所のエフゲーニア・ステーバーノヴナ教授は、昨年12月にもグリーンピースの招きで来日され、そのさい、OurPlanetTVのインタビューをお受けになっています。そのお話しは、放射線の影響による子どもたちの健康被害の実情、強制避難区域などの基準、食品の放射線許容基準、子どもたちの保養プログラムなど、わたしたちに必要な情報を実にわかりやすく、しかもコンパクトに伝えてくれるものです。よって、ここに音声をテキストに起こすことにしました。
(注:出所OurPlanetTVでは、教授のお名前を「ステバーノワ」と表記しているが、ここでは前出の記事に合わせて「ステバーノヴナ」と変更する)
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[講演資料]エフゲーニア・ステバーノヴナ教授 「チエルノブイリと小児疾患」


チェルノブイリからの警告 〜5万人の子どもを診察した医学博士〜

OPTVstaff さんが 2011/12/15 にアップロード

いま、福島第一原発事故の影響による子どもへの健康被害が懸念されている。「チェルノブイリの事故では、被曝した子どもに何が起きているのか?」チェルノブイリ事故後にウ­クライナで5万人以上の子どもを健診したウクライナ放射線医学研究センターのエフゲーニャ・ステバーノヴナ博士に子どもたちへの健康影響について話を聞く。
ステパノワ博士の講演ビデオ(全編)
http://www.youtube.com/watch?v=e-RiD2cP6SY
白石草OurPlanetTVの白石草(はじめ)です。年間20ミリシーベルトという放射線基準は安全なのか、チェルノブイリ事故で被曝した子どもたちになにが起きているのか、いま福島第一原発事故の影響による子どもへの健康被害が懸念されています。今日の特集は、チェルノブイリからの警告、25年間、現地で子どもたちを診てきた専門家にお話をうかがいます。
ナレーション:エフゲーニャ・ステバーノヴナ博士、ウクライナ放射線医学研究センターの放射線小児先天遺伝研究室長です。今年10月には文部科学省の森ゆうこ副大臣がウクライナを訪れ、アドバイスを受けたことでも知られています。25年間で5万人以上の子どもたちを診察した経験のある博士は、チェルノブイリ事故後に起きた子どもに対する放射線の影響に関して、最も詳しいひとりといわれています。今回は国際的な環境NGO、グリーンピースの招聘(しょうへい)で来日しました。
白石:今日はウクライナ放射線医学研究センターのエフゲーニャ・ステバーノヴナ医学博士にお越しいただきました。よろしくお願いします。博士は25年間、5万人におよぶ子どもたちをウクライナで診ていらしたということなのですけれども、いま日本でもやはり子どもたちに対する健康への影響というのが一番の関心事となっています。まず25年前、事故直後のときから、どのような影響が子どもたちに出てきたのか、今までを振り返ってお話しいただきたいのですけど…
エフゲーニャ・ステバーノヴナ1986426日にチェルノブイリ事故が起こりました。そのとき放射能の雲がとてもたくさん発生しました。わたしたちはチェルノブイリ事故からこれまで、チェルノブイリの被災地域から避難した子どもたちの状況と、避難していない被災地域に残っている子どもたちの健康状況をずっと調査してまいりました。そのとき、子どもたちが一番どのような症状を訴えたかというと、いわゆる疲労が激しいとか、衰弱、神経不安定、頭痛、めまい、不眠、それから首の部分、特にそこには甲状腺がありますので、首の部分の痛みとか、そういうものを訴えることになりました。
ナレーション1986年当時、チェルノブイリ周辺の子どもたちは喉がいがらっぽい、鉄の味がする、咳が止まらない、疲れやすいなど、さまざまな症状を訴えていました。ステバーノヴナ博士の診断によると、呼吸器やリンパなどでさまざまな障害が出ていたといいます。
その後90年代にかけて、子どもたちのあいだには極度の疲労、衰弱、頭痛、めまい、不眠など、さらに深刻な症状が見られました。ステバーノヴナ博士は動脈圧の不安定、肺の吸気機能障害、心臓の機能変化、胃の機能障害などが現れてきたといいます。
ステバーノヴナ:そのような子どもたちの動脈圧の低下というもの、不安定なのですね。動脈圧が上がったり下がったりするのも、わたしたちは発見しました。心臓の辺りの不快感、それから免疫システムの障害、呼吸器官の疾患にも、わたしたちは気づきました。たとえば運動とか勉強とかすると、かなり抵抗力がないというか、我慢ができない。いつもではありませんが、肝臓障害もときどき見られることになります。91年、92年、93年にかけて、そういう症状がしだいに慢性的な傾向を示すようになりました。どのような慢性的な病気が見られるかというと、たとえば肺とか肝臓、脾臓(ひぞう)、胃などの慢性的な病気の症状が見られるようになりました。慢性的な病気をもった子どもたちの数がだんだん増えていき、健康な子どもたちの数が減っていきました。
説明いたしますと、右が慢性的な病気をもった子どもたちですね。左の棒グラフが健康な子どもです。この図からわかるように、健康な子どもの数が減り、慢性病をもった子どもの数が増えているのが、このグラフからわかると思います。
このグラフからわかることは、甲状腺に被曝を受けた線量が高ければ高いほど、たとえば右の棒グラフですけれど、0.3、単位はグレイです。甲状腺の被曝線量が高ければ高いほど、一番右は2.0グレイですけれども、高ければ高いほど、健康な子どもの割合が小さくなっているのが、このグラフからわかると思います。
白石:いまプリピャチから避難した子どもは、45000人のうち17000人いるとお話しいただいたと思うのですが、ウクライナでは4つのゾーンで避難とか、あるいは放射線管理をすると聞いているのですが、最初の立ち入り禁止区域はすぐに実行されたと思うのですが、その他の線量を測ってから避難というのは、だいたいいつごろ行われたのか、おわかりになりますか。
ステバーノヴナ:わたしたちのところでは、避難は1986年でもすでに行われ、第1時期以外でもすでに行われていました。放射線を測った結果、高濃度であるとわかった場所から避難が始まりました。それは555キロベクレル/平方メートルあたりの汚染度があったところです。そこからの人々がまず非難させられました。放射能の雲はさまざまな場所に点在していったわけでして、第2区域の人たち、年間5ミリシーベルト以上の被曝量があるところの人たちも強制移住の対象になりました。そして、第3区域に住んでいる人たち、これは自分たちが避難したければ避難するという地域でありまして、それで受ける被曝量は年間で1ミリシーベルト以上です。それで第4区域に住んでいる人たちは、どこにも移住するわけではなく、そこに住んでいますが、健康管理の観察対象になるというわけです。この地域は、放射線の環境状況がずっと管理対象になるということです。
5月18日「アレキサンドル・ヴェルキン講演会」資料より
白石:ひとつ気になるのは、先ほどプリピャチから避難された人たちとか、あるいは消防作業にかかわったお子さんたちは非常に健康が不調だということはわかるんですけども、それ以外のたとえば、この2番、3番の地域に暮らすような子どもたちのあいだで、健康上のなにか観察されることがあるのかどうか、日本のなかでは関心があるのですけれど、そこらあたりのところはどうなのでしょうか。
ステバーノヴナ:もちろん同じように健康の悪化は見られますし、慢性病の傾向ももちろん高くなっています。特にわたしが指摘したいには、そういった子どもたちのなかで一番症状が悪く見られる場所というのは、胃腸管です。それはどうしてかというと、汚染地域というのは基本的には農村地域であります。ですから地元産の汚染されたところで、自分たちの親たちが作った野菜とかを食べているわけです。それと同時にもうひとついえることは、牛の問題があります。汚染された地域で牛を放牧していると、汚染された草を食べた牛から出てくる牛乳は当然のごとく汚染されています。そしてウクライナで牛乳はもっとも重要な子どもたちの栄養の主要源になっています。
白石:こちらのほうで説明していただきたいのですけれど、これは消化器官の疾患が増えてきているという…
ステバーノヴナ:この図の説明を簡単にしますと、まず下のほうの折れ線グラフが見えますね。その部分というのは、ウクライナの被曝していない子どもたちに見られる消化器官の疾患レベルを示しています。これを見ると残念ながら、ウクライナの被曝していない子どもたちは、かなり消化器官系の病気がかなり多いということがわかると思います。それと比較しますと、今度は上のほうですけれども、最も汚染された地域の子どもたちに見られる消化器官の疾患レベルです。それを比較してみると、汚染された地域からの子どもたちのレベルがかなり高いということがわかります。
白石:消化器系の疾患が増えているということなのですけれども、ウクライナ全体で見たときに、もちろん甲状腺がんのかたの人数ははっきり出ているのですが、ざっと見て、たとえば保養が必要だとか、あるいは保養は必要ないかもしれないけれども、じゃっかん体調が不調だったり感染症に弱かったりとか、なんらかの健康的な問題、いわゆる元気でない子といったのは、どのぐらいの割合というか…
ステバーノヴナ:現在、データとしては健康な子どもが27パーセントで、なんらかの病気を抱えている子どもたちは70パーセントもいるわけです。ですから、これはわたしたちのウクライナの状況にかかわっているかもしれませんけれども、残念なことにウクライナの子どもたちはあまりいい環境にいるとはいえないですね。被災した子どもたちから、人たちからいえば、たぶん健康な子どもたちの数は27パーセントよりもっと低くて、その2分の1になってしまうでしょう。もし、わたしたちがなにも手立てを施さなかったら、健康な子どもの数はもっと悪くなっていたでしょう。
白石:ウクライナでは子どもたちの健康のためにどのような対策がとられているのか、そこのところもわたしたちの参考になると思うのですけれども…
ステバーノヴナ:第一に、汚染されていない食品をなるだけとるようにしています。わたしたちの国では、幼稚園とか学校において食事はすべて無料で提供されております。それぞれの行政地区において自分たちの菜園でつくった食品の放射能の検査をする放射能検査センターがあります。自分たちがつくった野菜をそこに持ってきて、無料で数値を測ることができます。食料に関しての許容基準が決められていて、その許容基準より高い場合には食用にしてはいけないことになっています。特に厳しい基準が決められているのは、子どものための食品です。子どもが小さければ小さいほど、体が放射能に対して敏感に反応するからです。
ナレーション:日本の食品の暫定基準値は、一律1キログラムあたり500ベクレル、水は1キログラムあたり200ベクレルに定められています。これに対しウクライナでは、果物は70ベクレル、じゃがいもは60ベクレル、野菜は40ベクレル、パン、パン製品は20ベクレル、卵は6ベクレル、水は1リットルあたり2ベクレルと定められています。
白石:ウクライナでは、子どもの基準があるわけですけれども、いま日本では、ご存知でないかもしれませんが、食品は一律500ベクレル/キログラムという基準で、いま見直しをしているところなのですが、やはり今のお話しを聞いていると、子どもたちに対してはより厳しい基準を設けたほうが、安心なのではないかといえるのでしょうか。

(注:4月施行の新基準値[単位:ベクレル/1キログラム]一般食品:100、乳児用食品:50、牛乳:50、飲料水:10
ステバーノヴナ:子どもたちに対して特別につくられている基準は、食品によって決まっています。基本的には食料品それぞれに対して決まっているのは、1キログラムおよび1リットル、牛乳なのですが、100ベクレルなのです。だけど具体的に子どもに関しては1リットルもしくは1キログラムあたり40というふうになっていて、基本的には大人と子どもと比べると子どものほうが厳しいということになります。それぞれの住民の人たちは自分たちがつくった野菜とか肉とか、牛乳とか、そういうものを持って計測センターに行くわけです。その計測センターには必ずすごく厚い説明書があって、そのなかにこの食品はいくらというふうに全部、基準が書かれています。その基準に従って専門家の人たちが、この肉はいいけれど、この野菜はだめ、このフルーツはいいけれど、この野菜はだめとか、ちゃんと厳しくそれに対して答えを出します。放射線が高かった場合、どのようにすべきか、その先を教えてゆきます。たとえば肉のなかにある放射性物質とか野菜のなかにある放射性物質とかを少なくするためには、どういうふうにすべきなのかというような、つまりこれはわたしたちからいえば、できるだけ多くの人たちに衛生面での啓蒙教育・啓蒙活動というのを常に行っているわけです。
たとえば簡単な例を出しますと、汚染されていたミルク、それをチーズに加工する。そうすると放射性物質の量は10分の1になります。
白石:健康診断もさまざまに行われていると聞きましたけれども、現状、どのような健康診断を子どもに対して、あるいは大人に対してもそうでしょうけれども、どのような体制で、どのような診察というかですね、あるいは完了されているのか、そこのところを教えていただけますか。
ステバーノヴナ:まずウクライナでは、法律が採択されています。そこになにが書かれているかというと、汚染地域に住んでいる人たちの健康に対するモニタリングを行う国および地方自治体、医療関係者、社旗保障分野の関係者が行うべき義務およびその権利について詳しく書かれています。この法律に従って、子どもたちは1年に1回それぞれの各専門家の医者のもとで総合的な健康診断を受けることになります。どのような分野の医者かというと、小児科、血液科、内分泌科、神経科、咽頭科、眼科、それと外科、歯医者です。そのほかに子どもたちは必ず血液検査を受けます。尿検査も行います。そして甲状腺などに関し、超音波診断が行われますし、それと同時に体内放射性物質の活動がどのように起こっているかについても調べます。そして子どもたちになにか偏向が見られたら、悪い傾向が見られたら、治療に送られます。
チェルノブイリ事故の被災した州はちゃんと決まっておりまして、その被災した州にはチェルノブイリ事故被災者を治療する病院があります。もっとより深刻な病気が見つかった場合、それから放射性セシウムの量がかなり高いレベルで見つかった場合、そういった子どもたちはわたしたちのウクライナ科学アカデミー、医学アカデミーの放射線医学研究所に送られます。
そして、ここでいっておきたいことは、ウクライナの憲法によって大人も子どもも医療に関しては無料となっています。
白石:いま検査体制の話をうかがいまして、7つの分野の専門家がさまざまなところをチェックするということなのですけれど、いま日本でも健康調査が始まっておりまして、ただチェックするところは、基本的に甲状腺がんしかチェルノブイリで観察されていないということで、その他の部分を確認するような体制にはなっていないのですけれども、こういう体制になったのもいろいろな背景があると思うのですけれど、甲状腺がんも早め早めにわかれば、治療はできるというふうには聞いておりますけれど、なにかその点で健康の経過を見ていく、子どもたちを見ていく過程で重要なことというのは、どういうふうにお考えでしょうか。
ステバーノヴナ:甲状腺がんは確かにチェルノブイリ原子力事故の影響で一番大きな病気となりました。他の病気、いまわたしがお話しした病気に関してはさまざまな議論が呼び起こされています。ほんとうに放射能の影響であるか、それともまったく放射能の影響ではないとか、さまざまな議論が行われています。この問題はまだ解決しておりません。しかしながら、甲状腺がんに関しては国際社会が認めているのですが、甲状腺がんは明らかに甲状腺に放射性ヨウ素を受けたことによって発生したと認められています。事故直後しばらくは甲状腺がんも関係があるとはまだ認められていませんでした。後は認めるようになったわけですが、国際社会の意見は変化することがあります。いずれにしてもわかっていることは、子どもたちの健康の状況は悪くなっているということです。そして子どもたちの健康を維持するためになにをすることが必要かといえば、時機を逃すことなく適切に治療を行うこと、予防対策をとること。そのためにわたしたちは現在も健康診断を行っております。
白石:最後に一点だけ、すでにちょっと体調が…博士がおっしゃるように疲れやすいとか、いろいろな症状の出ている子どもたちの…福島県内を含めてですね…いろいろ出てきているのですけれども、国際社会が認めているひとつとして、甲状腺がんがあるということで、これに関して日本のなかでもかなり態勢をつくって診断体制から、おそらく治療も日本の医療は非常に高いレベルで、お金もありますので、そういう意味では早期発見はできるのではないかというふうに多くの人びとが思っているのですが、いまやはり多くの親たちが心配しているのが、年間20ミリシーベルト以上の地域は避難地域になっておりますけれども、それよりも低い地域は避難していない地域ですから、そこの地域のなかで、たとえばチェルノブイリの汚染地帯の子どものように将来的にさまざまな複合的な健康被害が出るのではないか…そういうものを防ぐために、いったいいまなにができるのか、ということが関心事にあるのですけれども、争いになっている、議論になっているということで、それが直接放射能と関係があるかないかということは、なかなかいまの状況でははっきりおっしゃることは難しいとはいえ、なにかそういった不安を抱えている日本の多くの親、あるいは地域の人びとに対してアドバイスできるとしたら、どういうことがあるのか教えてください。
ステバーノヴナ:まず一番重要なのは健康的な生活を送ることです。どういうことかというと、汚染されていない食品で食べ物をとること、それから十分なビタミンをとること、体力増進に努めること、もうひとつ重要なことは1年に1回でもいいですから、汚染地域から離れて保養施設などで休むこと。わたしたちの経験からいって、子どもたちが汚染されていない地域に移るとき、保養に行くときですが、まず新しい先に適応するためにも時間がかかるし、そこで健康増進を図って、治療をするわけですが、そのためにはやはり最低でも4週間は必要ではないかとわたしたちは思っております。この施設ですが、事故直後、1ヶ月の場合があれば、2ヶ月の場合、3ヶ月の場合…いろいろな場合があったのですが、保養に行くときは子どもたちが通っている学校単位で行くわけです。つまり教師たちが一緒に付いていって、保養施設で健康増進を図ると同時に、勉強もするわけです。だから、勉強が遅れるということはありません。いま25年経過して、実際には直後のような被曝線量を受けているわけではありません。ですから、いまはだいたい4週間ぐらいです。経済的な問題もあるから4週間になっていますが、線量も低くなっているということもあります。もし子どもたちを汚染されていない地域に保養に送ったとすると、1年間に受ける年間線量の10パーセントは少なくすることができるわけです。
白石:これから日本はチェルノブイリの経験なども学びながら、いろいろな対策をしたり、わたしたちのできることをやっていきたいと思うのですけれど、最後に博士から日本の人たちにメッセージをお願いしたいと思います。
ステバーノヴナ:もう一度、みなさま、子どもたち、そしてご家族の健康をお祈りいたします。そして、みなさまが遭われた不幸に立ち向かう勇気をもっていただきたいと思います。わたしたちも不幸な目に遭いました。しかしながら、いろいろな助けを借りて、わたしたちも順調に戻っています。その不幸から得た経験というものを、病気の経験を医療関係者、そして当局、国へと伝えていけたらいいと思います。わたしたちが得た経験を、わたしたちはみなさまがたに使っていただく用意があります。
白石:今日は、ステバーノヴナ先生、ありがとうございました。
白石:ウクライナの子どもたちへの健康影響について、エフゲーニア・ステバーノヴナ博士にお話しをうかがいました。OurPlanetTVは、みなさまの寄付によって番組を制作している非営利の独立メディアです。朝日ニュースターで新年に放送する2時間の特別番組「私たちの未来は大丈夫?子どもが考える原発と被曝」はいま順調に取材が続いています。ぜひ番組作りを支援してください。では、また来週。

2012年5月28日月曜日

人権侵害状況の今、子どもの権利条約を読む


 3.11原発震災後の2011419日、文部科学省は福島県教育委員会・福島県知事など宛てに「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について(通知)」を伝えました。福島県内の広大な地域が高レベルに放射能汚染したのを受けて、法的根拠のない民間団体である 国際放射線防護委員会(ICRPPublication109(緊急時被曝の状況における公衆の防護のための助言)を唯一の根拠として、国内法の規定を無視して、子どもたちの年間被曝許容基準を1ミリシーベルトから20ミリシーベルトへと一方的な引き上げたのです。
その後、この文部科学省通知が一人歩きし、原発事故から1年以上もたった今でも事実上あらゆる場面で20ミリシーベルト/年が判断基準になっています。
このような状況が、人権を侵害するものであり、日本国憲法、国連人権宣言、子どもの権利条約などに違反することはあまりにも明確です。
ここでは、なにが間違っているか、現状を考えるよすがにするために、子どもの権利条約を改めて読んでみたいと思います。
【凡例】解説 ●条文


「児童の権利に関する条約」
全文ユニセフ協会抄訳付き
前文
 この条約の締約国は、
 国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎を成すものであることを考慮し、
 国際連合加盟国の国民が、国際連合憲章において、基本的人権並びに人間の尊厳及び価値に関する信念を改めて確認し、かつ、一層大きな自由の中で社会的進歩及び生活水準の向上を促進することを決意したことに留意し、
 国際連合が、世界人権宣言及び人権に関する国際規約において、すべての人は人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしに同宣言及び同規約に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明し及び合意したことを認め、
 国際連合が、世界人権宣言において、児童は特別な保護及び援助についての権利を享有することができることを宣明したことを想起し、
 家族が、社会の基礎的な集団として、並びに家族のすべての構成員、特に、児童の成長及び福祉のための自然な環境として、社会においてその責任を十分に引き受けることができるよう必要な保護及び援助を与えられるべきであることを確信し、
 児童が、その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め、
 児童が、社会において個人として生活するため十分な準備が整えられるべきであり、かつ、国際連合憲章において宣明された理想の精神並びに特に平和、尊厳、寛容、自由、平等及び連帯の精神に従って育てられるべきであることを考慮し、
 児童に対して特別な保護を与えることの必要性が、1924年の児童の権利に関するジュネーヴ宣言及び19591120日に国際連合総会で採択された児童の権利に関する宣言において述べられており、また、世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約(特に第23条及び第24条)、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(特に第10条)並びに児童の福祉に関係する専門機関及び国際機関の規程及び関係文書において認められていることに留意し、
 児童の権利に関する宣言において示されているとおり「児童は、身体的及び精神的に未熟であるため、その出生の前後において、適当な法的保護を含む特別な保護及び世話を必要とする。」ことに留意し、
 国内の又は国際的な里親委託及び養子縁組を特に考慮した児童の保護及び福祉についての社会的及び法的な原則に関する宣言、少年司法の運用のための国際連合最低基準規則(北京規則)及び緊急事態及び武力紛争における女子及び児童の保護に関する宣言の規定を想起し、
 極めて困難な条件の下で生活している児童が世界のすべての国に存在すること、また、このような児童が特別の配慮を必要としていることを認め、
 児童の保護及び調和のとれた発達のために各人民の伝統及び文化的価値が有する重要性を十分に考慮し、
 あらゆる国特に開発途上国における児童の生活条件を改善するために国際協力が重要であることを認めて、
 次のとおり協定した。


1
1  子どもの定義
18歳になっていない人を子どもとします。
 この条約の適用上、児童とは、18歳未満のすべての者をいう。ただし、当該児童で、その者に適用される法律によりより早く成年に達したものを除く。
2条 差別の禁止
すべての子どもは、みんな平等にこの条約にある権利をもっています。子どもは、国のちがいや、男か女か、どのようなことばを使うか、どんな宗教を信じているか、どんな意見をもっているか、心やからだに障害があるかないか、お金持ちであるかないか、などによって差別されません。
1 締約国は、その管轄の下にある児童に対し、児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する。
2 締約国は、児童がその父母、法定保護者又は家族の構成員の地位、活動、表明した意見又は信念によるあらゆる形態の差別又は処罰から保護されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。
3条 子どもにとってもっともよいことを
子どもに関係のあることを行うときには、子どもにもっともよいことは何かを第一に考えなければなりません。
1 児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。
2 締約国は、児童の父母、法定保護者又は児童について法的に責任を有する他の者の権利及び義務を考慮に入れて、児童の福祉に必要な保護及び養護を確保することを約束し、このため、すべての適当な立法上及び行政上の措置をとる。
3 締約国は、児童の養護又は保護のための施設、役務の提供及び設備が、特に安全及び健康の分野に関し並びにこれらの職員の数及び適格性並びに適正な監督に関し権限のある当局の設定した基準に適合することを確保する。
4条 国の義務
国は、この条約に書かれた権利を守るために、できるかぎりのことをしなければなりません。
 締約国は、この条約において認められる権利の実現のため、すべての適当な立法措置、行政措置その他の措置を講ずる。締約国は、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、自国における利用可能な手段の最大限の範囲内で、また、必要な場合には国際協力の枠内で、これらの措置を講ずる。
5条 親の指導を尊重
(保護者)は、子どもの心やからだの発達に応じて、適切な指導をしなければなりません。 国は、親の指導する権利を大切にしなければなりません。
 締約国は、児童がこの条約において認められる権利を行使するに当たり、父母若しくは場合により地方の慣習により定められている大家族若しくは共同体の構成員、法定保護者又は児童について法的に責任を有する他の者がその児童の発達しつつある能力に適合する方法で適当な指示及び指導を与える責任、権利及び義務を尊重する。
6条 生きる権利・育つ権利
すべての子どもは、生きる権利をもっています。国はその権利を守るために、できるかぎりのことをしなければなりません。
1 締約国は、すべての児童が生命に対する固有の権利を有することを認める。
2 締約国は、児童の生存及び発達を可能な最大限の範囲において確保する。
7条 名前・国籍をもつ権利
子どもは、生まれたらすぐに登録(出生届など)されなければなりません。子どもは、名前や国籍をもち、親を知り、親に育ててもらう権利をもっています。
1 児童は、出生の後直ちに登録される。児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。
2 締約国は、特に児童が無国籍となる場合を含めて、国内法及びこの分野における関連する国際文書に基づく自国の義務に従い、1の権利の実現を確保する。
8条 名前・国籍・家族関係を守る
国は、子どもの名前や国籍、家族の関係がむやみにうばわれることのないように守らなくてはなりません。もし、これがうばわれたときには、国はすぐにそれを元どおりにしなければなりません。
1 締約国は、児童が法律によって認められた国籍、氏名及び家族関係を含むその身元関係事項について不法に干渉されることなく保持する権利を尊重することを約束する。
2 締約国は、児童がその身元関係事項の一部又は全部を不法に奪われた場合には、その身元関係事項を速やかに回復するため、適当な援助及び保護を与える。
9条 親と引き離されない権利
子どもは、親といっしょにくらす権利をもっています。ただし、それが子どもにとってよくない場合は、はなれてくらすことも認められます。はなれてくらすときにも、会ったり連絡したりすることができます。
1 締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。このような決定は、父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。
2 すべての関係当事者は、1の規定に基づくいかなる手続においても、その手続に参加しかつ自己の意見を述べる機会を有する。
3 締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。
4 3の分離が、締約国がとった父母の一方若しくは双方又は児童の抑留、拘禁、追放、退去強制、死亡(その者が当該締約国により身体を拘束されている間に何らかの理由により生じた死亡を含む。)等のいずれかの措置に基づく場合には、当該締約国は、要請に応じ、父母、児童又は適当な場合には家族の他の構成員に対し、家族のうち不在となっている者の所在に関する重要な情報を提供する。ただし、その情報の提供が児童の福祉を害する場合は、この限りでない。締約国は、更に、その要請の提出自体が関係者に悪影響を及ぼさないことを確保する。
10条 他の国にいる親と会える権利
国は、はなればなれになっている家族がお互いに会いたい、もう一度いっしょにくらしたい、と思うときには、できるだけ早く国を出たり入ったりすることができるように扱わなければなりません。親がちがう国に住んでいても、子どもはいつでも親と連絡をとることができます。
1 前条1の規定に基づく締約国の義務に従い、家族の再統合を目的とする児童又はその父母による締約国への入国又は締約国からの出国の申請については、締約国が積極的、人道的かつ迅速な方法で取り扱う。締約国は、更に、その申請の提出が申請者及びその家族の構成員に悪影響を及ぼさないことを確保する。
2 父母と異なる国に居住する児童は、例外的な事情がある場合を除くほか定期的に父母との人的な関係及び直接の接触を維持する権利を有する。このため、前条1の規定に基づく締約国の義務に従い、締約国は、児童及びその父母がいずれの国(自国を含む。)からも出国し、かつ、自国に入国する権利を尊重する。出国する権利は、法律で定められ、国の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の権利及び自由を保護するために必要であり、かつ、この条約において認められる他の権利と両立する制限にのみ従う。
11条 よその国に連れさられない権利
国は、子どもがむりやり国の外へ連れ出されたり、自分の国にもどれなくなったりしないようにしなければなりません。
1 締約国は、児童が不法に国外へ移送されることを防止し及び国外から帰還することができない事態を除去するための措置を講ずる。
2 このため、締約国は、二国間若しくは多数国間の協定の締結又は現行の協定への加入を促進する。
12条 意見を表す権利
子どもは、自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利をもっています。その意見は、子どもの発達に応じて、じゅうぶん考慮されなければなりません。
1 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
2 このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。
13条 表現の自由
子どもは、自由な方法でいろいろな情報や考えを伝える権利、知る権利をもっています。ただし、ほかの人に迷惑をかけてはなりません。
1 児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
2 1の権利の行使については、一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。
a) 他の者の権利又は信用の尊重
b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護
14条 思想・良心・宗教の自由
子どもは、思想・良心および宗教の自由についての権利を尊重されます。親(保護者)は、このことについて、子どもの発達に応じた指導をする権利および義務をもっています。
1 締約国は、思想、良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重する。
2 締約国は、児童が1の権利を行使するに当たり、父母及び場合により法定保護者が児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法で指示を与える権利及び義務を尊重する。
3 宗教又は信念を表明する自由については、法律で定める制限であって公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要なもののみを課することができる。
15条 結社・集会の自由
子どもは、ほかの人びとと自由に集まって会をつくったり、参加したりすることができます。ただし、安全を守り、きまりに反しないなど、ほかの人に迷惑をかけてはなりません。
1 締約国は、結社の自由及び平和的な集会の自由についての児童の権利を認める。
2 1の権利の行使については、法律で定める制限であって国の安全若しくは公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳の保護又は他の者の権利及び自由の保護のため民主的社会において必要なもの以外のいかなる制限も課することができない。
16条 プライバシー・名誉は守られる
子どもは、自分のこと、家族のくらし、住んでいるところ、電話や手紙など、人に知られたくないときは、それを守ることができます。また、他人から誇りを傷つけられない権利があります。
1 いかなる児童も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。
2 児童は、1の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。
17条 適切な情報の入手
子どもは、自分の成長に役立つ多くの情報を手に入れることができます。国は、マスメディア(本・新聞・テレビなど)が、子どものためになる情報を多く提供するようにすすめ、子どもによくない情報から子どもを守らなければなりません。
 締約国は、大衆媒体(マス・メディア)の果たす重要な機能を認め、児童が国の内外の多様な情報源からの情報及び資料、特に児童の社会面、精神面及び道徳面の福祉並びに心身の健康の促進を目的とした情報及び資料を利用することができることを確保する。このため、締約国は、
a) 児童にとって社会面及び文化面において有益であり、かつ、第29条の精神に沿う情報及び資料を大衆媒体(マス・メディア)が普及させるよう奨励する。
b) 国の内外の多様な情報源(文化的にも多様な情報源を含む。)からの情報及び資料の作成、交換及び普及における国際協力を奨励する。
c) 児童用書籍の作成及び普及を奨励する。
d) 少数集団に属し又は原住民である児童の言語上の必要性について大衆媒体(マス・メディア)が特に考慮するよう奨励する。
e) 第13条及び次条の規定に留意して、児童の福祉に有害な情報及び資料から児童を保護するための適当な指針を発展させることを奨励する。
18条 子どもの養育はまず親に責任
子どもを育てる責任は、まずその父母にあります。国はその手助けをします。
1 締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合により法定保護者は、児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。児童の最善の利益は、これらの者の基本的な関心事項となるものとする。
2 締約国は、この条約に定める権利を保障し及び促進するため、父母及び法定保護者が児童の養育についての責任を遂行するに当たりこれらの者に対して適当な援助を与えるものとし、また、児童の養護のための施設、設備及び役務の提供の発展を確保する。
3 締約国は、父母が働いている児童が利用する資格を有する児童の養護のための役務の提供及び設備からその児童が便益を受ける権利を有することを確保するためのすべての適当な措置をとる。
19条 虐待・放任からの保護
親(保護者)が子どもを育てている間、どんなかたちであれ、子どもが暴力をふるわれたり、むごい扱いなどを受けたりすることがないように、国は子どもを守らなければなりません。
1 締約国は、児童が父母、法定保護者又は児童を監護する他の者による監護を受けている間において、あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取(性的虐待を含む。)からその児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる。
2 1の保護措置には、適当な場合には、児童及び児童を監護する者のために必要な援助を与える社会的計画の作成その他の形態による防止のための効果的な手続並びに1に定める児童の不当な取扱いの事件の発見、報告、付託、調査、処置及び事後措置並びに適当な場合には司法の関与に関する効果的な手続を含むものとする。
20条 家庭を奪われた子どもの保護
子どもは、家族といっしょにくらせなくなったときや、家族からはなれた方がその子どもにとってよいときには、かわりの保護者や家庭を用意してもらうなど、国から守ってもらうことができます。
1 一時的若しくは恒久的にその家庭環境を奪われた児童又は児童自身の最善の利益にかんがみその家庭環境にとどまることが認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する。
2 締約国は、自国の国内法に従い、1の児童のための代替的な監護を確保する。
3 2の監護には、特に、里親委託、イスラム法の力ファーラ、養子縁組又は必要な場合には児童の監護のための適当な施設への収容を含むことができる。解決策の検討に当たっては、児童の養育において継続性が望ましいこと並びに児童の種族的、宗教的、文化的及び言語的な背景について、十分な考慮を払うものとする。
21条 養子縁組
子どもを養子にする場合には、その子どもにとって、もっともよいことを考え、その子どもや新しい父母のことをしっかり調べたうえで、国や公の機関だけがそれを認めることができます。
 養子縁組の制度を認め又は許容している締約国は、児童の最善の利益について最大の考慮が払われることを確保するものとし、また、
a) 児童の養子縁組が権限のある当局によってのみ認められることを確保する。この場合において、当該権限のある当局は、適用のある法律及び手続に従い、かつ、信頼し得るすべての関連情報に基づき、養子縁組が父母、親族及び法定保護者に関する児童の状況にかんがみ許容されること並びに必要な場合には、関係者が所要のカウンセリングに基づき養子縁組について事情を知らされた上での同意を与えていることを認定する。
b) 児童がその出身国内において里親若しくは養家に託され又は適切な方法で監護を受けることができない場合には、これに代わる児童の監護の手段として国際的な養子縁組を考慮することができることを認める。
c) 国際的な養子縁組が行われる児童が国内における養子縁組の場合における保護及び基準と同等のものを享受することを確保する。
d) 国際的な養子縁組において当該養子縁組が関係者に不当な金銭上の利得をもたらすことがないことを確保するためのすべての適当な措置をとる。
e) 適当な場合には、二国間又は多数国間の取極又は協定を締結することによりこの条の目的を促進し、及びこの枠組みの範囲内で他国における児童の養子縁組が権限のある当局又は機関によって行われることを確保するよう努める。
22条 難民の子ども
ちがう宗教を信じているため、自分の国の政府と違う考え方をしているため、また、戦争や災害がおこったために、よその国にのがれた子ども(難民の子ども)は、その国で守られ、援助を受けることができます。
1 締約国は、難民の地位を求めている児童又は適用のある国際法及び国際的な手続若しくは国内法及び国内的な手続に基づき難民と認められている児童が、父母又は他の者に付き添われているかいないかを問わず、この条約及び自国が締約国となっている人権又は人道に関する他の国際文書に定める権利であって適用のあるものの享受に当たり、適当な保護及び人道的援助を受けることを確保するための適当な措置をとる。
2 このため、締約国は、適当と認める場合には、1の児童を保護し及び援助するため、並びに難民の児童の家族との再統合に必要な情報を得ることを目的としてその難民の児童の父母又は家族の他の構成員を捜すため、国際連合及びこれと協力する他の権限のある政府間機関又は関係非政府機関による努力に協力する。その難民の児童は、父母又は家族の他の構成員が発見されない場合には、何らかの理由により恒久的又は一時的にその家庭環境を奪われた他の児童と同様にこの条約に定める保護が与えられる。
23条 障害のある子ども
心やからだに障害があっても、その子どもの個性やほこりが傷つけられてはなりません。国は障害のある子どもも充実してくらせるように、教育やトレーニング、保健サービスなどが受けられるようにしなければなりません。
1 締約国は、精神的又は身体的な障害を有する児童が、その尊厳を確保し、自立を促進し及び社会への積極的な参加を容易にする条件の下で十分かつ相応な生活を享受すべきであることを認める。
2 締約国は、障害を有する児童が特別の養護についての権利を有することを認めるものとし、利用可能な手段の下で、申込みに応じた、かつ、当該児童の状況及び父母又は当該児童を養護している他の者の事情に適した援助を、これを受ける資格を有する児童及びこのような児童の養護について責任を有する者に与えることを奨励し、かつ、確保する。
3 障害を有する児童の特別な必要を認めて、2の規定に従って与えられる援助は、父母又は当該児童を養護している他の者の資力を考慮して可能な限り無償で与えられるものとし、かつ、障害を有する児童が可能な限り社会への統合及び個人の発達(文化的及び精神的な発達を含む。)を達成することに資する方法で当該児童が教育、訓練、保健サービス、リハビリテーション・サービス、雇用のための準備及びレクリエーションの機会を実質的に利用し及び享受することができるように行われるものとする。
4 締約国は、国際協力の精神により、予防的な保健並びに障害を有する児童の医学的、心理学的及び機能的治療の分野における適当な情報の交換(リハビリテーション、教育及び職業サービスの方法に関する情報の普及及び利用を含む。)であってこれらの分野における自国の能力及び技術を向上させ並びに自国の経験を広げることができるようにすることを目的とするものを促進する。これに関しては、特に、開発途上国の必要を考慮する。
24条 健康・医療への権利
国は、子どもがいつも健康でいられるように、できるかぎりのことをしなければなりません。子どもは、病気になったときや、けがをしたときには、治療を受けることができます。
1 締約国は、到達可能な最高水準の健康を享受すること並びに病気の治療及び健康の回復のための便宜を与えられることについての児童の権利を認める。締約国は、いかなる児童もこのような保健サービスを利用する権利が奪われないことを確保するために努力する。
2 締約国は、1の権利の完全な実現を追求するものとし、特に、次のことのための適当な措置をとる。
a) 幼児及び児童の死亡率を低下させること。
b) 基礎的な保健の発展に重点を置いて必要な医療及び保健をすべての児童に提供することを確保すること。
c) 環境汚染の危険を考慮に入れて、基礎的な保健の枠組みの範囲内で行われることを含めて、特に容易に利用可能な技術の適用により並びに十分に栄養のある食物及び清潔な飲料水の供給を通じて、疾病及び栄養不良と闘うこと。
d) 母親のための産前産後の適当な保健を確保すること。
e) 社会のすべての構成員特に父母及び児童が、児童の健康及び栄養、母乳による育児の利点、衛生(環境衛生を含む。)並びに事故の防止についての基礎的な知識に関して、情報を提供され、教育を受ける機会を有し及びその知識の使用について支援されることを確保すること。
f) 予防的な保健、父母のための指導並びに家族計画に関する教育及びサービスを発展させること。
3 締約国は、児童の健康を害するような伝統的な慣行を廃止するため、効果的かつ適当なすべての措置をとる。
4 締約国は、この条において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、国際協力を促進し及び奨励することを約束する。これに関しては、特に、開発途上国の必要を考慮する。
25条 病院などの施設に入っている子ども
子どもは、心やからだの健康をとりもどすために病院などに入っているときに、その治療やそこでの扱いがその子どもにとってよいものであるかどうかを定期的に調べてもらうことができます。
 締約国は、児童の身体又は精神の養護、保護又は治療を目的として権限のある当局によって収容された児童に対する処遇及びその収容に関連する他のすべての状況に関する定期的な審査が行われることについての児童の権利を認める。
26条 社会保障を受ける権利
子どもやその家族が生活していくのにじゅうぶんなお金がないときには、国がお金をはらうなどして、くらしを手助けしなければなりません。
1 締約国は、すべての児童が社会保険その他の社会保障からの給付を受ける権利を認めるものとし、自国の国内法に従い、この権利の完全な実現を達成するための必要な措置をとる。
2 1の給付は、適当な場合には、児童及びその扶養について責任を有する者の資力及び事情並びに児童によって又は児童に代わって行われる給付の申請に関する他のすべての事項を考慮して、与えられるものとする。
27条 生活水準の確保
子どもは、心やからだのすこやかな成長に必要な生活を送る権利をもっています。親(保護者)はそのための第一の責任者ですが、親の力だけで子どものくらしが守れないときは、国も協力します。
1 締約国は、児童の身体的、精神的、道徳的及び社会的な発達のための相当な生活水準についてのすべての児童の権利を認める。
2 父母又は児童について責任を有する他の者は、自己の能力及び資力の範囲内で、児童の発達に必要な生活条件を確保することについての第一義的な責任を有する。
3 締約国は、国内事情に従い、かつ、その能力の範囲内で、1の権利の実現のため、父母及び児童について責任を有する他の者を援助するための適当な措置をとるものとし、また、必要な場合には、特に栄養、衣類及び住居に関して、物的援助及び支援計画を提供する。
4 締約国は、父母又は児童について金銭上の責任を有する他の者から、児童の扶養料を自国内で及び外国から、回収することを確保するためのすべての適当な措置をとる。特に、児童について金銭上の責任を有する者が児童と異なる国に居住している場合には、締約国は、国際協定への加入又は国際協定の締結及び他の適当な取決めの作成を促進する。
28条 教育を受ける権利
子どもには教育を受ける権利があります。国はすべての子どもが小学校に行けるようにしなければなりません。さらに上の学校に進みたいときには、みんなにそのチャンスが与えられなければなりません。学校のきまりは、人はだれでも人間として大切にされるという考え方からはずれるものであってはなりません。
1 締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため、特に、
a) 初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする。
b) 種々の形態の中等教育(一般教育及び職業教育を含む。)の発展を奨励し、すべての児童に対し、これらの中等教育が利用可能であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとし、例えば、無償教育の導入、必要な場合における財政的援助の提供のような適当な措置をとる。
c) すべての適当な方法により、能力に応じ、すべての者に対して高等教育を利用する機会が与えられるものとする。
d) すべての児童に対し、教育及び職業に関する情報及び指導が利用可能であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとする。
e) 定期的な登校及び中途退学率の減少を奨励するための措置をとる。
2 締約国は、学校の規律が児童の人間の尊厳に適合する方法で及びこの条約に従って運用されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。
3 締約国は、特に全世界における無知及び非識字の廃絶に寄与し並びに科学上及び技術上の知識並びに最新の教育方法の利用を容易にするため、教育に関する事項についての国際協力を促進し、及び奨励する。これに関しては、特に、開発途上国の必要を考慮する。
29条 教育の目的
教育は、子どもが自分のもっているよいところをどんどんのばしていくためのものです。教育によって、子どもが自分も他の人もみんな同じように大切にされるということや、みんなとなかよくすること、みんなの生きている地球の自然の大切さなどを学べるようにしなければなりません。
1 締約国は、児童の教育が次のことを指向すべきことに同意する。
a) 児童の人格、才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。
b) 人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重を育成すること。
c) 児童の父母、児童の文化的同一性、言語及び価値観、児童の居住国及び出身国の国民的価値観並びに自己の文明と異なる文明に対する尊重を育成すること。
d) すべての人民の間の、種族的、国民的及び宗教的集団の間の並びに原住民である者の理解、平和、寛容、両性の平等及び友好の精神に従い、自由な社会における責任ある生活のために児童に準備させること。
e) 自然環境の尊重を育成すること。
2 この条又は前条のいかなる規定も、個人及び団体が教育機関を設置し及び管理する自由を妨げるものと解してはならない。ただし、常に、1に定める原則が遵守されること及び当該教育機関において行われる教育が国によって定められる最低限度の基準に適合することを条件とする。
30条 少数民族・先住民の子ども
少数民族の子どもや、もとからその土地に住んでいる人びとの子どもが、その民族の文化や宗教、ことばをもつ権利を、大切にしなければなりません。
 種族的、宗教的若しくは言語的少数民族又は原住民である者が存在する国において、当該少数民族に属し又は原住民である児童は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。
31条 休み、遊ぶ権利
子どもは、休んだり、遊んだり、文化・芸術活動に参加する権利があります。
1 締約国は、休息及び余暇についての児童の権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利を認める。
2 締約国は、児童が文化的及び芸術的な生活に十分に参加する権利を尊重しかつ促進するものとし、文化的及び芸術的な活動並びにレクリエーション及び余暇の活動のための適当かつ平等な機会の提供を奨励する。
32条 経済的搾取・有害な労働からの保護
子どもは、むりやり働かされたり、そのために教育を受けられなくなったり、心やからだによくない仕事をさせられたりしないように守られる権利があります。
1 締約国は、児童が経済的な搾取から保護され及び危険となり若しくは児童の教育の妨げとなり又は児童の健康若しくは身体的、精神的、道徳的若しくは社会的な発達に有害となるおそれのある労働への従事から保護される権利を認める。
2 締約国は、この条の規定の実施を確保するための立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる。このため、締約国は、他の国際文書の関連規定を考慮して、特に、
a) 雇用が認められるための1又は2以上の最低年齢を定める。
b) 労働時間及び労働条件についての適当な規則を定める。
c) この条の規定の効果的な実施を確保するための適当な罰則その他の制裁を定める。
33条 麻薬・覚せい剤などからの保護
国は、子どもが麻薬や覚せい剤などを売ったり買ったり、使ったりすることにまきこまれないように守られなければなりません。
 締約国は、関連する国際条約に定義された麻薬及び向精神薬の不正な使用から児童を保護し並びにこれらの物質の不正な生産及び取引における児童の使用を防止するための立法上、行政上、社会上及び教育上の措置を含むすべての適当な措置をとる。
34条 性的搾取からの保護
国は、子どもがポルノや売買春などに利用されたり、性的な暴力を受けたりすることのないように守らなければなりません。
 締約国は、あらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から児童を保護することを約束する。このため、締約国は、特に、次のことを防止するためのすべての適当な国内、二国間及び多数国間の措置をとる。
a) 不法な性的な行為を行うことを児童に対して勧誘し又は強制すること。
b) 売春又は他の不法な性的な業務において児童を搾取的に使用すること。
c) わいせつな演技及び物において児童を搾取的に使用すること。
35条 誘拐・売買からの保護
国は、子どもが誘拐されたり、売り買いされたりすることのないように守らなければなりません。
 締約国は、あらゆる目的のための又はあらゆる形態の児童の誘拐、売買又は取引を防止するためのすべての適当な国内、二国間及び多数国間の措置をとる。
36条 あらゆる搾取からの保護
国は、どんなかたちでも、子どもの幸せをうばって利益を得るようなことから子どもを守らなければなりません。
 締約国は、いずれかの面において児童の福祉を害する他のすべての形態の搾取から児童を保護する。
37条 拷問・死刑の禁止
どんな子どもに対しても、拷問やむごい扱いをしてはなりません。また、子どもを死刑にしたり、死ぬまで刑務所に入れたりすることは許されません。もし、罪を犯して逮捕されても、人間らしく年齢にあった扱いを受ける権利があります。
 締約国は、次のことを確保する。
a) いかなる児童も、拷問又は他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けないこと。死刑又は釈放の可能性がない終身刑は、十八歳未満の者が行った犯罪について科さないこと。
b) いかなる児童も、不法に又は恣意的にその自由を奪われないこと。児童の逮捕、抑留又は拘禁は、法律に従って行うものとし、最後の解決手段として最も短い適当な期間のみ用いること。
c) 自由を奪われたすべての児童は、人道的に、人間の固有の尊厳を尊重して、かつ、その年齢の者の必要を考慮した方法で取り扱われること。特に、自由を奪われたすべての児童は、成人とは分離されないことがその最善の利益であると認められない限り成人とは分離されるものとし、例外的な事情がある場合を除くほか、通信及び訪問を通じてその家族との接触を維持する権利を有すること。
d) 自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有し、裁判所その他の権限のある、独立の、かつ、公平な当局においてその自由の剥奪の合法性を争い並びにこれについての決定を速やかに受ける権利を有すること。
38条 戦争からの保護
国は、15歳にならない子どもを兵士として戦場に連れていってはなりません。また、戦争にまきこまれた子どもを守るために、できることはすべてしなければなりません。
1 締約国は、武力紛争において自国に適用される国際人道法の規定で児童に関係を有するものを尊重し及びこれらの規定の尊重を確保することを約束する。
2 締約国は、15歳未満の者が敵対行為に直接参加しないことを確保するためのすべての実行可能な措置をとる。
3 締約国は、15歳未満の者を自国の軍隊に採用することを差し控えるものとし、また、15歳以上18歳未満の者の中から採用するに当たっては、最年長者を優先させるよう努める。
4 締約国は、武力紛争において文民を保護するための国際人道法に基づく自国の義務に従い、武力紛争の影響を受ける児童の保護及び養護を確保するためのすべての実行可能な措置をとる。
39条 犠牲になった子どもを守る
子どもがほうっておかれたり、むごいしうちを受けたり、戦争にまきこまれたりしたら、国はそういう子どもの心やからだの傷をなおし、社会にもどれるようにしなければなりません。
 締約国は、あらゆる形態の放置、搾取若しくは虐待、拷問若しくは他のあらゆる形態の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰又は武力紛争による被害者である児童の身体的及び心理的な回復及び社会復帰を促進するためのすべての適当な措置をとる。このような回復及び復帰は、児童の健康、自尊心及び尊厳を育成する環境において行われる。
40条 子どもに関する司法
国は、罪を犯したとされた子どもが、人間の大切さを学び、社会にもどったとき自分自身の役割をしっかり果たせるようになることを考えて、扱われなければなりません。
1 締約国は、刑法を犯したと申し立てられ、訴追され又は認定されたすべての児童が尊厳及び価値についての当該児童の意識を促進させるような方法であって、当該児童が他の者の人権及び基本的自由を尊重することを強化し、かつ、当該児童の年齢を考慮し、更に、当該児童が社会に復帰し及び社会において建設的な役割を担うことがなるべく促進されることを配慮した方法により取り扱われる権利を認める。
2 このため、締約国は、国際文書の関連する規定を考慮して、特に次のことを確保する。
a) いかなる児童も、実行の時に国内法又は国際法により禁じられていなかった作為又は不作為を理由として刑法を犯したと申し立てられ、訴追され又は認定されないこと。
b) 刑法を犯したと申し立てられ又は訴追されたすべての児童は、少なくとも次の保障を受けること。
i) 法律に基づいて有罪とされるまでは無罪と推定されること。
ii) 速やかにかつ直接に、また、適当な場合には当該児童の父母又は法定保護 者を通じてその罪を告げられること並びに防御の準備及び申立てにおいて弁 護人その他適当な援助を行う者を持つこと。
iii) 事案が権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関により法律に基づく公正な審理において、弁護人その他適当な援助を行う者の立会い及び、特に当該児童の年齢又は境遇を考慮して児童の最善の利益にならないと認められる場合を除くほか、当該児童の父母又は法定保護者の立会いの下に遅滞なく決定されること。
iv) 供述又は有罪の自白を強要されないこと。不利な証人を尋問し又はこれに対し尋問させること並びに対等の条件で自己のための証人の出席及びこれに対する尋問を求めること。
v) 刑法を犯したと認められた場合には、その認定及びその結果科せられた措置について、法律に基づき、上級の、権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関によって再審理されること。
vi) 使用される言語を理解すること又は話すことができない場合には、無料で通訳の援助を受けること。
vii) 手続のすべての段階において当該児童の私生活が十分に尊重されること。
3 締約国は、刑法を犯したと申し立てられ、訴追され又は認定された児童に特別に適用される法律及び手続の制定並びに当局及び施設の設置を促進するよう努めるものとし、特に、次のことを行う。
a) その年齢未満の児童は刑法を犯す能力を有しないと推定される最低年齢を設定すること。
b) 適当なかつ望ましい場合には、人権及び法的保護が十分に尊重されていることを条件として、司法上の手続に訴えることなく当該児童を取り扱う措置をとること。
4 児童がその福祉に適合し、かつ、その事情及び犯罪の双方に応じた方法で取り扱われることを確保するため、保護、指導及び監督命令、力ウンセリング、保護観察、里親委託、教育及び職業訓練計画、施設における養護に代わる他の措置等の種々の処置が利用し得るものとする。
41
 この条約のいかなる規定も、次のものに含まれる規定であって児童の権利の実現に一層貢献するものに影響を及ぼすものではない。
a) 締約国の法律
b) 締約国について効力を有する国際法


2
42
 締約国は、適当かつ積極的な方法でこの条約の原則及び規定を成人及び児童のいずれにも広く知らせることを約束する。
43
1 この条約において負う義務の履行の達成に関する締約国による進捗の状況を審査するため、児童の権利に関する委員会(以下「委員会」という。)を設置する。委員会は、この部に定める任務を行う。
2 委員会は、徳望が高く、かつ、この条約が対象とする分野において能力を認められた10人の専門家で構成する。委員会の委員は、締約国の国民の中から締約国により選出されるものとし、個人の資格で職務を遂行する。その選出に当たっては、衡平な地理的配分及び主要な法体系を考慮に入れる。
(※19951221日、「10人」を「18人」に改める改正が採択され、20021118日に同改正は発効した。)
3 委員会の委員は、締約国により指名された者の名簿の中から秘密投票により選出される。各締約国は、自国民の中から一人を指名することができる。
4 委員会の委員の最初の選挙は、この条約の効力発生の日の後6箇月以内に行うものとし、その後の選挙は、2年ごとに行う。国際連合事務総長は、委員会の委員の選挙の日の遅くとも4箇月前までに、締約国に対し、自国が指名する者の氏名を2箇月以内に提出するよう書簡で要請する。その後、同事務総長は、指名された者のアルファべット順による名簿(これらの者を指名した締約国名を表示した名簿とする。)を作成し、この条約の締約国に送付する。
5 委員会の委員の選挙は、国際連合事務総長により国際連合本部に招集される締約国の会合において行う。これらの会合は、締約国の3分の2をもって定足数とする。これらの会合においては、出席しかつ投票する締約国の代表によって投じられた票の最多数で、かつ、過半数の票を得た者をもって委員会に選出された委員とする。
6 委員会の委員は、4年の任期で選出される。委員は、再指名された場合には、再選される資格を有する。最初の選挙において選出された委員のうち5人の委員の任期は、2年で終了するものとし、これらの5人の委員は、最初の選挙の後直ちに、最初の選挙が行われた締約国の会合の議長によりくじ引で選ばれる。
7 委員会の委員が死亡し、辞任し又は他の理由のため委員会の職務を遂行することができなくなったことを宣言した場合には、当該委員を指名した締約国は、委員会の承認を条件として自国民の中から残余の期間職務を遂行する他の専門家を任命する。
8 委員会は、手続規則を定める。
9 委員会は、役員を2年の任期で選出する。
10 委員会の会合は、原則として、国際連合本部又は委員会が決定する他の適当な場所において開催する。委員会は、原則として毎年1回会合する。委員会の会合の期間は、国際連合総会の承認を条件としてこの条約の締約国の会合において決定し、必要な場合には、再検討する。
11 国際連合事務総長は、委員会がこの条約に定める任務を効果的に遂行するために必要な職員及び便益を提供する。
12 この条約に基づいて設置する委員会の委員は、国際連合総会が決定する条件に従い、同総会の承認を得て、国際連合の財源から報酬を受ける。
44
1 締約国は、(a)当該締約国についてこの条約が効力を生ずる時から2年以内に、(b)その後は5年ごとに、この条約において認められる権利の実現のためにとった措置及びこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告を国際連合事務総長を通じて委員会に提出することを約束する。
2 この条の規定により行われる報告には、この条約に基づく義務の履行の程度に影響を及ぼす要因及び障害が存在する場合には、これらの要因及び障害を記載する。当該報告には、また、委員会が当該国における条約の実施について包括的に理解するために十分な情報を含める。
3 委員会に対して包括的な最初の報告を提出した締約国は、1b)の規定に従って提出するその後の報告においては、既に提供した基本的な情報を繰り返す必要はない。
4 委員会は、この条約の実施に関連する追加の情報を締約国に要請することができる。
5 委員会は、その活動に関する報告を経済社会理事会を通じて2年ごとに国際連合総会に提出する。
6 締約国は、1の報告を自国において公衆が広く利用できるようにする。
45
 この条約の効果的な実施を促進し及びこの条約が対象とする分野における国際協力を奨励するため、
a) 専門機関及び国際連合児童基金その他の国際連合の機関は、その任務の範囲内にある事項に関するこの条約の規定の実施についての検討に際し、代表を出す権利を有する。委員会は、適当と認める場合には、専門機関及び国際連合児童基金その他の権限のある機関に対し、これらの機関の任務の範囲内にある事項に関するこの条約の実施について専門家の助言を提供するよう要請することができる。委員会は、専門機関及び国際連合児童基金その他の国際連合の機関に対し、これらの機関の任務の範囲内にある事項に関するこの条約の実施について報告を提出するよう要請することができる。
b) 委員会は、適当と認める場合には、技術的な助言若しくは援助の要請を含んでおり又はこれらの必要性を記載している締約国からのすべての報告を、これらの要請又は必要性の記載に関する委員会の見解及び提案がある場合は当該見解及び提案とともに、専門機関及び国際連合児童基金その他の権限のある機関に送付する。
c) 委員会は、国際連合総会に対し、国際連合事務総長が委員会のために児童の権利に関連する特定の事項に関する研究を行うよう同事務総長に要請することを勧告することができる。
d) 委員会は、前条及びこの条の規定により得た情報に基づく提案及び一般的な性格を有する勧告を行うことができる。これらの提案及び一般的な性格を有する勧告は、関係締約国に送付し、締約国から意見がある場合にはその意見とともに国際連合総会に報告する。


3
46
 この条約は、すべての国による署名のために開放しておく。
47
 この条約は、批准されなければならない。批准書は、国際連合事務総長に寄託する。
48
 この条約は、すべての国による加入のために開放しておく。加入書は、国際連合事務総長に寄託する。
49
1 この条約は、20番目の批准書又は加入書が国際連合事務総長に寄託された日の後30日目の日に効力を生ずる。
2 この条約は、20番目の批准書又は加入書が寄託された後に批准し又は加入する国については、その批准書又は加入書が寄託された日の後30日目に効力を生ずる。
50
1 いずれの締約国も、改正を提案し及び改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、直ちに、締約国に対し、その改正案を送付するものとし、締約国による改正案の審議及び投票のための締約国の会議の開催についての賛否を示すよう要請する。その送付の日から4箇月以内に締約国の3分の1以上が会議の開催に賛成する場合には、同事務総長は、国際連合の主催の下に会議を招集する。会議において出席しかつ投票する締約国の過半数によって採択された改正案は、承認のため、国際連合総会に提出する。
2 1の規定により採択された改正は、国際連合総会が承認し、かつ、締約国の3分の2以上の多数が受諾した時に、効力を生ずる。
3 改正は、効力を生じたときは、改正を受諾した締約国を拘束するものとし、他の締約国は、改正前のこの条約の規定(受諾した従前の改正を含む。)により引き続き拘束される。
51
1 国際連合事務総長は、批准又は加入の際に行われた留保の書面を受領し、かつ、すべての国に送付する。
2 この条約の趣旨及び目的と両立しない留保は、認められない。
3 留保は、国際連合事務総長にあてた通告によりいつでも撤回することができるものとし、同事務総長は、その撤回をすべての国に通報する。このようにして通報された通告は、同事務総長により受領された日に効力を生ずる。
52
 締約国は、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。廃棄は、同事務総長がその通告を受領した日の後1年で効力を生ずる。
53
 国際連合事務総長は、この条約の寄託者として指名される。
54
 アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際連合事務総長に寄託する。
 以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。