2016年6月27日月曜日

ゴールドシュミット2016横浜会議「東京に降ったセシウムはガラス質の微粒子で水に溶けない」


2016626

東京に降り注いだ放射性セシウムはガラス質微粒子に蓄積

ゴールドシュミット2016国際会議 GOLDSCHMIDTCONFERENCE

新たな研究によれば、フクシマ事故の数日後に東京都の都心部に降り注いだ放射性降下物の大半は、一種の「ガラス状煤塵[すす]」として、不溶性のガラス質微粒子のなかに集結されて蓄積していることがわかった。これは、放射性物質の大半が雨や流水に溶けないで、直に洗浄されたり、物理的に除去されたりするまで、おそらく環境中に残留していたことを示している。この微粒子はまた放射性セシウム(Cs)を含有しており、場合によっては、放射性降下物の線量効果はいまだに不明確であることになる。この研究結果は、横浜市で開催されているゴールドシュミッツ地球化学会議で発表されている。

2011311日の大震災の後、福島第一核発電所に襲来した津波の結果、134Cs(半減期:2年)、137Cs(半減期:30年)といったセシウム同位体など、大量の放射性物質が放出された。

宇都宮聡博士(九州大学)が主導する日本の地球化学者グループは、福島第一核発電所から最大230キロ圏内の地域で採取した試料を分析した。セシウムは水溶性なので、放射性降下物の大半は雨水によって環境から洗い流されていると予想されていた。しかしながら、オートラジオグラフィー(放射能写真術)を併用した電子顕微鏡を用いた分析の結果、地上に実際に降下した放射性セシウムの大半は、炉心メルトダウンのさいに形成されたガラス質微粒子のなかに閉じ込められていることが認められた。

この分析結果は、この微粒子の主な成分が鉄・亜鉛酸化物のナノ粒子であるとともに、フクシマ1号炉および/または3号炉の一次格納容器の内部における溶融燃料とコンクリートの相互反応のさいに形成されたシリコン酸化物のガラスにセシウムが封じ込められたことを示している。微粒子中のセシウム成分比が高いので、単位質量あたりの放射能量は最大4.4×1011 Bq/gに達しており、これはフクシマで一般的な土壌に含まれるセシウムの単位質量あたりバックグラウンド放射能量よりも107倍ないし108倍も高い。

微粒子の構造および地球化学構成のより綿密な分析を実施した結果によってもまた、福島第一核発電所事故のさいに起こった事象を解明できた。放射性セシウムが放出され、セシウムの空中浮遊ナノ粒子になった。絶対温度2200度(溶接ランプと同程度の高温)以上に熱くなった核燃料が反応炉圧力容器を溶かし、容器を破損させた。セシウムの空中浮遊ナノ粒子は鉄・亜鉛ナノ粒子および溶融コンクリートから発生したガスとともに凝結し、シリコン酸化物のナノ粒子を形成し、拡散した。

2011315日に東京で収集した数個のエアフィルタを分析した結果、全放射能の89%が、当初に予想されていた水溶性のセシウムではなく、このようなセシウム含有量の多い微粒子の形で存在していることがわかった。

宇都宮聡博士によれば――

「この研究は、われわれの福島放射性降下物に関する想定の一部に変更を迫っています。一見すれば、洗浄と表土除去を内容とする除染手順は、実行して問題ないと思えました。しかしながら、放射性セシウムは微粒子のなかに封じ込められていますので、極めて局地的で集中的なレベルで、放射性降下物は予想以上に大いに(または多少なりとも)蓄積されていることになります。このため、健康に対する影響に関して、われわれの考えを改めなければならないのかもしれません」

フランスはナントのスバテック研究所の所長であり、東海村の日本原子力研究開発機構・先端基礎研究センターの界面反応場化学研究グループのリーダー、バウント・グラムボウ教授は、次のように評言している――

「ここに提示されているナノ科学施設による最先端研究は、極めて重要であります。それは、フクシマの反応炉事故による放射性セシウムの東京への長距離にわたる大気中大量移動に関して、われわれの理解に変更を迫るかもしれませんが、人体に吸引されるセシウム微粒子による吸引線量に関しても、われわれの評価方法に変更を迫るかもしれません。じっさい、不溶性セシウム粒子の生物学的半減期は、可溶性セシウムの生物学的半減期よりも大幅に長いのかもしれないのです」

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NOTE: the headline of this press release was shortened to comply with Eurekalert restrictions. The original was "Most radioactive caesium fallout on Tokyo from Fukushima accident was concentrated in glass microparticles"

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【クレジット】

EurekAlert!, “Radioactive cesium fallout on Tokyo from Fukushima concentrated in glass microparticles,” posted on June 26, 2016 at;

【関連報道】


原発事故で東京への降下物分析

東京電力福島第1原発事故の発生から4日後に東京に降下した放射性セシウムの89%は、ガラス状の微粒子に溶け込んだ状態だったとの研究結果を、九州大の宇都宮聡准教授らが27日までにまとめた。

セシウムは雨などで洗い流されると考えられていたが、直接的に除去する方法でなければ環境に存在し続ける可能性があるという。チームは「健康への影響について考え直す必要がある」としている。

……

2016年6月13日月曜日

【海外報道】フクシマで初めて声を上げる甲状腺癌の若い女性 via @AP @yurikageyama


フクシマで甲状腺癌を診断されながら
沈黙を破った女性

影山優理 YURI KAGEYAMA
201667


この2016528日撮影の若い女性は、嫌がらせを恐れて、匿名を希望したうえで、福島県内の町でAP通信の取材に応じている。彼女は福島県内で甲状腺癌と診断された173人の患者のひとりだが、同県における核事故から5年たって、報道機関に話す初めての患者である。そのような沈黙に近い状態が、フクシマの甲状腺癌患者たちが「出る杭」になって、叩かれるのを恐れる状況を浮き彫りにしている。(AP Photo/Yuri Kageyama)

この2016528日撮影の若い女性は、嫌がらせを恐れて、匿名を希望したうえで、福島県内の町でAP通信の取材に応じている。彼女は福島県内で甲状腺癌と診断された173人の患者のひとりだが、同県における核事故から5年たって、報道機関に話す初めての患者である。そのような沈黙に近い状態が、フクシマの甲状腺癌患者たちが「出る杭」になって、叩かれるのを恐れる状況を浮き彫りにしている。 (AP Photo/Yuri Kageyama)

この2016528日撮影の若い女性は、嫌がらせを恐れて、匿名を希望したうえで、福島県内の町でAP通信の取材に応じている。彼女は福島県内で甲状腺癌と診断された173人の患者のひとりだが、同県における核事故から5年たって、報道機関に話す初めての患者である。「わたしのように、あけすけにモノを言う人は、あまりいません。だから、わたしは他の人たちも同じように感じられるように声を上げているのです。わたしは物事がうまくいくと信じる質なので、声を上げることができるのです」と、彼女は語った。(AP Photo/Yuri Kageyama)

【資料】この2011324日撮影の資料写真で、避難所にいる幼い避難者が津波で被災した福島第一核発電所から放出された放射能の検査を受けている。福島県における甲状腺癌発症率は、一般的に見受けられる率の何倍も高いが、日本政府は、たくさんの症例が見つかっているのは、綿密な一斉検査のせいであって、福島第一核発電所から放出された放射能のせいではないといっている。(AP Photo/Wally Santana, File)

【資料】この2011313日撮影の資料写真で、津波で被災した福島第一核発電所の周辺地域から避難した住民たちが福島県郡山市で放射能被曝の検査を受けている。福島県における甲状腺癌発症率は、一般的に見受けられる率の何倍も高いが、日本政府は、たくさんの症例が見つかっているのは、綿密な一斉検査のせいであって、福島第一核発電所から放出された放射能のせいではないといっている。(AP Photo/Wally Santana, File)


【郡山市発AP通信】彼女は21歳、甲状腺癌を発症しており、日本の北東部、彼女が暮らしている県の人びとが甲状腺癌検査を受けてくれるように願っている。その声は挑発的であると思えないが、居住地が福島県であり、この県で2011年に核メルトダウン事故が勃発してからこれまで、甲状腺癌の確定症例またはその疑いと診断された173人の若い人たちのなかで、彼女は怖じけずに声を上げる最初の例なのだ。

そのような沈黙に近い状態が、フクシマの甲状腺癌患者たちが「出る杭」になって叩かれるのを恐れる状況を浮き彫りにしている。

福島県の甲状腺癌発症率は、一般的に見受けられる割合より何倍も高いが、日本政府は、症例が数多く見つかっているのは、綿密な一斉検査のせいであって、福島第一核発電所から放出された放射能のせいではないとしている。

この頑なに和を尊ぶ社会では、政府の見解に楯突いていると睨まれるものなら、大事になる。この唯一の原子爆弾被爆国では、放射能に関係しているかもしれない癌の患者であることは、汚名になる。

くだんの若い女性は、嫌がらせの恐れから匿名を条件に、次のように語る――

「わたしのように、あけすけにモノを言う人は、あまりいません。だから、わたしは他の人たちも同じように感じられるように声を上げているのです。わたしは物事がうまくいくと信じる質なので、声を上げることができるのです」

彼女は人懐っこくよく笑い、つややかな黒髪に恵まれている。ビーチサンダル履きである。新しく就く保育園の先生の仕事のことになれば、夢中になって話す。だが、その彼女の不安もまた深刻である。結婚することができるだろうか? 生まれる子どもの健康に差し障りがないだろうか?

彼女は、国連「原子放射線の影響に関する科学委員会」などの医学界が、フクシマ核惨事よりも苛酷だったとされる唯一の核事故、ウクライナのチェルノブイリで1986年に勃発した爆発と火災によって周辺地域に放出された放射性ヨウ素と明らかに関連していると認定した唯一の疾患を発症している。

フクシマに関する国際的な検証では、同地のメルトダウンの結果として、癌発症率が上昇することはないと予測されているものの、福島県における甲状腺癌発症率の高さは事故に関連していると信じている研究者らもいる。

政府は、地震と津波が核発電所を冠水させ、3基の反応炉をメルトダウンに追い込んだ20113月の時点で18歳以下の子どもだった福島県内の380,000人に対して医療検査を実施するように命じた。約38パーセント分の検査がまだ済んでおらず、現時点の年齢が18歳ないし21歳の人たちに限れば、この割合は75パーセントに跳ね上がる。

くだんの若い女性は、恐れていたり迷っていたりしている他の人たち、とりわけ子どもたちを助けたいと思って、人前に出たと話した。彼女は、自分の病気が核事故のせいなのかどうか、わからないが、安全第一を考え、子宮癌など、他に考えられる疾患の検査を受けるつもりでいる。

彼女は福島県内で応じたインタビューで、次のように語った――

「すべての人たち、すべての子どもたちが病院に行って、定期検診を受けてほしいですね。いまの人たちは、面倒くさいからとか言って、やらない人が多いので。わたしの場合、癌が早いうちに見つかったのですが、その早期発見が重要なのだと知りました」

甲状腺の癌は治療が最も容易な癌に分類されているものの、一部の患者は生涯の薬物投与を必要とし、すべての患者が定期検査を欠かすことができない。

この若い女性は、癌が見つかった片方だけの甲状腺の除去手術を受け、痛み止め以外の薬を必要としていない。しかし、彼女はホルモン・バランスが乱れやすくなり、以前より疲れやすくなった。かつての彼女はスポーツがスター並みに得意だったし、いまでもスノウボードが趣味である。

彼女の首筋に、ほのかなキスマークか引っかき傷のように、小さな手術痕が辛うじて見分けられる。彼女は2週間近く入院していたが、その間も退院したくてしかたなかった。当時はほんとうに痛かったが、いまは痛まないと、彼女は笑い、次のようにいった――

「すぐ立ち直る力が、わたしのトレードマークなのです。いつでも前進あるのみとばかり、やっていけます」

彼女の主な心配の種は両親、とりわけ、娘が癌にかかったと知って、泣きだした母親である。彼女の二人の姉も検査を受けたが、異常がなかった。

多くの日本人は放射能による遺伝的な異常をとても恐れてきた。多くの人たち、特に年配者たちは、あらゆる癌が生死にかかわると考えており、この若い女性でさえ、医者たちが彼女の病気について説明するまでそう思っていた。

若い女性は、以前のボーイフレンドの家族が彼女の病気にこだわって、二人の関係に難色を示したと話した。彼女は、いま新しい自衛隊員のボーイフレンドを見つけて、その彼は彼女の病気を理解してくれていると嬉しそうに言った。

今年初めのこと、甲状腺癌患者の支援団体が立ち上がった。この法律家や医師たちが名を連ねる団体は、参加した数家族に面接取材したいという報道陣の要請に対して、そのような形で注目を浴びると危険になりかねないとして、すべて断った。

その団体が3月に東京で記者会見を開いたとき、スカイプ中継で甲状腺癌にかかった子どもの父親たち二人が登場したが、身元を隠すために、顔は映されていなかった。父親たちは子どもたちが受けた医療を批判し、癌と核メルトダウンは無関係であるという政府の言い分が正しいとは思えないと発言した。

この団体の助言役である弁護士、河合弘之氏は、患者たちが日本版の集団代表訴訟を起こして、賠償金を要求すべきであると信じているが、訴訟に踏み切るのに、まだ時間がかかるだろうと考えている。

河合氏は、「患者たちは分断されています。力を合わせる必要があり、たがいに話し合う必要があります」と最近の面接取材でAP通信に語った。

福島県の子どもたちの甲状腺癌一斉検査を実施している医師、その他の専門家たちの委員会が見つかった症例の数を定期的に公表しており、その症例数は着実に増加している。

その委員会は今週の記者会見で、甲状腺癌症例は放射能に関連していないという見解に固執した。説明に一番困る症例は2011年時点でほんの5歳だった子どもで検出された癌であり、これはこれまでに見つかったなかで最も幼い子どもの症例だった。専門家たちはそれでも、1症例だけでは有意な数とはいえないとして、この事実を一蹴した。

委員会の座長を務める医師、星北斗氏は、放射線と「なんらかの関係があるとは考えにくい」と発言した。

福島の写真家であり患者団体の顧問、飛田晋秀氏は、声を上げることに不安があるが、それだけでなく、癌と放射能についても不安が大きいと述べた。

飛田氏は、ある時、福島に住んでいる小さな女の子に、放射能にまつわる悪いイメージのため、結婚できるかしらと聞かれたさい、答えに詰まり、後ほど、泣けてきたと話した。彼は、患者たちについて、こういう――

「あの人たちは孤立していると感じています。親類に告げることすらできません。だれにも話せないと感じています。質問をすることは許されていないと感じています」

AP通信に話してくれた女性もまた、アメリカの独立系映画製作者、イアン・トーマス・アッシュ氏の作品の映像ビデオで、自分の考えを表明した。

彼女は自分がラッキーだと考えている。津波で約18,000人の人たちが死亡し、さらにもっと多くの人びとが天災とそれにつづく核事故で自分の家を失ったが、家族の家は無事だった。

彼女は核発電についてどう思うか質問されると、日本に核発電所は必要でないと穏やかに応えた。核発電所がなければ、自分は病気にならなかったと、彼女は言い加えた。

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映像作家、アッシュ氏のビデオ・インタビュー:

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影山優理記者のツイッタ―ID@yurikageyama
影山優理記者のAP記事アーカイブ:http://bigstory.ap.org/content/yuri-kageyama

【クレジット】

AP, “Woman breaks silence among Fukushima thyroid cancer patients,” by Yuri Kageyama, posted on June 7, 2016 at;

【付録1

イアン・トーマス・アッシュ氏のブログ、“documenting ian, blog”:





英日解説文は、このリンクをクリックのこと。

【付録2



「311甲状腺がん家族の会(311 Thyroid Cancer Family Group)」設立趣旨書

.11原発事故後、福島県では、事故当時18歳以下の子どもたちを対象とした甲状腺検査が行われ、私たちの子どもたちを含め166の子どもたちが小児甲状腺がんやその疑いと診断されています。さらに、北茨城などの関東地方でも、小児甲状腺がんやその疑いの子どもたちが確認されています。

これら小児甲状腺がんの多発やそれぞれの個別の小児甲状腺がんについて、今、多くの専門家が、東京電力福島第一原発事故が原因とは考えにくいと主張しています。しかし、私たちは、 その言葉に戸惑いを感じています 。福島原発事故で大量の放射性物質が放出され、私たちと私たち家族は被ばくしました。福島原発事故が原因ではないと否定する根拠は見当たりません。

私たちの子どもたちは、唐突に甲状腺がんと宣告され、その瞬間から、がんと向き合わざるを得ない人生を強いられています。同時に、甲状腺がんと診断された子どもを持つ私たち家族は、まわりの目を恐れるなど、様々な理由で孤立を余儀なくされてきました。そのため必要な情報も共有できず、さらに悩みを深めています。

この会は、こうした患者家族同士が交流するために設立しました。今後、患者の治療および生活の質を高めることができるように情報交換を行い、家族間の交流で見えてきた様々な課題の解決のために取り組んでいきたいと思います。

2016312
311甲状腺がん家族の会



2016年6月9日木曜日

エコウォッチ【海外情報】済州島を世界初の炭素排出ゼロ行政区に

ENERGY RENEWABLES




済州島で世界初の炭素排出ゼロ化行政区を実現する韓国の計画

ケイティ・ポールマン Katie Pohlman 201667 

韓国南部の小島が世界最初の炭素排出ゼロの島になる栄誉をめざして頑張っている。そして、その目標が達成される日は、とても近い。

  西帰浦島の発電風車。Photo credit: Channel NewsAsia

人口177人の西帰浦(ソギボ)島の電力は、主としてソーラー風力に頼っている。2基の発電風車が設置され、500キロワットの電力を供給していると、西帰浦のジン・ミョンワン区長はチャンネル・ニュース=アジアに語った。島内の家屋97棟のうち、48棟がソーラー発電機を備えている。

「風力とソーラーで発電していますので、完全にソーラーと風力で賄っており、ディーゼル発電機を動かす必要はありません」と、ミョンワン区長はいう。

  西帰浦島。

住宅のソーラー・パネル設置の経費は、主として済州特別自治道政府が負担した。人口600,000人を擁する済州島は、同島自体の炭素排出量を2030年までにゼロにするため、西帰浦島をモデルにしたいと望んでいると、チャンネル・ニュース=アジアは伝えた。西帰浦島の炭素排出ゼロ化は、3局面で構成される2030年済州島炭素排出ゼロ化事業の第一局面である。

済州特別自治道政府は、1億ドルあまりの西帰浦島炭素排出ゼロ化を後押しする経費を支出した。この支援策のおかげで、住民たちは自宅のソーラー・パネル設置費――ざっと1200万ウォン(110万円)――に縛られていない。経費総額のほんの一部を支払うだけである。

チャンネル・ニュース=アジアによれば、西帰浦島に住んでいるキム・ブジェンさんは経費総額の10パーセントを支払うだけですんだという。キムさんは、次のように語った――

「このソーラー・パネルができるまで、エアコン、その他の家電製品を動かす場合、わたしは電気料金を40,000ウォンないし50,000ウォン(3,7004,600円)ぐらい支払っていました。ソーラー・パネルを設置してから、電気を多く使って、だいたい9,000ウォン、それほど多く使わない場合、8,000ないし7,000ウォン程度しかかかりません」

  西帰浦島の住宅に設置されたソーラー・パネル。Photo credit: Channel NewsAsia

島の発電容量は住民の消費電力量を超えている。余剰電力は配電網のスマート・メーターに蓄電されている。蓄電された電力は、気象条件が悪くて、ソーラーと風力による発電量が不足する日に使われる。島内マイクロ配電所の管理人、リー・ヨンスクさんは、チャンネル・ニュース=アジアの取材に、配電所は島の巨大な蓄電施設のようなものであると語り、次のようにいった――

「村全体で150キロワット使っているとします。風力発電機は暮らしで使う電力の3倍程度の電力を発電しています。風力発電機が500キロワットの電力を発電し、それを蓄電しておけば、風力発電が止まったときでさえ、十分な電力を村に供給できます」

島の炭素排出ゼロ化にさらに役立っているのが、自動車の不在である。最も一般的な交通手段は、徒歩と自転車なのだ。インハビタット誌の記事によれば、島内にある自動車は9台だけであり、そのうち4台は電気自動車である。

2030年済州島炭素排出ゼロ化計画

UNESCOサイト『再生可能エネルギーの未来』の記事によれば、目下のところ、済州島は消費電力総量の5パーセントを再生可能エネルギーで賄っている。炭素排出ゼロ化計画は、化石燃料を――陸上および海上のタービンによる――風力、ソーラー、水力で代替することになる。


この事業は、風力タービン発電容量を2.35ギガワット――現在の風力発電容量156メガワットの15倍――に拡大することを計画している。
島内では、電気自動車やスマート住宅の数も増える。済州島は、電気自動車(EV)の数を現在の852台から2030年には377,000台に増やすように計画している。英字紙コリア・ヘラルドの記事によれば、EV蓄電池リース制度が開設されるのに加えて、島民のEV使用に対する助成制度が用意されることになる。2030年までに、ざっと15,000か所の急速充電施設が2030年までに供用されることになると予測されている。現在の充電施設は79か所にすぎない。

UNESCOサイト『再生可能エネルギーの未来』記事によれば、再生可能エネルギー電源への転換は、40,000人ほどの雇用を創出すると予測されている。

同記事によれば、済州島の炭素排出ゼロ・エネルギー転換事業は次の3局面を経て実施されることになる――
  • 第一局面:西帰浦島の炭素排出ゼロ化を実現し、済州島炭素排出ゼロ化構想に先行する研究事例およびモデルとする。

  • 第二局面:エネルギー市場における新規・再生可能ネルギーのシェアを2020年までに50パーセントに拡大する。

  • 第三局面:2030年までに済州島の炭素排出ゼロ化と環境保全型経済成長を実現する。

済州島は、この目標に向けて事業を展開するために、2015年にLGグループと提携関係を結んだと、コリア・ヘラルド紙は伝えた。事業経費は6兆ウォン(5500億円)になると予測されている。

【クレジット】

WcoWatch.com, “South Korea’s Plan to Have World’s First Carbon-Free Island,” by Katie Pohlman, posted on June 7, 2016 at;