郡山市の小中学生14名が郡山市を相手に、年1ミリシーベルト以下の安全な場で教育を実施するように求めた仮処分を申し立てたのに対して、2011年12月16日、福島地方裁判所郡山支部は「却下」の決定を下した。
申し立てが6月24日であり、福島地裁は、仮処分訴訟としては6か月近くという異例の長期にわたる時間を費やしたことになる。この間に審尋(法廷)も3度にわたり開かれている。この間、債権者(原告)弁護団は、医師・松井英介、名古屋大学名誉教授・沢田昭二、琉球大学名誉教授矢ヶ崎克馬各氏の意見書、ECRR科学事務局長クリス・バズビー氏の論文など数々の証拠を重ね、郡山市における現状レベルの放射線被曝の健康におよぼす危険性について実証に意を尽くしている。また、学校集団疎開は行政に関わることであり、民事仮処分申し立てにはそぐわないとする債務者(被告)側の抗弁に対して、これはあくまでも14名の債権者本人たちの処遇に関わる申し立てであると債権者側は反論し、その趣旨を裁判所・債務者両者も了解していた。
ところが蓋を開けてみると、裁判所は、この仮処分申し立ての実質的な目的は郡山市内3万人の小中学生全員の強制的な疎開であると一方的に決めつけた。民事訴訟における仮処分に関わるのは、あくまでも14名の債権者なのだ。その他の郡山市の小中学生の疎開を考えるのは行政の問題である。
しかも裁判所は、郡山市の大半の地域の被曝量がチェルノブイリ事故後の強制移住基準値を超えているという債権者側の主張と、それを立証する数々の証拠をなんら検討することなく、「100mSv.未満の放射線量を受けた場合の癌などの晩発性障害の発生確率に対する影響については、実証的に確認されていない」、「直ちに生命身体に対する切迫した危険性が発生するとまでは認めることができない」と、どこかで聞いたような言い草を繰り返し、生身の小中学生たちの申し立てに却下を申し渡したのだ。
裁判所による棄却決定が破壊したのは、第一義的には、債権者である小中学生14名をはじめ、郡山市の子どもたち、被曝地で教育を受けているすべての子どもたちの生命身体を放射線被曝から守るための施策を政府や行政に要求する機会である。さらには、福島県における法の支配である。裁判所は法治主義をかなぐり捨て、いわゆる原子力ムラに群がる人治主義者たちにみずからを連ねてしまった。
郡山市だけでなく、原発震災被曝地・福島県は政・官・産・医・メディア複合体による、放射能のように目には見えない戒厳令体制の暗闇に閉ざされている。裁判所は、暗闇に光をもたらすどころか、いよいよ暗さを深めてしまった。だが、かつて田中正造が「辛酸入佳境」と喝破したように、希望の灯火は暗闇のなかでこそ明るく光る。
12月27日、債権者14名のうち10名は即時抗告を仙台高等裁判所に申し立てた。
子どもたちの命を守るための闘いの鍵は、日本の市民たち、そして世界の市民たちの注目と関心にあるはずだ。正月には、KBS(韓国放送公社)の特別報道番組がTV放映され、フランスの代表的な女性誌『マリークレール』が福島取材に入る予定である。ふくしま集団疎開裁判の会、および弁護団は、年初早々から広報に注力し、世界に向けてメッセージを発信する準備を進めている。
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